女性だけの「シカゴ」 宝塚OGがニューヨーク公演






宝塚歌劇団の元トップスターたちが、世界各国で演じられているブロードウェーミュージカル「シカゴ」を今夏、本場ニューヨークで女性だけで上演する。
 「オール・ザット・ジャズ」などの名曲と、「フォッシースタイル」と呼ばれるスタイリッシュで官能的なダンスでつづる、虚飾と退廃に満ちた人間ドラマを、「清く正しく美しく」の宝塚で一時代を築いたOGたちがどう見せるのか。公演への意気込みを、元星組トップの峰さを理さんと湖月わたるさん、元宙組トップの大和悠河さんに聞いた。


(時事通信社文化特信部 中村正子


宝塚OG版「シカゴ」でロキシー、ビリー、ヴェルマをそれぞれ演じる(左から)大和悠河さん、峰さを理さん、湖月わたるさん=東京都港区【時事通信社



イメージ 1

「シカゴ」は、ミュージカル「キャバレー」「蜘蛛女のキス」などでも知られるジョン・カンダー(作曲)とフレッド・エッブ(作詞)の名コンビが楽曲を手掛け、鬼才ボブ・フォッシーの脚本、振り付け、演出で1975年初演。96年にリバイバルされて以来ロングランを続け、今年で20年目を迎えた。

 宝塚OG版は、名場面を抜粋した2012年のセレクションバージョンでのトライアルを経て、14年に宝塚歌劇100周年の記念公演として全編を初演。そのパフォーマンスが高く評価され、ニューヨークの夏の舞台芸術の祭典「リンカーン・センター・フェスティバル」で「Takarazuka CHICAGO」として上演されることになった。ブロードウェーの劇場街で公演が続く本家の「シカゴ」と合わせ、ニューヨークの主要な2つの劇場で同じ演目が同時に上演されるのは初めてという。





 招へい元のリンカーン・センター・インターナショナルのローレン・キールさんは「(宝塚の)名高い歴史と類いまれな特徴を観客と共有したい。前売り券の売れ行きは好調で、ブロードウェーのプロデューサーや俳優たちも強い関心を寄せています。今年20周年を迎えたブロードウェーの『シカゴ』の大きな節目を祝うのに、これ以上ふさわしい公演はありません」と期待する。





ミュージカル「シカゴ」の舞台は禁酒法時代の米イリノイ州シカゴ。殺人犯のロキシー・ハートとヴェルマ・ケリーが敏腕弁護士ビリー・フリンと組んで、無罪を勝ち取り、監獄からショースターにのし上がっていく姿をシニカルに描く。
 リバイバル版はトニー賞を6部門で受賞。2002年公開の映画版はアカデミー賞作品賞に輝いている。日本でもたびたび上演され、米倉涼子やシャーロット・ケイト・フォックスがロキシー役を演じ、ブロードウェーの舞台にも立った。




2年ぶりの再演となる今回の宝塚OG版はニューヨークのほか、横浜、東京、大阪でも上演。ビリー役を峰さんのほか元星組トップ麻路さきさんと元宙組トップ姿月あさとさん、ヴェルマ役を湖月さんのほか元宙組トップ和央ようかさんと元雪組トップ水夏希さん、ロキシー役を大和さんのほか元雪組トップ朝海ひかるさんが演じる。 いずれも宝塚時代には、それぞれが自分の個性を生かした男役像を追求して圧倒的な人気を集めたスターたち。女看守長役を元星組・月組トップ娘役の初風諄さんと元雪組トップの杜けあきさんが演じ、その他のさまざまな役を演じるアンサンブルにも名ダンサーがそろう



ニューヨーク公演では「シカゴ」終演後、「タカラヅカ・アンコール」と題した20分のレビューショーも上演される。ラインダンスやデュエットダンス、背負い羽根も登場し、最後は宝塚の愛唱歌「すみれの花咲く頃」。演出を担当する宝塚の演出家の三木章雄さんは「宝塚出身者がこれだけ集まるので、宝塚がどんなものか、その一端を見せられるショーを見せたい」と意気込む。

「シカゴ」のダークな世界と、華やかなレビュー。どちらも「タカラヅカ」のショーケースとなる。
 ニューヨーク公演は、リンカーンセンター内のデビッド・H・コーク・シアターで7月20~24日(リンカーン・センター・フェスティバル公式サイト)。国内公演は、横浜・KAAT神奈川芸術劇場で7月9~14日、東京国際フォーラムホールCで8月10~21日、大阪・梅田芸術劇場で8月25~31日(公式サイト




ニューヨーク公演でまず注目されるのは、峰さを理さんら元男役が、ヴェルマとロキシーの代理人となるビリーをどう演じるかだろう。2014年の公演で峰さんは久しぶりに「男役」に挑み、マスコミを巧みに利用してロキシーの無罪を勝ち取る敏腕弁護士役に大人の男の色気と貫禄をにじませた。◇ セクシーなおじさんを
 宝塚を退団してから洋物の男役はやりたくないと思っていたけれど、辞めて何年もたち、もう1回をやってみるのもいいかなと吹っ切れた。やってみると気持ち良くて、やっぱり好きだなと思いました。男役の醍醐味(だいごみ)は、女を超えた部分で演じて通じた時のえも言われぬ快感。自分の原点を見詰め直すことができました



宝塚の男役は、作品によって歌舞伎のように様式的に演じるものと、自然とにじみ出るように繊細に作っていくものものもある。その両方を知っているのが強いと思います。

 ビリーは宝塚の二枚目男役の格好良さとは別のもの。私が演じたかったのは、悪徳だけど憎めない、セクシーなおじさん。根本には宝塚の男役が流れているけれども、成熟した男としてそこに生きている人間を目指しました。もし現役の男役だったら、そういう風には思わず、いかに格好良く演じるかだけを考えたでしょう。OGだからこそ、男として生きているけれども、現実の男性が持っていないセクシーさを出せると思いました。





宝塚では、大きな劇場で表現することをずっとやってきたので、細かく演技をしても劇場の奥まで伝えられる神経の使い方をアンサンブルの端々に至るまで身に付けている。そのパワーは特別じゃないでしょうか。
 今回は、再演と思わず一から作り直したい。ニューヨークでは小手先勝負では絶対に通じない。今までやってきたことを信じて、よりセクシーなおっさんに徹したいと思います。でも「タカラヅカ・アンコール」では、おっさんは捨てて、格好いい二枚目になります。
 峰さを理(みね・さをり) 1972~87年在団。83年に星組トップスターに就任し、声量豊かな歌唱と包容力で魅了した。退団後は女優、日本舞踊家(西崎峰)として活躍。「星逢一夜」「新源氏物語」など宝塚作品の振り付けも行っている



湖月わたるさんが演じるヴェルマ・ケリー役は、夫と妹の不倫を目撃して2人を殺害したショーダンサー。セレクションバージョンで初めて演じて以来、フォッシースタイルの踊りで見せるこの役に魅了され、2015年の来日公演では外国人俳優に交じって英語で挑戦。宝塚OGの底力を印象付けた。◇男役の経験を生かして
 4年前のセレクションバージョンの時、ブロードウェーの宝物の作品に挑戦する責任を感じました。宝塚の男役は普通、肩パッドを入れて、肌も見せません。ジェントルメン(男性役のアンサンブル)の子たちはダンベルで肉体を鍛えて体を作り上げ、ピタッとした衣装も着こなして外国人の男の子に見えました





来日公演にヴェルマ役で出た時、改めてOG公演の魅力に気付かされました。男性と一緒の「オール・ザット・ジャズ」の場面では彼ら一人ひとりの肉体の圧力を感じたけど、物音一つしないような、スッとした統一感を出せるのは、やはりOGならではだと。 ヴェルマは純粋にエンターテインメントを愛していて、何があってもへこまず、自分の足でしっかり立ち上がっていく。来日公演でヴェルマを演じていたアムラ・フェイ・ライトさんの演技を毎日、舞台の袖から見ました。アムラさんは声も踊りも肉体も精神も強く、ポジションが全くブレない。その姿は今でも目に残っていて、私も自分をしっかり持てるようにしたいと思っています


「シカゴ」に出てくる女性は、人を殺してでものし上がろうとするぐらいだから、みんなタフで腹が据わっている。宝塚で私はこの大きな体を生かして包容力のある、男くさい男役になりたいと意識したけれど、男役を経験していなかったら、演じるのが難しかったのではないかな。
 海外で宝塚の作品を見せることも大切ですけども、宝塚で培った男役という芸を、世界各国でやっている作品でニューヨークにお届けできるのは、すごいチャンスだと思っています。
 湖月わたる(こづき・わたる) 1989~2006年在団。長身を生かしたダイナミックなダンスで早くから注目され、2003年に星組トップスターに就任した。退団後はミュージカルをはじめとする舞台や、ダンス公演などで活躍している



大和悠河さんが演じるのは、ショースターになる夢をくじかれて愛人を殺害したロキシー・ハート。マスコミの前で悲劇のヒロインを演じてみせて脚光を浴び、無罪を勝ち取る。2014年の公演で大和さんは舞台映えする天性の華で、キュートでしたたかなロキシーを生き生きと演じた。◇美しくエレガントな「シカゴ」
 宝塚時代から休みが取れると、ニューヨークに行って、最新の舞台を見て刺激を受けてきました。「シカゴ」を初めて見たのは下級生の時。スタイリッシュなダンスの格好良さに憧れました。女性も男性も鍛え上げられた体で演じていたのが印象的で、OGでやることが決まった時はすごいチャレンジだと思いました



「シカゴ」は衣装も装置もシンプル。前回演じた時は、そういうものに頼らず、体全てで表現するのは怖いなと初めは悩みましたが、動きや振りに全部意味があり、やっていくうちに自分をさらけ出す喜びを感じました。
 ロキシーは、思わず殺人を犯してしまうけれど、ヴェルマやビリーに出会い、たくましく生きていく女性に変化していく。生きる本能を表現するのは大変でしたけど、やりがいがありました。前回から2年がたち、また新たな発見があると期待しています。




私たちは宝塚で「清く正しく美しく」を背負って過ごし、辞めてからもなお一層背負っていると感じます。「シカゴ」の世界とは真逆に思えるかもしれませんが、そこに挑む姿を見てほしい。多分、どの「シカゴ」より美しく、エレガントな「シカゴ」になると思います。

 宝塚で女性だけで強くたくましく生きてきた私たちと、パワフルで真っすぐな「シカゴ」の女性たちは重なるところもあります。トップスターを張って舞台に出た時の感覚は、ヴェルマもロキシーも自然と持っているものかもしれない。男役として追求した色気や格好良さが、女性としても自然とにじみ出たらいいなと思います。

 大和悠河(やまと・ゆうが) 1995~2009年在団。アイドル的な容姿で人気を集め、2007年に宙組トップスターに就任。退団後はミュージカルや商業演劇の多彩な舞台や、テレビのバラエティー番組などで幅広く活躍している


イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

イメージ 5

イメージ 6

イメージ 7



イメージ 8

イメージ 9

イメージ 10

イメージ 11

イメージ 12

イメージ 13



http://www.jiji.com/jc/v4?id=201606takarazukaog&p=201606takarazukaog-01