厚生労働省が、9月28日に公表した「平成26年財政検証結果レポート※1」には、現在70歳の人の厚生年金受取額は、負担した保険料の5.2倍(1,000万円の保険料を支払えば5,200万円の厚生年金を受け取るという試算結果)、国民年金加入者の場合で3.8倍の国民年金を受け取るという試算結果となっています。年齢が低下していくにつれてこの倍率は徐々に低下を続け、20歳の方の負担と給付の倍率予想は、厚生年金で2.3倍、国民年金1.5倍と世代間格差が広がるという結果になっています。老後は、体力も衰えて病気にかかるリスクも高くなり、若いとき以上に、健康に関わる出費が増えてきます。 また、若いときのような収入額を得ることは困難になりますので、健やかな老後を実現するためには、公的年金はとても重要です。
本来等しく、各世代に対して、健やかで安心の老後を保障すべき公的年金制度における不平等の存在…現役世代はどう考えていけばいいのでしょうか。
本来等しく、各世代に対して、健やかで安心の老後を保障すべき公的年金制度における不平等の存在…現役世代はどう考えていけばいいのでしょうか。
◆現在を基準に是正はできない?!
この結果だけを見ると若年層にとっての公的年金の不公平感は拭えません。仮にこの負担と給付の差を乱暴にも一気に解消すようとするならば、現在の保険料を引き下げた上で将来若年層が受け取る年金額を引き上げ、同時に現在高齢者が受け取っている年金受給額を引き下げることができれば、この格差は埋まります。
しかしそれは、現在の「賦課方式」の年金制度下で、しかも少子高齢化の問題を抱える日本においては非現実的です。賦課方式とは、物価の変動を勘案し「毎年の給付をその年の歳入(収入)によってまかなう」という方式であり、2015年現在は、2~3人の現役世代で1人の高齢者を支えている計算ですが、将来的にはこの支える人数がさらに減るのですから…。
また、現在受け取っている年金額を「世代間格差の解消のため」という理由だけで一方的に引き下げることは、高齢者の既得権益を侵害します。一部の年金その他の所得・資産を多く持つ悠々自適な高齢者には、協力を仰ぐことを検討できるとしても、人数では多くを占める年金その他の所得・資産の乏しい高齢者のことを考えると、下流老人を大量発生させてしまうでしょう。
将来的にこの格差を解消するためには、賦課方式を「積立方式」に変更すれば解消する、との議論もありますが、制度変更完了までに時間がかかる上に様々な問題をクリアしなくてはならず、今ではすっかり現実味のない議論のようです
また、現在受け取っている年金額を「世代間格差の解消のため」という理由だけで一方的に引き下げることは、高齢者の既得権益を侵害します。一部の年金その他の所得・資産を多く持つ悠々自適な高齢者には、協力を仰ぐことを検討できるとしても、人数では多くを占める年金その他の所得・資産の乏しい高齢者のことを考えると、下流老人を大量発生させてしまうでしょう。
将来的にこの格差を解消するためには、賦課方式を「積立方式」に変更すれば解消する、との議論もありますが、制度変更完了までに時間がかかる上に様々な問題をクリアしなくてはならず、今ではすっかり現実味のない議論のようです
「公的年金」のいいところ
公的年金は、記憶に新しい年金事務所のデータ流出や、社会保険庁当時の消えた年金問題など、不祥事が度重なったことで国民の「年金不信」は決して拭えているわけではありません。しかし、年金制度自体は現在の超低金利下の金融情勢の中の「金融商品」という側面から考えてみると、あながち不利な制度ではないかもしれません。
比較しやすい民間の「個人年金保険」との違いを挙げてみます。
1、個人年金保険は、税金面で生命保険料控除(個人年金保険料控除分最大4万円又は5万円)の金額が小さいのに比べて、公的年金保険料は、社会保険料控除により全額所得控除されるため所得税・住民税が減少する分お得。
2、現状では、20歳で契約・加入し期間40年の場合の個人年金保険の負担と給付の割合は、前述の厚労省試算で記載されている公的年金の20歳で2.3倍あるいは1.5倍を越えることはない。頑張っている保険会社で1.2倍台であり、しかも固定金利型。
3、不十分とはいえマクロ経済スライド(そのときの社会情勢=現役人口の減少や平均余命の伸びに合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組み)が適用され、インフレに若干対応している(民間個人年金保険はインフレ対応しない)。
4、民間の個人年金保険にはない「障害給付」、「遺族給付」などの付加価値がついている
5、年金受取時にも雑所得の公的年金等控除が適用され、年金の所得税・住民税負担が軽減されている(民間の個人年金保険は公的年金等控除の適用なし)。
6、保険料が支払い困難な事情があると認められた場合、手続きにより保険料免除・納付猶予ができる
以上を並べてみると、前述の厚労省の検証結果※1が示している問題点が浮き彫りになってきます。
例えば、この検証結果における年金受給終了年齢は、70歳男性が82歳1か月、同女性は87歳7か月までとなっており、平均寿命の一定の伸びを見越して20歳の年金受給終了年齢を男性86歳3か月、同女性を92歳としています。
公的年金は、終身年金であるため、長生きリスクに対応しているとはいえ、この試算年齢まで長生きできない人々にとっては、負担と給付倍率は大幅に低下しかねない可能性があります。
現状の年金制度は、老後の生活にとって重要である事は言うまでもありませんが、様々な問題点を内包しています。
健康で安心のできる老後の生活を確保するには、公的資金のみでは充分ではなく、疾病疾患に罹るなどのリスクを織り込んだファイナンシャルプランも必要でしょう。とくに公的年金の受給額がすくない(であろう)若者層については、公的年金をベースとしつつ、その上で自分年金として資産を一定程度準備するのといった、対策をしておくことが必要です。もちろん同時に、世代間の公的年金の不公平感をなくすような、新しい仕組みの導入は必要不可欠でしょう。
<執筆者プロフィール>
石村衛(いしむら・まもる)
FP事務所:ライフパートナーオフィス代表ファイナンシャルプランニング1級技能士(CFP)東洋大学卒業。メーカー勤務の後、FP事務所:ライフパートナーオフィスを横浜市戸塚区に開設。地域に根ざしたFP活動を志向し、住宅ローン、不動産・証券投資、保険、貯蓄・など一般家庭のお金にまつわる様々なアドバイスを行っている。 お金に係わる出前授業を小・中・高校で実施。また、高等学校の保護者会などで進学費用や奨学金・教育ローンの講演多数。東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザーとして活動中。
<参考 ※1>
厚労省:平成26年財政検証結果レポート第5章「世代ごとの給付と負担の関係について」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/report2014_section5.pdf
比較しやすい民間の「個人年金保険」との違いを挙げてみます。
1、個人年金保険は、税金面で生命保険料控除(個人年金保険料控除分最大4万円又は5万円)の金額が小さいのに比べて、公的年金保険料は、社会保険料控除により全額所得控除されるため所得税・住民税が減少する分お得。
2、現状では、20歳で契約・加入し期間40年の場合の個人年金保険の負担と給付の割合は、前述の厚労省試算で記載されている公的年金の20歳で2.3倍あるいは1.5倍を越えることはない。頑張っている保険会社で1.2倍台であり、しかも固定金利型。
3、不十分とはいえマクロ経済スライド(そのときの社会情勢=現役人口の減少や平均余命の伸びに合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組み)が適用され、インフレに若干対応している(民間個人年金保険はインフレ対応しない)。
4、民間の個人年金保険にはない「障害給付」、「遺族給付」などの付加価値がついている
5、年金受取時にも雑所得の公的年金等控除が適用され、年金の所得税・住民税負担が軽減されている(民間の個人年金保険は公的年金等控除の適用なし)。
6、保険料が支払い困難な事情があると認められた場合、手続きにより保険料免除・納付猶予ができる
以上を並べてみると、前述の厚労省の検証結果※1が示している問題点が浮き彫りになってきます。
例えば、この検証結果における年金受給終了年齢は、70歳男性が82歳1か月、同女性は87歳7か月までとなっており、平均寿命の一定の伸びを見越して20歳の年金受給終了年齢を男性86歳3か月、同女性を92歳としています。
公的年金は、終身年金であるため、長生きリスクに対応しているとはいえ、この試算年齢まで長生きできない人々にとっては、負担と給付倍率は大幅に低下しかねない可能性があります。
現状の年金制度は、老後の生活にとって重要である事は言うまでもありませんが、様々な問題点を内包しています。
健康で安心のできる老後の生活を確保するには、公的資金のみでは充分ではなく、疾病疾患に罹るなどのリスクを織り込んだファイナンシャルプランも必要でしょう。とくに公的年金の受給額がすくない(であろう)若者層については、公的年金をベースとしつつ、その上で自分年金として資産を一定程度準備するのといった、対策をしておくことが必要です。もちろん同時に、世代間の公的年金の不公平感をなくすような、新しい仕組みの導入は必要不可欠でしょう。
<執筆者プロフィール>
石村衛(いしむら・まもる)
FP事務所:ライフパートナーオフィス代表ファイナンシャルプランニング1級技能士(CFP)東洋大学卒業。メーカー勤務の後、FP事務所:ライフパートナーオフィスを横浜市戸塚区に開設。地域に根ざしたFP活動を志向し、住宅ローン、不動産・証券投資、保険、貯蓄・など一般家庭のお金にまつわる様々なアドバイスを行っている。 お金に係わる出前授業を小・中・高校で実施。また、高等学校の保護者会などで進学費用や奨学金・教育ローンの講演多数。東京都金融広報委員会 金融広報アドバイザーとして活動中。
<参考 ※1>
厚労省:平成26年財政検証結果レポート第5章「世代ごとの給付と負担の関係について」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/report2014_section5.pdf
Mocosuku編集部