春日部には、勝久氏と骨肉の争いを演じた長女・大塚久美子氏が率いる大塚家具の春日部ショールームがあります。両店舗を比べると、規模の面では匠大塚が大塚家具を圧倒しています。
大塚家具は6月3日に、過去最大となる営業赤字を計上する見通しを発表しました。同社は高級家具路線から中級家具路線へと移行させていきましたが、業績は悪化しています。そうした中で、大塚家具がある春日部の地に匠大塚が出店することになり、大塚親子の直接対決が実際の店舗でも始まるということで話題を集めています。
勝久氏は大塚家具を潰しにかかっているようにみえます。これは、勝久氏と久美子氏の路線のどちらが正しいのかを示す戦いでもあります。戦いの火蓋が切られました。両者の店舗でどのような戦いが繰り広げられるのか、両者にはどのような違いがあるのか、筆者は実際の店舗を訪れて確かめることにしました。
●超高級感を押し出す匠大塚
匠大塚では、店頭で販売員が来店客を迎え入れます。そして、販売員がフロアの誘導を行い接客します。接客を必要としない客は、店員に接客を断ることができます。店内は開放的で魅惑的な照明がフロアを照らし、高級感を漂わせる造りとなっていました。
1階には特別展示ブースがあります。両サイドには1台数億円というポルシェと数千万円のコンセプトカーを展示していました。どちらも超高級車ですが、販売員の説明によると、どちらも実売を狙っているのではなく、「値段は高くても良いものは末長く使える」という匠大塚のコンセプトを示す狙いで展示しているとのことです。
1~5階に国内外から選りすぐった高級家具・インテリアが展示されています。500万円以上する絨毯や300万円以上するシャンデリア、100万円以上するテーブルやベッドなどがありましたが、多くは数十万円の家具・インテリアで構成されていました。なかには1万円台など価格帯の低いものもありましたが、全体としては高価格帯での販売となっています。
匠大塚の家具・インテリアは、素人目で見ても質の良さがわかるものが多くを占めていましたが、言葉で説明されないとその価値がわからないものもありました。たとえば、「このテーブルに使われている木は、地中に埋もれていた屋久杉を掘り起こして使用している」といったことなどです
こうした説明はパネルなどに記載して表すこともできますが、その場合にはどうしてもチープ感が出てしまいます。そうしたチープ感を出さないためにも、販売員が対話によって直接説明することは重要なのだと思います。匠大塚で扱う高級家具・インテリアを売るには、販売員による接客が不可欠だと実感しました。
●幅広い価格帯の大塚家具
匠大塚を後にして、同じく春日部市内にある大塚家具へと足を運びました。1階から4階まで家具・インテリアが展示されています。価格帯は匠大塚と比べて全体的に低くなっています。数十万円の家具もありますが、数万円の製品も多く取り揃えています。
匠大塚と比べて、大塚家具では商品を所狭しと展示しています。高級感を演出するというよりも、陳列量を多くしようとしていることが伺えます。販売員は積極的に接客するというよりは、聞かれたら答えるというスタンスでした。
こうして匠大塚と大塚家具を比べてみると、両者の販売戦略は大きく異なることがわかります。どちらの戦略が正しいのか、どちらが戦いを制するのかは、断言しにくいところです。その判断を下すのは消費者です。筆者が訪れた日の客の入りは、匠大塚のほうが圧倒的に多かったのですが、それはオープン直後という側面が強くあります。本当の戦いはこれからでしょう。
匠大塚は、あえて大塚家具がある春日部に出店したと思われます。春日部は大塚家具創業の地でもあるため、再出発の地とする意図もあったのでしょうが、勝久氏は親子の直接対決を前面に押し出して話題性を喚起していると考えることもできます。
匠大塚は高級家具・インテリアを扱うため、どうしても広い売り場が必要になります。そうなると、都市部で出店することは難しく、現段階では郊外での展開にならざるをえません。しかし、郊外では都市部と比べて集客が難しくなります。集客が難しいところで商売を成り立たせるには話題性が不可欠です。家具・インテリアという同じジャンルでの勝負になりますが、販売の価格帯が異なるため直接的な競合にはならないという計算も働いているのでしょう。
また、両者で顧客を奪い合うことは完全には避けられませんが、それ以上に「春日部には家具・インテリアの2大巨頭がある」という消費者の認知形成による集客効果が上回るという思惑があるのでしょう。
匠大塚は巧みな出店戦略を行っているといえます。しかし、これは大塚家具にとって悪い話ではありません。直接の勝負で負けなければ、大塚家具にも顧客が流れてくる可能性があるからです。切磋琢磨することで双方の品質の向上につながり、業界全体が盛り上がる可能性もあるでしょう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160709-00010000-bjournal-soci&p=2
佐藤昌司/店舗経営コンサルタント