前回の記事では、増えすぎたスギ・ヒノキが環境破壊と花粉症に繋がっているという現状を伝えた。
今回はなぜ問題の根源となる国産のスギやヒノキが有効活用されていないのか、というその背景に迫っていこう。
◆国産材が使われず輸入材に頼られてしまう
東北大震災以降、政府はエネルギー施策の一環として、木材を使用した「バイオマス発電」に対する補助金制度を設け、推奨を強めた。この政策には“国産材の有効活用”という意図も込められていたが、フタを開けて見ると事業に乗り出した大手商社などは、安定した供給が見込めるヤシがらなど外国産の木材でまかなうという皮肉な結果となっている。
身近にあるスギ・ヒノキがエネルギー源として有効であるにも関わらず、なぜその木材資源を輸入材に頼らざるを得ないのか。
最大の理由はそのコスト面にある。現在、国産材の価格は輸入材よりおよそ2割程度割高といわれている。1964年の木材貿易の完全自由化以降、円高の進行により、木材価格は低迷の一途を辿ってきた。一方で熱帯雨林など輸出国で自然保護の動きが活性化して輸出に制限が生じたり、資材費の高騰も重なるなど、価格差は年々縮まっているが、いまだに差は大きい。常識的に考えれば、輸送費や関税も上乗せされる輸入材が国産材の価格を下回るのは説明がつかない。だが、林業人口の少なさ、流通面などのインフラが充分でもないことも重なり、このような逆転現象が生まれている。
◆「メイドインジャパン」がブランド化していない国産材
木材の用途でみると、国産材の住宅利用に占める割合の少なさが目立つ。一級建築士に国産材の住宅利用について事情を聞いてみると、こんな返答があった。
「ここ数十年の住宅市場は、住宅の絶対数が増えない中での厳しい競争が続いてきました。そんな中でも、低価格を求める消費者と高級志向で2極化しており、高級志向にセグメントした住宅企業も増えてきています。国産材を使うとすれば、コスト面から高級志向な住宅に限られてきますが、木材の場合は食品や電化製品のように、『メイドインジャパン』がブランド化していない。安心や安全にも繋がるとも謳いにくい。品質面では大きな差はないので、国産材について価格面のデメリットを凌駕するようなメリットがないという認識があるのかもしれません」
グリーンバナー推進協会の榎本氏も、「国産材の魅力を伝えようと大手住宅メーカーさんと話していると、入り口では興味は持っていただけるケースが多い。ただ実際に導入するかとなると、『お客様からの要望があれば』という回答に留まってしまう。企業側からすると、当然収益性も重要なのですが、国産材の場合は林業の衰退により同一品質の木材を”安定”供給できなくなっていることも採用されない理由の1つです。まずは均一な品質の木材を安定供給できる生産環境から構築していく必要を強く感じています」と話す。
◆地元材の有効活用に成功した地域
「バイオマス発電」に代表されるようなエネルギー資源としても、同様な問題に直面している。
ただ、先出の榎本氏いわく、部分的にうまく活用している地域も出てきているという。
「例えば宮崎県や三重の松阪市などは、行政、民間企業、研究者、森林組合などがうまく噛み合っており、バイオマス発電所と製材所を組み合わせた木材コンビナートの設立や、“スギ畑”とでもいうべき生産効率の良い育林から製材までの工程の合理化が実現していて、収益モデルとして成功しています。各地域の意識の差がそのまま結果として現れています。ただ一つはっきりしているのは、森林が抱えている問題に対して意識を持つ人々が増えてくることで、価格面や品質改善といった課題は必ず解決できるということです。いかに多くの人を“巻き込める”か。この点に尽きると思います。消費者、つまり個人が動けば、大企業や自治体、国も動く。少しくらいの差なら日本の木材を使ってあげようという、1人1人の小さな気付きに日本の森と林業の未来はかかっています」
林野庁が平成23年に発表したマニュフェストの中には、「10年後の木材自給率50%以上」という文字が強調されている。現在その数値は30%前後で推移しており、最悪の状況からは抜け出しつつあるという意見も聞こえる。まだまだ根本的な解決に至るまでには時間を要しそうだが、宮崎県、三重県だけでなく意識の高い地域も増えてきており、企業、個人といった単位からでも問題意識は浸透してきている。人工林と国産材を取り巻く問題が少しずつ顕在化しつつあることを考慮すれば、好転の兆しは現れているのかもしれない。<取材・文/栗田シメイ>
ハーバー・ビジネス・オンライン