クリスマスの悪魔「クランプス」、米国で大流行



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サンタクロースと一緒に現れる、おどろおどろしい姿の悪魔。その起源は?
「クランプス」という名前を聞いたことがあるだろうか。オーストリアの民間伝承に登場する、半分ヤギ、半分悪魔の姿をした怪物のことだ。クランプスは子供たちにプレゼントを配る聖ニコラウス(サンタクロースの起源といわれる人物)とは対照的に、悪い子供たちを叩いたり、連れ去ったり、さらには地獄へと引きずり込んだりする。そのクランプスが今、米国でひっぱりだこの人気者となっている。先日ついに彼を主役にした映画まで公開された。

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 米国でクランプスが突如として脚光を浴びた理由について、アートディレクターのモンティ・ビーチャム氏は火付け役を自認している。ビーチャム氏がクランプスを知ったのは、あるコレクターから、クランプスが描かれた19~20世紀の郵便はがきを見せてもらったことがきっかけ。その後彼は、自身が発行するコミック誌でクランプスはがきを紹介し、2004年と2010年には、それらを集めた本も出版した。

 1冊目の本を出して間もなく、ビーチャム氏のところにカリフォルニア州のギャラリーから連絡が入り、クランプスはがきの展覧会をやりたいとの提案を受けた。「展覧会は大成功で、以来クランプスを題材にした展覧会のキュレーションを任されるようになったのです」。そのあたりから、クランプスの人気は「雪だるま式に」高まっていったという。

 さて、それではこのクランプスの起源はどこにあるのだろうか。
100年前に流行したクランプスのクリスマスはがき
 聖ニコラウスと対をなす恐ろしい存在といえば、クランプスの他にもさまざまなものがある。ドイツのベルシュニッケルやクネヒト・ループレヒト、フランスのハンス・トラップやペール・フエタールの他、オランダにもツヴァルテ・ピート(黒いピート)。顔を黒く塗るため、現在は人種差別的だとして議論の渦中にある)がいる。

 こうした存在の起源は、12月22日を祝祭の日としていた土着の習慣にある。1年で夜が最も長いこの日は、後にクリスマスとして定着していった。この日、クランプスは聖ニコラウスとともに子供たちのところへやってきて、悪い子には厳しいお仕置きを与えた。

 クランプスのはがきが販売されるようになったのは、オーストリア政府が郵便はがきの生産管理を手放した1890年以降で、この商売は大いに繁盛した。それから第一次大戦までの間に、ドイツの企業が国内やオーストリアなどで、クランプスのクリスマスはがきの販売を行った。

 子供向けのはがきには、恐ろしげなクランプスが子供たちを怖がらせたり、叩いたり、背中に担いだ籠に入れてさらったりしている絵が描かれている。そして1903~1904年頃には、早くも大人向けのはがきが登場した。こうしたはがきにはクランプスが大人に罰を与えている絵柄もあったが、クランプスが女性をさらったり、女性に求愛をしているようなものも多かったという。

「ドイツでの郵便はがき市場は巨大でした。そこを狙って、女性を入れた図案のものも作られるようになったのでしょう」

変わり続けるクリスマス
 オーストリアやドイツの一部では、クランプスナハト(クランプスの夜。12月5日)にクランプスに扮して子供たちを怖がらせる19世紀の風習が今も残っている。一方、クランプスラウフ(クランプスの走り)は、酒に酔った男たちが恐ろしげな扮装をして通りを駆けまわるというもので、こちらは見るからに大人向けだ。

 現在米国で行われているクランプス関連の行事は、ほとんどが仮装をしてお酒を飲むといった、大人を対象としたものだ。こうした過ごし方は実は、子供とプレゼントを中心とした行事になる前の、古い時代の米国のクリスマスによく似ている。

「1800年代以前には、クリスマスのことを家で過ごす静かな休日だと思っている人など、ほとんどいなかったでしょう」。ピュリツァー賞にノミネートされた歴史書『The Battle for Christmas(クリスマスのための闘い)』の作家、スティーブン・ニッセンボーム氏はそう語る。「クリスマスといえばにぎやかなお祭り騒ぎをする日で、いわばハロウィン、大晦日、マルディグラ(謝肉祭のカーニバル)を混ぜ合わせたようなものでした」

 当時は仮装をした人たちが家々のドアを叩いて酒を要求し、出さなければ騒ぐぞと脅すことがごく当たり前に行われていたという。現代の子供たちがハロウィンにやる「トリック・オア・トリート」は、この習慣から健全な部分だけを残したものだとも言える。

 クリスマスの形は時代とともに変化していくものであり、この先、クランプスが一般の人々にも受け入れられるほど有名になれば、流行に敏感な人たちからは、逆にそっぽを向かれるだろうことは想像に難くない。クランプスはすでに映画の主役まで務めているのだから、あるいは今がまさに人気の絶頂なのかもしれない。
文=Becky Little/訳=北村京子



    最終更新:12月9日(水)7時20分
    ナショナル ジオグラフィック日本版