【特別企画】DSD 11.2MHzにも対応するハイスペック機
開発者が自ら明かす、JVC “CLASS-S”のハイエンドポタアン「SU-AX01」高音質化の秘密!
土方久明
JVCケンウッドの「CLASS-S」に、イヤホン「WOOD inner」3機種とポータブルヘッドホンアンプ「SU-AX01」が新モデルとして加わった。WOOD innerの開発者インタビューをお届けした前回の記事に続き、今回は新型ハイエンドヘッドホンアンプ「SU-AX01」の開発者、美和康弘氏へのインタビューの模様をお伝えしたい。
http://www.phileweb.com/news/photo/interview/4/419/su-ax01_miwa003_thumb.jpg
「SU-AX01」の開発者、美和康弘氏に話を訊いた
「SU-AX01」の開発者、美和康弘氏に話を訊いた
■『基板が美しい』ハイスペックポタアン「SU-AX01」
土方:この新型ポータブルヘッドホンアンプ「SU-AX01」は、イヤホン「WOOD inner」とともに大注目の製品ですが、まずはコンセプトから説明して頂けますか?
美和:SU-AX01は近年注目されてきたハイレゾを始めとする配信コンテンツ、特にDSDを始めとする高スペックフォーマットに対応するDAC内蔵ポータブルヘッドホンアンプです。位置付けとしては「SU-AX7」の上位モデルにあたります。
http://www.phileweb.com/news/photo/interview/4/419/su-ax01_miwa001_thumb.jpg
JVCケンウッド メディア事業部 技術統括部 技術2部 1グループ チーフ 美和康弘氏
JVCケンウッド メディア事業部 技術統括部 技術2部 1グループ チーフ 美和康弘氏
土方:「SU-AX7」は音質に定評がある人気モデルです。“後継機”ではなく“上位機”ということでユーザーの選択肢が広がったわけですね。
美和:はい、本製品はSU-AX7ご使用いただいているお客様から寄せられた数多くのフィードバックを反映させています。まずは本機の内部をご覧になって下さい。今回特に力を入れたのがアンプ部です。
土方:私も数多くのポータブルアンプの基板を見てきましたがこれは美しいですね。DAC段の後、左右独立して信号が流れている設計に見えます。
美和:DAC以降のアナログ段は全てフルバランス構成とした上で、左右独立かつシンメトリー構成になっています。フルバランスのメリットを生かすためボリュームは新たに高精度電子ボリュームを搭載しています。通常のボリュームで発生しがちな、ギャングエラーと言われる低いボリューム位置での左右音量差が発生しません。
土方:ヘッドホンは感度が高いので小音量時などで左右の音量差を時々感じることがあります。原理的にそれが発生しないのですね。基板を見ると電子ボリュームが左右独立で搭載されていて感心します。
美和:特にバランス構成になるとプラスとマイナスの誤差も音質に大きな影響がありますが、電子ボリュームを採用することでそれを解消できました。またボリュームも左右独立で搭載することにより、音像定位や空間表現力がより向上しています。加えて、アンプ部の電源や、ヘッドホン端子までも左右独立で搭載するなど徹底しています。
■アナログ段への物量投入で定評あるDACチップの良さを引き出す
土方:SU-AX01の基板はまるでホームオーディオのハイエンドアンプのように見えます。これだけでも見応えがありますね。DACチップには何を使っているのでしょうか?
美和:「ESS製 ES9018K2M」を使用しています。
土方:音質に定評のあるチップですね。
美和:これより新しいDACチップも発売されていますが、「最新DACを採用!」などといったトピック作りのために載せるということはやめて、音質を最優先に考えました。開発チームの評価も高く、私自身も気に入っているDACチップです。
ただし、このチップは情報量が優れていますが、後段にしっかりとしたアナログ回路がないとそれ一辺倒で終わってしまいます。これに対し、SU-AX01はアナログ部に物量を投入できたので優れた音楽性も持ち合わることに成功しました。
土方:アンプ部分についてご説明して頂けますか?
美和:SU-AX01のアンプ部は音の立ち上がりと立ち下がりの特性に優れる、新開発のハイスピード電流帰還アンプを搭載しています。出力段には大型の大電流トランジスタを採用したディスクリート構造としました。
土方:かなり大型のトランジスタですね。
美和:通常このサイズのポータブルアンプでは採用されない大きなものです。熱処理に苦労しましたが、そのおかげで再現性に優れながら力強い音質を実現するとともに、大型のヘッドホンにも対応することが出来ました。
また、基板はアナログとデジタルをセパレートした2枚構成にすることにより、それぞれ理想的な回路レイアウトを実現しています。2枚の基板をつなぐコネクターにも基板にストレスのかからないグレードの高いものを使用しており、コネクター使用によるデメリットを最小限に抑えています。
そして基板を載せるシャーシにもこだわっています。SU-AX7の1.5倍圧の非磁性ステンレス素材を使用した新開発の「fホールシャーシプラス」を採用することで、シャーシ剛性としなやかさを両立して、芯のある力強い音と伸びやかな音に貢献しています。
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fホールに加えて“バナナホール”も設けることで剛性としなやかさのバランスを最適に調整
fホールに加えて“バナナホール”も設けることで剛性としなやかさのバランスを最適に調整
■据え置き環境では「ハイインテンシティモード」でさらに高音質に
土方:基板とシャーシの接合部も工夫されているのですよね?
美和:はい、基板をシャーシからフローティングさせる「アドバンスドフローティング構造」を採用しています。
土方:実物を見るとよく分かりますが、ここまでのシャーシ構造はあまりお目にかかったことがありません。手で軽くひねっても全く変形せず剛性感があります。
それにしても、使用されているパーツや集積された回路部分など、SU-AX01からは開発リソースと技術に優れた大手メーカーの強みが感じられます。
美和:2階建ての基板と、筐体前後に装備した各々の入出力端子は、アナログ/デジタルそれぞれの入力をシンプルかつ最短の経路で伝送するレイアウトを採用しています。
また、音質以外にも使い勝手、例えばポータブルアンプとしての携帯性も考慮しました。前面にUSB端子とヘッドホン端子を配置していますので、本機をカバンの中などに入れた時でもケーブルに負荷がかかりません。
土方:使いやすさと音質を高い次元で両立させていますね。
美和:本機は外部給電時に音質を向上させる「ハイインテンシティモード」を搭載しました。これは、SU-AX7を購入された多くの方が家庭内で同機を使用しているということで新たに実装した機能です。もちろんポータブルアンプとしてバッテリー駆動が可能ですが、2.1A(2.4A)のUSB給電アダプターを使用すれば充電だけでなく音質向上も同時に行えるのです。
土方:iPad用の純正アダプターと2A対応のしっかりとしたケーブルを使えば良いのですね。
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iPadの純正ACアダプターを利用してUSB給電すると「ハイインテンシティモード」が自動的にオンになる
iPadの純正ACアダプターを利用してUSB給電すると「ハイインテンシティモード」が自動的にオンになる
美和:はい、「ハイインテンシティモード」で駆動すると、ダイナミックレンジが広がり、ディテール表現も上がります。電源ケーブルを抜き差ししても自動で回路が切り替わり音も途切れないので、手軽に音の違いを体感していただけます。
■多彩な入力インターフェイスとハイスペックな対応フォーマット
土方:SU-AX01は多彩な入力を持っているのも特徴ですね。
美和:はい、4系統のデジタル入力と1系統のアナログ入力を備えています。デジタル入力端子は、Apple製品用USB、USB(PC、Android端末)、同軸/光デジタル、アナログ入力は内部でバランス変換を行います。そして、対応するフォーマットのスペックが高いことも特徴です。USB入力であれば、DSDは11.2MHzまで、PCMは384kHz/32bitまで対応します。
土方:これは本機の大きな魅力だと思います。現実的にここまでの数値が必要かどうかはいろいろな意見があると思いますが、現在配信サイトでダウンロード可能な音源ほぼ全てに対応できる事、そして今後も末長く使える意味においても価値は高い。何よりもハイスペック音源の良さを十分に享受できることは、大きいと思いますよ。
美和:もちろん、そうしたハイスペックフォーマットをただ再生できるというだけでなく、その良さをしっかり描写できる性能も備えています。例えばDSD 11.2MHzと5.6MHzとの差も感じ取ってもらえると思います。
土方:これだけのスペックと回路をコンパクトにまとめるのは大変だったと思います。苦労した点はありませんでしたか?
美和:たくさんありますよ(笑)。 例えば本機は今まで以上にパワーのあるアンプを搭載しましたが、それにより消費電力が上がり、本体内の温度が上がってしまいました。
アンプのパワーを下げるという選択肢もありましたが、そこは逃げたくないので、筐体に穴をあけてみたり、最終的に音に関係のない部分の消費電力を下げ問題を解消しました。そうそう、パッケージは結構シンプルなデザインなのですが、実は当初はもっとコストをかけた豪華なものにする予定だったんです。しかしパッケージ用の予算を削ってでも本体にコストをかけようということになったのです。
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開発途中では放熱対策としてプラモの“肉抜き”のように穴を開ける方法なども試したという
開発途中では放熱対策としてプラモの“肉抜き”のように穴を開ける方法なども試したという
■「高域から低域まで全ての帯域にパワーがある」
土方:そこまでこだわったのですね。でもその結果驚くほど素晴らしい音が出ています。
http://www.phileweb.com/news/photo/interview/4/419/su-ax01_hijikata_listen_thumb.jpg
試聴はトランスポートに「MacBookPro」、再生ソフトウェアに「Audirvana Plus」を使用、組み合わせるイヤホンは同社製の“WOOD 01 inner”「HA-FW01」と筆者が持参したソニー「MDR-Z1000」を使用して様々なジャンルの音源を再生した
試聴はトランスポートに「MacBookPro」、再生ソフトウェアに「Audirvana Plus」を使用、組み合わせるイヤホンは同社製の“WOOD 01 inner”「HA-FW01」と筆者が持参したソニー「MDR-Z1000」を使用して様々なジャンルの音源を再生した
美和:具体的にはどのような印象を持たれましたか。
土方:SU-AX01は高域から低域まで全ての帯域にパワーがあります。情報量も多いですね。
特筆したいのは高い音楽性を備えているということ。サイズから考えるとヘッドホンの駆動力も高いです。それとバランス駆動時の音質が高い。「WOOD 01 inner(HA-FW01)」のバランスとアンバランスを聴き比べましたが、大きく音質が上がっていて驚かされました。バランス駆動ヘッドホンを持っているユーザーに強くお勧めしたいと感じます。
美和:ありがとうございます! 今回の製品に合わせて3種類のヘッドホンケーブルも発売しました。高解像度と空間表現に優れたケーブルですので、ぜひ使って欲しいですね。
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WOOD inner用の「CN-HM01MB」(写真)、WOODヘッドホン用の「CN-HY01MB」、SIGNA用の「CN-HS01MB」という3種類を用意。これらを使うことでSU-AX01とバランス接続しての音楽鑑賞を楽しめる
WOOD inner用の「CN-HM01MB」(写真)、WOODヘッドホン用の「CN-HY01MB」、SIGNA用の「CN-HS01MB」という3種類を用意。これらを使うことでSU-AX01とバランス接続しての音楽鑑賞を楽しめる
土方:ポータブルオーディオファンに聞いてもらいたい素晴らしいハイエンドヘッドホンアンプが登場したと思います。本日は有難うございました。
(特別企画 協力:JVCケンウッド)