セパレート機の技術をワンボディに凝縮
プリメインの次元を超えたサウンド ー エソテリック「F-03A/F-05」を聴く
石原 俊
エソテリックのプリメインアンプがIシリーズからモデルチェンジし、セパレートの思想と技術を投入したFシリーズが誕生した。音楽再生へのこだわりを一つの筐体に凝縮し、高い品位と多彩な機能を両立させた注目機「F-03A」と「F-05」をじっくりと試聴してレビューする。
■アナログ増幅回路を採用し、A級とAB級の2機種が登場
エソテリックのプリメインアンプが「Iシリーズ」から「Fシリーズ」に移行した。IシリーズがPWM方式だったのに対して、Fシリーズでは伝統的なアナログ増幅方式が採られており、セパレートモデルで培った技術がふんだんに投入されている。
今回リリースされたのはA級動作機の「F-03A」とAB級動作機の「F-05」で、前者の最大出力は30W×2(8Ω)/60W×2(4Ω)、後者は120W×2(8Ω)/240W×2(4Ω)。両者はパワーアンプ部の動作や外装設計こそ異なるが、プリアンプ部は共通の設計になっている。
筐体の剛性は前シリーズよりもさらに高まっている。質量は32㎏で、同程度の出力のモデルの1.5倍以上も重い。入出力は豊富で、オプションのUSB入力(DSD 11.2M㎐まで対応)付きのDAコンバーターボードをスロットインさせることが可能。スピーカー端子は2系統でリアパネルの両端にマウントされており、シンメトリーな回路レイアウトの証拠だ。
ノブ類の操作感は非常に良好で、特にアルミ削り出しのボリュームノブの感触は快感ですらある。このノブのメカニズムはエソテリックのお家芸であるVRDSの軸受けを応用したもので、同社の最上級シリーズ“Grandioso”と同じものだ。
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独自のESOTERIC-QVCSボリュームコントロール方式を採用。ボリューム/セレクターは、Grandiosoと同じ高精度ベアリング機構を採用する
独自のESOTERIC-QVCSボリュームコントロール方式を採用。ボリューム/セレクターは、Grandiosoと同じ高精度ベアリング機構を採用する
■トーンコントロールも装備され、プリアンプ部にフォノEQを搭載
筐体の中央には巨大な電源回路が鎮座する。電源トランスはEIコアタイプで、容量は940VA。ブロックコンデンサーは10,000μFのものが各チャンネル4本ずつ使用されている。
リアパネルの直近にマウントされているプリアンプ部は非常に凝ったものだ。回路はフルバランス/デュアルモノで、3バンドのトーンコントロール回路を擁している。この回路もフルバランス/デュアルモノなので、各バンドにつき4回路(正・負、L/R)ずつ、合計12回路によって構成。音量調整とトーンコントロールは電子式で、通常の可変抵抗器は使用されていない。
興味深いことに、このプリアンプ部にはフォノイコライザー回路が搭載されている。これはMM/MC対応の本格的なもので、専用電源を持ち、左右の回路も独立したデュアルモノ構成だ。昨今は単体フォノイコライザーが主流になってはいるが、プリアンプに内蔵させるほうが実際に使う上では有利だと思う。
左右のサイドパネル側にはパワーアンプ部がマウントされている。回路はGrandioso直系の三段ダーリントン式の3パラレルプッシュプルで、終段の素子は大型のバイポーラトランジスターだ。ドライバー段と終段の間にはエソテリック独自の低インピーダンス回路が入っている。
「F-05」はドライブ能力が非常に高く、滑らかで彫りの深いサウンドが魅力
試聴テストはエソテリックの試聴室で行った。ディスクプレーヤーは同社の「K-03X」を、スピーカーはTANNOYの「Kingdom Royal Carbon Black」を用いた。
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TANNOY「Kingdom Royal Carbon Black」
TANNOY「Kingdom Royal Carbon Black」
ジャズは音場感とエネルギー感が高度なレベルで両立している。通常のプリメイン機だと両者はトレードオフの関係にあるのだが、本機は凡百のプリメインアンプとは次元が異なるようだ。ボーカルは癖がなくてキレイで、歌詞の聴き取りやすさも抜群だ。クラシックでは大編成オーケストラを苦もなく描ききっている。音楽的には楽曲や演奏に介入しない。
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同社の一体型としては過去最大級の物量を投入し、クラスを超えた音質と優れたチャンネルセパレーションを獲得しているという
同社の一体型としては過去最大級の物量を投入し、クラスを超えた音質と優れたチャンネルセパレーションを獲得しているという
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両機の背面端子部。入力はXLR×2/RCA×5(1系統はフォノ)/外部プリアンプ入力(XLR)×1/プリアンプ出力(XLR/RCA)×各1を用意。スピーカー端子はA、Bを備える。オプションボードスロットによりシステムアップも可能となる
両機の背面端子部。入力はXLR×2/RCA×5(1系統はフォノ)/外部プリアンプ入力(XLR)×1/プリアンプ出力(XLR/RCA)×各1を用意。スピーカー端子はA、Bを備える。オプションボードスロットによりシステムアップも可能となる
F-05はほとんど発熱しないが、F-03AはA級動作なのでそれ相応に熱くなる。F-03Aのサウンドは基本的にF-05と同傾向の表現なのだが、音色の艶やかさと味わい深さと、音楽の品格はこちらに軍配が上がる。ただし、パワーハンドリングにかけてはF-05のほうが上だ。どちらを選ぶかは好みの問題なので、読者のご判断にお任せしたい。
最後にトーンコントロールの使い勝手のついて記しておこう。ターンオーバー周波数はバスが63Hz、ミドルが630Hz、トレブルが14kHzで、通常の2バンドのものとは大きく異なる。特にミドルの上げ下げは音楽に与える影響が大きい。またトレブルの上げ下げで音場感の印象を変えることも可能だ。これはなかなか使える機能である。今回は時間の関係で試せなかったが、機会があればフォノイコライザーの音も聴いてみたい。
(石原 俊)