米移民に多い「FNUさん」そのわけは?

ウォール・ストリート・ジャーナル 3月24日(木)13時37分配信
 アフガニスタンで米軍の通訳を務めていたナキブラさんの名前は「ナキブラ」ひとつだ。ファミリーネーム(姓)でもファーストネーム(名)でもない。名前がひとつしかないことは、この国では普通のことだ。米軍兵士は彼のことをニックと呼んでいた。

 テキサス州ヒューストンで彼は今、配車サービス「ウーバー」のドライバーになっている。だが、利用客は彼のことをどう呼んでいいのか分からない。

 利用客は彼が到着するとスマートフォンの画面を確認し、「FNU」と書かれた名前を発音するのに苦労する。

 「フヌー?フィヌー?エフエヌユー?あなたは私が呼んだドライバーですか?これはどう発音するのですか?これはどういう名前ですか?」とよく聞かれるとナキブラさんは話す。

 米国ではナキブラさんのように、ひとつの名前しか持たない人がビザ(査証)を申請すると、ファーストネームの欄に「First Name Unknown(FNU)」と書かれることになっている。

 移民が多い米国は公的な書類の欄からはみ出てしまうような長い名前や、英語のアルファベットにはない文字を含む名前などへの対処を迫られてきた。だが、あなたが歌手のシェールやマドンナでない限り、この自由な国の大半の人は少なくとも姓と名の2つの名前を持っている。

 ナキブラさんによると、米軍の被雇用者に発給される特別な移民ビザを申請するため、2011年に提出した出生証明書には名前が1つしかなかったという。身元調査と複数回の面接を経て約2年後にカブールの米大使館で受け取ったビザの氏名欄には「FNU ナキブラ」と書かれてあった。

 2013年に米国に到着するまで、ナキブラさんは特にそれについて考えたことがなかったと言う。FNUナキブラとして正式に入国したナキブラさん。免許証やソーシャルセキュリティー(社会保障)カードといった身分証明書にはやはり「FNUナキブラ」と書かれてある。「どこに行ってもFNUと呼ばれる」とナキブラさんは話す。

 活動家や弁護士は同じ状況にある移民は数多いだろうと指摘する。

 米国務省領事局の報道官ベス・フィナン氏は「FNUはひとつの名前しか持たない人の移民申請書に非常によく使われている」とし、FNUの使用は「長年の慣行」だと話す。2005年に国務省は別の頭字語「LNU」、つまり「Last Name Unknown」の使用を中止した。

 ひとつの名前しか持たないことが普通である地域は特にアジアに多く、名前の欄にFNUと書かれた人は米国に流入し続けている。

 イーロン大学の移民法クリニック(法学生の実習のための法律事務所)に務めるヘザー・スカボネ弁護士は、自身が担当する案件ファイルには16人のFNUがいるとし、「初めてこれを見たときは本当の名前だと思った」と話す。

 ヒューストンにある移民支援団体「ネイバーフッド・センターズ」のジル・キャンベル弁護士はアフガニスタンから次から次へとFNUさんがやって来ることに困惑したと話す。そのほとんどが元米軍通訳だった。

 キャンベル弁護士は「名前がなければ、その地に落ち着いたという感覚が持てない。彼らは命をかけて米国に来た。できる限り歓迎の気持ちを表したい」と話す。

 そこで同団体は法的手段を使って名前を変更する方法を教える無料のワークショップ開催を決意。案内のチラシには「It’s no FUN to be FNU!(FNUでいるなんて楽しくない!)」とあった。

 3月5日に開催されたワークショップでは、40人を超えるアフガン移民が名前の変更を裁判所に求める書類の書き方などについて助言を受けた。

 その参加者の中にナキブラさんがいた。「この感謝の気持ちを言葉では言い表せない」と話す。

 指紋採取と身元調査を終えたナキブラさんは今後、家庭裁判所で名前変更の手続きを進めることになっている。

 ナキブラさんは「ナキブラ」を下の名前にし、自身の故郷の地名を名字にしようと思っている。ただ、ウーバーの利用客にとって、「ナキブラ」もFNUと同じくらい発音が難しければ、「ニックと呼んでいい」と話した。
By MIRIAM JORDAN
ウォール・ストリート・ジャーナル