すべてが常識外れの仕上がり ソニー「α9」を触った
高速連写でもまったくの無音
ソニーがフルサイズの高性能ミラーレス一眼「α9」(ILCE-9)を日本でも発表した。概要は「一眼レフ超えの速写で東京五輪に焦点 ソニー『α9』」で解説したが、AE/AF追従連写が秒20コマと高速なこと、撮影中にファインダー像が消失しないこと、電子シャッターなので撮影時にミラーやシャッターの音や衝撃が発生しないことなど、これまでのミラーレス一眼やデジタル一眼レフの常識を超える性能に仕上げられている。
今回、開発担当者に話を聞きながら実機に触れる機会を得たので、α9のポイントを改めて解説しつつ、ファーストインプレッションをまとめてみたい。ボディー単体モデルの実売価格は50万円ときわめて高価だが、その価格に見合うデジタル一眼の理想形という印象を受けた。
メカシャッターは搭載するが基本的に使わず、無音で撮影できる
α9の特徴の1つが、無音で撮影できる「アンチディストーションシャッター」だ。α9は、「α7 II」や「α6500」などほかのミラーレス一眼と同様にメカシャッターは搭載しているものの、基本的に電子シャッターで撮影する仕組みになっている(標準設定は自動切り替えで、メカシャッターか電子シャッターのいずれかを強制的に使うことも可能)。
実際にα9で高速連写を試したところ、デジタル一眼の撮影でつきものの音や振動がほとんど発生せず、驚かされた。手に伝わるのは、ボディー内手ぶれ補正機構が働いた際に発生すると思われるククッというわずかな振動のみだった。ふだん一眼レフを使っている人にとっては異次元の撮影スタイルといえる。ピアノの演奏会やライブ演奏など、シャッター音がためらわれるシーンでも周囲に迷惑をかけることなく撮影できる。単に静かに撮影できるだけでなく、撮影時の振動が発生しないので、ぶれによる解像感の低下が抑えられるのもメリットとして挙げられる。
ソニーの担当者によると、積層型CMOSの高速データ転送により、素早く動く被写体を撮影した際に見られるCMOS特有のゆがんだ描写(ローリングシャッターゆがみ)がほぼゼロに抑えられるので、電子シャッターでも画質や描写に影響はないという。撮影したことを耳や手で確認したいカメラマンや、シャッター音を聞いてポーズを変えていくポートレート撮影時は、メニューで切り替えればメカシャッターが有効になる(メカシャッター時は連写速度が5コマ/秒に落ちる)。電子音でシャッター音を擬似的に鳴らす機能も備える。
撮影の際もファインダーがブラックアウトせず、なめらかに表示し続ける
α9は単に静かに撮影できるだけでなく、連写中もファインダーの表示が黒く消えずに表示し続ける「ブラックアウトフリー」なのも特徴だ。一眼レフでは、シャッターを切ってミラーが上がり、撮像素子に露光している間はファインダーの表示がブラックアウトして見えなくなるので、素早く動く被写体を追いかけるのが難しくなる。従来のミラーレス一眼も、撮影直後はブラックアウトが発生してしまう。
だが、α9は高速連写中でもまったくブラックアウトすることなくファインダーや液晶パネルにライブビューが表示され続けた。連写中も表示がカクカクとぎこちなくなることはなく、秒60フレームのなめらかな表示が続いたのには驚かされた。
前述の静音撮影の効果もあって、あまりに撮影している感覚に欠けるので、撮影していることを意図的に表現する機能を用意している。設定により、枠や四隅のマークで撮影したことを表す表示をファインダーやライブビューに表示できるほか、撮影時に一瞬画面がブラックアウトするようにもできるのが何ともいえず面白い。
ちなみに、マウントアダプター「LA-EA4」経由でAマウントの交換レンズを搭載した際も、静音シャッターやブラックアウトフリーの効果は得られる。制約は、連写速度が最大10コマ/秒に落ちてしまうことだけだ。
プリキャプチャー機能がないことだけが惜しまれる
積層型CMOSの優れた高速データ転送性能やバッファー用メモリーを備えていることを考えると、シャッターを切った瞬間の直前の写真を記録するプリキャプチャーの機能はぜひ欲しかったところ。オリンパスの「OM-D E-M1 Mark II」は「プロキャプチャーモード」という名称で搭載しており、シャッター全押しの直前の14コマをさかのぼって記録できる。野鳥や野生動物などのネイチャーフォト派に高い評価を受けており、同種の機能がα9にも搭載されれば完璧といえただろう。
α9の予想実売価格は50万円前後とかなり高価だが、各社のプロ向けデジタル一眼レフはどれも60万円以上するので、メーンターゲットとなるスポーツカメラマンにとっては魅力的な存在になるはずだ。一般の写真趣味層にとってはオーバースペックな部分もあるものの、まったくの無音で撮影できる点はライブ撮影やネイチャーフォトの愛好者にとっては唯一無二の存在となるはず。ハイアマチュア層にとっても見逃せないカメラとなりそうだ。