ハーバードビジネススクールの必修授業で取り上げられている日本の事例は全部で6つある。『ハーバードでいちばん人気の国・日本』ではその1つ1つを詳しく解説しているが、その中でも最新事例の1つが、全日本空輸(ANA)のケースだ。授業では、新路線の就航やエアバスA380の購入、さらには、「オール・ニッポン・エアウェイズ」という名前についてまで議論するという。ANAのケースから学生は何を学んでいるのか。ケースを執筆したダグ・チュン助教授に話を聞いた。(聞き手/佐藤智恵 インタビュー〈電話〉は2015年11月4日)
【詳細画像または表】
● ANAがハーバードの必修科目 「マーケティング」の教材に
佐藤 2014年から全日本空輸(以下、ANA)の事例が、ハーバードの必修科目「マーケティング」で取り上げられていると聞きました※
。そもそもなぜANAの教材を執筆しようと思ったのでしょうか。 ※2016年、ANAの教材は「マーケティング」ではなく戦略系の授業で取り上げられる予定です。
チュン 2014年3月に、ハーバードビジネススクール日本リサーチセンター主催のシンポジウムで講演を行うために、他の教授陣とともに日本を訪れました。その際、日本企業を訪問する時間があったので、日本の航空会社の方々にお会いすることにしたのです。私はずっと航空業界に興味を持っていましたから。
ANAを訪問したところ、経営幹部の方々から、今、ANAが直面している課題について詳しく聞くことができました。それは私にとっては非常に興味深く、これはとてもよいケーススタディになると思いました。そこで2014年の夏にもう一度日本を訪れ、さらに取材を進めることにしたのです。どんなテーマの教材にしようかと考えながら、様々な視点から取材したところ、マーケティングの授業で議論するのにぴったりの課題が見つかったので、ケースとして出版することにしました。
佐藤 2014年に教材を出版するやいなや、ハーバードの必修授業で取り上げられることとなりました。なぜこんなに注目されるケースとなったのでしょうか。
チュン ハーバードビジネススクールの授業では、世界各国の企業の事例を議論します。学生の30%~40%は、米国外から来ている留学生ですから、私たち教員はできる限り多くの国の事例を紹介したいと考えています。中でもアジアは世界経済の中でも、最も成長している地域です。ところが残念ながら、ハーバードではアジア系企業のケースがまだまだ不足しているのです。そのためアジア地域の企業の事例は貴重で、歓迎される傾向にあります
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● ANAがハーバードの必修科目 「マーケティング」の教材に
佐藤 2014年から全日本空輸(以下、ANA)の事例が、ハーバードの必修科目「マーケティング」で取り上げられていると聞きました※
。そもそもなぜANAの教材を執筆しようと思ったのでしょうか。 ※2016年、ANAの教材は「マーケティング」ではなく戦略系の授業で取り上げられる予定です。
チュン 2014年3月に、ハーバードビジネススクール日本リサーチセンター主催のシンポジウムで講演を行うために、他の教授陣とともに日本を訪れました。その際、日本企業を訪問する時間があったので、日本の航空会社の方々にお会いすることにしたのです。私はずっと航空業界に興味を持っていましたから。
ANAを訪問したところ、経営幹部の方々から、今、ANAが直面している課題について詳しく聞くことができました。それは私にとっては非常に興味深く、これはとてもよいケーススタディになると思いました。そこで2014年の夏にもう一度日本を訪れ、さらに取材を進めることにしたのです。どんなテーマの教材にしようかと考えながら、様々な視点から取材したところ、マーケティングの授業で議論するのにぴったりの課題が見つかったので、ケースとして出版することにしました。
佐藤 2014年に教材を出版するやいなや、ハーバードの必修授業で取り上げられることとなりました。なぜこんなに注目されるケースとなったのでしょうか。
チュン ハーバードビジネススクールの授業では、世界各国の企業の事例を議論します。学生の30%~40%は、米国外から来ている留学生ですから、私たち教員はできる限り多くの国の事例を紹介したいと考えています。中でもアジアは世界経済の中でも、最も成長している地域です。ところが残念ながら、ハーバードではアジア系企業のケースがまだまだ不足しているのです。そのためアジア地域の企業の事例は貴重で、歓迎される傾向にあります
佐藤 日本を代表するグローバル企業といえば、トヨタ、ソニー、パナソニックなどもあります。どの日本企業も興味深いマーケティングの課題を抱えていると思いますが、なぜANAが選ばれたのでしょうか。
チュン ハーバードの教員がケースを執筆するとき、企業の知名度よりも、企業が抱えている課題のほうに注目します。他の日本企業も同じような課題を抱えていたかもしれませんが、私はたまたま日本でANAを取材することができたので、ANAの事例を教材にしたのです。
佐藤 マーケティングの授業では他にどのような企業が取り上げられますか。
チュン ナイキ、ユニリーバ、ペプシコ、アップル、シャトーマルゴーといった有名企業の事例もありますが、アクアリサ、バイオピュアなど、世界的にあまり知られていない企業の事例も取り上げていて、多彩なラインアップとなっています。
● 国際線の顧客にはまだ知名度が低いANA
佐藤 その中に2014年、日本企業の代表としてANAが加わったということですね。授業では主にどのようなテーマについて議論するのでしょうか。
チュン 取材の過程で、ANAが、「人口の減少に伴う国内市場の縮小」という問題に直面していることを知りました。それに加えて、国内市場での競争も激化しています。LCC(格安航空会社)が参入し、ANAやJALといった日本の大手航空会社は、激しい競争にさらされるようになりました。さらに日本には確固とした鉄道網があります。鉄道会社は今よりももっと早く輸送する手段を開発していくことでしょうから、そうすれば、さらに航空会社を脅かすことになるでしょう。
ANAは、いまも売上の3分の2を国内市場から得ています。歴史的に日本の航空会社は国際線に注力する必要はありませんでした。なぜなら国内市場という確固とした成長市場があり、国内線だけで十分儲かったからです。しかし、その国内市場が縮小し、競争も激化する中、ANAはグローバル市場に積極的に進出する必要に迫られています。
ANAは国際線の顧客にはまだ知名度がありません。そこで、まずブランドを確立しなければなりませんが、それは簡単なことではありません。さて、ANAはどうすればいいだろうか、というのが、大きなテーマです。
佐藤 アジアの他の航空会社と比べて、なぜANAはグローバル化が遅れたのでしょうか。
チュン シンガポール航空、エミレーツ航空、大韓航空等と比較してみましょう。シンガポールもドバイも韓国も国土が狭く、国内線ビジネスのニーズが見込めなかったことがあります。これらの航空会社が早々に国際線に進出したのは、それしか選択肢がなかったからです。そもそも国際線で顧客を獲得しなければ、成長することができなかったのです。ANAは国内で十分成長することができた。そこが大きな違いだと思います
チュン ハーバードの教員がケースを執筆するとき、企業の知名度よりも、企業が抱えている課題のほうに注目します。他の日本企業も同じような課題を抱えていたかもしれませんが、私はたまたま日本でANAを取材することができたので、ANAの事例を教材にしたのです。
佐藤 マーケティングの授業では他にどのような企業が取り上げられますか。
チュン ナイキ、ユニリーバ、ペプシコ、アップル、シャトーマルゴーといった有名企業の事例もありますが、アクアリサ、バイオピュアなど、世界的にあまり知られていない企業の事例も取り上げていて、多彩なラインアップとなっています。
● 国際線の顧客にはまだ知名度が低いANA
佐藤 その中に2014年、日本企業の代表としてANAが加わったということですね。授業では主にどのようなテーマについて議論するのでしょうか。
チュン 取材の過程で、ANAが、「人口の減少に伴う国内市場の縮小」という問題に直面していることを知りました。それに加えて、国内市場での競争も激化しています。LCC(格安航空会社)が参入し、ANAやJALといった日本の大手航空会社は、激しい競争にさらされるようになりました。さらに日本には確固とした鉄道網があります。鉄道会社は今よりももっと早く輸送する手段を開発していくことでしょうから、そうすれば、さらに航空会社を脅かすことになるでしょう。
ANAは、いまも売上の3分の2を国内市場から得ています。歴史的に日本の航空会社は国際線に注力する必要はありませんでした。なぜなら国内市場という確固とした成長市場があり、国内線だけで十分儲かったからです。しかし、その国内市場が縮小し、競争も激化する中、ANAはグローバル市場に積極的に進出する必要に迫られています。
ANAは国際線の顧客にはまだ知名度がありません。そこで、まずブランドを確立しなければなりませんが、それは簡単なことではありません。さて、ANAはどうすればいいだろうか、というのが、大きなテーマです。
佐藤 アジアの他の航空会社と比べて、なぜANAはグローバル化が遅れたのでしょうか。
チュン シンガポール航空、エミレーツ航空、大韓航空等と比較してみましょう。シンガポールもドバイも韓国も国土が狭く、国内線ビジネスのニーズが見込めなかったことがあります。これらの航空会社が早々に国際線に進出したのは、それしか選択肢がなかったからです。そもそも国際線で顧客を獲得しなければ、成長することができなかったのです。ANAは国内で十分成長することができた。そこが大きな違いだと思います
航空会社の新製品「新路線」には どこがふさわしいのかを議論
佐藤 「マーケティング」の授業では、様々な理論やフレームワークを学びますが、ANAの事例は特に何を学ぶケースですか。
チュン これはプロダクトポリシー(製品政策)のケースです。グローバル化を進めるANAにとって、どのような製品を導入するのが最適か、全社のマーケティング戦略と照らし合わせながら考えていくためのケースなのです。
佐藤 たとえばどのような新製品を候補として考えていくのでしょうか。
チュン 航空会社で新製品といえば、新路線ですね。そこでまず学生にはどの路線を新たに就航させるのがいいか、選んでもらいます。候補としてあげるのは、東京―ボストン線、東京―ヒューストン線、東京―モスクワ線です。どの路線にも、それぞれプラス面とマイナス面があります。たとえば、東京―ボストン線と東京―モスクワ線には、プラス面もありますが、JALがすでに就航している、国際線需要がそれほど大きくない、というマイナス面もあります。
一方、ヒューストンは非常に大きな市場です。しかし、ANAの提携航空会社であるユナイテッド航空がすでに就航しています。ANAが参入するといえば、ユナイテッド航空との関係に支障が出てくるかもしれません。このように、新路線の決定には様々なトレードオフが生じるので、この路線が最適だ、とは簡単には決められないのです。
さらには経済性の問題もあります。学生は3つの路線からどの程度利益を得られるかを計算し、その結果も加味しながら、どの路線に就航させるのがいいかを議論していくのです。
佐藤 まずは新路線ということですね。ANAは結果的に2015年、東京―ヒューストン線を就航させますが、その前段階に戻って考える、ということですね。その他に検討すべき新製品はありますか。
チュン 次に検討するのが、航空機です。特にエアバスA380(スーパージャンボ機)を購入するかどうか、という点を議論します。シンガポール航空、タイ航空、マレーシア航空、大韓航空、アシアナ航空など、アジアの航空会社はすでにA380を購入しはじめています。A380をグローバルマーケティングキャンペーンにも使おうという戦略です。
各航空会社には、それぞれ独自の製品政策があります。新路線であれ、航空機であれ、重要なのはその製品政策が全社のマーケティング戦略と整合性がとれているかという点です。その点についても、ANAの事例で学んでいきます
佐藤 「マーケティング」の授業では、様々な理論やフレームワークを学びますが、ANAの事例は特に何を学ぶケースですか。
チュン これはプロダクトポリシー(製品政策)のケースです。グローバル化を進めるANAにとって、どのような製品を導入するのが最適か、全社のマーケティング戦略と照らし合わせながら考えていくためのケースなのです。
佐藤 たとえばどのような新製品を候補として考えていくのでしょうか。
チュン 航空会社で新製品といえば、新路線ですね。そこでまず学生にはどの路線を新たに就航させるのがいいか、選んでもらいます。候補としてあげるのは、東京―ボストン線、東京―ヒューストン線、東京―モスクワ線です。どの路線にも、それぞれプラス面とマイナス面があります。たとえば、東京―ボストン線と東京―モスクワ線には、プラス面もありますが、JALがすでに就航している、国際線需要がそれほど大きくない、というマイナス面もあります。
一方、ヒューストンは非常に大きな市場です。しかし、ANAの提携航空会社であるユナイテッド航空がすでに就航しています。ANAが参入するといえば、ユナイテッド航空との関係に支障が出てくるかもしれません。このように、新路線の決定には様々なトレードオフが生じるので、この路線が最適だ、とは簡単には決められないのです。
さらには経済性の問題もあります。学生は3つの路線からどの程度利益を得られるかを計算し、その結果も加味しながら、どの路線に就航させるのがいいかを議論していくのです。
佐藤 まずは新路線ということですね。ANAは結果的に2015年、東京―ヒューストン線を就航させますが、その前段階に戻って考える、ということですね。その他に検討すべき新製品はありますか。
チュン 次に検討するのが、航空機です。特にエアバスA380(スーパージャンボ機)を購入するかどうか、という点を議論します。シンガポール航空、タイ航空、マレーシア航空、大韓航空、アシアナ航空など、アジアの航空会社はすでにA380を購入しはじめています。A380をグローバルマーケティングキャンペーンにも使おうという戦略です。
各航空会社には、それぞれ独自の製品政策があります。新路線であれ、航空機であれ、重要なのはその製品政策が全社のマーケティング戦略と整合性がとれているかという点です。その点についても、ANAの事例で学んでいきます
ANA対JALのシェア争いを学ぶケースではない
佐藤 この教材には、日本の航空業界の歴史も詳しく書かれているため、日本では「業界二位が一位を逆転した事例として取り上げられた」と報じたメディアもありました。このケースはANA対JALのシェア争いを学ぶ事例でもあるのでしょうか。
チュン それは誤解ですね。このケースはグローバル化を前提とした製品政策を学ぶためのケースであり、競争戦略を学ぶためのケースではありません。
これはANAだけではなくJALにもいえることですが、 日本の航空会社にとってグローバル市場でのシェアの獲得は喫緊の課題なのです。日本のエアラインのサービスは素晴らしいし、食事も素晴らしい。ところが、残念ながら、ブランド知名度という点では、他国のエアラインに劣ってしまいます。日本人以外の顧客に日本のエアラインの良さがうまく伝わっていないのです。だからこそ両者ともに、今、海外マーケティングに注力しているのです。
佐藤 ブランドの認知という点では、学生から「ANAはオール・ニッポン・エアウェイズという名前で損をしている」、という意見も出たそうですね。「ニッポンといわれても、どこの国の航空会社か分からなくてLCCかと思った」と発言した学生もいたと聞きました。
チュン 確かに、アメリカで、NIPPONが日本だと分かる人はほとんどいませんね。私も最初は分からなかったですから。
佐藤 そうでしたか。社名にニッポンとつく会社は他にもたくさんありますが、それが日本の国名だとは分からないわけですね。ANAは名前を変えるべきだ、という意見は出ませんでしたか。
チュン そういう意見は必ず出るのですが、あまり賛同されませんね。なぜならエアラインの名前を変えるというのは大変難しいことだからです。名前、イコール、ブランドです。ANAには何十年にもわたって築いてきたブランドがあり、それを変えることのデメリットのほうが大きいのです。
佐藤 なるほど。ということは、効果的なプロモーション方法で、「日本」のエアラインであることをアピールすればいい、ということですね。この事例は、学生にとってどのように役立ちますか。
チュン ハーバードの学生は、将来、ビジネスリーダーとして活躍していく人たちです。ビジネス上の課題に対して、創造的に、かつ、戦略的に考える力を養うことを主眼において、私たちは授業をしています。
ANAのケースでは、縮小している市場から拡大している市場へとターゲットをシフトする際に、どのようなマーケティング戦略を考えればいいのか、を学ぶことができます。
こうした事例は日本企業だけではなく、他国の企業でも見られますから、学生は様々な状況で学んだことを応用できるでしょう。ANAと同じような問題に直面すれば、課題を分析して、全社のマーケティング戦略と沿うような製品政策を考えることからはじめればいい、ということが分かります
佐藤 この教材には、日本の航空業界の歴史も詳しく書かれているため、日本では「業界二位が一位を逆転した事例として取り上げられた」と報じたメディアもありました。このケースはANA対JALのシェア争いを学ぶ事例でもあるのでしょうか。
チュン それは誤解ですね。このケースはグローバル化を前提とした製品政策を学ぶためのケースであり、競争戦略を学ぶためのケースではありません。
これはANAだけではなくJALにもいえることですが、 日本の航空会社にとってグローバル市場でのシェアの獲得は喫緊の課題なのです。日本のエアラインのサービスは素晴らしいし、食事も素晴らしい。ところが、残念ながら、ブランド知名度という点では、他国のエアラインに劣ってしまいます。日本人以外の顧客に日本のエアラインの良さがうまく伝わっていないのです。だからこそ両者ともに、今、海外マーケティングに注力しているのです。
佐藤 ブランドの認知という点では、学生から「ANAはオール・ニッポン・エアウェイズという名前で損をしている」、という意見も出たそうですね。「ニッポンといわれても、どこの国の航空会社か分からなくてLCCかと思った」と発言した学生もいたと聞きました。
チュン 確かに、アメリカで、NIPPONが日本だと分かる人はほとんどいませんね。私も最初は分からなかったですから。
佐藤 そうでしたか。社名にニッポンとつく会社は他にもたくさんありますが、それが日本の国名だとは分からないわけですね。ANAは名前を変えるべきだ、という意見は出ませんでしたか。
チュン そういう意見は必ず出るのですが、あまり賛同されませんね。なぜならエアラインの名前を変えるというのは大変難しいことだからです。名前、イコール、ブランドです。ANAには何十年にもわたって築いてきたブランドがあり、それを変えることのデメリットのほうが大きいのです。
佐藤 なるほど。ということは、効果的なプロモーション方法で、「日本」のエアラインであることをアピールすればいい、ということですね。この事例は、学生にとってどのように役立ちますか。
チュン ハーバードの学生は、将来、ビジネスリーダーとして活躍していく人たちです。ビジネス上の課題に対して、創造的に、かつ、戦略的に考える力を養うことを主眼において、私たちは授業をしています。
ANAのケースでは、縮小している市場から拡大している市場へとターゲットをシフトする際に、どのようなマーケティング戦略を考えればいいのか、を学ぶことができます。
こうした事例は日本企業だけではなく、他国の企業でも見られますから、学生は様々な状況で学んだことを応用できるでしょう。ANAと同じような問題に直面すれば、課題を分析して、全社のマーケティング戦略と沿うような製品政策を考えることからはじめればいい、ということが分かります
日本企業はグローバルマーケティングが苦手?
佐藤 ハーバードの何人かの教授が「歴史的に見ても日本企業は海外市場をターゲットとしたマーケティングが得意ではない」と指摘していました。日本企業はどうすればもっとうまく海外市場に進出できると思いますか。
チュン それは非常に本質的な質問ですね。繰り返しになりますが、日本企業が海外市場にそれほど注力してこなかったのは、国内に大きなマーケットがあって、それが成長し続けてきたからです。つまり、海外進出する必要がなかったからです。国内市場で成功すれば、それで十分、利益を出せていました。ところが、今、日本の国内市場は縮小しつつあります。
多くの日本企業は国内市場でシェアをとることに没頭してきたため、それほど熱心に海外でブランドを確立しようとはしませんでした。日本製品は常に日本の顧客のニーズを第一に製造・開発され、海外顧客のニーズは二の次となっていました。それとは対照的だったのがシンガポール航空やサムスンといった企業です。これらの企業は国内市場があまりにも小さかったため、最初から海外市場を主要なターゲットとして、新製品を開発し、プロモーションしてきました。
国内市場が縮小する中、日本企業、特に日本の航空会社は、最初から世界市場を狙う、ということをはじめるべきだと思います。
● 現在注目している企業は「サイバーダイン」
佐藤 現在、新たに教材にしてみたいと思っている日本企業はありますか。
チュン 今、茨城県つくば市にあるサイバーダインという日本企業のケースをちょうど執筆しています。サイバーダインは、ロボットスーツを開発・製造しているベンチャー企業です。私は今、「ビジネスマーケティングと営業」という選択科目を教えていますが、そこでこのケースを取り上げる予定です。
サイバーダインのケースを書くために、2015年の夏、つくば市の本社を訪れ、サイバーダインスタジオも見学し、山海嘉之教授にもインタビューすることができました。これは非常に面白い企業だと思ったので、ケースにすることにしたのです。
佐藤 サイバーダインの事例では、どのようなことを教える予定ですか。
チュン まだケースが完成していないので、詳しく申し上げられないのですが、サイバーダインの米国進出をテーマにしたケースです。
佐藤 それは楽しみですね。アジア系企業のケースが足りないとおっしゃっていましたが、今後はさらにアジア系企業について研究する予定ですか。
チュン もちろんです。私はアジア人ですから(笑)。世界経済の成長を牽引しているのはアジアですし、面白い企業や事例もたくさんあります。私だけではなく、ハーバードの教員は皆、もっと日本企業を含むアジア系企業を研究したいと考えています。
佐藤 ハーバードの何人かの教授が「歴史的に見ても日本企業は海外市場をターゲットとしたマーケティングが得意ではない」と指摘していました。日本企業はどうすればもっとうまく海外市場に進出できると思いますか。
チュン それは非常に本質的な質問ですね。繰り返しになりますが、日本企業が海外市場にそれほど注力してこなかったのは、国内に大きなマーケットがあって、それが成長し続けてきたからです。つまり、海外進出する必要がなかったからです。国内市場で成功すれば、それで十分、利益を出せていました。ところが、今、日本の国内市場は縮小しつつあります。
多くの日本企業は国内市場でシェアをとることに没頭してきたため、それほど熱心に海外でブランドを確立しようとはしませんでした。日本製品は常に日本の顧客のニーズを第一に製造・開発され、海外顧客のニーズは二の次となっていました。それとは対照的だったのがシンガポール航空やサムスンといった企業です。これらの企業は国内市場があまりにも小さかったため、最初から海外市場を主要なターゲットとして、新製品を開発し、プロモーションしてきました。
国内市場が縮小する中、日本企業、特に日本の航空会社は、最初から世界市場を狙う、ということをはじめるべきだと思います。
● 現在注目している企業は「サイバーダイン」
佐藤 現在、新たに教材にしてみたいと思っている日本企業はありますか。
チュン 今、茨城県つくば市にあるサイバーダインという日本企業のケースをちょうど執筆しています。サイバーダインは、ロボットスーツを開発・製造しているベンチャー企業です。私は今、「ビジネスマーケティングと営業」という選択科目を教えていますが、そこでこのケースを取り上げる予定です。
サイバーダインのケースを書くために、2015年の夏、つくば市の本社を訪れ、サイバーダインスタジオも見学し、山海嘉之教授にもインタビューすることができました。これは非常に面白い企業だと思ったので、ケースにすることにしたのです。
佐藤 サイバーダインの事例では、どのようなことを教える予定ですか。
チュン まだケースが完成していないので、詳しく申し上げられないのですが、サイバーダインの米国進出をテーマにしたケースです。
佐藤 それは楽しみですね。アジア系企業のケースが足りないとおっしゃっていましたが、今後はさらにアジア系企業について研究する予定ですか。
チュン もちろんです。私はアジア人ですから(笑)。世界経済の成長を牽引しているのはアジアですし、面白い企業や事例もたくさんあります。私だけではなく、ハーバードの教員は皆、もっと日本企業を含むアジア系企業を研究したいと考えています。
佐藤智恵