2019年、東海道新幹線に大変革が訪れる

ITmedia ビジネスオンライン 11月6日(金)15時40分配信

●杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。

【東海道新幹線の車両の変遷】

●第2のダイヤ大変革、そのカギを握るのは?

 東海道新幹線は2015年3月のダイヤ改正から、一部の「のぞみ」で最高時速285キロメートルの運行を始めた。東京駅~新大阪駅間の所要時間は3分短縮されて、2時間22分になった。わずか3分、されど3分。小さなスピードアップの積み重ねで、東海道新幹線は開業時の4時間より1時間38分も所要時間を短縮した。JR東海はさらに小さな時間短縮を積み重ねて、東京~大阪間2時間10分を目指している。

 次のステップとして、JR東海は2019年にN700Aを追加投入し、700系を引退させる。その後、700系はJR西日本の山陽新幹線で余生を過ごすだろう。ご存じのように東海道新幹線と山陽新幹線は直通運転しており、一体的に見える。しかし、東海道新幹線は新車の入れ替わりが早い。東海道新幹線を引退して山陽新幹線だけの運用になるというパターンは定番だ。最近、人気アニメとタイアップした「新幹線:エヴァンゲリオン プロジェクト」で話題となった500系電車も、5年前まで東海道新幹線で活躍していた。

 東海道新幹線の電車はN700系で6代目、N700Aはマイナーチェンジだけど、これも数えると7代目となる。だから東海道新幹線の進化は7回とも言えるし、同系列でスピードアップしたダイヤ改正も入れると、もっと細分化できる。しかし、2019年に行われるダイヤ改正は、その中でも革新的になるはずだ。

 その理由は「N700Aに統一」「全列車の最高時速285キロメートル」というだけではない。「全列車の最大加速度が2.6キロメートル毎時毎秒(km/h/s)」になるからだ。これが何を意味するか。そして、その効果を予想してみよう。その説明の前に、東海道新幹線の車両の歴史を振り返ってみたい。

●東海道新幹線の車両の歴史

 東海道新幹線はご存じの通り、0系電車で営業運転を開始した。その後、100系、300系、500系、700系、N700系、N700Aが導入されている。なぜ百の位が奇数になっているかというと、200系は東北新幹線用、400系は山形新幹線直通用に割り当てられたからだ。国鉄時代は、東海道新幹線方面を奇数、東北新幹線方面を偶数とした。600系を割り当てられる電車はJR東日本の新ルールによってE1系となったため欠番。800系は九州新幹線用になった。

 東海道新幹線の各形式が登場してから引退するまで、どのくらいの活躍期間があるだろうか。最も長い期間で活躍した電車は初代0系だった。1964年の開業から1999年の引退まで、35年間も君臨した。東海道新幹線の電車の寿命は当初15年~20年、現在は13年だ。0系時代の35年間、寿命を迎えた0系は、新造された同じ形式の0系と交代していた。これが1985年の100系登場まで続いた。

 2代目の100系は1985年に登場し、2003年までの17年間活躍した。ヘッドライトが細目になり、二階建て車両を連結していた。0系に比べると短いけれど、7年後に300系が導入され、まずは0系、続いて100系を置き換えた。100系は寿命を迎えた車両から、順当に新型と交代していった。

 300系はのぞみの新設のために投入された。最高時速270キロメートル時代の始まりだ。300系は1992年から2012年までの20年間活躍。300系だけは東海道新幹線、山陽新幹線の同時引退となり、山陽新幹線の“余生”が無かった。山陽新幹線では関西~福岡の航空便に対抗するため、2000年から山陽新幹線向けの700系「ひかりレールスター」を導入しており、2010年からは500系が山陽本線内専用となった。300系中古車の入る余地が無かった。

 500系は東海道本線で最も活躍期間が短かった。最高時速300キロメートルを達成した車両だったけれど、その速度は山陽新幹線区間のみ。東海道新幹線区間では時速270キロメートルに抑えられた。鋭角的な細身のデザインで人気があったけれど、それ故に座席配置が300系や後任の700系と異なっていた。

 500系はのぞみ専用で、東京駅で折り返して「ひかり」「こだま」にしづらく、ダイヤが乱れたときの車両の変更もできなかった。これが13年間で東海道新幹線を追い出された理由と言われている。もっとも、この形式のみJR西日本だけが保有している。もともと山陽本線を時速300キロメートルで走るために、JR西日本が独自に開発した車両だった。

 700系は、簡単に言うと「500系の走行システム」に300系の座席配置を採用した車両だ。ただし最高時速は285キロメートルにとどまった。その最高速度も山陽新幹線限定で、東海道新幹線では270キロメートルまで。500系の誕生からわずか2年後の1999年に登場し、2019年に引退予定。山陽新幹線で残留するかもしれないけれど、東海道新幹線の活躍期間は20年となる。最後の車両は2006年製だから、13年後の引退は予定通りだ。

 N700系は2007年に登場。山陽新幹線の最高時速300キロメートルに対応する車両だ。のぞみのスピードアップも含めた次世代主力車両である。東京発着の「500系のぞみ」もN700が系に置き換えられた。2013年にN700系の改良版としてN700Aが製造されると、N700系をN700Aと同等にする改造が実施された。これで新造N700Aと共通運用できるようになった。

 N700Aが2013年に登場したということは、N700系の最も新しい車両は2012年製造となる。寿命を迎える「13年後」は2025年だ。改造版N700Aは製造年から数えると2025年に全車引退となるだろう。ただし、N700A改造で多少の延命があるかもしれない。

 いずれにしても、2019年に東海道新幹線がN700Aに統一される。しかし2013年に新造されたN700Aは、13年後の2026年に寿命となる。そのころにはたぶん、次世代の東海道新幹線車両が登場するだろう。もっとも、その翌年、2027年はリニア中央新幹線が開業予定だ。東海道新幹線の運行本数が減るかもしれない。そうなると寿命となったN700Aを引退させるだけで、新型の投入はもっと後かもしれない。

●既に全車が時速285キロメートル対応だが……

 東海道新幹線で最高時速285キロメートルが解禁となった。スピードアップしたのぞみは早朝深夜の8本と毎時1本。いずれも車両はN700Aだ。ところが、前述のように、700系も最高時速285キロメートルで走行可能だ。つまり、現在、既に東海道新幹線の車両はすべて最高時速285キロメートルに対応している。なぜ、今、すべてののぞみが最高時速285キロメートルに統一されないのか。

 その理由は2つある。1つは、N700Aと700系は、同じ時速285キロメートルでも質が違う。どちらも比較的直線的な区間で時速285キロメートルを達成できる。ただし、N700Aは車体傾斜システムを採用し、曲線区間でもスピードアップできる。700系はできない。つまり、最高時速は同じでも、曲線通過速度に違いがある。

 もう1つは冒頭で紹介した「加速性能の違い」だ。加速性能は鉄道技術用語では「起動加速度」と呼び、1秒あたり上昇する速度で表す。単位は「km/h/s」。日本語では「キロメートル毎時毎秒」と記述する。1キロメートル毎時毎秒は、1秒ごとに時速が1キロ上昇する。これは時速100キロメートルに達するまでに100秒かかるという意味になる。

 700系の最大起動加速度は1.6キロメートル毎時毎秒。N700系は2.6キロメートル毎時毎秒だ。つまり、同じ最高速度を出せるとはいえ、700系は加速が鈍い。そうなると最高速度で走行できる距離が減り、所要時間は多くなる。これでは700系とN700Aを共通で運用できない。微妙な違いとはいえ、性能差がある車両が混在した場合に運行間隔を詰めるならば、速度の遅い700系に合わせる。

 700系が引退するまで、N700Aはフルに性能を発揮できない。これが、現在、最高時速285キロメートル運転を早朝深夜と毎時1本に限る理由である。早朝深夜は運行間隔が空いているので、高速で走っても前の列車に追いつかない。毎時1本は、高速タイプの列車を走らせるために、その時間帯だけ前後の列車の運行間隔を調整した結果だ。

●こだまの加速力がカギになる

 つまり、2019年に東海道新幹線のすべての列車がN700Aになる場合のメリットは、最高時速285キロメートルの車両に統一されるから、という理由よりも、最大加速度2.6キロメートル毎時毎秒の車両に統一されるからという理由のほうが大きい。歴代東海道新幹線の車両の加速度を振り返ると、0系は1.0キロメートル毎時毎秒。100系、300系、500系、700系は1.6キロメートル毎時毎秒。N700系とN700Aは2.6キロメートル毎時毎秒となる。

 だから、最大起動加速度という数値で見れば、東海道新幹線は誕生から0系引退の1999年までの35年間が、「1.0キロメートル毎時毎秒」時代、それ以降、2019年までの20年間が「1.6キロメートル毎時毎秒」時代だ。そして2019年に第2の変革「2.6キロメートル毎時毎秒」時代が始まる。全列車の起動加速度が引き上げられ、曲線通過速度も向上する。これが大変革の決め手になる。

 そして、起動加速度の向上で最もメリットを受ける列車はこだまだ。ひかりやのぞみの効果は小さい。なぜなら、起動加速度の効果は、停車駅が多く、速度ゼロからスタートする回数が多いほど大きくなるからだ。

 こだまはとても過酷な宿命を持った列車だ。のぞみ、ひかりに追い越された後は、ただちに発車して後を追う。しかし、もう後ろから次ののぞみやひかりが迫っている。通過列車の合間に「サッと走ってキュッと停まる」という動作を、各駅停車で実行している。こだまが遅ければ、後続の通過列車が追いついてしまう。そうなる前に、待避設備のある駅に逃げ込まなくてはいけない。

 東海道新幹線のように、高速かつ運行頻度の高い路線では、各駅停車の加速力アップが重要である。これはJR在来線や大手私鉄の通勤路線も同じだ。例えば、阪神電鉄には「ジェットカー」と呼ばれる電車がある。プロペラ機に対してジェット機に例えられる速さという意味だ。いかにも速そうなイメージで、特急電車用だと思うかもしれない。しかし、この愛称は同社の各駅停車専用電車に受け継がれている。路線全体の列車の速度を上げるなら、加速度に優れた各駅停車用電車が必要だ。

 東海道新幹線の全列車がN700Aになる。と、いうことは、すべてのこだまの起動加速度が上がる。従って、2019年、東海道新幹線のダイヤ改正は今までよりも大規模になるだろう。
最終更新:11月6日(金)15時40分
ITmedia ビジネスオンライン