ツイッターが業績不振にあえいでいる。ここ数カ月間、同社を上場に導いたCEOの辞任、ニセの身売り報道など幾多の“災難”に見舞われた米IT企業には、実は上場当時から抱える赤字があり、黒字化できていない。その理由とは―。
《ツイッター(Twitter)》
2006年に創業した米IT企業で、短文投稿サイト「ツイッター(Twitter)」を運営する。ツイッターには毎月約2億8500万人がログインする。米国ではスマホユーザーの約20%が、そのほかの地域では同9%が利用している。ツイッターの時価総額は2009年当時に破格とされた10億ドル(約1100億円)から、2014年11月現在、250億ドル(約2.9兆円)に達したといわれる。〔日本経済新聞より〕
2006年に創業した米IT企業で、短文投稿サイト「ツイッター(Twitter)」を運営する。ツイッターには毎月約2億8500万人がログインする。米国ではスマホユーザーの約20%が、そのほかの地域では同9%が利用している。ツイッターの時価総額は2009年当時に破格とされた10億ドル(約1100億円)から、2014年11月現在、250億ドル(約2.9兆円)に達したといわれる。〔日本経済新聞より〕
度重なる“災難”で踏んだり蹴ったり
1~3月期は成長鈍化…月間ユーザー数の増加ペースが過去最低
ツイッターが4月28日に発表した2015年1~3月期決算は売上高が前年同期比74%増の4億3593万ドル(約518億円)で、3月末時点の月間利用者数は18%増の3億200万人。しかし、売上高や利用者の増加ペースが大幅に鈍化した。
CEOだったコストロ氏が事実上の引責辞任(7月1日付け)
ツイッターは6月11日、ディック・コストロ最高経営責任者(CEO)が辞任すると発表した。創業者の一人ジャック・ドーシー氏が7月1日から暫定でCEOに復帰。コストロ氏は取締役に降格し、社内にとどまる。同氏の突然の辞任は投資家の圧力によるものとの見方が強い。
さらなる追い討ち…ニセの身売り報道で株価急落(7月14日)
7月14日、「ツイッターが310億ドルの買収提案を受けて銀行団と協議している」との記事が、ブルームバーグを模倣したサイトに掲載され、直後にツイッターの株価は急騰した。一時は前日比8%まで上昇したが、虚偽報道であることが伝わると一転、急落した。
《CEOを辞任した「ディック・コストロ氏」とは》
米グーグル出身でコメディアンだった異色の経歴を持つ。2010年にツイッターのCEOに就任。広告事業を軌道に乗せツイッターを2013年の上場に導いた。
ツイッターのCEOだったディック・コストロ氏
上場で前途洋々のはずが…実情はFBとの間に収益で大差
2013年11月に株式上場。上場企業としてのブランド力をてこに飛躍することが当初の戦略だった
ツイッターは2013年11月7日、ニューヨーク証券取引所に上場を果たし、投資家からの買い注文の殺到という形で、市場にも歓呼で迎えられた。株式上場を果たし、資金調達の道を広げるとともに、上場企業としてのブランド力をてこに一段の飛躍を期すのが、ツイッターの描いた戦略だった。
にもかかわらず、いまだ赤字続きで株価も低迷。FBは上場から半年で黒字化したのに
投資家がツイッターとの比較対象とするフェイスブック(FB)は上場から半年で黒字化し、その後一気に利益を伸ばしたが、ツイッターはいまだ最終赤字が続く。株価もFBは上場後一年半で約5割上がったが、ツイッターは約2割下がっている。
利用者3億人も、利用者の伸び率は2015年に入り10%台に鈍化
ツイッターの利用者は現在、世界で約3億人。2013年に約4割だった伸び率は15年に入り1割台に鈍化している。利用者の定着率も低く、ユーザー1人当たりの収益は利用者数14億人を抱えるFBの半分以下。
「多くの株主は不満を抱いている」(米調査会社アナリスト)
米調査会社ピボタル・リサーチ・グループのアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏は、ブルームバーグに対し、「ツイッターの多くの株主は不満を抱いている」と指摘。「株主はユーザー数が伸びると説明されていたが、約束が果たされていない」と苦言を呈している。
赤字決算の裏に“やむをえない”支出
1年間の売り上げの50%に相当する研究開発費
赤字決算が続いているにもかかわらず、ツイッターは年間800億円を超える研究開発費を計上している。これは2014年度の売上高の50%近くに達する。
人材つなぎ留めるため「不可欠な」ストックオプション
ツイッターは2014年、株式報酬型ストックオプションの支払いに売上高の約45%を充てている。しかしこの支払いがなければ、黒字を達成できたはずだった(他社の比率は、FBは15%未満、グーグルは約8%)。ツイッターにとってストックオプションは人材をつなぎ留めておくための不可欠な手段となっている。
主な収益源である広告でも「支出」の穴を埋められず
経営上、「タイムライン閲覧数」が極めて重要な意味を持つ
ツイッターは、広告を主な収益源としており、一般的なウェブサイトにおけるページビューに相当する「タイムライン閲覧数」が経営上、極めて重要な意味を持っている。
収入は広告主がタイムラインに挿入する「プロモツイート」など
ツイッターは、広告主がユーザーのタイムラインに挿入する「プロモツイート」などの広告に課金することで収入を得ている。大手の消費者ブランド各社は、ユーザーの関心事や在住地に合わせてメッセージを送ったり、ユーザー自身がツイートで使うリアルタイムで会話調の表現を用いたりすることを好む。
しかし、短文投稿サイトゆえ、広告主にとっての利用価値に疑問も
ツイッターでは、ユーザーによる読み書きがほぼ一瞬で終わってしまうため、広告主にとっての利用価値が疑問視されている。実際、ツイッターが創り上げた140文字の断片的なメッセージの膨大な羅列は、大半のインターネットユーザーにとってあまり価値がない。
ツイッター側は「インタレストグラフ」を“売り”にするが、広告主にとってはそれ単体では意味をなさない
ツイッター側は、広告主に意味があるのは、インターネットユーザーの関心事をリアルタイム表示する「インタレストグラフ」だと主張する。だが、何かに「興味がある」と言うだけでは、大した意味はない。
正確なターゲッティングとデータ収集という点で、FBに後れ
デジタル広告の魅力は、より正確なターゲッティングとデータ収集をできる点。ツイッターはどちらの点でもFBに後れを取っている。ツイッターでは、ユーザーの関心事に基づいて広告主がユーザーにアクセスできる一方で、ユーザーの出身大学や誕生年など、FBが収集するような詳しい人口統計的データはない。
ツイッターへの広告出稿検討は、FBやグーグルの二の次になっている
米調査会社のイーマーケッターによると、FBは米国におけるデジタル広告支出の約10%を握る。マーケッターは、グーグルやFBなどの代表的なデジタルサービスに広告を載せた後になって、初めてツイッターの広告枠を購入する状態となっている。
4~6月期、ダイレクトレスポンス広告への投資を強化も…需要が鈍く痛手に
ツイッターは2015年4-6月期、アプリケーションのダウンロードやウェブサイト訪問といった消費者の行動を誘うダイレクトレスポンス広告(DRA)への投資を強化しようとしているが、前四半期は課金方法の変更を受けてDRAに対する需要が鈍く、売り上げに予想外の痛手を受けた。
そもそも、収益性への課題は上場前からの懸念だった
ツイッターは2013年10月時点で、モバイルへの取り組みではFBなどを先行、モバイルユーザーが全体の75%を占め、売上高の65%以上をモバイル広告で上げていた。売上高全体も十分に伸びており、同年4-6月期は2倍以上の増収となった。しかし、利益率は低く、広告料金は下落、同社は当初から広告での収益に苦戦していた。
後任決まらず、買収観測も根強いまま
ドーシー氏は緊急登板のワンポイントに過ぎず
ツイッターは、生みの親1人であるドーシー氏を再び押し立てて、業績回復に取り組んでいるが、ドーシー氏は兼務する電子決済サービスの米スクエアのCEOが“本業”であり、そもそも緊急登板のワンポイントで、求心力をどこまで発揮できるか不透明。
にもかからず、後任探しの進捗は芳しくない
ドーシー暫定CEOは7月28日の決算報告の場で、正式なCEO探しの進ちょくについて「新しい情報はない」と述べるにとどめた。
狙っているのはグーグルやアリババ? 市場では買収観測も根強い
7月14日の買収報道自体は真っ赤なニセ物だったが、ツイッターをめぐる買収観測自体は市場で根強い。米メディアによると、買い手“候補”になっている企業は、グーグルや、中国の電子商取引大手の阿里巴巴集団(アリババ・グループ)など。とくにグーグルは、以前からツイッターに食指を動かしているとの噂が絶えない。
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ちなみに、「収益」は広告依存型ネット企業の共通問題とも
グーグルやFBも収益の伸び悩みに直面
JB Pressによると、決算に変調が見られるのは、実はツイッターだけではないという。グーグルやFBなど、広告依存型のネット企業は、程度の差こそあれ、収益の伸び悩みに直面している。
グーグルはAIやロボットの開発、FBは積極的な買収で現状を打破しようとしている
グーグルは中長期的に、人工知能(AI)やロボットなど新しい技術を活用したサービス導入によって収益性の問題を解決しようとしている。FBも、2012年には「インスタグラム」、14年にはメッセージングアプリを提供する「ワッツアップ」を買収したように、積極的な買収を行い、研究開発投資を加速させている。