第2次世界大戦中に九州など日本に中国人労働者が強制連行された問題で、中国の被害者団体と三菱マテリアル(本社・東京)は1日、包括的な和解に合意し、北京で関連文書に署名した。三菱側が「深甚なる謝罪」を表明し、被害者1人当たり10万元(約170万円)を基金方式で支払う内容。対象人数は最大で3765人に達し、日本企業による戦後補償の規模としては過去最多となる。他の日本企業が関係する戦後補償問題にも影響を与えそうだ。
三菱側は、中国人労働者に劣悪な条件下で労働を強いたことを認めた上で「中国人労働者の人権が侵害された歴史的事実を誠実に認め、痛切なる反省の意を表する」と表明した。今後、中国で基金を設立。被害者への和解金のほか、記念碑建立費1億円、行方不明の被害者掘り起こしに当たる調査費2億円を支払う。被害者側の全員を把握できた場合、支払総額は最大70億円規模になる。
1日の調印式では、被害者団体を代表する形で元労働者3人が署名した。今後5年間をめどに和解金支払いを進める一方、被害者の訪日を支援する慰霊追悼事業も行う。
三菱側によると、中国人労働者を働かせた事業所は計10カ所。端島炭坑(長崎県)や飯塚炭鉱(福岡県)槙峰(まきみね)鉱山(宮崎県)など九州3県の6カ所が含まれている。弁護士によると、生存している元労働者は15人。そのほか約千人の元労働者の遺族が確認されているという。
日本政府は1972年の日中共同声明で、中国は個人の賠償請求権を放棄したとの立場。90年代以降、福岡など日本各地で訴訟が相次いだが、最高裁は強制連行の事実を認めた上で、賠償請求を認めない判断を示した。その後、日中双方の支援者の動きもあって個別に交渉が進み、被害者団体は昨年8月、和解案受け入れを表明していた。
三菱マテリアルは「和解事業によって、元労働者およびそのご遺族との包括的かつ終局的な解決を図りたい」とのコメントを発表した。
一方、2014年2月に北京の裁判所に提訴した別の被害者団体は、和解による解決を拒否し、裁判で争う姿勢を示している。
=2016/06/02付 西日本新聞朝刊=