【安保法案 この道の先は…】日米同盟の強化不可欠 熊本県立大理事長 五百旗頭真さん










冷戦後、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。中国と北朝鮮による軍事的な挑戦だ。中国は1992年制定の領海法に、わが国の沖縄県・尖閣諸島や南シナ海の島々も自国領土だと明記した。相手の抵抗力が弱く、状況が許すところから、それを実行に移す長期戦略のようだ。経済的にも軍事的にも、米国と並び立つ大国になりたい、というのが今や彼らの「民族の夢」なのだと思う。
 経済成長を土台に、中国は大変な勢いで軍拡を進めている。国防費は冷戦後の20年間で20倍に増えた。日本が防衛力を多少強化しても、日本一国では対応しきれない。国際関係の活用が肝要だ。とりわけ日米同盟の強化だ。日米関係が強固で「不可分」なら、どんな国も日本に手を出せない。核やミサイルをもてあそぶ北朝鮮にしても、そうだ。
 米艦が日本周辺で攻撃されたとする。それを日本が「集団的自衛権は行使できませんから」と放置すれば、米国世論は「日本を守る義理はない」となるだろう。日米同盟はそこで終わる。限定的に集団的自衛権の行使を認めることは賢明な判断だ。
 ただ、集団的自衛権にしても、後方支援にしても、「米国に言われたから」と何でもやるでは困る。ベトナムやイラクで米国は間違った戦争をした。日本が関わるかどうかは(1)その戦争に国際的な正当性があるか(2)自衛隊に能力があるか(3)国益にかなうか-の3点に照らして判断する必要があると考える。
 世界各地で、民族紛争や宗教対立などのごつごつした岩が顔を出している。そうした紛争や脅威に、多くの国が協力して国際安全保障を支えていく時代だ。必要な場合には、必要なことはする。しかし、間違った戦争には加担しない。日本も聡明(そうめい)な判断ができる自立した国になることこそが、中心課題だ。
 中国が周辺の資源を力で奪う愚行をやめ、お金を払ってエネルギーを買う常道に立ち戻り、「責任ある大国」となる国際的な取り組みが、今日の人類史的な課題だと思う。
(聞き手は中島邦之)
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 いおきべ・まこと 兵庫県西宮市生まれ。専攻は日本政治外交史。神戸大教授を経て2006~12年に防衛大学校長。現在、ひょうご震災記念21世紀研究機構の理事長。
=2015/07/11付 西日本新聞朝刊=

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