山口県にある日立製作所笠戸事業所から出荷された、最初の都市間高速鉄道計画(Intercity Express Programme/以下IEP)向けClass800量産先行車5両1編成が3月12日に英国のサウザンプトン港に到着した。クリア・ペリー運輸政務次官をはじめとして、多くの関係者を招いての到着セレモニーが催され、その様子は公共放送のBBCなど各局のニュース番組で報じられた。
鉄道最前線~経済の大動脈を徹底解明!
Class800は、最初の12編成76両が笠戸事業所で製造され、残りの110編成790両は、現在ダーラム州ニュートン・エイクリフに建設中の鉄道車両工場(2015年夏頃完成予定)で製造される予定だ。
■ 現地に工場を置き、雇用も創出
当初、英国以外の国で製造される車両を導入することは、英国内の雇用を奪うことになるとして反対する意見もあり、日立にとってはこの車両更新プログラムを獲得するうえでの大きな壁となっていた。だが、英国内に工場を置くことで雇用を創出するということもあり、この事業の獲得に成功した。
英国内で活躍する日立製作所の鉄道車両と言えば、2012年に開催されたロンドンオリンピックのメイン会場への足として、2009年より営業を始めた395系車両、通称「ジャベリン」が有名である。だが、それ以外にも目立たないところで日立の車両が活躍している。
ジャベリンと同じ、サウスイースタン鉄道で使用される近郊型車両465系は、製造当初より信頼性に多くの問題を抱えていたが、日立はこの465系の更新案件を受注、制御装置など足回り一式を日立製に交換した。その後、465系は故障もほとんどなくなり、品質の面で日立は高い評価を得た。
こうして着実に実績を積み重ねてきたことも、今回の大型案件を受注できた理由のひとつであろう。
鉄道最前線~経済の大動脈を徹底解明!
Class800は、最初の12編成76両が笠戸事業所で製造され、残りの110編成790両は、現在ダーラム州ニュートン・エイクリフに建設中の鉄道車両工場(2015年夏頃完成予定)で製造される予定だ。
■ 現地に工場を置き、雇用も創出
当初、英国以外の国で製造される車両を導入することは、英国内の雇用を奪うことになるとして反対する意見もあり、日立にとってはこの車両更新プログラムを獲得するうえでの大きな壁となっていた。だが、英国内に工場を置くことで雇用を創出するということもあり、この事業の獲得に成功した。
英国内で活躍する日立製作所の鉄道車両と言えば、2012年に開催されたロンドンオリンピックのメイン会場への足として、2009年より営業を始めた395系車両、通称「ジャベリン」が有名である。だが、それ以外にも目立たないところで日立の車両が活躍している。
ジャベリンと同じ、サウスイースタン鉄道で使用される近郊型車両465系は、製造当初より信頼性に多くの問題を抱えていたが、日立はこの465系の更新案件を受注、制御装置など足回り一式を日立製に交換した。その後、465系は故障もほとんどなくなり、品質の面で日立は高い評価を得た。
こうして着実に実績を積み重ねてきたことも、今回の大型案件を受注できた理由のひとつであろう。
では、実際のところ英国人は、日立をはじめとする日本製品のことをどの程度知っていて、どのような印象を抱いているのだろうか。今回、ロンドン市内で無作為に選んだ21人の方にアンケート調査を行ってみたところ、興味深い結果を得るに至ったので、ここでご紹介することにしよう。なお、これは筆者が個人的に行ったアンケート調査ゆえ、分母が非常に少なく、記録として残せるようなものではない。あくまで、英国内におけるごく一部の声であるという点を、どうかあらかじめご了承いただきたい。
今回は21人のうち、8人はジャベリンが発着するロンドン市内セントパンクラス駅構内で、これからそのジャベリンに乗車しようという乗客の皆様に、残りの13人は街中でそれぞれお答えいただいた。
■ 日立ブランドの知名度は?
まず、セントパンクラス駅構内の8人に「英国内に日本で製造された列車が走っていることを知っているか」と聞いたところ、「知っている」と答えたのはわずか3人にとどまった。知っていると答えたのは20~40代の男性のみで、女性は関心が薄いせいか、知っていると答えた方は皆無であった。一方で、ジャベリンへの乗車目的を尋ねたところ、5人は通勤で使用しており、3人は旅行者であった。
通勤者は、平日の5日間毎日乗車する人は少なく、週3日だけ出社の人や、週末だけ郊外の自宅へ戻るため、週1往復だけ利用する人もいた。英国内の高速新線CTRL1(Channel Tunnel Rail Link)が完成し、ジャベリンが走り始めたことで、これまで2時間掛かっていたロンドン~アシュフォード間がわずか40分と半分以下に短縮された。これを機に、郊外に家を購入してそこから通勤する人が増えたのだろう。今も車内広告では、「わずか40分で都心へ」という不動産広告が目につく。
なお、この8人の中で、今まさに乗車しようとしている車両が、日本製であると知っている人はたったの1人だけ。残りはそうと知らずに乗車していた。残念ながら、日立の名前は思った以上には英国民に浸透していないように感じた。
次に町中で回答を得た13人に、日立の列車(ジャベリン)に乗車したことがあるか、という質問をしてみたところ、13名全員が乗車したことがないと答えた。実際、現在のところ日立製の車両として唯一の存在であるジャベリンは、ドーバーやカンタベリー、アシュフォードといった、ロンドンから南東部への路線で走っているのみなので、その地域への用事が無ければ乗車する機会はなく、これは当然の結果ではある
今回は21人のうち、8人はジャベリンが発着するロンドン市内セントパンクラス駅構内で、これからそのジャベリンに乗車しようという乗客の皆様に、残りの13人は街中でそれぞれお答えいただいた。
■ 日立ブランドの知名度は?
まず、セントパンクラス駅構内の8人に「英国内に日本で製造された列車が走っていることを知っているか」と聞いたところ、「知っている」と答えたのはわずか3人にとどまった。知っていると答えたのは20~40代の男性のみで、女性は関心が薄いせいか、知っていると答えた方は皆無であった。一方で、ジャベリンへの乗車目的を尋ねたところ、5人は通勤で使用しており、3人は旅行者であった。
通勤者は、平日の5日間毎日乗車する人は少なく、週3日だけ出社の人や、週末だけ郊外の自宅へ戻るため、週1往復だけ利用する人もいた。英国内の高速新線CTRL1(Channel Tunnel Rail Link)が完成し、ジャベリンが走り始めたことで、これまで2時間掛かっていたロンドン~アシュフォード間がわずか40分と半分以下に短縮された。これを機に、郊外に家を購入してそこから通勤する人が増えたのだろう。今も車内広告では、「わずか40分で都心へ」という不動産広告が目につく。
なお、この8人の中で、今まさに乗車しようとしている車両が、日本製であると知っている人はたったの1人だけ。残りはそうと知らずに乗車していた。残念ながら、日立の名前は思った以上には英国民に浸透していないように感じた。
次に町中で回答を得た13人に、日立の列車(ジャベリン)に乗車したことがあるか、という質問をしてみたところ、13名全員が乗車したことがないと答えた。実際、現在のところ日立製の車両として唯一の存在であるジャベリンは、ドーバーやカンタベリー、アシュフォードといった、ロンドンから南東部への路線で走っているのみなので、その地域への用事が無ければ乗車する機会はなく、これは当然の結果ではある
今後、IEPの計画が進んでいき、西部や北部方面への都市間特急インターシティが日立製の車両へ置き換わったあと、どのような結果となるかが興味深い。
■ 日本製品のイメージは?
では日本製品について、英国民はどのような印象を抱いているのだろうか。全員一致で同じ意見だったのが、性能、品質と信頼性の高さで、これはすべての日本製品に当てはまることだった。
ブランドの浸透度としては、ホンダ、トヨタといった自動車メーカーを筆頭に、ソニー、そして東芝といったエレクトロニクス関連が挙がっている。ホンダは、今年の成績はあまり芳しいとは言えないが、やはりF1での過去の偉業のおかげで熱烈なファンも多く、実際にこのアンケート調査でも2人がホンダユーザーであった。
一方のトヨタは、レースの世界ではなく、ハイブリッドなどエコ技術の知名度が高く、プリウスのブランド名は誰もが知っている。ソニーはオーディオやゲーム、東芝はパソコンがそれぞれ有名だったが、いずれも日本製品は、ハイテク技術で世界をリードしているというイメージが強い調査結果となっている。
しかしその一方で、どれが日本製品かわからない、という意見も少なからずあった。最近は中国や韓国の製品が増えたことで、関心が無ければ見分けがつかない人もいるようで、また前述ソニーのような横文字の社名で日本製品と気づかない人もいる。「ソニーはアメリカ製品だろ?」と真顔で答えた人もいるくらいだ。
日本の鉄道についてはどうか。日本を鉄道で旅したことがある人は少ないが、日本の鉄道は正確で速い、というイメージはあるようで、特に新幹線の知名度は高く、日本の鉄道=新幹線というほどに浸透しているようだ。
■ 意外と日本製品の人気は高い
今回のインタビューでは、そのほかいろいろな意見を聞くことができた。
通勤で週1日利用するという20代の男性は、ジャベリンが日本製であることは知らなかったが、「故障が原因で止まったことは、これまで1度もないんじゃないかな。なるほど、日本製なら壊れないはずだ」と語っていた。
50代女性は、「これ日本製なの? それは知らなかったわ。快適で気に入っているわ。」と好印象だったが、「とはいえ最近、トイレが汚いと思うの……でもそれって、使っているのが私たち英国人だから関係ないわね」と笑いながら答えていた。時刻の正確さもしかり、日頃の運用は運営する側に責任が委ねられるので、それがどこで製造されたかは関係のないことである。
平日の5日間、毎日通勤で利用している40代の男性は、日本製品に関心が高く、自家用車もホンダという熱烈な親日家。「ジャベリンは日立製だろう? アシュフォードに工場があるよね(注:車庫内にメンテナンス工場がある)」と日立のブランド名まで知っていた。なぜそこまで関心があるのか、やはり日本製品の品質の高さが理由のようで、かつてヨーロッパでホンダやスバルといった日本車がレースの世界を席巻していた頃に日本製品を知り、すっかり魅せられたようだ
■ 日本製品のイメージは?
では日本製品について、英国民はどのような印象を抱いているのだろうか。全員一致で同じ意見だったのが、性能、品質と信頼性の高さで、これはすべての日本製品に当てはまることだった。
ブランドの浸透度としては、ホンダ、トヨタといった自動車メーカーを筆頭に、ソニー、そして東芝といったエレクトロニクス関連が挙がっている。ホンダは、今年の成績はあまり芳しいとは言えないが、やはりF1での過去の偉業のおかげで熱烈なファンも多く、実際にこのアンケート調査でも2人がホンダユーザーであった。
一方のトヨタは、レースの世界ではなく、ハイブリッドなどエコ技術の知名度が高く、プリウスのブランド名は誰もが知っている。ソニーはオーディオやゲーム、東芝はパソコンがそれぞれ有名だったが、いずれも日本製品は、ハイテク技術で世界をリードしているというイメージが強い調査結果となっている。
しかしその一方で、どれが日本製品かわからない、という意見も少なからずあった。最近は中国や韓国の製品が増えたことで、関心が無ければ見分けがつかない人もいるようで、また前述ソニーのような横文字の社名で日本製品と気づかない人もいる。「ソニーはアメリカ製品だろ?」と真顔で答えた人もいるくらいだ。
日本の鉄道についてはどうか。日本を鉄道で旅したことがある人は少ないが、日本の鉄道は正確で速い、というイメージはあるようで、特に新幹線の知名度は高く、日本の鉄道=新幹線というほどに浸透しているようだ。
■ 意外と日本製品の人気は高い
今回のインタビューでは、そのほかいろいろな意見を聞くことができた。
通勤で週1日利用するという20代の男性は、ジャベリンが日本製であることは知らなかったが、「故障が原因で止まったことは、これまで1度もないんじゃないかな。なるほど、日本製なら壊れないはずだ」と語っていた。
50代女性は、「これ日本製なの? それは知らなかったわ。快適で気に入っているわ。」と好印象だったが、「とはいえ最近、トイレが汚いと思うの……でもそれって、使っているのが私たち英国人だから関係ないわね」と笑いながら答えていた。時刻の正確さもしかり、日頃の運用は運営する側に責任が委ねられるので、それがどこで製造されたかは関係のないことである。
平日の5日間、毎日通勤で利用している40代の男性は、日本製品に関心が高く、自家用車もホンダという熱烈な親日家。「ジャベリンは日立製だろう? アシュフォードに工場があるよね(注:車庫内にメンテナンス工場がある)」と日立のブランド名まで知っていた。なぜそこまで関心があるのか、やはり日本製品の品質の高さが理由のようで、かつてヨーロッパでホンダやスバルといった日本車がレースの世界を席巻していた頃に日本製品を知り、すっかり魅せられたようだ
さて、番外編と言えるかもしれないが、今回はジャベリンを実際に運転する運転士2人にも聞いてみた。仕事が終わった後に、突然質問したにもかかわらず、真剣に答えてくれたお2人には感謝するが、いずれも最初に出た言葉は、ジャベリンの高い信頼性であった。
「もちろん、日本製であることは知っているよ。英国製の車両はすぐに故障したりするが、まず故障しない高い信頼性、そして癖が無くて操縦性も良いね、とても運転がしやすい。あ、エアコンがよく効くのがありがたいね(笑)」と、さすが毎日乗務している者らしい意見を聞くことができた。
■ 工場を英国内に置く理由とは
ところで気になるのが、日本製品を英国内へ導入することに対して、反対する意見があるかどうかだ。この質問に対して、なんと全員が日本製品を導入することに賛成しており、また英国内へ工場を置き、雇用が増えることはむしろ歓迎すべきことだ、という意見が大勢を占めた。
実際のところ、英国の鉄道車両メーカーは、業界再編によって他国のメーカーなどに吸収合併されているので、純粋な英国車両メーカーというのは存在しないが、たとえばボンバルディア(本社カナダ、ただし鉄道車両部門の本社はドイツ)はダービーに工場を持っているので、英国製の車両と言える。また、シーメンス(ドイツ)はドイツの工場で車両を製造しているが、英国内にメンテナンス工場をいくつも持ち、また医療機器メーカーとして有名な同社は、鉄道車両以外の分野でもすでに多くの雇用実績がある。
日立が山口県で製造して、それを輸出するという形態を採ることは、コストと雇用の両面から見て、決して好ましいものではないと英国政府が考えるのは自然なことである。日立も、今後ヨーロッパを中心とした海外で事業を拡大していくためには、現地工場の建設は避けて通れないことだったのであろう。
2015年2月24日、日立製作所はイタリアの大手重工業メーカーのフィンメカニカ社から、鉄道車両・信号部門である傘下のアンサルドブレダ社、アンサルドSTS社を買収したことを発表した。
親会社のフィンメカニカは、航空・防衛関連の業界では世界トップ10に入る有力メーカーだが、その中の鉄道部門である2社は経営が悪化しており、かねてより売却が検討されていた。中国を含む、いくつかのメーカーが手を挙げたが、最終的に日立が獲得。アンサルドブレダ社は、150年の歴史を誇る鉄道車両メーカーで、同社の自動運転地下鉄システムは高い評価を得ており、イタリア国内に複数の工場を持つ。
一方アンサルドSTSは、信号・制御システムにおける有力企業のひとつで、複雑なヨーロッパの信号システムを理解し、取り入れるために、日立としては喉から手が出るほど欲しかった分野であろう。両社の買収は、英国さらには欧州全体へ進出するための足掛かりとして、非常に重要だったことは間違いない。両社を手に入れることで、欧州での日立の評価が今後どのように変わるか、目が離せない。
「もちろん、日本製であることは知っているよ。英国製の車両はすぐに故障したりするが、まず故障しない高い信頼性、そして癖が無くて操縦性も良いね、とても運転がしやすい。あ、エアコンがよく効くのがありがたいね(笑)」と、さすが毎日乗務している者らしい意見を聞くことができた。
■ 工場を英国内に置く理由とは
ところで気になるのが、日本製品を英国内へ導入することに対して、反対する意見があるかどうかだ。この質問に対して、なんと全員が日本製品を導入することに賛成しており、また英国内へ工場を置き、雇用が増えることはむしろ歓迎すべきことだ、という意見が大勢を占めた。
実際のところ、英国の鉄道車両メーカーは、業界再編によって他国のメーカーなどに吸収合併されているので、純粋な英国車両メーカーというのは存在しないが、たとえばボンバルディア(本社カナダ、ただし鉄道車両部門の本社はドイツ)はダービーに工場を持っているので、英国製の車両と言える。また、シーメンス(ドイツ)はドイツの工場で車両を製造しているが、英国内にメンテナンス工場をいくつも持ち、また医療機器メーカーとして有名な同社は、鉄道車両以外の分野でもすでに多くの雇用実績がある。
日立が山口県で製造して、それを輸出するという形態を採ることは、コストと雇用の両面から見て、決して好ましいものではないと英国政府が考えるのは自然なことである。日立も、今後ヨーロッパを中心とした海外で事業を拡大していくためには、現地工場の建設は避けて通れないことだったのであろう。
2015年2月24日、日立製作所はイタリアの大手重工業メーカーのフィンメカニカ社から、鉄道車両・信号部門である傘下のアンサルドブレダ社、アンサルドSTS社を買収したことを発表した。
親会社のフィンメカニカは、航空・防衛関連の業界では世界トップ10に入る有力メーカーだが、その中の鉄道部門である2社は経営が悪化しており、かねてより売却が検討されていた。中国を含む、いくつかのメーカーが手を挙げたが、最終的に日立が獲得。アンサルドブレダ社は、150年の歴史を誇る鉄道車両メーカーで、同社の自動運転地下鉄システムは高い評価を得ており、イタリア国内に複数の工場を持つ。
一方アンサルドSTSは、信号・制御システムにおける有力企業のひとつで、複雑なヨーロッパの信号システムを理解し、取り入れるために、日立としては喉から手が出るほど欲しかった分野であろう。両社の買収は、英国さらには欧州全体へ進出するための足掛かりとして、非常に重要だったことは間違いない。両社を手に入れることで、欧州での日立の評価が今後どのように変わるか、目が離せない。
橋爪 智之