「国際ネット婚活」で結婚した日本人妻の現実





8/25(金) 6:00配信
東洋経済オンライン
 国際ネット婚活でオーストラリア人男性と再婚した40代女性がいると聞いた。英語もネットも苦手な筆者には縁遠い世界だが、ひとつだけ親近感を覚える要素がある。その女性は結婚前まで静岡県在住だったことだ。

 筆者が住む愛知県蒲郡市は静岡寄りで、晴れの日が多くて温暖な気候も似ている。休みの日は妻が運転する車で浜名湖や静岡市に遊びに行くことも多い。東海道という日本の大動脈に位置しながら、海産物にも農作物にも恵まれた豊かで穏やかな土地。徳川家康が隠居の地に選んだのもうなずける。夫とともに一時帰国中だという彼女にメールを送り、愛知寄りにある浜松市で会ってもらうことにした。
■海外に行く夢をかなえる前に

 浜松駅前のカフェに来てくれたのは、新田真奈美さん(仮名、46歳)と夫のマイケルさん(56歳)。マイケルさんは190cm近い大男だ。アクション俳優のような渋いハンサムでもある。一方の真奈美さんは小柄ながらも明るいオーラを放っている。胸元が少し開いた黒いTシャツと濃いピンク色のスカート。国内在住の日本人にはなかなか見られないファッションだ。

 真奈美さんの家族は、祖父母の代から静岡県内のある町に住んでいる。とても暮らしやすい土地だが、刺激はなさすぎるし近所には親戚や幼なじみばかりだと真奈美さん。しがらみがストレスに感じることもあった。
 「お祝い事から仏事まで、決まりごとが多すぎるんですよね。親戚同士の人間関係にも気を使わないといけません。そのせいなのか子どもの頃から海外に住むことにあこがれていました」

 平和すぎるところに長年暮らしていると閉塞感が募ってしまう。独身ならばなおさらだろう。同じような土地に住んでいる筆者にもその気持ちは少しわかる。

 しかし、真奈美さんは海外に行く夢をかなえる前に気乗りしない結婚をしてしまった。相手は、地元で勤務していた会社の元同僚。34歳のときだった





「2年間同棲していましたが、私は美容関係の勉強をしにアメリカへ行くつもりでした。留学する前に結婚してほしい、と彼から強く頼まれて……。子どももいなかったのでアメリカには単身で渡りました」

 学生ビザが切れるまでの5年間滞在した。前夫は寂しさからか遊びにハマって借金を作り、真奈美さんのほうはすでに彼から気持ちが離れていた。自由になりたい、と切り出したのも真奈美さんのほうからだ。

 「彼は別れたくないようでしたが、私の夢を邪魔したくないとも言ってくれました。弱いけど優しい人だったんです。もう音信はありませんが、風の便りで今では再婚して子どももいると聞きました」
 アメリカ留学を大いに楽しんだ真奈美さん。しかし、就労ビザはもらえずに静岡の実家に戻った。ちょうど40歳になっていた。美容関係の仕事に就き、友人と店も出したが、収入は安定しない。これから先の人生をどうしていくのか。独りのままは寂しいし、頼れるパートナーが欲しい。ただし、地元で結婚相手を見つけると失敗することは経験済みだ。

■中学生レベルのボキャブラリーしかないけれど

 「40歳を過ぎた女性が結婚できる確率は数%だと知って、ヤバい! と思いました。私はキャリアもないし美人でもありません。(出会える独身男性の)分母を広げるためにも国際ネット婚活を始めたんです。私はいまだに中学生レベルのボキャブラリーしかありませんが、英語でコミュニケーションを取るのは嫌いではありません。アメリカ留学時代も何人かとデートしていましたが、甘い言葉で直接的に口説いてくれる海外の男性はいいなと思っていました」

 真奈美さんは3つのサイトを利用した。いずれも公用語は英語であり、うちひとつは在日米軍の男性が日本人女性と出会うためのサイトだ。真奈美さんは100人以上の男性とメールのやり取りをし、3人の男性と直接会い、うち2人とは半年ずつ交際した。100人以上とメールして、お見合いしたのは3人。効率が良い出会い方とは言えない。しかし、特に無料サイトには不誠実な利用者も多いので注意が必要なのだ。

 「スカイプでお互いの顔を見ながら話していたとき、ちゃんとアメリカ軍で働いていることを確認するためにIDカードを見せてほしいと頼んだら、すぐに音信不通になってしまった人もいます。詐欺の被害に遭った女性もいるので気をつけなければなりません。でも、何十人とメールをやりとりしていれば相手に誠意があるかないかはわかるようになりました」



交際した2人は誠実な人だったが結婚には至らなかった。真奈美さんはさらに「分母」を広げることを決意する。年齢の幅を5歳上ではなく15歳上まで拡大するのだ。そして、オーストラリアで公務員をしているマイケルさんと出会うことができた。

 真奈美さんが「顔の長い」欧米人男性に漠然としたあこがれを抱いているのと同じように、マイケルさんにはアジア人女性への興味があった。彼によれば、特に日本人女性は「おカネ目当てではなく、誠実で、キレイ好き」との印象らしい。なお、自分が50歳を過ぎていたため、若すぎる女性は避けたいと思っていた。海を越えて、2人の需要がマッチした瞬間である。
 「私とネット上で会う前から、彼は日本への旅行を計画していました。まずは東京で会い、伊豆では1泊しましたが、キスもしていません。リスペクトしてくれていることが伝わってきました」

 マイケルさんはそのまま一人で大阪へ。しかし、真奈美さんへの気持ちが高まり、「新幹線代は出すから遊びに来てほしい」とメール。真奈美さんが後から大阪に行き、交際がスタートした。

 2カ月後の夏、マイケルさんは再び来日。今度は真奈美さんと会うことが目的だ。彼の誠意と熱意が伝わってくるペースである。もともと海外好きの真奈美さんもオーストラリアに行き、さらにマイケルさんが3度目の来日。真奈美さんは彼からプロポーズを受けた。

 「付き合ってからまだ半年だったので不安はありました。でも、まじめで誠実で私を大事にしてくれる彼を逃すことは考えられませんでした」

 一方のマイケルさんには迷いはなかったようだ。真奈美さんに通訳してもらって「彼女との結婚に踏み切った理由」を質問しても、「フィーリング。真奈美と結婚するのが正しいと直感できたから」の一言。潔い男性だ。

 翌年の夏には結婚をし、真奈美さんはオーストラリアにあるマイケルさんの家に住むようになった。シドニーではなく、人口20万人弱の地方都市だ。静岡の地元と「田舎度」はあまり変わらないと真奈美さんは笑う






「最初の1年間は特に何もしませんでした。退屈していたわけではありません。ビザの申請もあったし、静岡の父が亡くなったので帰国したり。子どもがいればママ友ができたかもしれませんが、私たちには子どもがいません。私は家で引きこもっているのも好きなんです。静岡で友だちと共同経営しているお店は、スタッフの給与計算などは私が引き受けていました。国際ネット婚活に関するブログ記事を書いたり、大宮さんの『晩婚さん、いらっしゃい!』を読んだり。けっこう楽しい1年間でした」
■英語学校に通ったものの…

 2年目からは移民者向けの無料英語学校に通い、仲間もできた。ガーデニングが趣味のマイケルさんとの生活もペースがつかめてきた。

 「彼は料理以外は何でも一人でできます。朝は早いので自分でコーンフレークを食べ、寝床にいる私に軽くあいさつをしてから出て行きます。昼は毎日同じ喫茶店に行き、同じサンドイッチを食べるそうです。朝と昼は1年中同じ食事でいいみたい。午後2時半には仕事が終わり、真っ直ぐ家に帰って来ます」

 真奈美さんのほうは家事を済ませれば自由時間が待っている。在豪の日本人仲間と会ってランチやお茶をしながら日本語でおしゃべりをするのが楽しみだ。英語学校に通ったものの、「自分の英語はもう向上しない。夫との会話さえ成り立てばいい」と割り切っている。現地の映画やラジオはあまり理解できないし、病院に行くときはマイケルさんに付き添ってもらっている。

 マイケルさんとしても、真奈美さんが英語力を磨いて仕事を見つけることを希望しているわけではない。「日中に退屈しているならば働いたらいい」というスタンスだ。ただし、平日の夕方以降や休日は2人で一緒に過ごしたい。真奈美さんが仕事を見つけるのは難しいかもしれない。

 なお、真奈美さんは年に最低3カ月間は日本に戻っている。静岡にある共同経営のお店も気になるし、母親にも会いたいからだ。普段は離れて暮らしているからこそ、新鮮な気持ちで親孝行ができると感じている。

 「私が自宅にいない間は、ハンバーグやカレー、ミートソースなどを1品ずつ小分けして冷凍庫に入れておきます。彼はそれを解凍して夕食のおかずにするんです」

■世の中には定住に向かない人もいる

 清潔でシンプルな生活を愛しているマイケルさん。日本への興味と理解もある。パートナーとして気楽な存在だ



「マイケルも休暇を取って来日するのを楽しみにしています。私の親戚や友だちの子どもたちに大人気なので、居心地がいいみたいです。普段の生活では、文化と言葉が違うことはお互いに配慮しています。忍耐力を持ち、理解し合う努力はしているつもりです。でも、(ずっと英語で暮らしている)私のほうはときどき爆発しちゃいますけどね」

 ときどき日本に帰るのは「ガス抜き」の意味もあるのだ。かといって、ずっと日本で暮らすのもストレスがたまってしまう。真奈美さんにとって現在の暮らし方はちょうどいいのかもしれない。世の中には定住に向かない人もいるのだ。
 マイケルさんは5年後には定年退職をする。現在、「老後はどこに住むのか」を二人で楽しく相談しているところだ。

 「彼はみんなによくしてもらえる日本に住みたいようです。私も日本のほうが働きやすいのでそれが現実的かもしれません。でも、理想はオーストラリアをベースにした2拠点生活です」

 ちなみに、まだ新婚旅行にも行っていないので、老後プランと同時に旅先を検討中だ。船旅がしたい真奈美さんと、体が大きいので窮屈な船室には抵抗感があるマイケルさんの意見は合わない。もちろん、そんなことでケンカにはならない。

 「ネットで知り合った割にはうまくいっている夫婦ではないでしょうか。国際ネット婚活、おすすめですよ。中学英語レベルで十分です。オーストラリアに長くいる日本人の中には私よりも英語ができない人がたくさんいます。慣れてしまえば生活に支障はありません」

 謙遜ぎみに語る真奈美さん。その表情は明るく、リラックスしていることがわかる。英語力を向上させるつもりはないと言い切るところに笑ってしまった。その代わり、「海外に住みたい。海外の男性と結婚したい」という夢に向かって突き進む勇気と力はあった。自分のやりたいことが明確であれば、それで十分なのかもしれない。




大宮 冬洋 :ライター

最終更新:8/25(金) 12:05
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