日本車のロゴは、すぐさまモザイク処理
トヨタやホンダに「戦犯」や「軍需企業」
秀吉は、初代韓国統監を務めた伊藤と並び、
韓国で歴史上最大の悪役とされる人物
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全員、顔は、全面的に大整形ですが、
体は、日本のアイドルグループとは違って、
脚も長くまっすぐで、
セクシーであることだけが、
せめてもの、救いです。
人間どこか取り柄がないとかわいそうですから――――
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韓国の音楽チャートでトップを走る女性グループ「AOA」のメンバーが涙ながらの謝罪に追い込まれた。テレビ番組のクイズで、伊藤博文を暗殺し、韓国で「義士」とたたえられる安重根について出題された際、よりによって「侵略者」と憎まれる歴史上のあの人物の名前を口走るなどし、非難が殺到したからだ。ミュージックビデオに映り込んだだけで、トヨタやホンダの車まで標的となった。日本に絡んだ歴史問題となれば、目くじらを立てずにはいられない韓国社会の本音と建前をのぞいてみた。
■赤いタイトスカート、黒のストッキングでスターダムに
女性7人のグループのAOAは、2012年にデビューし、14年に韓国の音楽番組で1位に輝くと、一気にスターダムに駆け上がった。
AOAのオフィシャルサイトによると、「赤いタイトスカートに白のブラウスという秘書スタイルや、スリットスカートに黒のストッキングとハイヒール」という「幻想をかき立てる大人の女性」のイメージが持ち味という。
14年10月には、日本デビューを果たし、サード・シングル「胸キュン」でオリコンデイチャート2位に、ファーストアルバムがウイークリーチャート2位になるなど、日本でも人気だ。最近のシングルでは、T・M・Revolutionの西川貴教さんとコラボし、話題となった。
5月16日にソウル市内で行われたイベントは、11カ月ぶりとなるミニアルバムの発売を大々的にPRするはずの場が一転、重苦しい空気に包まれた。
リーダーのジミンさん(25)は「よくないことで多くの方を失望させて申し訳ありませんでした」と頭を下げ、「これからは最善を尽くして一生懸命、頑張る姿を見せていきます」と語ると、涙を見せた。
メンバーのソリョンさん(21)も言葉をつまらせながら、「これからはもう少し慎重になりたい」と謝罪すると、他のメンバーたちが抱負を語っている間も終始、涙を流し続けた。
うら若きアイドルをここまで追い込んだ「よくないこと」とはどんなことか。
■キン・トカンって誰?「無知こそ最大の過ち」
5月3日に韓国のケーブルテレビで放映された番組「チャンネルAOA」でのことだ。
韓国メディアによると、有名人の写真を見て名前を言い当てるクイズコーナーで、ジミンさんとソリョンさんは、サッカーの朴智星(パク・チソン)選手や米俳優のブラッド・ピットさんの名前は書けたが、歴史上の人物でつまずいた。
安重根の写真について、なかなか解答できず、番組スタッフが「伊藤博文」とヒントを出すと、ジミンさんは「キン・トカン?」と聞き返し、「こういうの、よく知らない」とケロリと言ってのけた。
スマートフォンを使ってインターネット検索をしたソリョンさんは、よりによって「豊臣秀吉」と口走る。1590年代に2度にわたって朝鮮半島に出兵した秀吉は、初代韓国統監を務めた伊藤と並び、韓国で歴史上最大の悪役とされる人物だ。
ちなみに、キン・トカンは、独立運動家の息子で後に国会議員になった金斗漢(キム・ドゥハン)の日本語読みだという。
この映像が瞬く間にネット上に拡散し、安重根は韓国人なら子供でも知っておかなければいけない独立運動の「英雄」とされるだけに、非難が巻き起こった。
約10日後になって、ジミンさんは「いかなる弁解も私の過ちを覆うことはできないでしょう。今回のことをきっかけに、私は無知こそ最も大きな過ちであることを学びました。心より謝罪申し上げ、深く反省致します」とし、「芸能人としてではなく、大韓民国の国民として恥ずかしくない歴史観を持つために最善の努力を尽くします」とする謝罪文をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に掲載した。
ソリョンさんもSNSで、「大韓民国国民として歴史について慎重な姿勢をお見せできず、反省しています」と陳謝した。
■トヨタやホンダが「軍需企業」?
だが、騒動は「無知なタレント」に対する嘲笑だけにはとどまらなかった。
収録内容を放映しないようにとのAOA側の求めを、番組側が押し切って放映したとも指摘され、テレビ局側も謝罪に追い込まれた。
さらには、番組と関係のないところにも飛び火した。新曲「Good Luck」のミュージックビデオにトヨタとホンダの自動車が映っていたことから、両社が「『間接広告』に利用している」と批判されたのだ。
最大手紙、朝鮮日報は「両社とも『戦犯企業』に分類される軍需企業だ」とまで報じた。世界のどこに行っても、トヨタやホンダに「戦犯」や「軍需企業」のイメージはないが、韓国でひとたび「反日」が持ち上がれば、日本側に対して言いたい放題となる一例だ。
同紙の取材に、韓国トヨタは「事実無根」だときっぱり否定。AOAの所属事務所も「車は現地の事情で借りただけで、意図的に映像に出したわけではない」と釈明した。
一方で、日本車のロゴは、すぐさまモザイク処理されるなど、事務所側は火消しに走った。
■朴槿恵政権の“看板”に傷 チャートが示した本音とは
騒動は別の問題にも拡大した。オフィシャルサイトによると、AOAは15年に約17企業のブランドモデルに採用されている。今年は、韓国産ブタの広報大使にも任命された。
メンバーの中でも、今回の騒動で渦中の人となったソリョンさんの人気は高く、韓国の男子大学生が選んだ「一緒に帰省したいスター」の1位に選ばれた。
4月に投票が行われた韓国総選挙の広報大使を務めるなど、政府の広告塔ともなっているほどだ。特にやり玉に挙がったのは、ソリョンさんが俳優のイ・ミンホさんとともに「2016~18韓国訪問の年」広報大使として活動してきたことだ。
ネットでは「広報大使を返上しろ」と非難された。
訪問の年「宣言式」で、朴槿恵(クネ)大統領とも写真に納まっていたが、中央日報によると、騒動以降、公式ホームページなどからソリョンさんの画像が削除されたという。
日本人からすると、「たかだか、歴史上の人物のクイズで」と思いたくような過剰反応が続いた一方で、真逆の反応も出た。
メンバーらが涙の謝罪を行ったその日に発売された「Good Luck」は、韓国の複数の音楽配信チャートで1位を席巻したのだ。
つまり、ファンらは、「国の英雄を答えられないグループはダメだ」と烙印(らくいん)を押し、そっぽを向くことなく、芸能活動や音楽は評価して支えたわけだ。
韓国で、「抗日史」についていえば、安重根と豊臣秀吉を取り違えても「まあ、いいや」と口が滑っても言えない最大のタブーがある。その一方で、歴史問題で日本をあしざまにけなしながら、日本製品を称賛し、日本食に舌鼓を打つという矛盾した状況は、そこかしこで見られる。
今回のAOA騒動でも、韓国の「反日」ナショナリズムの窮屈さと、それと相反した「ほしいものはほしい」という韓国人の“本音”の部分を映し出した。(桜井紀雄)