VGPヘッドホン大賞受賞! OPPOのポタアン「HA-2」をDAC用途や据え置きでも徹底活用



高橋 敦






個性の異なるアナログポータブルヘッドホンアンプ3機種との組み合わせを試していこう! ヘッドホンはOPPO「PM-3」を組み合わせた。


個性の異なる3種類のアナログヘッドホンアンプと組み合わせて試聴する

今回、あえて個性の異なる3種類のポータブルヘッドホンアンプと組み合わせることにした。Cypher Labs「AlgoRhythm Picollo」はポータブルながらアンプ部をディスクリート構成とした点が特徴だ。ORB「JADE next」は単三電池駆動として、電源周りを強化したことがポイントだ。そしてFOSTEX「HP-V1」は、真空管をポタアンである。このように方向性の異なるアナログポタアンと、HA-2のUSB-DACの組み合わせがどのようなサウンドを生み出すのか、聴き比べてみた。

■ポタアンながらフルディスクリート構成を採用した「AlgoRhythm Picollo」

AlgoRhythm Picolloは、シンプルでコンパクトな筐体にフルディスクリート構成の回路を詰め込んだヘッドホンアンプ。アンプの話では「オペアンプ」というパーツの名前をよく目にすると思うが、オペアンプとは簡単に言うと、増幅素子のトランジスタやその周辺パーツによる基本的な増幅回路一式を高密度に集積してひとつのチップにパッケージングしたものだ。それを使えば容易に小型にアンプ回路を設計&実装できる。
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Cypher Labs「AlgoRhythm Picollo DAC」¥OPEN(市場想定価格80,000円前後)

しかしこのモデルは10ペアのトランジスタ等のパーツを組み上げて設計&実装するフルディスクリート回路を採用。手間はかかるが自由度の高いその構成によって、汎用オペアンプでは実現できないサウンドを達成したという。最大再生時間30時間という点も普段使いでの扱いやすさとして大きなポイント。

HA-2と合わせると、高域の質感表現がほぐれて柔らかく、それでいてぼやけず細やかにといった印象だ。
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HA-2&MP-3と「AlgoRhythm Picollo DAC」を組み合わせたところ

わかりやすいところでは、女性ボーカルの声の質感、さわつきや柔らかな掠れといったところがより柔らかく繊細に表現される。シンバルも鋭いというよりはしなやかにシュッとしたキレ。他、ギターの軽く歪ませた音色のその微かな歪みのチリチリ感なんてところもノイジーで嫌なチリチリ感にはせず、うまく描き出してくれる。リバーブ(響き)が見える場面でもその成分が柔らかい。

一方で、中低域の明瞭度は、音色や空気感がほぐれる分だけHA-2単体より少し下がるかもしれない。そこも含めてHA-2単体よりもリッチな傾向だ。最先端DACとディスクリート構成アンプのコンビが「ほぐれた柔らかさ」を生み出すのが興味深い。

■単三電池駆動&電源周り強化の「JADE next」

こちらもシンプルなアナログ入力オンリーポタアン。技術面で特徴的なのは電源周りだ。本機は電源として単4電池2本を採用。1.5V×2の3Vという電圧はそのままでは一般的なポタアンの固定内蔵充電池に及ばない。しかし本機はそれを内部で10Vに昇圧することで駆動力をアップさせ、多くのヘッドホンの能力をさらに引き出せる「ハイインピーダンスモード」を搭載する。ノーマルモードであれば12時間動くところがハイインピモードでは5時間にまで落ちるが、「活動限界が短くなるハイパーモード」はかっこいいのでぜひ装備しておくべきだというのが男子の総意だろう。
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ORB「JADE next」¥OPEN(市場想定価格28,000円前後)

また単4型乾電池/充電池は現在おそらく最も利用されている型の乾電池。使い回せるので買い置きしておいても無駄になりにくいし、外出時に電池切れになってもすぐ入手できて便利だ。電池蓋がマグネット式で開け閉めしやすいのもポイント。

音を実際に聴いてみると、低音楽器の押しや膨らみがほどよく増強される印象。ベースとドラムスのリズムの重心を少し下げ、大柄で力強いドライブ感を引き出してくれる。また、例えばベースのハードタッチやスライドでの「ブォンッ」と大きく唸るようなニュアンスをより生き生きとさせてくれるところも好印象。
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HA-2&MP-3と「JADE next」を組み合わせたところ

音像が大柄になることもあり、HA-2単体で聴く場合の空間のすっきり感は後退するが、濃厚な表現を好む方には、この組み合わせによる密度感重視の空間性も合うかもしれない

真空管を採用した「HP-V1」

「HP-V1」はポタアンとしてはかなり大柄な部類だ。さらには内蔵充電池の充電にmicor USBは利用できず、本体付属の専用で電源アダプタを使わなくてはいけない。あと電源オンから音が安定して実力発揮開始するまでに1分ほど待たされる。

というわけで使い勝手の面ではなかなか手ごわいが、それもこれも本機が増幅素子として真空管を採用し、その力を存分に発揮させるべく大型のコンデンサーや充電池を搭載しているからなのである。おかげで音がよい上に個性もあるので、使いにくさにも目がつぶれるだろう。

HA-2と組み合わせての音だが、分析的という方向ではなく、全体に音楽的な色合いが強い。例えばハイハットシンバルは単純な音量的な大小だけでなく、叩く強さや叩く場所等で一打毎に使い分けられている音色、透明だったり粗かったりする音色の抑揚で、シンプルにリズムを刻む場面でも音楽的なダイナミクスを伝えてくる。その「音色の質感、それによる抑揚」の表現がこのアンプを通すと豊かになる印象だ。もちろん声やギター、あらゆる楽器に同じことが言える。
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HA-2&MP-3と「HP-V1」を組み合わせたところ

また低音楽器ではベースに押しや芯の硬さを上乗せしてくれるが、その具合がまた音楽的だ。調味料は加えているが、入れすぎていないしそもそもいい調味料を使っている、という雰囲気である。HA-2の最新鋭DAC部と真空管アンプのコンビならではのサウンドと言えるだろう。

ちなみに、当然と言えば当然なのだが、ライン出力には「Bass boost」スイッチの効果は適用されない。普段からそのオン/オフを活用しているHA-2ユーザーの方は、その点にはご留意いただきたい。

■据え置きシステムに組み込んでわかった「HA-2」のDACのポテンシャル

アナログポタアンとの組み合わせにより、HA-2のライン出力のサウンドのポテンシャルは確認できた。であれば、フルサイズのスピーカー再生システムに再生ソースとして組み込んでみることもできるのではないか。サイズや価格を考えるとHA-2を据え置きオーディオに組み合わせるという発想は意外かもしれないが、試す価値はあるはずだ。
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試聴ではあえてトータル100万円超えのシステムにHA-2を組み合わせて、USB-DACとしてのポテンシャルを探った

今回はピュアオーディオの上級プリメインアンプ&トールボーイ型スピーカーというシステムに合わせて試してみた。再生システムは「iPhone 6+Onkyo HF Player→HA-2→オーディオシステム」という流れ。アンプにはアキュフェーズ「E-600」、スピーカーシステムにはエラック「FS247 BE」を組み合わせた。

今回はあえてアンプとスピーカーで合計100万円超というシステムを組み合わせてみたのだが、そのサウンドにはちょっと驚かされる。組み合わせたのは実売39,000円のポータブルUSB-DACなのである。その力の全てを引き出すとまでは言わずとも、これでまず十分と納得できるクオリティを発揮してくれるのである。
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接続はライン出力からステレオミニ to RCAケーブルでアキュフェーズ「E-600」に接続した

静寂感や解像感、音色の透明度といった要素は特に見事。シンバル等の薄刃の描写、声の手触り感の描き出し方、雰囲気を厚ぼったくしない見通しの良い空間性といったところには強みさえ感じる。静寂感については、据え置き機にはあまりないポータブル機ならではの、バッテリー駆動という優位が働いているのかもしれない。もう少し欲しいと感じる要素をあえて挙げるなら音の厚みや力感だが、そこはアンプやスピーカーの選択とセッティングでカバーしやすい要素なので、工夫次第でなんともなるだろう。

そして後日、さらに現実的な使用環境として、自宅のデスクトップオーディオにHA-2を組み合わせて試聴してみた。



デスクトップオーディオとの組み合わせも試してみた

取材後、HA-2を自宅環境のデスクトップサイズのパワーアンプ一体型モニタースピーカーのGENELEC「6010B」と組み合わせて試聴してみた。前述のハイエンド・オーディオとの組み合わせも素晴らしかったが、この組み合わせではより地に足が付いた好相性と言える。デスクトップではそのコンパクトさもさらに光る。
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筆者宅のデスクトップシステムにHA-2を組み合わせたところ

なおパワードモニターはスピーカー側に音量調整が搭載されていない場合も多い。その場合はライン出力ではなくヘッドホン出力から接続し、HA-2側で音量を調整するといいだろう。また、卓上にぺたんと置くだけだとボリュームノブを指先でつまみにくいので、上の写真のようにスマートフォン用のスタンド等を使って斜めに立てる感じにするのがおすすめだ。

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HA-2はまず何より、それ単体でのポータブルヘッドホンアンプ/USB-DACとしての能力が素晴らしく、そこに薄さやスタイリッシュさやモバイルバッテリー機能といった提案性がパッケージングされていることが魅力だ。一方で、ライン出力を独立した端子で用意していることに、それを活用しても使ってほしいという意図、その用途にも応えられるという自信が垣間見える。実際その力はそれに応えてくれるものだった。

HA-2は単体で成立するポータブルアンプとして導入して間違いなし。さらには複数段や据え置きの運用にも対応可能と、その先で様々に使い倒していくことも見越せる魅力を持つ製品だ