一世を風靡した「堂島ロール(韓国系企業)社長・金美花氏」の深すぎる苦悩

東洋経済オンライン 12/21(水) 23:10配信



 「堂島ロール」で知られ、ロールケーキブームの火付け役となったモンシェール(大阪市北区、社長・金美花氏)の苦悩が続いている。

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 調査会社によれば、ロールケーキブームの一巡や類似商品の台頭を受けて、2012年9月期~2014年9月期までの3年間で計7億円を超える最終赤字に転落。なんとか2015年9月期には最終黒字に転換したものの、2016年9月期はフランチャイズ契約をしていた飲食店運営会社の破産で焦げ付きが発生した。

 夏には一部の取引先に支払いサイトの延長を申し出ているため、経営危機のうわさが広がった。2016年9月期は最終黒字を確保したようだ。会社側は「当社は美味しいお菓子を提供することを第一の使命としており、(業績などの)決算数値を詳しくは明らかにしていない」という。

■参入障壁が低いロールケーキ

 モンシェールは、学校の教師で、お菓子作りが趣味だった金美花社長が2003年に大阪・堂島で洋菓子店を起業したことに始まる。シンボルである堂島ロールが口コミで広がり、メディアへの露出が急増。一躍人気洋菓子店となった。

 今や北海道から九州まで全国に22店舗を展開、海外でも韓国、上海、香港で10店舗以上を運営している。ただし、急成長の裏では大きな「ツケ」を払わされることになった。

 菓子業界関係者は「ロールケーキ自体、どこでも、誰でも作れてしまう。だからこそ乱立しブームにもなったし、コンビニまで参入した。当然、目新しさが問われ、商品サイクルは短くなってしまう」と指摘する。

 加えて、堂島ロールなどの洋生菓子は、店舗から1時間以内にキッチンを置き、常にできたてを提供する必要があるため、離れた場所への多店舗展開はコストを押し上げる要因となる。人材育成などの負担も大きい。ブームが終焉したことで売上高は急減、調査会社によれば2010年9月期に67億円だった売上高が、近年では45億円前後で停滞している。





脱「堂島ロール」は果たせるか

 モンシェールも手をこまぬいていたわけではない。同社の店舗では堂島ロール以外の洋生菓子を積極的に販売。さらに百貨店カタログへの掲載など、ギフト商品への展開も強化している。

 大手百貨店のギフトカタログにはクッキーなどの干菓子やフィナンシェなどの半生菓子が並ぶ。自社のオンラインショップサイトでも、堂島ロールこそ取り扱っていないものの、冷凍ロールケーキやアイスの品揃えも増やしている。

■頓挫した大型工場計画

 かつて、2010年12月に兵庫県から尼崎市臨海部の分譲地を取得。兵庫県企業庁の発表資料によると従業員数150人、延床面積2500平方メートル、投資額7億円で、2011年10月に新工場の操業を開始を計画していた。

 当時の日本経済新聞や神戸新聞の報道によると、堂島ロール以外に、クッキーなど日持ちする焼き菓子系商品の強化を図ろうとしていたようだ。

 しかし、堂島ロールのイメージが強すぎたせいで、ほかの洋菓子商品では新鮮味を十分に打ち出せなかった。同じく神戸新聞によれば東日本大震災の影響もあり、工場の建設計画を断念。金属加工の会社に土地を譲渡している。

 「結局ロールケーキに頼ってしまい、タイミングを失してしまった。同じようにロールケーキで注目されながら、兵庫県三田市に店舗を絞り、チョコレートなどに展開しつつ、ブランド力を強固にしていった『パティシエ エス コヤマ』のような店もある」(前述の菓子業界関係者)。

 体力的に厳しい中、2013年あたりからギフト商品拡充に再チャレンジし、少しずつだが効果は出始めている。百貨店のギフトカタログに載れば、お中元やお歳暮はもちろん、通常期にもまとまった売り上げにつながる。百貨店のグループ化が進む中、系列店にも商機が広がる。計画的に生産でき、ボリュームの大きいギフト商品は魅力的といえる。

 ただ、ギフト商品は店舗販売のように人件費はかからないが、カタログ掲載への協賛金、お中元やお歳暮では早く注文してもらった場合の早割り、あるいはカード会員向けの会員割りなどもある。

 「ギフトカタログの土俵に上がるのは、いずれ名だたる強豪揃い。長年の実績を積み上げ、定番商品を有する横綱、大関はどっかと構えている。しかも、虎視眈々と狙っている実力者はあまた存在し、ニューカマーは引きもきらない。魅力ある商品、実力のある商品を出さなければ、すぐに土俵から降りてもらうことになる」(流通関係者)

 同社の金美花社長は雑誌「経済界」の対談で「焼き菓子でもモンシェールの顔となる商品を」と話している。堂島ロールという一本足からの脱却は果たすことができるのか。モンシェールは正念場を迎えている。




山本 雅則

最終更新:12/22(木) 16:55
東洋経済オンライン