岡田 晃(おかだ あきら)

経済ニュースの"ここがツボ" 第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?



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米国も中国をけん制する姿勢を明確に打ち出すようになったのです。

米国はこの変化の中で、同盟国としての日本の重要性を再認識し、日米同盟の強化に動き出したのでした。今回で、2009年の民主党政権誕生以来ギクシャクしていた日米関係は基本的に完全修復を果たすとともに、より強い同盟関係へと一歩踏み出したと言えます。

○一連の報道でほとんど登場していないテーマが「為替相場」

経済関係もこれと軌を一にしています。今回の日米共同声明ではTPP(環太平洋経済連携協定)について「日米交渉で大きな進展があったことを歓迎し、妥結の達成に取り組む」として、TPP交渉の早期妥結に協力することを盛り込みました。この連載の前号で書きましたように、AIIB(アジアインフラ投資銀行)など中国の経済的な勢力拡大の動きに対応するためにもTPP早期妥結は重要なのです。

このように安保と経済の両面で日米関係の強化が進んだわけですが、今回の安倍首相の訪米についての一連の報道でほとんど登場していないテーマが一つあります。それは「為替相場」です。最近の為替相場は比較的落ち着いた動きが続いていますし、日米間で懸案となっているわけではありません。したがって、ほとんど報道がなかったことは当然なのですが、そこにこそ日本経済の今後を見るうえで重要なカギが隠されているのです。



米国にとって、日本は対中国戦略の最重要パートナーとなったのです。そしてそのことは、日本が経済的に強くなることが米国にとっても重要であることを意味します。したがって円安も、日本経済復活に必要な要素として容認しているのです。米国がアベノミクスを支持していることも、こうした考えからです。日本経済が強さを取り戻すことが、中国の経済的影響力拡大を抑え、軍事的な抑止力にもなるというのが日米共通の認識なのです。

為替相場の歴史を振り返ると、相場の大きな方向を決定づけてきたのは米国の為替政策でした。そしてそれは米国の外交・安保政策と表裏一体をなすものだったということを忘れてはなりません。たとえば、2000年代には円安局面が2度ありましたが(グラフ・別表の(2))、それは米国の景気回復という経済的要因の他に、ブッシュ・小泉の日米同盟強化という背景も影響しています。またこの時期に為替相場が円高に振れた場面で日本は連日の円売り介入を実施しましたが、ブッシュ政権はそれを容認していました。

逆に、2009年に誕生した民主党政権は沖縄問題などで日米関係を悪化させましたが、これは円高を長期化させる一因となりました。この時期の円高の最大の原因はリーマン・ショックによるドル急落でしたが、オバマ政権は米国景気回復のため輸出倍増計画を打ち出し、ドル安を容認したことも影響しています。その結果、円相場は1ドル=80円前後という円高のピーク水準が長期化しましたが、それは日米関係悪化と無関係ではなかったのです(グラフ・別表(3))。

○現在の国際情勢は日本経済が復活をめざす上で"追い風"

今回の日米首脳会談もこのような歴史的な視点でとらえると、わかりやすいのではないかと思います。こうしてみると、現在の国際情勢は日本経済が復活をめざす上で、ある意味では追い風になっていると言えるでしょう。

したがって為替相場については、現在の1ドル=120円前後の円安基調が続く可能性が高いと見ています。もっとも、今後は130円、140円と、さらに円安が進んでいく可能性はさすがに少ないと思いますが、逆にかつてのような円高に戻る可能性はもっと少ないでしょう。

日々の為替相場はもちろん、日米などの経済指標や株価、おカネの流れなどによって変動しますが、その背景としての国際情勢にも目を配ることが必要です。

○執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

(岡田晃)

    最終更新:5月5日(火)17時32分
    マイナビニュース