レクサスがロシアの富裕層に愛される理由







レクサスの快進撃が止まらない。
 2013年から2014年のグローバル販売台数の推移を見ると、52万3,000台から58万3,000台へと111%の伸びとなっている。リーマン・ショックの影響で2009年に36万7,000台となってしまった後は、堅調に販売台数が伸びている。
 全体の6割近くを占める北米での台数も114%と伸びているのに加えて、ヨーロッパも123%、アジアや中東、南アフリカも好調である。
 だが、ここまでなら、他の自動車メーカーにもよくある話しで終わってしまう可能性がある。なぜなら、先進国や新興国での売れ行きが良いというのは、ある意味では当然ともいえる消費行動だからだ。
 レクサスのすごいところは、デフレ不況まっただ中のロシアにおいても、2013年から2014年に121%の伸びを見せていることだ。
 ラグジュアリーカー、いわば富裕層をターゲットとしているレクサスのブランディングについて、レクサスのグローバルブランディング室長のデイビッド・ノードストローム(David Nordstrom)氏にその強さの秘密を聞いた。

トヨタではなくレクサスという新しいブランドを立ち上げた意味

――レクサスを立ち上げた1989年当初はどのような状況でしたか。
 レクサスは1989年にトヨタ自動車が高級ブランドとしてアメリカに導入しました。各国でレクサスは”チャレンジャー”のポジションからスタートしました。そうすることで、リスクを取り、思い切り勝負することができ、競合他社と差別化していくことができました。
 新規参入時には、まず、ブランドを認知させるようにしました。レクサスブランドの存在をできるだけ多くの方々に知っていただくということです。
 そして時間をかけながら品質の良さをさらにレベルアップさせ、洗練されていくうちにラグジュアリーブランドの確固たるポジションを築き、現在では世界90カ国で展開されています。
――トヨタブランドの一車種ではなく、レクサスブランドとして独立したことで良かったところはどういった部分ですか。
 トヨタブランドは厚く信頼されていたので、良い面もあったのは事実です。ですがトヨタのブランドに過剰に依存してしまうと、その浮き沈みに左右されてしまうことも考えられます。
 それよりも、レクサスという独立した新しいブランドを立ち上げ、ブランド力を向上させて成長させていくことで、高いポジションをキープしていきたかったのです。新しいブランドであれば、私たちが思うとおりにブランドを定義できるというメリットもありました。
 幸いなことに、当時のレクサスのエンジニアやデザイナーなど、非常に有能なスタッフがそろっていたので素晴らしい商品を出すことができました。その商品力をベースに、強い立場でブランド構築をすることができたのだと思います。
――ライバルとして意識している企業があれば教えてください。
 マーケティング担当者ならば、いま世の中で何が起っているのかを常にキャッチする必要があります。自社の業界の中ももちろんですが、業界の外も意識し、それが自分のブランドにどう影響を及ぼすのかということを考えないといけません。ですから、業界全体、時代の流れ、そして競合他社も含めトータルに勘案していく必要があるのです。
 個別の会社やブランド名はあえて挙げませんが、業界の内外を問わず、他の企業のブランドと得意分野についてはかなり時間を割いて研究しています。例えば、他社と同じことを私たちが行った場合にどのようなインパクトがあるのかというシミュレーションです。
 しかし、最終的には私たちの商品の本質が何であるのかということに忠実にならないといけないと思っています。レクサスの商品特性やデザインの本質、ブランドとしてどういう立場であるのかについて見つめ直すのです。例えばショールームにお客様がいらしたときにどういう印象を持たれるのかということや、車と直に触れ合うドライバーの意見などもその一環です

ラグジュアリーの概念が変わった

――富裕層マーケティングで最も重要なこととは何でしょうか。
 この25年の間にラグジュアリーの概念そのものが変化を遂げていると思います。25年前当時はブランドのロゴがついているかということが重要で、ときにはロゴの方が商品の品質よりも重要視されていた時代ではなかったでしょうか。マークをつけていること自体がステートメントであったという時代だったと思います。
 現在は変わっています。ラグジュアリーとは、上質を求め時間のゆとりを持つことになったと考えています。
 もちろんブランドマークやロゴそのものがまったく重要視されなくなったというわけではないですが、「ブランドロゴ=(イコール)ラグジュアリー」という単純なものではありません。その商品も大事ですが、その商品を使っている自分の時間の豊かさ、友人や家族と過ごす時間こそがラグジュアリーという時代になったと思います。
 最近ではさらに進化しており、自分とブランドとの関係性が重要になっていると感じています。つまり、自分の考え方がその商品やブランドが持っている考え方の本質と一致しているのかどうかということです。皆と同じものが欲しいというよりは、ユニークであるか、自分にマッチしているか、ブランドが目指している価値観と自分の考えが一致しているか、そのブランドは何を象徴しているのか、そしてそのブランドを身につけることによって自分に誇りを持つことができるかどうか、という考えを持つようになっています。私たちもそれを意識して、消費者とコミュニケーションをしないとなりません。レクサスというブランドはどういう理念や哲学を持ち、企業としてどういう理念や哲学を持ち、それを消費者の方が共感し、誇りに思ってもらえるかどうか、その方向性の一致というのが非常に重要になってきています。
(日本では、2005年に展開が始まったレクサスブランドだが、2014年の販売台数は4万4,000台を超え、4倍超にまで拡大している)
――日本でのレクサスブランド展開で重視していることは何ですか。
 1つの強みになっているものは、『おもてなし』の精神です。ディーラーにお客様が入ってきたときの『おもてなし』もありますし、車に乗り込んだときに、車がドライバーを歓迎するという意味での『おもてなし』も重要視しています。例えば、夜、車に鍵を持って近づくとドアノブが徐々に明るくなることも、『おもてなし』のお迎えです。そういうところが他のブランドと違うということを消費者にさらに伝えていきたいです

ロシアでも好調な理由

 (レクサスは、デフレ下のロシアでも販売増となった。2013 年は1万5,768 台、2014年は1万9,152台と21.4%増となっており、ロシアのラグジュアリーブランドの中では一番の伸び率となった)
――経済状況の不安定なロシアでレクサスが躍進した理由についてお聞かせください。
 ロシアは自動車の販売市場としては、ヨーロッパでは1位、グローバル市場ランキングでも4位と、成長性が見込めるものです。でも、ロシア経済はかなり変動が激しいので、次に何が起こるのかということを予想しにくいのです。現に、昨年はデフレ不況でした。しかし、経済の状況がこれだけ厳しいにも関わらず、レクサスの販売実績は非常に良好です。2013年に新しいISとGXが投入され、ESやRXの特別仕様車も販売成績が良く、2014年には20%増になりました。マーケットシェアも10%まで上がっています。2015年にはNXが出たこともあり、さらに勢いがついているということは間違いないでしょう。これはブランドの力とマーケティングの効果が十分にあったということだと思っています。
 レクサスがロシアで好調だった理由の第一は、商品力の高さです。
 ロシアは、気象条件や道路の整備状況が厳しい国です。それでもレクサスはさまざまな環境に対応できる車として高い評価を受けており、品質の高さ、耐久性、信頼性が評価されているというわけです。
 また、ロシアの場合、交通渋滞の問題もあって、通勤にかなり時間がかかるということも挙げられます。車の中で過ごす時間が長いので、移動手段以上のもの、即ち車中ではラグジュアリーに過ごしたいという欲求も出てきます。例えばGXならシートがファミリーユースにも合っているうえ、厳しい環境にも耐えられるし、心地よさも味わえるということになるでしょう。いわば消費者が求めている機能にレクサスが応えることができ、自分のライフスタイルに合った車を選ぶことができるというところが、ロシアでのレクサスの販売好調要因のひとつだと思っています。
 そして、レクサスはやはりラグジュアリーブランドであり、その品格、格の高さ、プレステージを認めてレクサスを買うユーザーがたくさんおられたのでしょう。プレステージとは、成功の象徴でもあるからです。
 また、一般のお客様がショールームに行ったときの『おもてなし』の感覚が味わえることも、ロシアのユーザーにとっては、今まで馴染んできた他の自動車販売のスタイルと違うということも魅力になっていると思います。
――ロシア国民にとって、レクサスのショールームはハードルが高くはないでしょうか。
 レクサスに興味がある人は、あくまでもラグジュアリーカーを求める顧客層なので、ハードルが高いということはないと思います。ただ、ロシアの市場でレクサスを購入する層は、年齢層が世界市場の比較の中で若く、ロシアの場合には平均年齢が41才となっているというデータもありまして、若い方がラグジュアリーカーを買っている傾向が見られます。そこから類推しますとレクサスのショールームに足を運ぶことは、ハードルが高いことはないでしょう。
 ロシア含めて、レクサスが良い実績を上げている市場はとくにその傾向が強いのですが、ディーラーなどのビジネスパートナーが不断の努力をしていることも挙げられます。私は米国市場のほか、他の国の市場も見ていますがやはり、ビジネスパートナーの尽力が相当大きいことは実感しています。
 ロシアもその好例です。昨年もネットワークを拡大して約50のディーラー網となっていますし、今年もさらに増やす予定です。もちろん商品やブランド力も強いということもありますが、最終的にお客様が店舗に入ってきて車を購入する、という行動につながる経験をより豊かなものにしていくのは、ディーラーの努力なのです

ラグジュアリーブランドとして目指していること

――これからのレクサス像についてお聞かせください。
 ラグジュアリーブランドとしてさらに目指しているのは、『エモーショナル=感情に訴える』ブランドであることです。そもそも車を買うという行為自体がエモーショナルですし、人生の中でもかなり大きなイベントであることは間違いないでしょう。ラグジュアリーブランドの場合はとくにその側面が強いと思います。
 レクサスの品質の高さ、おもてなしの精神を反映していること、インテリアも素晴らしいなど、合理的な側面でお客様に訴えることができると思っています。
 もう一つがドライビングダイナミクスです。ドライバーにとって優れたドライビング・プレジャーと、テクノロジーの進化とともに感情に訴えるものを提供したいです。ドライビングダイナミクスを前面に打ち出すことでドライバーの感覚に直接訴えかける、いわば五感に訴えるような商品とブランドにしていきたいと思っています。
――モータースポーツへの参加も「エモーショナル」と関わっているのですか。
 はい。モータースポーツはエキサイティングで、見る人の感情に訴えるものですし、エモーショナルなものです。モータースポーツで実績を上げていけるブランドだと愛着が湧き、感情に訴えることができると思っています。
 また、モータースポーツに参加することは、さまざまな環境やシナリオのもとで、車両テストも行えるので、今後の車両の研究開発にも役立てることができるのです。
――レクサスインターナショナルの活動について教えてください。
 2012年6月に組織再編を行い、レクサスインターナショナルとして、グローバルブランディングについて本格的に取り組み始めました。その一つがモータースポーツへの参加であり、他にも、レクサス・デザインアワード、レクサスショートフィルム、インターセクト・バイ・レクサス、ライフスタイル提案型マガジンBEYONDなどたくさんの活動をしています。
 車という商品だけにとどまらず、レクサスユーザーになっていただきたいお客様が関心を持っている分野に対してレクサスが関与する、そしてその行為を通じてその活動に係わる方々とコネクションを持つことができるということが重要だと思っています。各分野で最先端のことに取り組んでいる若い人たちやデザイナーの活動や作品に共感し、若い世代を育てる活動を続けたいと思っているのです。
 インターセクト・バイ・レクサスは、2013年に1号店が東京にオープンしました。今年の後半にドバイ、来年にはニューヨークにも展開予定となっています。
 このような取り組みは、車という商品だけではなく、ブランドの本質やストーリーについてお伝えするための活動です。さまざまな形でレクサスブランドを外に対して発信していきたいと思っています。
 グローバルブランディングの活動は、レクサスインターナショナルがリードしています。しかし、各国がマーケティングを行い、積極的に各国市場に合わせたブランディングを行っているところに特色があると思います。必ずしも各市場で同じことをやらなくてはならないということではなく、レクサスインターナショナルがやることによって、1つのきっかけを提供するし、各国市場の担当者がそれに参加するという形で、さらに独自性あふれるイベントを各国市場で行うということになり、最適化が行われていくのです。
――ブランド構築にあたって大事なことは何でしょうか。
 レクサスでは、車を買いに来た方に素晴らしい経験をしていただけるかが重要だと思っています。消費者が望むものは、日本市場だけでなくどこの国でも進化していくものだと思っていますので、それに沿ったかたちでお客様、または潜在的なお客様に提供できる経験の内容も進化させていかねばなりません。
 お客様が求めていらっしゃるものや条件と同じもの、だけではなく、その期待を上回る経験を常に先回りして提供していかないとなりません。簡単なことではありませんが、私たちは努力を続けていきたいと思っています。
――デイビッドさんが最もエモーショナルだと思っている車種はなんですか。
 レクサスはどれもエモーショナルで素晴らしいですが、強いて挙げるとすれば、RC FとNXです。RC Fは自分のドライビングテクニックよりも上手なドライバーになった気分、まるでレーサーにでもなったような感覚が味わえます。ステアリング、ブレーキング、トルクなど技術面でも卓越したものがあります。
 また、私はアウトドアが大好きなので、NXはワクワクする一台です。街中を普通に運転することもできるし、自転車を積んで移動もできます。
 レクサスにはライフスタイルに合った車種が揃っていますので、どんな方でもエモーショナルを感じられる1台が見つけられると思います。
 私は、実際商品が市場に出る3年前にデザインを見ることができる立場ですが、今レクサスが好きと言ってくださるお客様なら、将来出てくる商品はもっと好きになるはずです。今が”LIKE”なら将来は”LOVE”になる素晴らしい商品が出てくると、自信を持って言えるのです。(ZUU online 編集部
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