入札情報漏洩で国交省職員逮捕、高知談合の教訓生きず
国土交通省中部地方整備局が発注した津市の橋梁工事の入札を巡り、予定価格などの入札情報を漏らした見返りに飲食接待を受けたとして、愛知県警は9月30日、加重収賄と官製談合防止法違反などの疑いで、三重河川国道事務所の工務第2課長(46歳)を逮捕した。
併せて、工事を受注した瀧上工業の営業副本部長(52歳)、営業副本部長(61歳)、名古屋営業部員(41歳)の3人も、贈賄などの疑いで逮捕した。
国交省の発注工事で、同省の職員が官製談合防止法違反容疑で問われるのは、2012年に発覚した「高知官製談合事件」以来4年ぶり。この事件では、四国地整の土佐国道事務所と高知河川国道事務所それぞれの歴代副所長が、総合評価落札方式の一般競争入札を巡って予定価格や入札参加企業の技術評価点などを建設会社側に漏洩した。
国交省はこの事件を受け、再発防止策を検討する委員会を省内に設置し、13年3月に調査報告書を作成。積算業務と技術審査・評価業務を分離するなどの再発防止策を各地整に通知した。
中部地整も本省の通知に従い、積算業務と技術審査・評価業務の分離や、入札書と技術提案書の同時提出、予定価格作成時期の後ろ倒しなどの対策を講じてきた。にもかかわらず、再び職員による入札情報漏洩疑惑が浮上。事件の教訓が生かせなかったことが浮き彫りになった。
瀧上工業は二番札、評価値で上回り逆転落札
愛知県警によると、情報漏洩があったとみられるのは、三重河川国道事務所が今年8月22日に入札を実施した「23号田中川橋鋼上部工工事」。
入札は、企業と技術者の実績や工事成績などを評価し、技術提案などは求めない「施工能力評価型Ⅰ型」で実施。駒井ハルテックや東京鉄骨橋梁など大手橋梁メーカーを含む10社が入札に参加し、瀧上工業が2億4500万円(税抜き、以下同じ)で落札した。予定価格は2億7087万円で、調査基準価格は2億4227万円だった。
工務第2課長は7月上旬から8月下旬にかけて、予定価格や入札参加企業の評価点などを瀧上工業の営業副本部長らに伝え、その見返りに十数回にわたってクラブなど数カ所で合計三十数万円相当の飲食接待を受けたとみられる。
今回の容疑のポイントは、予定価格などの価格情報だけでなく、各社の評価点も漏洩したとみられる点だ。
通常、確実に落札しようと考えれば、実質的な下限値である調査基準価格ぎりぎりのところを狙う。しかし、情報漏洩の疑いのある工事では、瀧上工業の入札価格が参加者の中で最も低かったわけではない。それでも評価点が一番高かったので、両者を総合した「評価値」で1位となり、落札することができた。
評価点の最も高い会社が調査基準価格と同額で入札したとしても、総合評価では瀧上工業を上回らない。瀧上工業は他社の評価点を知ったうえで、自社の入札価格を設定したものと考えられる。
このように、総合評価落札方式で不正を働くには、価格情報と評価点の両方が必要となる。だからこそ、高知の談合を受けた再発防止策で、積算業務と技術審査・評価業務を分離したはずだ。
入契委員会を通じて参加企業の評価点を入手?
では、工務第2課長は入札参加企業の評価点を事前にいかに知り得たのか。
中部地整では、発注担当課が積算業務を、品質確保センター(品質確保課の職員と工事品質管理官らで構成)が技術審査・評価業務をそれぞれ担っている。
そのため、問題の案件について、発注担当である工務第2課長は予定価格を知り得る立場にあった。しかし通常、発注担当課と品質確保センターとの間では評価点など情報はやり取りしないので、発注担当課の職員が入札参加企業の評価点を事前に知ることは困難とされる。
にもかかわらず、工務第2課長がその情報を入手できたのは、各企業の競争参加資格の有無などを判断する入札・契約手続運営委員会のメンバーに、発注担当課長として加わっていたからだ。同委員会は通常、三重河川国道事務所の所長、副所長(3人)、工事品質管理官、経理課長、発注担当課長の計7人で構成。委員会には、品質確保センターなどから入札参加企業の評価点などの情報(社名は伏せた状態)が上がってくるので、メンバーである工務第2課長は知り得る立場にあったわけだ。
同時提出型なら、情報漏洩は防げたか
入札前に評価点の情報が漏洩するのを防ぐために、中部地整は入札書と技術資料の同時提出を入札参加企業に課している。ただ、同時提出型の対象は主に、予定価格6000万円以上3億円未満の一般土木工事の入札。今回の鋼橋上部工事は含まれていない。
そのため、入札ではまず参加企業に技術資料の提出を求め、入札・契約手続運営委員会で競争参加資格の有無などを確認していた。その後、各社から入札書の提出を受けるまでの間に、評価点の情報が漏れたとみられる。
中部地整によると、同時提出型の対象工事を限定しているのは、本省の通知に従っているためで、同整備局独自の判断によるものではない。また、本省がそうした通知を出したのは、同時提出型の入札が通常より手続きに時間を要することから、対象工事を高知官製談合事件で問題となった工事の種類や規模に絞ったからだという。
情報漏洩疑惑の背景には、「技術資料が先、入札書が後」という入札手続きの問題がある。今回は、本省の再発防止策の隙を突く形で不正が行われた。
中部地整は10月3日、本局幹部と法曹関係者ら外部有識者から成る「不正事案再発防止検討委員会」を設置し、再発防止策を検討すると発表した。同委員会では、同時提出型の適用範囲をどこまで広げるかが検討課題の一つになるとみられる。
中部地整によると、2015年度に同整備局で発注した工事件数(建築なども含む。港湾空港関係は除く)は1017件。そのうち、予定価格6000万円以上3億円未満の一般土木工事の発注件数は453件で、全体の44.5%を占める。ただし、補正予算の対象工事など早期に発注しなければならない案件が数%あったため、453件全ての工事で同時提出型の入札を実施したわけではない。
中部地整では、同時提出型は通常より入札手続きに5日間ほど長くかかるとみている。そのため、検討委員会の議論では、発注日程や事務負担などを考慮して、残り6割程度の発注工事で同時提出型の入札をどれくらい実施するかが大きな焦点になるとみられる。