『ザ・ビートルズ 1』2015年版は何が変わったのか? 新リミックスされた全27曲を徹底解説
大橋 伸太郎
PhileWeb

オリジナルテープからのリミックスを行った新『ザ・ビートルズ 1』
2009年のリマスターは、あくまで13枚のアルバム既存のモノラル/ステレオ音源を、デジタル処理でノイズを除去したり楽音を鮮明化したりして、高音質化アーカイブしたものである。
しかし今回の『ザ・ビートルズ 1』は違う。EMIに保管されていたミキシング前の1トラック、2トラック、4トラック、8トラックのマスターテープにさかのぼり、楽器やボーカルのバランスごと新しくリミックスする「ザ・ビートルズ再生プロジェクト」である。2009年のリマスターでは立ち入ることのなかった領域まで、バンド解散後45年を経て初めて踏み込んだのだ。
しかし今回の『ザ・ビートルズ 1』は違う。EMIに保管されていたミキシング前の1トラック、2トラック、4トラック、8トラックのマスターテープにさかのぼり、楽器やボーカルのバランスごと新しくリミックスする「ザ・ビートルズ再生プロジェクト」である。2009年のリマスターでは立ち入ることのなかった領域まで、バンド解散後45年を経て初めて踏み込んだのだ。
このプロジェクトの背景に、ザ・ビートルズのステレオ音源が現代の高音質再生でしばしば違和感を拭えないことが挙げられる。ザ・ビートルズの英国オリジナルLPはデビュー作「プリーズ・プリーズ・ミー」から「イエロー・サブマリン」までモノラル/ステレオ両方で発売された。「アビイ・ロード」と「レット・イット・ビー」はステレオのみの発売。
一方、英国でのシングルは「ジョンとヨーコのバラード」が初のステレオで、それ以前はモノラル。米国キャピトルは初期から独自のステレオ方式でリリースした。
最も信頼に足るビートルズのレコーディング資料『ザ・ビートルズ全記録』(マーク・ルイソン著)を閲覧すると、アルバムの録音が完了すると毎回、プロデューサーのジョージ・マーティンとザ・ビートルズのメンバーの立ち会いのもと、二、三日を費やして最初にモノラルミックスを作り、OKになるとその後マーティンの単独作業でステレオミックスをササッと仕上げていたことが分かる。つまりモノラルミックスが圧倒的に本流で、ステレオミックスはモノラルをベースに演出効果を狙った「二番手」であったのだ。
これは時間の経過でステレオ再生装置が世界的に普及し、ステレオの録音・再生効果が認識されるにつれて徐々に変わっていくが、前半のレコーディングで作為的なステレオ演出を生み出すことになった。
初期のザ・ビートルズのステレオ録音で最も多い定型は、リンゴのドラムスが左チャンネル、ジョージのリードギターが右、ここまではいいが、2トラック(3台のテープレコーダーでパラレル録音)、4トラック録音では、リズム楽器でワントラック、ボーカル中心にワントラック、バンドサウンドでワントラックというような録り方だったので、ベースが左で、それを弾いているはずのポールのボーカルがセンターなど、変な定位になっていた。2009年のリマスターでは、これはいじらなかった。
しかし今回はリマスターでなくリミックスである。「聖書の再解釈」ではないが、バンドサウンド本来の姿が現れるのではないかという期待とも不安ともつかないものを掻き立てる、今回の『ザ・ビートルズ 1』である。
筆者の手元にサンプル音源が届いたのは10月29日のこと。震える手で音源をMacBook ProからUSB経由でヤマハ「CD-S3000」のDAC部に入力した。
まず純粋な音質の比較から。2009年版『ザ・ビートルズ 1』(2011年発売)と比較した場合、2009年版は他のリマスター同様、従来比で低音の量感が増しノイズが減り、くっきりした輪郭の鮮明で聞きやすい音質だ。だがこれには不満があり、コーラスを始めとした高域の歪みが改善されていなかったのだ。それが今回のリミックス版(以後2015年版)では高域の歪みが消え、分解能が向上し、自然で濁りのない音質に変わった。
2009年版も低音描写がクリアに明瞭化したが、今回はベース、ドラム等低音楽器の音圧が一気に高まった。音量だけでない。音圧のムラがなく音程がつねに鮮明に聴き取れる。楽器の配置や定位についてはこの後の曲毎の各論に詳しく書くが、弦楽セクションやオーケストラ、効果音の音質、ステレオフォニックな広がりが大幅に向上し、音場が豊かに広がる。ソロボーカルの生々しさ、アコギの質感が大幅に向上し、まるでマイク越しに録音に立ち会っているかのようだ。なかでも白眉は「イエスタデイ」だ。
またアルバム初出時の、あまりに実験的なステレオミックスを、今回オーソドックスで端正なバランスに直した曲がある。それが「エリナー・リグビー」。従来はポールのリードボーカルが右、センターにデンと位置するのが弦楽四重奏(正しくは八重奏)。弦楽の厳粛かつ重厚な響きで曲の悲劇性を強調しているわけだが、このレイアウトはやはり不自然。今回の2015年版では、ポールの歌が背後に弦楽セクションを従える端正なバランスに改められた。
こう書くと良いこと尽くめのようだが、旧盤あるいは聴き馴染んだLPと比べ違和感を覚えたトラックもあった。例えば、「愛こそはすべて(オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ)」。1960年代を代表するメッセージソングである。放送衛星運用開始を記念した国際共同番組のイギリス代表でビートルズが出演・披露した新曲で、ロックスター総出演のサブカル讃歌、英国のお堅いイメージを覆す、ある種のパンクである。ポールのベースが不自然に強調されている。ロックベースの天才的改革者ポールだが、ここでの仕事は平凡。お祭り気分が後退してしまった。
というわけで長年のビートルズファンとしてはすべてが最高というわけに行かないが、音質の飛躍的向上を歓迎したい。続いて、全曲解説をお届けしよう
一方、英国でのシングルは「ジョンとヨーコのバラード」が初のステレオで、それ以前はモノラル。米国キャピトルは初期から独自のステレオ方式でリリースした。
最も信頼に足るビートルズのレコーディング資料『ザ・ビートルズ全記録』(マーク・ルイソン著)を閲覧すると、アルバムの録音が完了すると毎回、プロデューサーのジョージ・マーティンとザ・ビートルズのメンバーの立ち会いのもと、二、三日を費やして最初にモノラルミックスを作り、OKになるとその後マーティンの単独作業でステレオミックスをササッと仕上げていたことが分かる。つまりモノラルミックスが圧倒的に本流で、ステレオミックスはモノラルをベースに演出効果を狙った「二番手」であったのだ。
これは時間の経過でステレオ再生装置が世界的に普及し、ステレオの録音・再生効果が認識されるにつれて徐々に変わっていくが、前半のレコーディングで作為的なステレオ演出を生み出すことになった。
初期のザ・ビートルズのステレオ録音で最も多い定型は、リンゴのドラムスが左チャンネル、ジョージのリードギターが右、ここまではいいが、2トラック(3台のテープレコーダーでパラレル録音)、4トラック録音では、リズム楽器でワントラック、ボーカル中心にワントラック、バンドサウンドでワントラックというような録り方だったので、ベースが左で、それを弾いているはずのポールのボーカルがセンターなど、変な定位になっていた。2009年のリマスターでは、これはいじらなかった。
しかし今回はリマスターでなくリミックスである。「聖書の再解釈」ではないが、バンドサウンド本来の姿が現れるのではないかという期待とも不安ともつかないものを掻き立てる、今回の『ザ・ビートルズ 1』である。
筆者の手元にサンプル音源が届いたのは10月29日のこと。震える手で音源をMacBook ProからUSB経由でヤマハ「CD-S3000」のDAC部に入力した。
まず純粋な音質の比較から。2009年版『ザ・ビートルズ 1』(2011年発売)と比較した場合、2009年版は他のリマスター同様、従来比で低音の量感が増しノイズが減り、くっきりした輪郭の鮮明で聞きやすい音質だ。だがこれには不満があり、コーラスを始めとした高域の歪みが改善されていなかったのだ。それが今回のリミックス版(以後2015年版)では高域の歪みが消え、分解能が向上し、自然で濁りのない音質に変わった。
2009年版も低音描写がクリアに明瞭化したが、今回はベース、ドラム等低音楽器の音圧が一気に高まった。音量だけでない。音圧のムラがなく音程がつねに鮮明に聴き取れる。楽器の配置や定位についてはこの後の曲毎の各論に詳しく書くが、弦楽セクションやオーケストラ、効果音の音質、ステレオフォニックな広がりが大幅に向上し、音場が豊かに広がる。ソロボーカルの生々しさ、アコギの質感が大幅に向上し、まるでマイク越しに録音に立ち会っているかのようだ。なかでも白眉は「イエスタデイ」だ。
またアルバム初出時の、あまりに実験的なステレオミックスを、今回オーソドックスで端正なバランスに直した曲がある。それが「エリナー・リグビー」。従来はポールのリードボーカルが右、センターにデンと位置するのが弦楽四重奏(正しくは八重奏)。弦楽の厳粛かつ重厚な響きで曲の悲劇性を強調しているわけだが、このレイアウトはやはり不自然。今回の2015年版では、ポールの歌が背後に弦楽セクションを従える端正なバランスに改められた。
こう書くと良いこと尽くめのようだが、旧盤あるいは聴き馴染んだLPと比べ違和感を覚えたトラックもあった。例えば、「愛こそはすべて(オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ)」。1960年代を代表するメッセージソングである。放送衛星運用開始を記念した国際共同番組のイギリス代表でビートルズが出演・披露した新曲で、ロックスター総出演のサブカル讃歌、英国のお堅いイメージを覆す、ある種のパンクである。ポールのベースが不自然に強調されている。ロックベースの天才的改革者ポールだが、ここでの仕事は平凡。お祭り気分が後退してしまった。
というわけで長年のビートルズファンとしてはすべてが最高というわけに行かないが、音質の飛躍的向上を歓迎したい。続いて、全曲解説をお届けしよう
1. ラブ・ミー・ドゥ(モノ)
2. フロム・ミー・トゥ・ユー(モノ)
3. シー・ラヴズ・ユー(モノ)
以上モノラル、3曲を比較する。2015年版の方が音圧が大きい。ワイドレンジ化し、垂直方向の広がりがある。リマスターで不満だった高域(シンバル、ハーモニー)のシャリ付く歪みが改善されたことにより、シンバルは硬質な金属感が安定してくっきり表現される(シー・ラヴズ・ユー)。モノながら楽器の分離がよくなり塊感が消え、楽音の輪郭が鮮明で太くなりクリアになった。つまり、見通しがぐんとよくなった。
4. 抱きしめたい(ステレオ)
音圧は2015年版の方が大きい。楽器の定位はほとんど変わらない。クリアになり楽器の輪郭が鮮明になったのはモノラル楽曲と同じ。特にポールのベースが下に伸び、別物のように太くずっしりとした量感になった。
5. キャント・バイ・ミー・ラヴ(ステレオ)
これは激変。2009年版で左に定位したドラムとベースが中央へ、右だったジョージのソロも中央へ。シンバルが左右にきれいに広がる。プリアンプのモノスイッチを押してみると定位が同じ(笑)。
6. ア・ハード・デイズ・ナイト(ステレオ)
前曲ほどの変化はない。やや中央寄りに修正されたが、シンバルは左、ギターは右寄りに定位。前曲はシングル曲だが、これはアルバム曲。最初からステレオミックスがあるので極端な修正を避けたのか。
7. アイ・フィール・ファイン(ステレオ)
ドラム左、ギター右の定位は変わらないが、ベースが中央に移動。低音が伸び輪郭が引き締まり、弾力性を増し音程が鮮明化した。
8. エイト・デイズ・ア・ウィーク(ステレオ)
これまで手拍子のチャチャチャ以外、ジョンのリズムギター、ポールのべースは左に集まっていた。2015年版はベースが中央へ修正され、センターラインを強調。イントロの打楽器が強調され、しっかり右から音が出る。
9. 涙の乗車券(ティケット・トゥ・ライド)(ステレオ)
この曲は、もともとステレオ録音テクニックが進歩・消化され不自然さが減っているので、極端な修正ではない。ドラムは左寄りに定位、ベースは2009年版では左ドラムに寄り添っていたのが中央に移動し、どっしり構える。タンバリンは中央からやや右、ギターは右。
10. ヘルプ!(ステレオ)
ドラム左、ベース中央、ギター右の定位は変わらない。むしろ2009年版で不満だったシンバルのレベルがやや抑えられ、歪みっぽさが低減したことが大きい。
11. イエスタデイ(ステレオ)
元来がボーカル、アコギ、弦楽四重奏(左寄り)というシンプルな編成故、定位はそれほど変わっていない。チェロが従来中央右にオフセットしていたのが中央に修正された程度だ。しかしこの曲が今回の2015年版のうち、最大の聴き物である。ノイズフロアが下がり音場空間が深まりポールの声が素晴らしく生々しい。マイク越しに聴いているようだ。楽曲の彫りの深い陰影美、そしてポールの歌の上手さが際立ち、聴き惚れてしまった。これ一曲だけでも買う価値がある!
12. デイ・トリッパー(ステレオ)
2009年版は、ドラム左は共通だがギターがセンター(というか左右から鳴る、ツーコーラスへ行く前のインスト部は右)に定位した分、ボーカルコーラスが中央から右にオフセットして定位。これは2015年版も同じで、ビートルズステレオミックス中の異端といえよう。
13. 恋を抱きしめよう(ステレオ)
これも2009年版では、リズムギターのカッティングが左から出る分、ポールのボーカルが右寄りに定位していた。ベースが中央で声が右というのは変だ。2015年版はベースがやや左にオフセット。バランスはよくなったが、ポールのボーカルが右寄りにエネルギーがあるのでやはり不自然。ただしアコーディオンの音圧がやや高まり、ふくよかさを増した。
14. ペイパーバック・ライター(ステレオ)
これは激変した。2009年版で左から出力となっているイントロのジョージのリードギターが、2015年版はセンターへ移動した。セカンドコーラスへ移る前のコーラスのリバーブ量が増し効果を高めた。全体的にモノラルらしいまとまりに変わった。本曲もシングル曲。つまりキャピトル盤用のステレオミックスだった。
15. イエロー・サブマリン(ステレオ)
この曲はとてつもない激変を見せた。2009年版はボーカルが右から出て、左から出るアコギと掛け合いをやっていた。ドラムも左。それが2015年版はボーカルがセンターへ移動し、ドラムを含め全楽器がセンター近くに集まり(アコギは中央やや左)、効果音と吹奏楽が背後に広がるミックスに変わった。ステレオで聴くと別の曲と言っていい。アコギの量感も増した。
16. エリナー・リグビー(ステレオ)
これも大激変した楽曲。2009年版、というか元来のミックスは、ポールのソロボーカルが最初は右から出てBメロ(クラシックの第二主題)へ入るとパンニングでセンターに移動した。2015年版は最初からセンターで歌う。最後にコーラスとの掛け合いになり、ここのみ右へ行く。また、元来のミックスは弦楽四重奏(×2)がボーカルの代わりにモノっぽくセンターに集まっていたが、2015年版は弦楽四重奏本来のレイアウトで第一、第二バイオリン、ビオラ、チェロの順で左右に広がって定位する。旧盤まではポールの歌と弦楽四重奏のどっちが主役か分からなかった。それだけ実験的楽曲といっていいのだが、今回ポールがカルテットを従えて歌うオーソドックスなバランスに変わった。これも別の曲になったと言っていい。
17. ペニー・レイン(ステレオ)
元々楽器、ボーカルがセンターに集まっている自然なバランス。歪みが減り格段にクリアになった。鐘の響きが美しい。ポールのベースの低音の伸びは素晴らしく、太い芯を感じさせ、地響きのようだ。最近トランペットソロなしのバージョンが発見されたが、2009年版はトランペットソロが最初センターでやや右に移動し、終わり近くで左になるが、2015年版はセンターへ移動し、終結部で左へ移動する。
18. 愛こそはすべて(オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ)(ステレオ)
「LOVE、LOVE、LOVE」のコーラスの歪みが減り、メッセージソングらしさがさらに強くなった。聴こえにくかった弱音が存在感を増し、ピアノがはっきり聴こえる。バックのオケの弦がなめらかさを増し、音楽としての美しさが増した。でも個人的にはイントロの歪みっぽい「ラ・マルセイエーズ」の響きが好きだ。2015年版は音楽として立派過ぎる。この曲はある意味パンクでサブカル的なのだから。ポールのベースが音圧を増したが、これも違和感を覚えた。ここでのポールのベーシストの仕事は彼にしては平凡だし、この曲はお祭りであって、バンドサウンドを聴かせる曲ではないからだ。
19. ハロー・グッドバイ(ステレオ)
1966年までのステレオミックスの定型であるドラム左、ギター右というミックスで、2015年版も修正をしていない。格段に歪みが減り低音の支えがしっかりして、この曲の特徴のアイリッシュダンス風味が増した
20. レディ・マドンナ(ステレオ)
この曲は初めてピアノが中心になったシングル曲である。ファッツ・ドミノ・リスペクトだからか。そのせいか2009年版まではビートルズステレオの中で特異なミックス。ピアノ(左)に押し出される格好で低音楽器(ベース、ドラムス)が右半分に定位していた。ただしシンバルは左という妙なミックス。これは2015年版でも変えなかった。ポールのお気に入りの曲で、これが決定版的バランスということなのだろう。
21. ヘイ・ジュード(ステレオ)
ピアノ右、アコギ左、ドラム左といった楽器の定位は同じ。センターのベースの量感が格段に増し、地響きのように歌い鳴る。
22. ゲット・バック(ステレオ)
リミックスの意図が鮮明なトラック。バンドサウンドへの復帰がテーマのセッションだったわけだが、2009年版までで左右にずれていた低音リズム楽器の縦の線、つまりリンゴのドラムとポールのベースがセンターでしっかり繋がった。ボーカルとベースもセンターで上下に定位するので、ポールがバイオリンベースを弾いて歌う姿が浮かんでくる。シンバルの「ジャーン」という響きも歪みが減り、硬質な迫力がある。
23. ジョンとヨーコのバラード(ステレオ)
この曲はジョンとポールの二人で多重録音した。ギターのオブリガードを左から右にパンしたりのお遊びは変えていないが、そうした音のエレメントが2015年版では切れ味を増した。ポールのベースの脈動感も躍進。
24. サムシング(ステレオ)
これと「カム・トゥゲザー」が8トラック録音。同時にモノミックスが存在せずリリース(LP/シングル)時からステレオのみ。元来完成度が高く定位はほとんどいじっていない。この曲はベーシスト志願者の教科書である。今回ベースの低音階の音圧がきれいに揃い、2009年版に増してベースラインが鮮明に聞き取れる。
25. カム・トゥゲザー(ステレオ)
ドラムが右、ギター左という、ビートルズとしては変則定位だが、2015年盤もこれは不動。名盤であり名録音なのでいじらなかったのだ。2015年版のジョンのボーカルは鮮度を一気に増し、奥行きのある音場にくっきりとした輪郭でシャウト。
26. レット・イット・ビー(ステレオ)
2009年版ではやや左に寄っていたピアノがセンターに定位し、ボーカルと重なって自然になった。ブリュートナー(ピアノ)の硬質な音色、ビリー・プレストンのオルガンの音色が鮮度と透明感を増した。ポールがピアノ担当なので、本来ここにはベースプレーヤーがいない。ジョンがその代わりを控えめにやっているのだが、2015年版では、それがポールのプレイのように厚く太く聴こえるのは違和感がある。
27. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード(ステレオ)
ポール脱退の原因の一つになった曲。英国のジャーナリスト、リッチー・ヨークはアメリカ人プロデューサー、フィル・スペクターが嫌いだからか「ピカソのデッサンにトマトケチャップを投げつけたような代物」とこきおろした。しかし、優れたオーケストレーションであることは事実。ポールがこの曲を現在ステージに掛けるときも、間奏部のアレンジはこれをそのまま使っているのである。ビートルズはこれ以前もレコーディングに弦やブラスを使ってきたが、これだけ厚いオーケストレーション(50人編成)はなかった。ここまで厚いとバンド演奏はカットしてもいいくらい。往時より賛否両論のオーケストレーションが、2015年版は格段に歪み・ノイズが減り、美しくビートルズの白鳥の歌(挽歌)を哀切に奏でる
この曲は初めてピアノが中心になったシングル曲である。ファッツ・ドミノ・リスペクトだからか。そのせいか2009年版まではビートルズステレオの中で特異なミックス。ピアノ(左)に押し出される格好で低音楽器(ベース、ドラムス)が右半分に定位していた。ただしシンバルは左という妙なミックス。これは2015年版でも変えなかった。ポールのお気に入りの曲で、これが決定版的バランスということなのだろう。
21. ヘイ・ジュード(ステレオ)
ピアノ右、アコギ左、ドラム左といった楽器の定位は同じ。センターのベースの量感が格段に増し、地響きのように歌い鳴る。
22. ゲット・バック(ステレオ)
リミックスの意図が鮮明なトラック。バンドサウンドへの復帰がテーマのセッションだったわけだが、2009年版までで左右にずれていた低音リズム楽器の縦の線、つまりリンゴのドラムとポールのベースがセンターでしっかり繋がった。ボーカルとベースもセンターで上下に定位するので、ポールがバイオリンベースを弾いて歌う姿が浮かんでくる。シンバルの「ジャーン」という響きも歪みが減り、硬質な迫力がある。
23. ジョンとヨーコのバラード(ステレオ)
この曲はジョンとポールの二人で多重録音した。ギターのオブリガードを左から右にパンしたりのお遊びは変えていないが、そうした音のエレメントが2015年版では切れ味を増した。ポールのベースの脈動感も躍進。
24. サムシング(ステレオ)
これと「カム・トゥゲザー」が8トラック録音。同時にモノミックスが存在せずリリース(LP/シングル)時からステレオのみ。元来完成度が高く定位はほとんどいじっていない。この曲はベーシスト志願者の教科書である。今回ベースの低音階の音圧がきれいに揃い、2009年版に増してベースラインが鮮明に聞き取れる。
25. カム・トゥゲザー(ステレオ)
ドラムが右、ギター左という、ビートルズとしては変則定位だが、2015年盤もこれは不動。名盤であり名録音なのでいじらなかったのだ。2015年版のジョンのボーカルは鮮度を一気に増し、奥行きのある音場にくっきりとした輪郭でシャウト。
26. レット・イット・ビー(ステレオ)
2009年版ではやや左に寄っていたピアノがセンターに定位し、ボーカルと重なって自然になった。ブリュートナー(ピアノ)の硬質な音色、ビリー・プレストンのオルガンの音色が鮮度と透明感を増した。ポールがピアノ担当なので、本来ここにはベースプレーヤーがいない。ジョンがその代わりを控えめにやっているのだが、2015年版では、それがポールのプレイのように厚く太く聴こえるのは違和感がある。
27. ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード(ステレオ)
ポール脱退の原因の一つになった曲。英国のジャーナリスト、リッチー・ヨークはアメリカ人プロデューサー、フィル・スペクターが嫌いだからか「ピカソのデッサンにトマトケチャップを投げつけたような代物」とこきおろした。しかし、優れたオーケストレーションであることは事実。ポールがこの曲を現在ステージに掛けるときも、間奏部のアレンジはこれをそのまま使っているのである。ビートルズはこれ以前もレコーディングに弦やブラスを使ってきたが、これだけ厚いオーケストレーション(50人編成)はなかった。ここまで厚いとバンド演奏はカットしてもいいくらい。往時より賛否両論のオーケストレーションが、2015年版は格段に歪み・ノイズが減り、美しくビートルズの白鳥の歌(挽歌)を哀切に奏でる
曲によってはケチも付けたが、この2015年盤『ザ・ビートルズ 1』は、丁寧なリミックスでザ・ビートルズの音楽の不朽の価値をさらに高めたことは認めよう。
過去(従来)のミックスで隠れがちだったバンドとしての演奏の上手さ。ロックベースの革新者ポールの躍動的でよく歌うベース(ジョンやジョージの曲でベース奏者としての真価を発揮)、手堅いリズムを揺るぎなく刻むリンゴのドラムはもちろん、ロカビリーがバックボーンの、ディストーションを過度に使わず艶やかなサウンドを聴かせるジョージのギター、さり気ないオブリガートにセンスと才気の光るジョンのカッティングがこの2015年版で初めて前面に現れた感がある。
定評ある赤盤・青盤に増して簡潔かつ音質面で優れるので、ザ・ビートルズをこれまであまり聴かなかったビギナーに聴いてほしい。
一方、年季の入ったザ・ビートルズファンにとって、彼らの音楽は人生に迷った時、疲れた時に癒しをくれる永遠のオアシス。クリアになった音質から新たな発見と驚きがあるはずだ。
最後に筆者からユニバーサルにリクエストしたい。リミックス、リマスターもいいが、何にも増してリリースして欲しいのが、映画『レット・イット・ビー』のブルーレイディスク。日本ではVHSセルソフトのみ、アメリカ版レーザーディスクがパッケージとして最後である。
版権関係が複雑なのは重々承知しているが、やってできないことはないだろう。元来が16mmフィルムの撮影なので、4K/UHD-BDは必要ない。代わりに映画のサウンドトラックCDをセットにして頂きたい。この映画はアルバム製作過程から作られた映画なので、サウンドトラックがないのである。今では考えられないが、40年前は皆が映画館にデンスケ(ポータブルカセット録音機)を持ち込んで映画の音声を録音したものだ。
リクエストの二つ目は、「レット・イット・ビー」録音時にザ・ビートルズがセッションしたロックンロールのスタンダード集。一部は『ザ・ビートルズ アンソロジー3』に収録されたが、その数は一枚のアルバムを作るに足る十分な曲数と言う。
こうした夢を掻き立ててやまない唯一無比のバンド、ザ・ビートルズはやはり偉大である。『ザ・ビートルズ 1』はそれを改めて教えてくれた。
(大橋 伸太郎)
過去(従来)のミックスで隠れがちだったバンドとしての演奏の上手さ。ロックベースの革新者ポールの躍動的でよく歌うベース(ジョンやジョージの曲でベース奏者としての真価を発揮)、手堅いリズムを揺るぎなく刻むリンゴのドラムはもちろん、ロカビリーがバックボーンの、ディストーションを過度に使わず艶やかなサウンドを聴かせるジョージのギター、さり気ないオブリガートにセンスと才気の光るジョンのカッティングがこの2015年版で初めて前面に現れた感がある。
定評ある赤盤・青盤に増して簡潔かつ音質面で優れるので、ザ・ビートルズをこれまであまり聴かなかったビギナーに聴いてほしい。
一方、年季の入ったザ・ビートルズファンにとって、彼らの音楽は人生に迷った時、疲れた時に癒しをくれる永遠のオアシス。クリアになった音質から新たな発見と驚きがあるはずだ。
最後に筆者からユニバーサルにリクエストしたい。リミックス、リマスターもいいが、何にも増してリリースして欲しいのが、映画『レット・イット・ビー』のブルーレイディスク。日本ではVHSセルソフトのみ、アメリカ版レーザーディスクがパッケージとして最後である。
版権関係が複雑なのは重々承知しているが、やってできないことはないだろう。元来が16mmフィルムの撮影なので、4K/UHD-BDは必要ない。代わりに映画のサウンドトラックCDをセットにして頂きたい。この映画はアルバム製作過程から作られた映画なので、サウンドトラックがないのである。今では考えられないが、40年前は皆が映画館にデンスケ(ポータブルカセット録音機)を持ち込んで映画の音声を録音したものだ。
リクエストの二つ目は、「レット・イット・ビー」録音時にザ・ビートルズがセッションしたロックンロールのスタンダード集。一部は『ザ・ビートルズ アンソロジー3』に収録されたが、その数は一枚のアルバムを作るに足る十分な曲数と言う。
こうした夢を掻き立ててやまない唯一無比のバンド、ザ・ビートルズはやはり偉大である。『ザ・ビートルズ 1』はそれを改めて教えてくれた。
(大橋 伸太郎)