薬では進行を遅らせることしかできないと言われてきた認知症。だが、近い将来、「治る」可能性が出てきた……。ある新薬の臨床試験の結果が、世界中の専門家らの注目を集めている。今後の試験の結果次第で、認知症患者やその家族が心待ちにしている「根治薬」が誕生するかもしれない。
「認知機能が改善する」
世界中の認知症の専門家が初めて耳にする新薬の臨床試験の中間解析の結果が発表されたのは、2015年3月にフランス・ニースで開かれた国際アルツハイマー・パーキンソン病会議でのこと。会場からは、
「これまでどの薬も達成しえなかったのに、なぜこの薬が成果を上げたのか?」
などと、質問が集中。活発な議論が交わされた。
その新薬の名は「アデュカヌマブ」。米国の製薬企業バイオジェンが手掛ける開発品、「抗アミロイドβ(Aβ)抗体」だ。
日本の認知症の患者数は25年には700万人を突破し、65歳以上の5人に1人が罹患すると推計されている。なかでも半分以上を占めるのが「アルツハイマー型認知症」(以下、「認知症」と記載)。現在の薬物治療では、薬で進行を遅らせるのみ。残念ながら根本的な治療薬はない。
製薬会社や研究者は、根本的治療を目指して新薬の開発を進めているが、長らく期待される効果を得られたという報告はなかった。アデュカヌマブの発表は、ようやく「根治を目指せる」効果を示し、大きな期待が寄せられることとなった。
「臨床試験でやっと効果が示されたことが画期的でした」
日本老年精神医学会や日本認知症ケア学会の理事で、認知症の薬物治療に詳しい香川大学医学部の中村祐医師(精神科神経科教授)はそう語る。
認知症については、どのような原因で発症するのか解明されておらず、有力な仮説として「Aβ」と「タウ」というたんぱく質が発症に関係していると言われている。仮説では、症状が現れる10~20年前からAβが脳内にたまり、その後、タウがたまると神経細胞が死に、脳が萎縮すると考えられている。
そのAβ仮説をベースにした薬が抗Aβ抗体だ。これは脳内に蓄積したAβを取り除く作用がある。バイオジェン・ジャパンによると、この新薬は、健康な高齢者から採取した免疫細胞から、塊となったAβに最も強く結合する抗体を産生する免疫細胞を選び出し、その遺伝子を用いて作られたバイオ医薬品。月に1回投与する注射薬(点滴静注製剤)だ。
中村医師によると、この10年間、Aβ仮説にもとづいて新薬の開発や研究がおこなわれていたが、いずれも失敗に終わり、「Aβ仮説自体が間違いだったのでは」とささやかれていたという。
「Aβ仮説による開発を進めたアデュカヌマブの試験結果により、Aβ仮説の支持という風の吹き戻しが起きつつあります」
※週刊朝日 2016年7月22日号より抜粋
インド人は認知症の発症率が少ないと言われている。その理由は、食生活にあるという。最新の報告や研究をもとに、その理由と食べ方を紹介する。
インド人のアルツハイマー病の発症率は、アメリカ人の約4分の1だという。
金沢大学の山田正仁教授の研究チームはカレースパイスに含まれる成分、クルクミンの認知症予防効果の研究をしている。
「クルクミンはポリフェノールの一種で、抗酸化作用や抗炎症成分があることが以前から知られている。私たちはアルツハイマー病の脳の変化に特別な効果があるかどうか実験しました。まず試験管内でアルツハイマー病の脳の病変の状態を再現し、クルクミンがそれを阻止するかどうかを調べました」
クルクミンを「加えないもの」と、「加えたもの」を試験管で経過観察すると、加えたものではアミロイドβタンパクがくっついて固まるのを大幅に抑えた。
「ある種のポリフェノールにはアミロイドβタンパクが集まるのを抑えるだけでなく、すでにたくさん集まったものを分解する作用があることもわかりました」
またアルツハイマー病にしたモデルマウスにクルクミンを投与すると、オリゴマーと呼ばれるアミロイドβタンパクの固まりができにくくなることもわかった。
山田教授は、αシヌクレイン酸という異常タンパクが脳内にたまるレビー小体型認知症への効果も研究した。
「いずれも人では証明されていない」というが、実験ではクルクミンの成分に効果があるのは確かだ。
レシチンがクルクミンの吸収を促進するという研究者の報告もあるので、きな粉入りカレーもおすすめ。
※ 週刊朝日 2015年5月22日号