日本人が知らないモスクワの「驚くべき噂と都市伝説」に迫る
伝説1:モスクワには秘密地下鉄が通っている?
2018年初頭現在、モスクワ・メトロは計12路線、総延長349.5キロメートル、駅数207という世界屈指の規模を誇っている。
1日の平均乗降数は約700万人(平日に限ると900万人)で、モスクワ市内の公共交通による乗客輸送数の約56%を担っているというから、まさに市民の足と言えるだろう。
だが、モスクワの地下には「もうひとつの地下鉄」が通っているのではないかとも言われている。
これはモスクワ市民の間で「メトロ-2(第2メトロ)」と通称されているもので、有事に備えた政府の緊急移動用地下鉄ではないかという噂だが、もちろん公式にその存在が確認されたことはない。
かといって、「メトロ-2」が全くの妄想の産物ということもなさそうだ。
たとえばソ連の独裁者として知られるスターリン書記長は、独ソ戦の直前、モスクワ郊外にある自分の別荘(ここにはスターリン専用の防空壕が建設されていた)からクレムリンまでの秘密地下通路を建設させ、ドイツ軍の目を逃れて市内を移動していたことが知られている。
このような秘密地下通路網が冷戦期のソ連でも建設されなかったと考える理由はないだろう。
かつてのソ連政府や現在のロシア政府の高官経験者達の中にも、「メトロ-2」が建設されたことを認める証言は少なくない。
それどころかモスクワ地下鉄公社のガーイェフ総裁は2007年、有力紙『イズヴェスチヤ』のインタビューに対して次のようにまで述べている。
「(メトロ2が)存在していなかったら、そっちのほうがびっくりだ」
では、「メトロ-2」の実態とはいかなるものなのだろうか。
ソ連末期の1991年に米国防総省が公表した報告書によると、「メトロ-2」はクレムリンを中心として3方向に伸びているとされる。
すなわち、モスクワ南東部のヴヌコヴォ空港(政府専用機の基地であり、政府高官専用のターミナルもある)に伸びる第一路線、モスクワ南方の参謀本部予備指揮所へと伸びる第二路線、そしてモスクワ北東部のクンツェヴォ(前述したスターリンの地下壕が掘られた場所で、その後もなんらかの秘密地下施設が存在したものとみられる)の三路線だ。
「メトロ-2」の謎を解明すべく独自の調査を繰り広げるブロガーたちの意見も大体一致しているようである。
ただ、「メトロ-2」が現在も稼働状態にあるのかどうかはいまいちはっきりしない。
もう長いこと使われていないとか、地下水で水浸しだとか様々な噂があるが、いずれにしても現在もフル稼働しているわけではないことはたしかそうだ
1日の平均乗降数は約700万人(平日に限ると900万人)で、モスクワ市内の公共交通による乗客輸送数の約56%を担っているというから、まさに市民の足と言えるだろう。
だが、モスクワの地下には「もうひとつの地下鉄」が通っているのではないかとも言われている。
これはモスクワ市民の間で「メトロ-2(第2メトロ)」と通称されているもので、有事に備えた政府の緊急移動用地下鉄ではないかという噂だが、もちろん公式にその存在が確認されたことはない。
かといって、「メトロ-2」が全くの妄想の産物ということもなさそうだ。
たとえばソ連の独裁者として知られるスターリン書記長は、独ソ戦の直前、モスクワ郊外にある自分の別荘(ここにはスターリン専用の防空壕が建設されていた)からクレムリンまでの秘密地下通路を建設させ、ドイツ軍の目を逃れて市内を移動していたことが知られている。
このような秘密地下通路網が冷戦期のソ連でも建設されなかったと考える理由はないだろう。
かつてのソ連政府や現在のロシア政府の高官経験者達の中にも、「メトロ-2」が建設されたことを認める証言は少なくない。
それどころかモスクワ地下鉄公社のガーイェフ総裁は2007年、有力紙『イズヴェスチヤ』のインタビューに対して次のようにまで述べている。
「(メトロ2が)存在していなかったら、そっちのほうがびっくりだ」
では、「メトロ-2」の実態とはいかなるものなのだろうか。
ソ連末期の1991年に米国防総省が公表した報告書によると、「メトロ-2」はクレムリンを中心として3方向に伸びているとされる。
すなわち、モスクワ南東部のヴヌコヴォ空港(政府専用機の基地であり、政府高官専用のターミナルもある)に伸びる第一路線、モスクワ南方の参謀本部予備指揮所へと伸びる第二路線、そしてモスクワ北東部のクンツェヴォ(前述したスターリンの地下壕が掘られた場所で、その後もなんらかの秘密地下施設が存在したものとみられる)の三路線だ。
「メトロ-2」の謎を解明すべく独自の調査を繰り広げるブロガーたちの意見も大体一致しているようである。
ただ、「メトロ-2」が現在も稼働状態にあるのかどうかはいまいちはっきりしない。
もう長いこと使われていないとか、地下水で水浸しだとか様々な噂があるが、いずれにしても現在もフル稼働しているわけではないことはたしかそうだ
伝説2:モスクワ大学の地下に「もうひとつのクレムリン」が?
「メトロ-2」と並ぶ、モスクワの地下にまつわる噂がある。
モスクワ大学の正面に広がるラメンキ地区の地下に、巨大な地下空間が建設されているというものだ。そして、この地下空間にまつわる噂も、やはりかなりの真実味を帯びている。
先に挙げたスターリン書記長の地下壕に代表されるように、ソ連政府は全面戦争に備えて様々な地下施設を建設していた。
戦前は地下鉄駅の建設に合わせて政府や軍のための予備地下施設を建設していたが、核兵器が登場すると地下鉄程度の深さでは核攻撃に耐えられないと考えられるようになり、より深くに建設されるようになった。
こうした地下施設の中で最も有名なのは、クレムリン宮殿からほど近いタガンカ地区に建設された第42地下壕(ブンケル42)である。
"Бункер★42 на Таганке".さん(@bunker42com)がシェアした投稿 - 2017年10月月10日午前9時08分PDT
総面積7000平方メートルにも及ぶ広大な地下施設で、核戦争時に爆撃機部隊に指令を出すための通信設備や政府の放送設備、そして政府高官の避難施設などが備えられていた。
地上には普通のアパートとそっくりな建物が建てられ、関係者はここから出入りしていたほか、地下鉄とも繋がっていたという。
俄かには信じられない話だが、この施設は2006年から冷戦博物館として一般公開されており、誰でも見学することができる(要予約)。
問題のラメンキ地区は、これよりもさらに巨大な施設であるようだ。
詳細は明らかになっていないが、ブンケル42の収容人員が600人ほどであるのに対し、ラメンキの地下施設は1万人から1万5000人ほどを収容する能力を持っていたとされることから、格段に大規模な施設であるらしいことが伺える。
おそらくは核戦争下でも最低限のソ連政府の機能を継続するため、各省庁の職員を疎開させるための予備施設だったのだと思われる。
また、ラメンキ地区は前述の「メトロ-2」第1路線のルート上に位置しており、秘密地下鉄ネットワークにも繋がっていた可能性が高い。
ラメンキ周辺にはほかにも、参謀本部アカデミーやKGB暗号学校(カスペルスキー社を設立したエフゲニー・カスペルスキー氏の母校として知られる)といった軍事・諜報関連の教育施設が存在していることから、これらも地下施設や秘密地下鉄につながっていたと言われる。
ラメンキの地下施設も現在は稼働していないと見られているが、ブンケル42のように機密解除されていないところを見ると、一部はなんらかの形で利用されている可能性もある
モスクワ大学の正面に広がるラメンキ地区の地下に、巨大な地下空間が建設されているというものだ。そして、この地下空間にまつわる噂も、やはりかなりの真実味を帯びている。
先に挙げたスターリン書記長の地下壕に代表されるように、ソ連政府は全面戦争に備えて様々な地下施設を建設していた。
戦前は地下鉄駅の建設に合わせて政府や軍のための予備地下施設を建設していたが、核兵器が登場すると地下鉄程度の深さでは核攻撃に耐えられないと考えられるようになり、より深くに建設されるようになった。
こうした地下施設の中で最も有名なのは、クレムリン宮殿からほど近いタガンカ地区に建設された第42地下壕(ブンケル42)である。
"Бункер★42 на Таганке".さん(@bunker42com)がシェアした投稿 - 2017年10月月10日午前9時08分PDT
総面積7000平方メートルにも及ぶ広大な地下施設で、核戦争時に爆撃機部隊に指令を出すための通信設備や政府の放送設備、そして政府高官の避難施設などが備えられていた。
地上には普通のアパートとそっくりな建物が建てられ、関係者はここから出入りしていたほか、地下鉄とも繋がっていたという。
俄かには信じられない話だが、この施設は2006年から冷戦博物館として一般公開されており、誰でも見学することができる(要予約)。
問題のラメンキ地区は、これよりもさらに巨大な施設であるようだ。
詳細は明らかになっていないが、ブンケル42の収容人員が600人ほどであるのに対し、ラメンキの地下施設は1万人から1万5000人ほどを収容する能力を持っていたとされることから、格段に大規模な施設であるらしいことが伺える。
おそらくは核戦争下でも最低限のソ連政府の機能を継続するため、各省庁の職員を疎開させるための予備施設だったのだと思われる。
また、ラメンキ地区は前述の「メトロ-2」第1路線のルート上に位置しており、秘密地下鉄ネットワークにも繋がっていた可能性が高い。
ラメンキ周辺にはほかにも、参謀本部アカデミーやKGB暗号学校(カスペルスキー社を設立したエフゲニー・カスペルスキー氏の母校として知られる)といった軍事・諜報関連の教育施設が存在していることから、これらも地下施設や秘密地下鉄につながっていたと言われる。
ラメンキの地下施設も現在は稼働していないと見られているが、ブンケル42のように機密解除されていないところを見ると、一部はなんらかの形で利用されている可能性もある
伝説3:クレムリン周辺ではカーナビが狂う?
これは比較的新しい噂で、2016年の夏頃にモスクワのタクシー運転手たちが最初に気づいた現象であるという。
最近、モスクワではスマートフォンでタクシーを呼び出せるアプリが普及し、タクシー事情が一気に改善した。
以前は道端で白タクを捕まえて値段交渉をするのが一般的であったが、これら新世代タクシーでは搭載されたタブレット端末で目的地までのルートを検索し、その場で料金も表示されるので、ぼったくりの心配もない。
ところが、その際に必要となるGPSの位置表示がクレムリン周辺では狂ってしまうというのだ。
しかも、その狂い方はちょっとした誤差というものではない。モスクワ都心に居るにもかかわらず、数十キロメートル離れたドモジェドヴォ空港やヴヌコヴォ空港が表示されてしまうのだという。
タクシーアプリを開発しているロシアの大手IT企業「ヤンデックス」が調査したところによると、このような誤差が出る原因はクレムリン宮殿内部にあるようだ。
GPSの位置情報を狂わせる偽電波が発信されており、そのせいで正確な位置情報を取得できなくなっているのだと見られている。
クレムリンを警備する連邦警護庁が保安措置として実施していると考えられており、プーチン大統領の公邸周辺や出張先でも同じ現象が報告されている。
では、何故、クレムリン付近の位置情報を空港付近と偽る必要があるのか。
多くのマスコミ報道では、これをドローン対策と結びつけるものが多いようだ。
というのも、ドローンが空港上空に侵入すると航空機の離発着を妨害することになるため、ドローンの制御システムは空港上空を避けて飛行するようにプログラムされている。
これを逆手にとって、空港であるかのように見せかけることでドローンがクレムリン上空に侵入できないようにしているのではないかという。
今年3月にはシリアに展開するロシア軍部隊が自爆ドローンの集中攻撃を受けるという事案が発生しており、クレムリンの警備当局としてはこうした事態を恐れているのだろう。
また、最近ではロシアの反体制派活動家がドローンを飛ばしてメドヴェージェフ首相の豪華な別荘やぶどう園を上空から撮影し、インターネット上で公開するという新手の反政府活動が大きな反響を呼んだ。
こうした内外の脅威に対して張られた見えない防衛線が思わぬところで市民生活に影を落とした恰好と言える(現在ではクレムリン周辺でのGPS妨害は解除されているとも言われる)。
今回、モスクワに関する3つの伝説を紹介した。ロシアはまだ訪れるのが少々面倒であるが、噂や都市伝説からでも興味を持っていただけたら幸いである。
最近、モスクワではスマートフォンでタクシーを呼び出せるアプリが普及し、タクシー事情が一気に改善した。
以前は道端で白タクを捕まえて値段交渉をするのが一般的であったが、これら新世代タクシーでは搭載されたタブレット端末で目的地までのルートを検索し、その場で料金も表示されるので、ぼったくりの心配もない。
ところが、その際に必要となるGPSの位置表示がクレムリン周辺では狂ってしまうというのだ。
しかも、その狂い方はちょっとした誤差というものではない。モスクワ都心に居るにもかかわらず、数十キロメートル離れたドモジェドヴォ空港やヴヌコヴォ空港が表示されてしまうのだという。
タクシーアプリを開発しているロシアの大手IT企業「ヤンデックス」が調査したところによると、このような誤差が出る原因はクレムリン宮殿内部にあるようだ。
GPSの位置情報を狂わせる偽電波が発信されており、そのせいで正確な位置情報を取得できなくなっているのだと見られている。
クレムリンを警備する連邦警護庁が保安措置として実施していると考えられており、プーチン大統領の公邸周辺や出張先でも同じ現象が報告されている。
では、何故、クレムリン付近の位置情報を空港付近と偽る必要があるのか。
多くのマスコミ報道では、これをドローン対策と結びつけるものが多いようだ。
というのも、ドローンが空港上空に侵入すると航空機の離発着を妨害することになるため、ドローンの制御システムは空港上空を避けて飛行するようにプログラムされている。
これを逆手にとって、空港であるかのように見せかけることでドローンがクレムリン上空に侵入できないようにしているのではないかという。
今年3月にはシリアに展開するロシア軍部隊が自爆ドローンの集中攻撃を受けるという事案が発生しており、クレムリンの警備当局としてはこうした事態を恐れているのだろう。
また、最近ではロシアの反体制派活動家がドローンを飛ばしてメドヴェージェフ首相の豪華な別荘やぶどう園を上空から撮影し、インターネット上で公開するという新手の反政府活動が大きな反響を呼んだ。
こうした内外の脅威に対して張られた見えない防衛線が思わぬところで市民生活に影を落とした恰好と言える(現在ではクレムリン周辺でのGPS妨害は解除されているとも言われる)。
今回、モスクワに関する3つの伝説を紹介した。ロシアはまだ訪れるのが少々面倒であるが、噂や都市伝説からでも興味を持っていただけたら幸いである。
小泉 悠