なぜ、こんなに多いのか?「専業主婦世帯数」720万!
保険とお金のお悩み「出口案内」【5】
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専業主婦の「特典」は、国策
例えば、勤労者の妻は、第3号被保険者として自分で厚生年金や基礎年金の保険料を払わなくても老後に厚生年金が支給されます。そして、妻が家計を助けるためにパートで働くときも収入が一定の「基準」をオーバーしなければその特典は維持されます。だから、専業主婦やパートの主婦が相対的に多くなるのでしょう。
敗戦後、時の宰相・吉田茂は、復興へのグランドデザインを描きました。その見取り図は極めてシンプルで、「アメリカに追いつけ、追い越せ」というキャッチアップモデルでした。そのために、まず「電力・鉄鋼」分野を復興したあと、最終的にはアメリカの経済をけん引しているGEやGMのような「電気・電子・自動車」産業を育てれば、国も国民も豊かになる。日本経済に拡大の循環リズムをつくることができる。吉田茂はそう考えたのです。
「保険料払わなくても、年金もらえる」
アメリカという「富士山」に一直線で登るため、言い換えれば最短ルートでアメリカに追いつき追い越すためには、まず工場で働く労働者を確保しなければなりません。地方の第1次産業従事者(主に男性)を都市に移動させ、第2次産業の労働力を確保したのです。その象徴が、いわゆる集団就職でした。
あらゆる工場(第2次産業)の理想は、24時間休まずに稼働し続けることです。富士山に早く登ろうとすれば、徹夜で歩き続けることです。従って自ずと長時間労働が好まれることになります。しかも工場労働は、筋力に優る男性に向いた仕事です。こうしてわが国の男性は、とにかく長時間働くようになりました。
もっともその分は、給与に反映されたので、「やりがい」もあったはずです。ただ、1日中働き詰めですから、クタクタになります。すると、どうしても夜遅くに家に帰れば、「飯、風呂、寝る」になってしまう。そこで妻は自宅に待機し、馬車馬のように働く夫の後方支援をしたほうがよいということで、家事や育児・介護を全面的に担当するようになったのです。
こうした「性別分業」は戦後のグランドデザインにマッチした極めて効率的な仕組みでした。そこで、この仕組みにインセンティブを与えようと考え出されたのが、「配偶者控除」(税金軽減)や前出の「第3号被保険者」といった専業主婦優遇策です。この仕組みが完成すると、女性たちはこう感じるようになりました。
(1)冷戦構造(アメリカは、不沈空母としての日本を庇護)
(2)キャッチアップモデル
(3)人口の増加
「専業主婦」制度はもう無理
経済協力開発機構(OECD)調べの先進国の1991年と2014年の賃金ランキングを見ると、1991年に9位(3万6152ドル)だった日本は2014年には何と19位(3万5672ドル)にまで急降下しました。注目ポイントは、1991年の上位20カ国の中で25年後に賃金が下がったのは「日本だけ」という事実です。
9位から19位へ急降下の日本
アメリカは4万3508ドル(4位)
→5万7139ドル(2位)
ドイツ3万5781ドル(10位)
→4万3872ドル(12位)
フランス3万1893(14位)
→4万0828ドル(15位)
イギリス3万1554(15位)
→4万1859ドル(13位)
韓国2万4308ドル(20位)
→3万6653ドル(17位)
出口治明
1948年、三重県生まれ。72年京都大学法学部卒業、日本生命入社。92年ロンドン事務所長、95年国際業務部長、98年公務部長。2006年生命保険準備会社ネットライフ企画株式会社を設立、同社社長に就任。08年生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険社長に。2013年6月より現職。最新著に『「全世界史」講義 教養に効く!人類5000年史』 (I古代・中世編、 II近世・近現代編:新潮社)など。