グローバル時代を、どう生きるか?

日本マイクロソフトの越川慎司氏


海外で活躍することを意識し続けた大学時代

――学習院大学に入学した理由について教えてください。また当時はどのような学生生活を送られていたのでしょうか。
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越川 慎司氏(日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員)
 小規模ながら企業経営をしていた父を見て育った私は、自分でもビジネスをやりたいと考えるようになり、高校生の頃にはいつか海外で勝負できるようなベンチャー企業を立ちあげたいという目標を持つようになりました。私の学生時代はちょうどバブルが崩壊し、日本企業が海外に出て行かなければならない外部環境が整った時期でもあり、自分の将来の選択肢を広げる意味でも海外に目を向ける必要がありました。また、当時はイチロー選手や中田英寿選手など、日本人アスリートによる世界の檜舞台での活躍が目立ち始めた頃でもあり、私も同じ団塊ジュニア世代として大きな刺激を受けたものです。
 学習院大学の経済学部経営学科を志望したのは、ビジネスの最前線で働く将来を見据えて、マーケティング能力や営業能力を身につけたいと考えたから。自分自身に飛び抜けた才能があるとは思っていませんでしたが、社会に出たら即戦力になりたいという思いは強く持っており、その目的に向かって勉学に取り組んだ学生時代だったと思います。
――学習院大学を卒業後、いくつかの企業を渡り歩き、現在、日本マイクロソフトで業務執行役員を務めるまでの経緯についてお聞かせください。
 卒業後は、まず国内の大手通信会社に入社し、自ら希望して営業職を経験した後、人事部などで職歴を積みました。その後、2001年にアメリカ系の通信会社に転職するのですが、米国本社が破産し、その事実を新聞の一面で知るという憂き目に遭いました。私はこのときの経験から「組織に頼り過ぎるのは危ない」と考えるようになり、2003年には念願だったITベンチャーを仲間と立ち上げることになったのです。今ではかなり一般的になった“インターネット会議”の仕組みを提供する事業だったのですが、そこでは大きな出資も勝ち取り、トップシェアを取るほどの成功を収めました。しかしその後、出資元会社がアメリカの企業に買収され、我々の立ちあげた会社はその日本法人になってしまったのです。
 結局、私はその会社を離れることになるのですが、その後、シアトルのマイクロソフト本社から引き合いがあり、入社を決断しました。じきに日本市場の担当になり、今年の7月で10年が経ちます。冒頭でも触れましたが、もともと海外で活躍したいという希望があり、そうした自分の目標に従ったがゆえの紆余曲折だったと思います。
 現在、私は日本法人の業務執行役員、本部長として、ここ数年は多くの時間を海外で過ごすような日々を送っていますが、その業務の多くは本社の幹部たちとの折衝や交渉であり、コミュニケーション能力やダイバーシティ(多様性)への対応が問われる仕事に従事しています。一方で国内では、弊社の主力サービスである「Office 365 およびOffice 2016」に関するビジネスを一手に任されており、自由な反面、大きな責任も伴うという、非常にやりがいのある仕事をやらせてもらっています。いわば大企業の中でベンチャーを経営するようなものであり、そういう意味では、私の学生時代からの希望を叶えるようなチャレンジができていると感じています

学生時代から国際感覚を磨くべき

――学習院大学では2016年度より国際社会科学部を新設するなど、グローバル化を見据えた改革を進めています。これからの大学生が大学で学ぶべきはどんなことだと思われますか。
 今現在、大学で学んでいる若者たち、あるいはこれから大学で学ぼうという若者たちが、20年後に日本経済の主役になるのは確実です。であるならば、今の若者たちは20年後の日本ひいては世界がどういう状況になっているのかを、今から冷静に考えるべきではないでしょうか。
 20年後の日本は高齢化がますます進み、生産年齢人口は1300万人も減ると予測されています。そうなれば日本の国際競争力は、残念ながら非常に厳しい状態になります。一方、アジア全体では今後まだまだ人口が増えていき、またBRICs諸国以外の発展途上国での急成長が予測できる中で、狭い日本だけでビジネスを考えることはあまりに限定的です。これから日本以外で活躍するためにはどうすればよいのだろうと考えるのは極めて自然なことであり、今以上に国際化を意識して勉学に励む必要があると思います。
 そして実際に世界を舞台に活躍するためには、コミュニケーション能力を高めることが最も大切だと感じます。国際ビジネスの現場では、英語でただしゃべるだけでなく、交渉をしたり、プレゼンテーションをしたり、その場の空気を読むなど、非常に複雑で高度なコミュニケーションが必要とされるからです。
 ひとつ強調したいのは、TOEICでいくら高得点を取ろうと、実際のビジネスの現場で役に立つかどうかは別の話だということ。私も以前、語学にはある程度自信をもって外資系の企業に転職したのですが、初日からほとんど会話にならず、打ちのめされたことを覚えています。そこから先は寝る間を惜しんで勉強し、何より実地でコミュニケーション能力を磨いていきました。
 そういう意味では、学習院大学が来年新設する「国際社会科学部」は、留学が必修と聞いていますし、語学はもちろん専門の授業にもネイティブの教員による英語を使った授業が行われるということで、非常に期待しています。学生の時から実際の英語、実際の国際ビジネスに触れる機会を多く持つことは、国際感覚を磨き、外国人とのコミュニケーションに対するアレルギーを取り除くという意味でも、プラスになる面が大きいと感じます。将来的に国際ビジネスのフィールドで活躍したいという人にとって、新しくできる国際社会科学部はうってつけの学びの場になるのではないでしょうか。またこの学部ができたことによって、他の学部にも良い意味での刺激を与えるだろうと思います


多様性を受け入れ、コミュニケーション能力を磨く

――世界を舞台にビジネスをする上で、大学時代に学んだことで生かされていることはありますか。
 私の社会人としての礎は、大学時代に力を入れたスカッシュ部の活動にあったと感じています。当初はサークルからのスタートでしたが、私は1年生から男子主将を務め、4年生の時には念願の運動部(輔仁会)の一員として認められることができました。また在学中に全国大会に出場し、個人でもユース日本代表に選ばれるといった実績を残しました。しかし、何より誇りに思っているのは、弱小チームを全国の強豪にまで引き上げ、現役時は主将、卒業後は監督という立場で組織の成長に貢献できたことです。これは後のベンチャー企業の立ちあげにも通じる、非常に貴重な成功体験であったと考えています。
 輔仁会と呼ばれる学習院大学の体育会系の部として活動するためには、学生部をはじめ様々な支援に支えられる必要があり、経済的な支援もいただいてきました。そういう意味では、がんばった人に対してしっかりとサポートしてくれる体制が整っており、自分の意欲次第で非常にのびのびと勉強をさせてくれる大学であると感じています。今振り返ると、学習院大学の校風は“自由と責任を与える”ものであり、私はこのスカッシュ部におけるチャレンジを通して、自由と責任の大切さを理解できたように思います。
――グローバル社会が活躍の舞台となる若者たちに向けて、アドバイスをお願いします。
 私に言えるのは、2つの能力を身につけること。ひとつはダイバーシティ(多様性)を受け入れる能力です。これからの時代、どんな仕事に就くにせよ、いかに“違い”を確認できるかが大切です。活躍の場が日本だけには留まらないこれからの時代は、各エリアの従業員やステークホルダーたちをうまく巻き込んでいかないと絶対にグローバル・ビジネスをリードできません。言語や文化、宗教などの違いに驚くだけではなく、どう受けいれるのかが重要なポイントです。学生時代に、たとえ数週間でも、海外留学などを通じて多様性に触れることは、先々のことを考えると非常に大きいと思います。
 もうひとつは、コミュニケーション能力です。語学も大切ですが、それ以上に、自分の意思を伝達するためのコミュニケーション能力が大切だと感じます。これは例えば、学生時代に出会う友人や先輩、アルバイト先の仲間、社会の大人、家族などと日々コミュニケーションが発生する中で、相手と交渉し、納得を得て、結果的に自分の思い通りに動かせるかどうかということです。コミュニケーションを高めるトレーニングは学生時代から様々な場面で可能ですし、能力が身につきさえすれば、英語や中国語は後から学べばいいだけのことです。ぜひ学生の時から、こうした観点を意識してもらいたいと思います。
 私は今、学生を採用する立場にもありますが、そこで一番重要視するのは“学生時代に何を身につけたのか”ということです。私が採用したいと考える優秀な学生は、勉強して学んだことに対して洞察力を発揮し、それをいかにして次につなげるかを考えることができます。こうしたことができる人はどんなビジネス、業界でも通用するはずです。
 大学時代の4年間は、1日24時間を自分で自由にコントロールできるという意味で、一生の内でもほかにない貴重な時間といえます。そこをどう使うのかは、その後の人生を大きく左右することになるはずですし、それだけにその場に流されることなく、きちんと自分の目的を見定め、充実した4年間を送ってほしいと思います。私自身は“自由と責任”を与えてくれた学習院大学の4年間を、今もかけがえのないものだと感じています。
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越川 慎司氏(日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員)
1996年に学習院大学・経済学部経営学科を卒業し、国内大手通信会社に入社。米系通信会社、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米国マイクロソフトに入社。製品の品質向上プロジェクトの責任者など務め、2015年7月より現職。仕事柄、世界を飛び回っており、その移動距離は1年間に地球を6周する事も。