わずか2分子の厚み、超極薄有機半導体の開発に成功

5/1(火) 13:29配信
EE Times Japan
 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の荒井俊人講師と長谷川達生教授(産業技術総合研究所フレキシブルエレクトロニクス研究センター総括研究主幹を兼務)らは2018年4月、厚みが2分子と極めて薄く、手のひらサイズ(10×10cm)の大きな面積に高性能な有機半導体デバイスを構築する技術を開発したと発表した。

●6インチウエハー全面に均質な分子レベルの薄膜を製膜

 荒井氏らによる研究グループは、溶液中におけるπ電子系有機分子の自己集積により得られる、機能性分子集合体を用いたエレクトロニクスやセンサー応用の研究に取り組んでいる。この中で、π電子骨格とアルキル鎖を連結した非対称の有機分子が、生体細胞に似た極めて薄い層状構造を形成することが分かった。しかし、従来の塗布や印刷技術では、膜厚を均一にできず、デバイス特性にばらつきが生じていた。

 研究グループは今回、新たな製膜法を開発した。π電子骨格に炭素数6~14のアルキル鎖を連結した分子を用いた。非対称の棒状分子は、2分子膜構造を自己形成することが分かっている。この時、アルキル鎖長のより長い分子を少量混合した溶液を用いて膜形成すれば、自己組織化膜の表面にわずかな凹凸が生じる。この凹凸によって2分子膜は多層化が抑えられ、単層2分子膜を製膜できると考えた。

 実験ではブレードコート法により、0.1重量%の分子混合溶液を、膜厚100nmの酸化被膜が表面層にある6インチシリコンウエハー上へ塗布し製膜をした。この結果、ウエハー全面に分子レベルの厚さを持つ均一な薄膜が得られたという。原子間力顕微鏡を用いて測定すると、その膜厚は4.4nmであることが分かった。2分子膜1層の厚みに相当する値だという。

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)のシンクロトロン放射光を用いて行った薄膜X線回折の実験でも、超極薄半導体による明瞭な回折スポットを確認した。回析角を基に算出した結晶格子は、アルキル鎖で炭素数6の分子の結晶格子と一致していることが分かった。また、ウエハー全面に結晶薄膜が形成されていることや、単一ドメインが10×1cmの大きさであることなどが分かった。

●超極薄TFTを開発し、特性を評価

 さらに研究グループは、アルキル鎖の長い分子と短い分子の混合比を変えて製膜をし、その効果を検証した。これによると、長い分子をわずかに混合すると、2分子膜同士の積層を抑えることができ、超極薄半導体が効率よく得られることが分かった。

 これらの研究成果を基にTFTを作製し、その特性を評価した。ゲート電圧を印加してドレイン電流の変化を測定したら、伝達特性は負のゲート電圧を印加するとドレイン電流が増加するp型特性を示した。電流-電圧特性は、一定以上のドレイン電流を印加するとドレイン電流が一定となるTFTの挙動が現れた。

 伝達特性のデータを解析したら、飽和領域の移動度は6.0cm2V-1s-1となった。しかも、極めて薄いTFTは外部からの刺激に対して、電流値が敏感に応答することを確認した。

 研究グループでは今後、極めて薄い半導体の形成に向けて、分子材料の設計と製膜法のさらなる最適化を進め、高感度分子センサーの実用化に向けた薄膜TFTの開発を行う。さらに、生体細胞膜に似た単層2分子膜の特長を生かし、機能性人工超薄膜への応用に取り組む方針だ。

最終更新:5/1(火) 13:29
EE Times Japan