「シャッター商店街」は本当に困っているのか
国交省の「空き家バンク」で空き家は減らない
最近、「空き家・空き店舗が増加して問題になっている」、という話が取り沙汰されます。こうした問題意識を背景に先日、国土交通省が「ある発表」をしたのをご存じでしょうか。
なぜ行政は無駄な「空き家バンク」を作るのか
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すなわち、自治体が個別で取り組んでいる、空き家を登録するデータベース「空き家バンク」を、国土交通省が中心となって全国で統合するというものです(代表的な紹介記事はこちら)。
しかし、空いている不動産を借りたい人・買いたい人に案内するネットサービスは、皆さんもご存知のとおり、複数の大手企業がすでに展開しています。
わざわざ行政が予算をかけてデータベースを整備して、ゼロから仕組みづくりを始めるよりも、既存の民間のサービスを使って、そこに載せてもらうほうが、一気に多くの利用者にリーチできると思うところです。
しかし、空き家・空き店舗が増加している理由は、そもそも「空き家バンクがないから」だけではありません。
問題の根幹は、空き家と言われる不動産の所有者たちが「別に貸さなくても当座は大して困っていない」という状況にこそあるのです。さっそく数字で検証してみましょう。国土交通省実施の「平成 26 年空家実態調査」では、空き家にしておく理由の3分の1以上を占める37.7%の人が「特に困っていないから」と回答しています(調査結果の概要の14ページ、複数回答)。
その他の理由でも44.9%の人が「物置として活用する」とか、36.4%の人が「将来使うかもしれない」といったような理由で空き家にしているわけです。
他人に貸したり、売ったりしなければ、家計や事業が破綻するような切羽詰まった状況にあれば、必死になって営業してどうにか借り手や買い手を探します。つまり、そこまでに至らない空き家が問題の中心になっているのです。
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(出所:国土交通省「平成 26 年空家実態調査」)
実際に、全国の自治体で行われている「空き家バンク」にアクセスするとわかりますが、大した物件がアップされていない地域が多数あります。つまり、マッチング以前に、空き家を貸し出す必要がない人が多いという状況こそが問題なのです。
シャッターを閉めているオーナーはカネに困っていない
これと同じ構造なのが、いわゆる「シャッター商店街」です。私が再生に関わる地方都市部では、昔からシャッター商店街が問題視されてきました。
しかしながら、シャッター商店街の不動産オーナーが明日の生活にも困っているかと言われれば、そんなことはない、むしろ豊かであることが多くあります。
シャッター商店街の不動産オーナーは、多くがもとから商売をやっていて、特に戦後の高度成長期、大儲けした時代がありました。その時代には小さな土地の値段もうなぎ登り。その土地を担保に銀行からおカネを引き出して小さな店をビルに変え、さらに周辺のアパート・マンション等にも投資。このようにして一財を成した人が少なくありませんたとえ今の商売が大して儲からなくなっても、息子たちも立派に東京などで自立しているし、過去の蓄財と不動産収入などで「死ぬまで生活するカネには困らない」、といった人々が、シャッター商店街のオーナーたちだったりします。
商売が行き詰まって、不動産収入も乏しく余裕がなくなってしまった人は、土地・建物・自宅・車などなど一切合切もって行かれ、現在のシャッター商店街の所有者ではないのです。本当に困っている人は、シャッターを閉めて不動産を放置しておくことなどはできないのです。
例えば、大手の新聞の1面に「シャッター商店街」が深刻な話として描かれていても、実際にその商店街の理事長さんとお会いしたら「不動産オーナーたちも別に収入があり、組合も駐車場経営がうまくいっているから全く困っていない」と誇らしくお話頂いたりしたこともありました。これはある意味素晴らしいことです(笑)。
「空き店舗対策」の補助金で、かえって街はシャッター化
このように、当座の生活に困っていない不動産オーナーが保有する商店街中心部の空き店舗に補助金を入れて、市民や学生活動の拠点やらチャレンジショップなどに変える、「空き店舗への家賃補助金制度」なるものがいまだに全国にあります。
このような家賃補助は一見、市民活動をしている人や、学生や、これから商売を始める人を支援しているように見えます。しかし、実際には生活に困らず適当な家賃設定をして、営業の努力もせずに放置している豊かな不動産オーナーの懐に税金が入るだけ、とも言えます。
さらに最悪なのは、補助金で一部の不動産オーナーが「おいしい思い」をしたことで、他の不動産オーナーにも「次はうちも補助金で……」といらぬ期待を持たせてしまったりします。その地域では結果、不当な家賃相場が維持され、シャッター商店街のシャッター化はさらに加速しますこれからの日本全体をみれば、人口減少・世帯減少が続く中で空き家は増加しますし、今後はEC(電子商取引)などの伸長によって、商業店舗の需要も減少するので、空き店舗も増加するのは避けられないでしょう。
「空家対策特別措置法」などでは、空き家のまま放置している場合に固定資産税を高くする「マイナスの政策」によって、活用を促進させようとしています。
行政は「マイナス」+「プラス」政策で支援を
しかしながら、空き家認定の実務は未だ難しく、また不動産の価値が下がりきった地方都市では、固定資産税が数倍になっても放置したほうが得という場合もあります。これからの日本では、道路や公共施設などの社会資本が手厚く整備されているエリアでは、「より積極的なマイナス政策」を検討しても良いと考えます。
一方で、例えば北九州市の小倉では、不動産オーナーの世代交代をきっかけに、10年近く空き店舗にしていた不動産への入居者営業や投資を不動産オーナー自らが行い、空き店舗が多かった周辺の不動産まで再生している中屋興産などの取り組みもあります。
また、従来であれば不動産屋さんが相手にしなかったような地元の古い空き家・空き店舗を積極的に取扱い、エリア再生にまで繋げている大阪の丸順不動産などの取り組みも出てきています。
従来の不動産オーナーや不動産会社では考えられなかったような民間の取り組みが、エリア全体の変化をも生み出すのです。実は、このような「プラスの事業」が全国各地で増加しています。
民間はこのような取り組みを着々と増加させていくことが大切です。一方で、行政はこのような取り組みを、「素晴らしいので補助金を出して全国に広げる」、などとやっては絶対に駄目です。むしろ空き不動産を活用して再生したものについては、一定期間の固定資産税減免などを講じるなど、行政にしかできないことと向き合って頂きたいのです。
どちらにしても、間違った政策や事業は「街の空洞化」を加速させます。しっかりと、実態を捉え、表面的な「空いている」という状況の先にある、ホンネに即した政策や事業が求められていますhttp://toyokeizai.net/articles/-/139294?page=4