落合陽一の“介護を変える”試み 「減ってしまった人の能力は、テクノロジーで足せばいい」〈AERA〉

5/29(火) 7:00配信
AERA dot.
「現代の魔法使い」の異名を持つ科学者、落合陽一さんが手がける介護への試みが、今注目を集めている。その作品、テレウィールチェアから、テクノロジーが変える新時代の介護が見えてきた。車いすは「カメラの付いたデカいラジコン」「材料はほとんどアマゾンで調達」と言う落合流の介護へのアプローチとは。

【写真】落合さんが開発を手がけた車いす「テレウィールチェア」はこちら
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 VR鑑賞で使うゴーグルをつけると、車いすに乗った人が見ているのとほぼ同じ風景が目の前に広がった。首を右に向けて車いすの右側を、左に向けて左側を安全確認。画面のガイドで、コントローラーのスティックを倒すと、遠くに置かれた車いすが静かに動き出した。

 操作させてもらったのは、「テレウィールチェア」と呼ばれる車いすの一種だ。今もっとも注目を集める科学者、落合陽一さん(30)と、筑波大学の落合研究室が、2016年から開発をスタート。落合さんが手がける数多くのプロジェクトのなかでも、この車いすは介護関連の第1号プロジェクトとなる。

「年齢などで減ってしまった人の能力は、テクノロジーで足せばいい。介護社会や高齢化社会っておもしろいなと、興味を持ったのがきっかけ。うれしいとか楽しいなどの感情と比べても、できる、できないのほうが課題は明確でやりがいもある」

 そう話す落合さんが「カメラの付いたデカいラジコン」と称するこの車いすの特徴は、今のところ大きく三つ。まず前出のVRを用いた「遠隔操作」だ。また、カメラの認識技術によって複数のテレウィールチェアがカルガモのように連なって、自動で走行する「連係操作」も可能になっている。

 例えば従来の高齢者施設で、食事時間に車いすで食堂に移動するとなると、1台に1人の介護者が必要だ。遠隔操作と連係操作を組み合わせて使えば、介護者の負担は大きく減る。その分、介護者は車いすの横を歩いて、おしゃべりしながら移動するなど、介護される人と「ふれあうこと」(落合さん)に力を注いでほしいという




かたや車いすに乗るほうの人のメリットも大きい。こちら半自動運転機能を搭載。いすの後ろに設置した周囲360度を映すカメラが人を認識すると、自動で停止する機能も備える。足の弱い高齢者が行き交う施設での走行を考えて、接触による転倒を避けるために、物より人の認識に、力を入れた。

 将来は、ひじかけ部分にスマートフォンなどを取り付け、「トイレ」「お風呂」「食堂」などと行き先を言うだけで、車いすが連れていってくれるような機能も考えている。

「介護を受けているおじいちゃんやおばあちゃんたちの困りごとというと、ナースコールを押すとか、人にはものを頼みにくいということ。ロボットにしても人型や犬型など、感情移入してしまう相手には、同じように頼みにくい。かたや車いすは、感情移入がしにくいというのも、メリットのひとつです」

 VR、画像認識、360度カメラなど、今どきのさまざまな最新テクノロジーを搭載しながら、タブレットレベルで運用できるような構成にするなど開発費用を抑えているのも特徴だ。

 例えばベースになっている車いすは、市販されている電動車いす。シートに貼り付けたロゴは3Dプリンターで作製したほか、開発に使った材料のほとんどは、「誰でもアマゾンで買える」できあいの品を使った。介護者の目となる360度カメラも、リコーの「シータ」という市販品。VRとの相性がいいなどのメリットもあるが、「何より安い」(落合さん)のが重要だった。

 こうしてハードはできあい品をつぎはぎしながら、安価でできるソフトの開発に力を注ぐ。

「介護には無限のバリエーションがあって、コンピューターは、そうした多様なものにフィットするのが超得意。国からの補助金も入るようになり、テクノロジーが介護を変える試みは、もっと盛り上がる。テレウィールチェアも、いつか紙おむつみたいに、あって当たり前のものになるといいですね」

 そう話す落合さんに、AERA本誌に寄せられた、読者の「あったらいいな こんな機器」を提案してみた。まずは「ベッドから、空気や風も体感できる装置」から。

「空気や風は、音や映像と違って、急に止められなかったり、コントロールがむずかしい。でもきっとできると思うな」

 続いて「忘れるくらいにフィットして、お風呂も入れる補聴器」はどうでしょう。

「フィットは簡単にできるけど、問題は水と補聴器の相性がよくないこと。でもこれも、できると思う」

(ライター・福光恵、編集部・柳堀栄子)

※AERA 2018年6月4日号より抜粋 


最終更新:5/29(火) 7:00
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