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「Amazonでは買えないようなものを」神楽坂“ねこの郵便局”で切手を貼ってきた

ITmedia LifeStyle 6月26日(日)6時10分配信



 新宿区にある神楽坂という街を知っているだろうか。神楽坂は“猫に会える街”として、雑誌の特集で取り上げられることも多く、世に『吾輩は猫である』を生み出した文豪、夏目漱石の住居跡(現漱石公園)が存在することでも知られている。

【モフモフでかわいいと評判、店主の飼い猫ひよちゃん】

 猫に関するイベントやお店も多く存在し、夏目漱石の他に明治時代には作家の尾崎紅葉、泉鏡花が住み親しんだ、いわば「文豪の街」なのだ。周辺には有名出版社が軒並み立ち並び、東京理科大学や法政大学などの大学キャンパスもある。

 そんな「文豪の街」である神楽坂に不思議なお店があるという。店名は「ねこの郵便局というなまえのお店」。“ねこの”から“お店”まで、ちゃんとした店名である。猫好きの筆者は過去、「猫と会話できるアプリでうちの子をほめたり叱ったりしてみた」や「Adobeが『スマホで撮る猫モテ写真』講座 Photoshop Mixアプリで加工も」などの記事を紹介したが、今回はなぜ「猫」と「郵便局」という組み合わせなのか、かなり謎であった。

 うわさによると、ねこの郵便局は「切手」が貼れるお店で、雑貨屋さんらしい。切手が貼れる雑貨屋さんとは……? 謎はますます深まるばかりだが、考えるよりも行くが勝ちということで、実際にお店にたずねてみることにした。

●「ねこの郵便局」前で招き猫がお出迎え

 もともと、神楽坂は大正時代に花街として栄えた土地で、閑静な雰囲気を保ちつつも、都心ながら風情ある街並みが今も残されている。取材当日、神楽坂の裏通りをたどってお店まで行ってみると、お店の前にはバス停とポストがあり、招き猫をはじめとした雑貨が多く並んでいた。

 店の外観の雰囲気からも、雑貨屋であることは分かった。しかし、なぜ「郵便局」なのか。その謎を解決するべく、オーナーである福本高明さんにお話をうかがってみた。

●「ねこの郵便局」のはじまりは“カレンダー絵はがき”

福本さん 最初は広告代理店を20年やっていたんです。今も代理店事業は残しているけれど、3年前に広告中心の仕事から猫の雑貨中心の仕事にシフトしました。ちょうど不景気で広告の仕事が減ってきてしまったので。事務所が神楽坂にあったんですけど、仕事が少ないのに家賃払うことは難しく、そこの物件は出てしまいました。猫関係の仕事が忙しいから、猫関係のグッズが置けるお店を開いちゃおうかなと思って。タイミングよくこの物件が見つかりました。

―― ガレージ風のお店ですよね。内装は手作りですか?

福本さん 自分の趣味を最大限に生かすために、お店に使っているヴィンテージなドアや陳列調度品は自分で集めました。店内のデザインに関わることは自分でやって、他は建築会社に頼み、完成に必要だった日数は4日ぐらい。

―― “ねこの郵便局”って不思議な店名ですよね。

福本さん もともとは「カレンダー」がこの仕事のきっかけだったんです。カレンダーと言っても月ごとになっている「絵はがき」なんですが。

福本さん 以前は広告代理店事業をやりながら、カレンダーを作っていました。お恥ずかしいんですが、以前は年に1回カレンダーを作って、それだけでご飯を食べていきたかったんですね(笑)。今もこの絵はがきカレンダーは作っていますよ。2016年が18年目だから、来年2017年版は19年目になりますね。

―― もうすぐ20年ですね。

福本さん カレンダーの猫の絵を描いてくれているのが、猫の木版画で有名な作家の大野隆司さん。大野さんのつながりで猫関係の仕事が広がっていきました。カレンダーも今はイラストですが、当初は版画で描いてもらったものを印刷していました。

福本さん これは最初からコミュニケーションとして「送る人」と「送られる人」をちゃんと想定しているんです。自己満足型じゃなくて。カレンダーが1カ月ごとに1年で12枚あるので、例えば上京して故郷が遠くにある人が毎月実家へ送ると、親御さんも「あっちで元気にやってるなんだなあ」って毎月分かるじゃないですか。手紙としてガッツリ書くには堅苦しいし、絵はがきならと思って。カレンダーだから飾って「今日は何月何日だ」って活用してもらえるし。これが「ねこの郵便局」の原点です。

―― なるほど。カレンダーに書かれている文章は?

福本さん それはお客さんが作ったものですね。もう公募型じゃないのですが、以前はその年のカレンダー絵はがきに載せる“お話”を、一般の方から募集していました。集まったお話の中からいい作品を選んで、大野隆司さんに絵を描いていただき、販売していました。それが、10年以上続いていました。「1年に1回カレンダー作るだけで食べていく計画」は達成できなかったけれど、そのカレンダーがきっかけで猫に関する仕事をしている人と仲良くなって。人脈には本当に恵まれていると思います。

●お客さんが切手を貼る?

―― お店にはたくさん切手が貼ってありますね。切手は無料で店内に貼っていけるんですか?

福本さん はい。お店をはじめるときに「他のお店と違うことをしたい」と思ったんです。私はもともと切手が好きで集めていたから「ねこの郵便局」という名前を思いついたけど、果たしてどうやって形にしようかってなって。そのときに「お店に切手を貼ったら面白いんじゃないか」とひらめいて。でも、自分で貼ったら面白くないし、時間がかかるから、じゃあお客さんに貼ってもらおうかな、と。最初は来てくれたお客さん全員に配って貼ってもらっていました。

福本さん 最初は「なぜ貼るんだろう」ってみんな意味が分からない顔をするんだけど、人によって「楽しいですね!」って写真を撮って帰ってくれたり、最近ではお客さんが切手を持参してくれたり……自分のこの切手を貼りに来ましたっていう人までこの店に訪れるようになりました。最近はちょっとお店も忙しくなってきちゃったので、お客さんから要望があればお渡しして貼ってもらっています。

福本さん あと「これを貼るのに使ってください」って、ごくまれに自分の切手のストックを置いていく人もいますね。この店では、お客さんに古切手を貼ってもらうことは、来店記念と店舗装飾の両方を兼ねています。だから、陳列調度品を自分で集めて、物件としてお店を完成させてはいても、お店自体は永遠に完成しないんです。古切手を貼ってもらえる限り、ずっと私は「お店を作っている途中」です。

福本さん 普通のお店では、お客さんが何かを貼ったり、建物に傷が付くことをやっちゃいけないじゃないですか。でも、うちのお店の場合、切手が記念というか、お店とお客さんの接点で、それが証(あかし)なんです。

●お店に置く商品は「背景」まで考える

―― お店にカメラが飾ってあるのは、なぜですか?

福本さん 値段がついているものは、売り物ですよ。絵はがきはイラストだけじゃなくて、写真になっているものも多いんです。絵はがきを作るための写真を撮るってことはカメラも必須アイテムなので。背景をたどるとカメラなんですよ。基本的には、常に880円(税込)で1個、中古のカメラをお店に置いて売っています。売れたらまた新しい中古のカメラを仕入れて、同じ値段で飾っていますね。

―― 880円はこだわりがあって?

福本さん まぁ「それぐらいかなあ」って。それで儲けたいわけじゃないからねえ。でも、たまに売れるんですよ。切手が70円なのも、儲けたいというよりはお客さんのことを考えていますね。エアメール代で世界中に出せる値段が、70円。外国人のお客さんも多いので、絵葉書買って貼ってうちのポストに出していく観光客の方もいますよ。

―― えっ、これは郵便局の人が取りに来るんですか?

福本さん いやいや、このポストに出してくれたお客さんの郵便物は、ねこの郵便局の「肉球スタンプ」を切手以外のところに押して、私が通常のポストに入れます。切手が好きなお客さんの中にもパターンがあって、ただかわいい切手が見たいって人と、切手を使って誰かに送りたかったり、お店のポストに投函したいっていう人もいたりするから、ちゃんと郵便物に使える切手も用意しています。

●Amazonでは買えないようなものを

―― 切手の他にも招き猫や眠り猫などがたくさん置いてありますが、お店のシンボルか何かですか?

福本さん ビンテージの招き猫は絶対置きたいと思っています。このお店のお客さんって7~8割が女性なんです。男性は女性にくっついて入ってくる人か骨董品が好きな人。あと奥さんに伝えたいから写真だけ撮って行って、2回目に奥さんと一緒に来るお客さんもいますね。

 福本さんによると、立地的に赤城神社が近いことから「お参りの前後に縁起物として招き猫グッズを買っていく人も多い」という。

福本さん ビンテージの招き猫だったり、中古のカメラだったり、お店に置く商品の基準は「Amazonで買えない」「普通に買い物しているだけじゃ出会えないようなもの」ですね。招き猫もいろいろあって。今は「この色の招き猫がいい」って思ったら、何でも検索で手に入る時代じゃないですか。そうじゃなくて、この店だから出会えたってお客さんが思ってくれる商品を置くようにしています。

 (※グッズの詳細は後日、別記事で紹介する予定です)

●オーナー福本さんのこだわり

 入り口にあるバス停について聞いたところ、あれは手作りだという。

 「うちのお店は不定休なので、催事が忙しいと閉まっていることも多いんですよ。お店のWebサイトを見てくれたお客さんは、電話して営業時間を確認してくれることも多いんですが、ふらっと来るお客さんだと閉まっている日にきちゃって『お店の場所がよく分からなかった』という人もいて。そういうとき、バス停があれば『ああ、ここがねこの郵便局なのね』って分かるなって思ったんです」(福本さん)

 筆者がInstagramで確認したところ、ねこの郵便局のバス停を写真で撮って掲載しているユーザーもいた。福本さん自身も大の猫好きだそうで、2匹の猫を自宅で飼っている。

●どこか不思議なのに居心地がいい場所

 最後に「あとこの店には何枚の切手が貼れますか」と福本さんに聞いてみると「あと1万枚くらいは貼れると思いますよ。柱はうちで用意したものなので、天井の近くにある柱も貼れる。ローラーの用意が必要かな」と笑ってくれた。

 海外のお客さんの中には、絵はがきを自分宛てに出す人もいるようだ。日本で絵はがきを出してから帰国すると、国境を越えたねこの郵便局の絵はがきが肉球スタンプ入りで届いているという。赤城神社も近く、招き猫もあることからパワースポットの一種として来る人も多い。夏目漱石の住居や猫スポットを巡ってきてからこのお店に来るとより深く楽しめそうだ。運がいいと、お店の近くで野良猫にも会えるらしい。

 どこか不思議なのに居心地がいい「ねこの郵便局というなまえのお店」は、人の記憶と思い出に残る“都会のオアシス”だった。

 ※編集部注:「ねこの郵便局というなまえのお店」は不定休なので、行くときはWebサイトを確認してから行くことをおすすめします。

最終更新:6月26日(日)6時10分
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