ゼンハイザーのヘッドホン/イヤホン、通勤・通学にマッチする3モデルをレビュー


岩井 喬

PhileWeb

人気シリーズの最新世代機「CX 3.00」

CX 3.00はゼンハイザーの伝統的なカナル型モデルCXシリーズの最新世代として、前述したようにデザインやカラーリングを刷新。ブランドエンブレムが刻まれたシルバーパーツをハウジングトップに配置し、コンパクトながら高級感漂う仕上げとなっている。

またノズル部も金属パーツを用いるなど、CXシリーズのミドルクラス機であるが、基本性能を引き出すための技術投入には妥協がない。カラーリングはオーソドックスなブラックとホワイト、そして後述するMOMENTUM In-Earとも共通性を見出せるレッドという3色が用意された。

サウンド性は従来からクオリティの高いCXシリーズの良さを踏襲し、中低域の密度の高さと高域にかけての音ヌケの良さを両立。さらに旧来よりも中高域にかけての倍音成分がより豊かになったようで、弦楽器やボーカルの輪郭表現がよりハリ良く際立つようになった。バスドラムのリッチな押し出し感は重みを伴い、パワフルでどっしり描かれ、ジャズのウッドベースも胴鳴りをむっちりと響かせる。ピアノは低域方向への伸びも自然で、ハーモニクスをクリアに表現。女性ボーカルの透明感も高く、口元をシャープに際立たせている。

クラシック(レヴァイン指揮/シカゴ交響楽団『ホルスト:惑星』収録曲「木星」)では管弦楽器の旋律をハリ艶良く爽やかに描き、ローエンドを弾力良くまとめるが、アタックの密度感は非常に高く、低域の量感の高さも手伝い、どしんと豪快に響く。

ボーカルをはじめとする中高域の明瞭感、爽やかなタッチに対し、深く朗々と響く低域の豊かさはポピュラー/ロックとの相性も抜群であり、パワフルで押し出し良いロックのリズム感、シンセやギターのエッジをヌケ良く煌びやかに描いてくれる。

聴いていて心地よかったのは、TOTO『タンブ』収録曲「I Will Remember」におけるサイモン・フィリップスのファットなドラムサウンドや、サバイバー『バイタル・サインズ』収録曲「High On You」の高域の澄んだタッチだけでなく、ねばりやコシも感じられるシンセの密度感、ボディの肉付き良いボーカルの安定感にみられるウォームな描写性だ。

付属イヤホンからの買い替え、グレードアップとして現実味のある5000円強の価格であることを考えると、非常に高いポテンシャルを持つハイC/P機であるといえよう。耳当たり良い音色を持っていることもあり、長時間のリスニングでも疲れにくいことも魅力である。

きらりとした爽やかなサウンド「MOMENTUM In-Ear」

続いてはCX 3.00よりもアッパーなカナル型モデル、MOMENTUM In-Earである。こちらはMOMENTUM直系の洗練されたデザイン性と質感の高さを持っており、所有する喜びにも繋がる他とは一味違う個性的なフォルムが特徴となっている。耳に対して15度傾けたボディのつくりは人間工学に基づく設計で、装着性も高い。

こちらもノズル部に金属パーツを用い、耐久性とサウンドの両面に対し高い満足感が得られるよう考慮されている。ブラックとレッドのコントラストを効果的に生かしたカラーリングもエッジが効いており、フラットケーブルの表と裏で色分けするなど、より先鋭的な面も持たせた仕様も魅力的だ。

またiOS端末用リモコン付きの“I”モデルとGalaxyをはじめとするAndroid端末用リモコン付き“G”モデルが用意されていることも、より利便性の高さに繋がるポイントといえるだろう

CX 3.00よりはソリッドで高解像度な音質傾向であり、MOMENTUMシリーズらしいきりっとしたシャープな描写性を楽しむことができる。管弦楽器の旋律はブライトに輝き、ピアノのタッチも軽快だ。

中低域に関しても全く出ていないということはなく、CX 3.00よりも引き締め、高密度な弾力感を持つローエンドを聴かせてくれる。ボーカルもキレ良くスマートな音像となり、分離良く鮮やかに描く。高域にかけての倍音成分が豊かで、艶良く張り出すエッジ感を高めていることもあり、輪郭表現にも長けヌケ良く音場をまとめ上げる能力にポイントがありそうだ。

クラシックでは華やかでシャープな管弦楽器の立ち上がりを実感。ローエンドはどっしりと弾力良くまとめ上げる。ハーモニーはキラキラと煌びやかな余韻に溢れ、キレ良くリッチだ。

ジャズ(オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』収録曲「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」)のピアノはクリアかつブライトなタッチで、ハーモニクスも軽く爽やかな伸びをみせる。特にスネアブラシの明快さは耳馴染み良く、ドラムのキレ良いリズム感も印象的だ。ウッドベースの弦はハリ艶良く、胴鳴りも引き締め良く弾む。

爽快かつキレ良いサウンド性が特徴ということもあり、スピード感あふれるアップテンポな楽曲との相性も高そうだ。さらに高域の粒立ちの良さ、中低域の締まりの良さはあまり録音状態の良くない楽曲に対し、EQのように働き、ヌケ良く鮮明なサウンドに変えてくれる。

例えば、個人的に好きな楽曲だがヌケが今一つで残念に感じている、中原麻衣「my starry boy」(アニメ『れでぃ×ばと!』EDテーマ)あたりではベースが弾力良く引き締まり、声質のクリアさ、ヌケ感を効果的に引き上げ、分離良く音像をまとめてくれた。場合によっては音場の混濁感につながるリヴァーブの響きも整理され、声の鮮やかさと透明感ある余韻感がより際立ったサウンドとなる。

またこの楽曲とは違い、音数が詰め込まれすぎていて今一つくっきり感、分解能が足りないと感じていた、ももいろクローバーZ「猛烈宇宙交響曲/第七楽章・無限の愛」では個々のボーカルの輪郭をくっきりと描き、すっきりと浮き上がってきた。荘厳な合唱隊の旋律もつぶれず粒立ち良くまとめ、マーティ・フリードマンによるギターソロのソリッドで硬質な鮮明さ、パイロ音のヌケの良さも際立つ。ベースはどっしりと響いており、全体のバランスも良好だ


またサバイバー「High On You」では爽快なシンセやクリーンなエレキの旋律がクッキリと描かれるとともに、量感あるリズム隊も引き締め良くクリアにまとめ、透き通る清廉なサウンドとしてくれる。特にサウンドのはまり具合という点ではツーバスドラムのハイスピードなビートを味わえるヘヴィメタルとの組み合わせも外せない。

ライオット『Immortal Soul』収録曲「Riot」ではギターワークの鮮やかさも際立ち、キレ良いリズム隊のアタック感とともにスピード溢れるサウンドを楽しめる。中高域のカチッとした音色がきちんと出ているため、スネアのシャープさ、シンバルワークのヌケ良い輝きもひとつひとつ鮮明に引き出すのだ。低域については密度感をしっかり残しているが、量感としては比較的軽快な傾向となる。

きらりとした爽やかなサウンド性を持つMOMENTUM In-Earは、気分が沈みがちな時こそ持ち出したい、元気に溢れ、輝きに満ちた音楽を聴かせてくれるモデルといえるだろう。


低域の量感の豊かさ、空間性の広さを実感「MOMENTUM On-Ear」

最後は今回唯一のヘッドホンスタイルであるMOMENTUM On-Earだ。MOMENTUMの耳のせ型コンパクトモデルとして誕生した経緯もあり、アイコンとなるようなハウジング周りやヘッドバンドのデザイン性はそのまま継承されている。

そしてMOMENTUMと異なるのはカラフルなカラーリングを揃えたラインナップの豊かさにあるだろう。この色の豊富さと、レトロなフォルムを残しつつ小型化したことで女性に対してもアピール度の高い“かわいらしさ”を身につけた、ゼンハイザーの新境地ともいえるモデルだ

ヘッドバンド周りを含め、細部にわたって妥協のないデザインのまとまりの良さ、素材感の高さも本機の魅力の一つであり、そのなかでも極めつけのものが肌触りの良いアルカンタラ製イヤーパッドだ。

着脱式ケーブルは標準のストレートコードとiOS端末用リモコン付きコードの2種類が付属。 

これまで紹介してきた2モデルと比べるとヘッドホンということもあり、低域の量感の豊かさ、空間性の広さを実感できる。MOMENTUMに比べるとやや音場もコンパクトで音像もよりソリッドな印象を持つが、適度な締まりの良さ、高域のクリアな輝き感がより際立ち、鮮明さは増す。

クラシックにおける管弦楽器は細やかなタッチで爽やかに空間へ浮き上がる。ローエンドも深く響き、明瞭さと量感のバランスは程よく取れているようだ。ティンパニの打感は皮のハリの良さと胴鳴りの腰高な響きをすっきりと表現。全体的に解像感の高いオーケストラとなっている。

ジャズにおいてはブライトで軽快なタッチのピアノと弾力良くむっちりとした響きを持つウッドベースが対比良く並び、程よい厚みを持つドラムセットの安定感、ブラシのヌケの良さによって耳当たり良いサウンドとなった。こちらも高域にかけての倍音表現に特徴があり、ヌケ良く煌びやかなサウンド再生を得意とするようだ。

中低域はゼンハイザーならではの密度の高さと腰の太さを持っており、音像の厚みも適度に持たせ、存在感のある描写としてくれる。リッチかつ華やかな傾向であり、ポップスやロックとの組み合わせでは鮮やかですっきりとした表現を楽しめるだろう。

TOTOの「I Will Remember」ではどしんと響くキックドラムのリッチさ、輪郭のフォーカスはあるが、ふわっと余韻が広がるベースの存在感によってリズムの土台をしっかりとキープ(今は亡きマイク・ポーカロの演奏だ)。ギターやピアノのブライトな際立ちと、スティーブ・ルカサーの甘いハイトーンボーカルが伸び良く艶やかに描かれる。

一方、打ち込みメインの女性ボーカル曲としてKOTOKO「→unfinished→」も聴いてみたが、ドライで太さのあるキック&ベースの豊かさに対し、シャープでキレ良いボーカルの口元が鮮やかにセンターへ定位。ただし細身な描写ではなく、ボディの厚みも伴っていて耳に刺さる際立ち感ではない。粒立ち細やかなシンセも爽やかに浮き立ち、心地よいサウンドである

ここまで各々のモデルの特徴について述べてきたが、いずれも新生活を鮮やかに彩ってくれるサウンドを持つハイC/P機ばかりだ。この3モデルは基本的なサウンド傾向は揃っているので、予算や好みの装着スタイル、カラーリングで選んでも問題なく、サウンドのクオリティで大きく見劣りするようなことはないだろう。ぜひゼンハイザーの新ラインナップを手にしていただき、うっとおしい季節を乗り越えていただきたい。
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