独立問題に揺れる「カタルーニャ」 スペイン経済の“尻拭い”州民に不満

THE PAGE 10月21日(水)17時10分配信

 スペインの北東部に位置するカタルーニャ州で先月27日、州議会選挙が行われ、スペインからの独立を掲げる選挙連合や政党が過半数を獲得しました。独立派はすでに州議会選挙で過半数を獲得した場合は、18か月以内にスペインからの一方な独立を宣言すると主張しており、今後のスペイン政府とのやり取りに注目が集まります。

【図】スコットランドだけじゃない 世界の「独立予備群」は?
フランコ時代の抑圧でナショナリズムに火
 カタルーニャ州全体の人口は約750万人(スペイン国立統計局調べ)。スペイン全体の人口の約16パーセントを占めます。世界有数のサッカークラブや建築物が有名なバルセロナを訪ねる外国人観光客も多く、年間1500万人の外国人観光客が訪れるカタルーニャ州。観光は州の主要産業の1つであり、「ヨーロッパ有数」の観光地というイメージ戦略は世界中で成功していると言えるでしょう。
 世界的には観光地としてのイメージが強いカタルーニャ州ですが、もともと地理的な理由から文化的にはスペインよりもフランスとの結びつきの方が強いとされており、スペインからの独立運動は19世紀からすでに始まっていました。19世紀中頃にはカタルーニャ在住の知識人らがカタルーニャ語でルネッサンスを意味する「ラナシェンサ」運動を展開しました。ただ、これは当時廃れていたカタルーニャ語文化の復興運動としての色合いが強く、政治的な色合いはあまりなかったと言われています。

 大きな転換となったのは、1930年代から70年代にかけて。フランコ独裁時代にスペイン各地で地域ナショナリズムは抑圧され、カタルーニャ州でも公の場でカタルーニャ語の使用が禁じられ、この政策が結果としてカタルーニャ州のナショナリズムに火をつけました。
数年前から独立を求める動きが活発化
 カタルーニャ州の独立を求める動きは数年前から活発化しています。2013年1月、カタルーニャ州議会は主権をめぐる投票が行われ、賛成85、反対41(棄権2)の圧倒的多数で独立派が勝利。一方的にカタルーニャ州の主権は州政府にあると宣言したのです。この主権宣言に対し、スペインの憲法裁判所は同年5月に一時差し止めを命令。2014年3月には同じ憲法裁判所によって違憲判決が出ています。

 2014年11月には非公式ながらスペインからの独立を問う住民投票が実施され、州政府の発表では約230万人が投票を行い(カタルーニャ州の有権者数は約550万人)、独立を支持する声は約8割に達しました。

 9月末の州議会選挙に話を戻します。スペイン政府はすでにカタルーニャ州政府が独立を宣言した場合、憲法裁判所によって独立運動は阻止されるだろうとの見解を示していますが、12月に総選挙を控えるスペインで、カタルーニャの独立問題がラホイ政権に大きな痛手を与える可能性も指摘されています

「GDPの2割」スペイン経済を牽引する存在
 この数年、カタルーニャ州における地域ナショナリズムやスペインからの分離・独立を求める声が高まった背景には、2010年にギリシャから始まった「ソブリン・ショック」と呼ばれる欧州債務危機があります。スペイン経済の原動力となっているカタルーニャ州が、結果的に欧州債務危機後のスペイン全体の面倒を見ているという意識が住民の間で高まっているのです。 以前から存在したマドリード政府に対する歴史的な感情のしこりに加えて、スペイン経済の“尻拭い”までカタルーニャが押し付けられたという被害者意識が、独立運動がエスカレートした要因と考えられています。数字に目を向けると、カタルーニャ州の独立支持派の言い分にも一理あることが分かります。

 スペインには17の州がありますが、スペインのGDPの20%、スペインの輸出品の約25%はカタルーニャ州が支えており、カタルーニャが独立した場合にスペイン政府は債務の返済で困難な状態に陥るだろうとも予測されています。少し前にはスコットランドの独立運動も大きなニュースとなりましたが、スコットランド経済はイギリス国内のGDPの10%足らずで、経済面で考えた場合に、カタルーニャとスコットランドの独立でスペインとイギリスがそれぞれ直面する問題に大きな差があるのは一目瞭然です。

 カタルーニャ州の独立運動は今後どのような展開を見せ、スペイン政府がそれに対してどのような措置を取るのかは現時点でははっきりとしていません。しかし、ヨーロッパにはイタリアやベルギーのように地域の経済格差によって生じた「南北問題」を抱える国もあり、これらの国々における独立運動に拍車がかかるという懸念もあります。

(ジャーナリスト・仲野博文)





最終更新:10月21日(水)17時10分
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