■ デビュー65周年を迎えたランクルが注目を集めている
今年デビュー65周年を迎えた、日本で最も長い歴史を持つクルマが、ここへきてちょっとした注目を集めている。トヨタ自動車「ランドクルーザー」、通称ランクル。四輪駆動(4WD)方式の本格的なSUV(スポーツ多目的車)だ。
ランクルは、1951年に警察予備隊(現・陸上自衛隊)の要請で開発された、「トヨタ ジープBJシリーズ」を原点に持っており、悪路を走るタフさが売りだ。「ランドクルーザー」という名称になったのは、1955年の「20シリーズ」から。現在は、シリーズの頂点に立ち、ラグジュアリーなワゴンタイプとして進化した「ランドクルーザー200」、オンロードの扱いやすさも重視した「ランドクルーザー プラド 150」などのシリーズがある。
そのランクルが2年前の8月、再び動き出した。ディーゼルエンジンの排出ガス規制強化に伴い、2004年を最後に日本での販売を休止していたヘビーデューティ用の「ランドクルーザー70(ナナマル)シリーズ」が、1年間の期間限定で発売された。70が登場して30周年を迎えたことを記念した復活劇だった。1年間としたのは、翌年7月に改定される後面衝突時の安全基準にパスしないからだったそうで、70は予定どおり、2015年6月をもって日本仕様の生産を終了した。
ところがランクルの話題はこれで終わらなかった。70の生産が終わる6月に、ライトデューティ用のプラドにクリーンディーゼルエンジンを投入。8月には200がマイナーチェンジし、顔つきを一新した。70の生産終了を申し訳ないと思ったトヨタが、お詫びのしるしとして相次いで改良を実施したかのようだ。
その効果は着実に現れている。日本自動車販売協会連合会(自販連)が発表している月別の新車乗用車販売台数ベスト30ランキングで、それまでは圏外だったランクルの名前が、昨年秋以降コンスタントに食い込むようになった。
ベストセラーを争うような上位ではないが、スバル「レヴォーグ」やマツダ「CX-5」などと順位を争っていると書けば、相応の台数は稼いでいると認識してもらえるだろう。
しかも車両本体価格はプラドでも最安350万円台、200なら同472万円台と高価格帯に位置するモデルにもかかわらずだ。
■ ディーゼルの復活が人気を押し上げている
次に登録台数ベースで車種ごとの比率を見てみよう。たとえば今年1月は約5分の3がプラドのディーゼルで、残りをプラドのガソリンと200(ガソリンのみ)で分け合っている。ディーゼルの復活が人気を押し上げているようだ。
ランドクルーザーは200・プラドとも、トヨタ店(大阪地区は大阪トヨペット)が販売を担当している。そこで国内販売事業本部トヨタ店営業部の担当者に聞くと、やはりディーゼルの復活を待ち望んでいたユーザーはとても多かったそうで、現在のディーゼル比率は約50%だが、投入当初は80%を超えたこともあるという。
しかしディーゼルエンジンを積んだSUVは、他にも数車種存在する。その中からランクルを選んだ理由は、どんな悪路も走破し、目的地まで人を運んでくれるという、本格SUVならの設計思想を裏付けるものだった。
「他のSUV以上に、オーナーとしてのこだわりや家族の安全を重視されるお客様が多いですし、長年ランドクルーザーを乗り続けているコアなファンが多い車種です。どんな場所も乗り越えていける、何があっても大丈夫、家族を守ってくれる、乗っているだけでワクワクするという理由でご購入いただくことが多くなっています」
最近では世界的なSUVブームのおかげもあり、若い人たちの支持も得ているそうで、彼らが残価設定型プランを利用して購入するケースも増えてきているという。
トヨタ車は「没個性」の代表のように言われることもある。しかしランクルの場合、アフリカや中東のテレビ中継で当然のように登場しており、状況が過酷になればなるほど孤高の存在になっていく。本格SUVとして世界中で選ばれている事実が、若者にも浸透しているようだ。逆に言えば、クルマ離れと言われていても、強烈な個性を持った車種は、進んで買いに行くのである。
さらにトヨタでは近年、ランクルの圧倒的な走破性や安全性を体験できるイベント、その名もランドクルーザーフェスを全国各地の販売店で開催している。こうしたユーザー向けのイベントも、裾野の広がりに貢献しているようだ。
■ 乗る人を安心させる要素
もうひとつランクルには、乗る人を安心させる要素がある。リセールバリューの高さだ。信頼性や耐久性が並外れていることもあって、ランクルは国産車としては値落ちが少ない。若い人が残価設定型プランを使って買おうという気にさせる理由のひとつにも、価値が下がらないことが関係しているそうだ。
ランクルと並ぶ本格SUVブランドとしては、ほかに米国のジープ、英国のランドローバーがある。昔は3ブランドとも、ラダーフレーム、リジッドアクスル式サスペンション、ローレンジという、悪路走破性を高めるために必須のメカニズムを全車種に搭載していた。
しかし現在のジープとランドローバーは、モノコックボディに4輪独立懸架を組み合わせ、ローレンジを持たない車種も多い。4WDではないモデルさえあるほどだ。モノコックボディでも相応の剛性は得られるし、電子制御によって滑りやすい路面でのスリップや下り坂でのスピードを抑えることができるので、リジッドアクスルやローレンジは不要と考えているようだ。
しかしランクルは、200とプラドではオンロード走行を考慮して前輪のみリジッドアクスルから独立懸架に変更したものの、ラダーフレームやローレンジは全車が堅持しており、そのうえでステアリング操作だけで悪路を走破していけるクロールコントロール、路面状況に適した走りを5モードから選べるマルチテレインセレクトなどのデバイスを追加している
ランクルを名乗る以上、過酷なシーンに送り込まれるのが前提であるし、電子制御が故障したから走れないという言い訳は許されない。世界の人々がランクルに絶大な信頼と安心を寄せているのは、妥協を許さぬモノづくりによるところが大きい。
実際にランクルに乗るオーナーにも話を聞いた。海外メディアが世界一の豪雪都市と発表して話題になった青森市に、筆者の義父が暮らしており、2世代前のプラドに16年間乗り続けているからだ。走行距離は14万kmに達している。
■ 過酷な環境でも故障はほとんどない
他社のSUVからの乗り換えで、冬は積算で5m以上も雪が積もる豪雪地帯だから4WDは必須であり、仕事でもトヨタ車を使っているので、プラドにしたそうだ。最新の国内向けには存在しない3ドアのディーゼル車で、買い物から旅行まであらゆる用途に使っている。
「ものすごく頑丈だね。メインテナンスを入念にやってきたこともあって、故障はほとんどなく、消耗品の交換ぐらいで済んでいる。海釣りに行く時は、藪の中を走り抜けていったり、波打ち際まで寄せたりもするけれど、ハマりそうなところでもガンガン走っていける。錆びないこともありがたい。海に行くことが多いし、冬は凍結防止剤(塩化カルシウムや塩化ナトリウムなど)を撒くから。他のクルマはすぐマフラーが腐ってきたりするけどね」
義父の使い方がハードだと感じるかもしれないが、青森でランクルを選ぶ人は、多かれ少なかれこのような乗り方をしているという。アフリカとは違う意味で、自然の厳しさと対峙する土地なのだ。しかしランクルは、その厳しさに耐え得る性能を持っている。
ゆえに青森にはランクルオーナーは多い。耐久性も自慢の車種らしく、自分より古い世代のモデルを見ることもあるそうだ。だから中古車も人気で、下取り価格も落ちない。これも安心して乗れる理由になっているらしい。
現在、ランクルは70・200・プラドのシリーズ全車が、小鑓貞嘉氏というひとりのチーフエンジニアによって生み出されている。ブレない設計思想は、この体制によるところも大きそうだ。
小鑓氏はランドクルーザーについて、「地球上で最後に残るクルマ」と語っている。その言葉は日本の豪雪地帯から灼熱のアフリカまで、過酷な地域で実際に乗る人にとって、実感となって伝わっているはずだ。ランクルにとってライバルは他のSUVではなく、地球なのかもしれない。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160619-00122518-toyo-bus_all&p=3