【鳥居一豊のAudio×Visual Lounge】2.1ch再生で小型スピーカーの低音域をグレードアップするELACのサブウーファー『SUB2070/SUB2050』
今回取り上げるのはサブウーファー。低音だけを再生するちょっと特殊なスピーカーで、ほとんどの人は5.1chなどのサラウンド再生で必要になる「.1ch」のスピーカーのことだと思っているだろう。サラウンドのLFE(低音専用チャンネル)であることに間違いはないが、それ以外にも音楽再生でも有効な活用方法がある。それが小型スピーカーとサブウーファーを組み合わせた2.1ch再生だ。2.1ch再生は古くからある再生方式なのだが、知名度は低いしあまり普及していない。だが、小型スピーカーのメリットである定位の良さや優れた音場感の再現を生かしたまま、弱点である足りない低音域をサブウーファーで補うという方法は実に合理的なものでもある。
紹介するサブウーファーは、ドイツのスピーカーメーカーであるELACのSUB2070(実売価格 25万7040円)。口径25cmのコーン型ウーファーを2個上下に配置。2つのウーファーを締結することで互いの振動を抑制し、低歪みで濁りのない再生を可能にしている。再生周波数帯域は18~180Hzで、内蔵するD級パワーアンプの出力は600W。そして、弟機となるのがSUB2050(20万1960円)。こちらは30cmウーファー1基を搭載し、19~180Hzの再生周波数帯域となる。D級のパワーアンプの出力は500Wだ。
取材ではSUB2070を自宅にお借りしたが、口径25cmのユニットを2個内蔵しただけあってかなり大きく、重い。ふだん使っているヤマハのサブウーファーが可愛らしく感じるほどだ。これに、手持ちのスピーカーであるELACのFS247SEを組み合わせ、今回はサラウンド再生ではなく、ステレオ再生を中心に使ってみた。
最大の特徴は、スマホアプリによる先進的なコントロール機能
ELACは、大口径ユニットを使った大型のスピーカーではなく、比較的小型の2ウェイブックシェルフ、あるいは小型スピーカーの背をぐっと高くしたようなトールボーイ型スピーカーが中心。センタースピーカーを含む5.1ch再生も構築できるラインナップが展開しているが、サブウーファーは5.1ch再生用というだけでなく、同社の小型スピーカーと組み合わせた2.1ch用でもある。
現在のサブウーファーは、国内外を問わずさまざまな用途に使えるようになっていて、背面を見ると、入力端子だけでなく、クロスオーバー周波数の調整ツマミ、ボリューム調整ツマミが備わっている。モデルによっては、それらの調整値などのセットアップ状態を表示するディスプレイまで持つものもある。
SUB2070もそういった多用途に対応するが、背面を見ても入力端子(フロント、センター用の3系統のスピーカー端子、ライン入力用のRCA端子)しか備わっていない。あとはメイン電源スイッチと着脱式の電源用端子くらいで意外なほどシンプル。実はこれが、SUB2070とSUB2050の最大の特徴なのだ。
その理由は、クロスオーバー周波数や音量レベルの調整といった操作のすべては、スマホ用アプリの「SUB CONTROL」で行うからだ。価格は無料で、iOS、Androidの両方が用意されている。今までのサブウーファーのように背面に回り込んでツマミをいじって調整するのではなく、視聴位置から手軽に調整を行えるというのは現代的だ。ちなみにサブウーファー本体に調整のためのツマミ類、ディスプレイを搭載せずに済むのでコストダウンにもつながっているそうだ。
こういった特徴をアピールするためもあり、現在輸入元の株式会社ユキムでは、購入者全員に、操作に使えるiPod touch(16GB/シルバー)のプレゼントキャンペーンを行っている。期間は今年の6月30日までで、同梱の申し込みハガキを送るとiPod touchが送られてくる。なお、使用するアプリは自分でApp Storeからダウンロードするので、無線LAN環境も必要になる。
サブウーファーのための設定がすべて手元で行える「SUB CONTROL」
では、「SUB CONTROL」について紹介していこう。これはクロスオーバー周波数や音量調整などのサブウーファーの操作や設定のための機能がすべて盛り込まれたアプリ。その機能が実に充実している。まずは音量調整と「ノーマル/ミュージック/シネマ/ナイト(夜)」の4つの音質モードの切り替え。調整機能としては、クロスオーバー周波数の調整、位相切り替え(0度/180度)、オート電源オン/オフのための感度調整、音質を好みで調整できるパラメトリック・イコライザー、ディレイ調整(1~20msec)と、非常に充実している。
SUB2070との接続はBluetoothなので、本体の電源を入れた後、スマホの設定からBluetooth機能を呼び出すとSUB2070が見つかるので、接続(ペアリング)を行えばいい。このあたりは、一般的なBluetoothの手動接続と同様だ。後は、SUB CONTROLを起動すると、自動的にSUB2070を認識し、使用可能な状態になるので機器を選択すれば操作画面に切り替わる。ちなみに、複数のSUB2070を個別に登録することも可能なので、9.2ch再生など、複数台を使い分けるような環境でも問題なく使用できる。
これだけでも一般的なサウブーファーとしては十分な機能だし、スマホの画面で視覚的に確認できるので実に使いやすい。しかし、SUB CONTROLの機能はこれだけではない。それが新機能の「オート・キャリブレーション」(自動音場補正)だ。
自動音場補正というと、AVアンプなどが備えた機能を思い浮かべる人が多いと思うが、これもそのサブウーファー版だと考えればいい。テスト信号を出力してマイクで測定、部屋の広さや形状などによる周波数特性の変化を解析し、最適な特性になるように補正する機能だ。サブウーファーにはハイエンド級のモデルで採用例があるが、実はほとんどのAVアンプはサブウーファー向けに低音域中心の周波数特性の測定・補正機能を持っていない。
では、必要ないかというと、決してそんなことはない。それは定在波の影響を除去できること。定在波というのは簡単に言うと平行な面の間で音波が反射を繰り返し、特定の周波数だけが増強される減少。特定の周波数だけが強まったり、その影響で周辺の周波数が減衰してしまう、いわゆる周波数特性にピーク(山)やディップ(谷)ができてしまうのだ。
そして、6面体である一般的な部屋では、前後の壁、左右の壁、天井と床で反射が起こり、おおむね3つくらいの定在波が発生する。中高域ならば吸音材や調音用のアクセサリーなどで対策することもできるが、低音域はエネルギーが大きいため、壁の補強などおおがかりな工事をしないと対策が難しい。それをマイクによる測定と電気的な補正で対策しようというわけだ。
その方法は、説明したようにマイクを使った測定となるのだが、測定用マイクを入手する必要はない。スマホ内蔵のマイクを使って測定を行うのだ。
SUB CONTROLの下部にある「AutoEQ」のアイコンをタッチすると、測定用の画面に切り替わる。まずは、SUB2070のスピーカーユニットの直近にスマホを設置して、測定を行う。これはマイクのキャリブレーションで、スマホの内蔵マイクの周波数特性を測定している。スマホ内蔵のマイクで正確な測定ができるかと心配な人もいたと思うが、マイクのキャリブレーションもきちんと行っているので安心してほしい。
続いて、音楽を聴く位置にスマホを持って行って再度測定を行う。これが室内の音響の測定だ。測定はテスト用の信号で行われる(大音量に注意)が、その測定は実に精密。20Hz~160Hzの範囲にわたって、なんと31ポイントで測定を行い、周波数特性のポイントは16ポイントで行われる。これは、AVアンプなどでの周波数特性の補正よりも細かい。
測定が完了すると、グラフに実際の測定値と周波数特性をフラットにするための補正値が表示される。最終的に「Apply」をタッチすれば、補正データがSUB2070に送られ、作業完了となる。このとき、SUB2070の前面の電源インジケーターが点滅するので、補正データを受け取ったことを確認できる。



◎スピーカーが化ける!! 大型スピーカーらしい雄大な鳴りっぷりに感激する。
さて、いよいよ試聴だ。FS247SEは15cmウーファー2発を使った2.5way構成のスピーカーで、背の高い胴の部分に大きなバスレフダクトも内蔵するため、単体でもそれなりの低音再生能力はある。だが、結果としてはかなりの好感触。大型スピーカーから出るような底力のある低音が出て、クラシックのオーケストラの雄大さ、スケール感が一回り大きくなる。しかもこれは、オートEQによる補正をオフにした状態なのだ。
効果がわかりやすくするため、クロスオーバー周波数も高めだし、サブウーファーの音量もやや大きめとしているが、そのあたりの誇張を考えてもサブウーファー追加の価値は大いにあると感じた。
低音の伸びが増し、音楽全体の重心が下がることで高音域の伸びやかさもいっそう豊かになると感じたのもよかった。FS247SEも単体でも十分に優秀なスピーカーなのだが、特に50Hz以下の低音域となるとバスレフによる増強だよりになるせいか、量感などは十分だが芯の通ったような力強さがなく、どうしても小口径ユニットのスピーカー的なこぢんまりとした感じになる。そのあたりの物足りなさが解消されてしまった。これぞサブウーファーという感じだ。
オートEQはまだオフということもあり、サブウーファー自体の実力の高さがよくわかる部分だと思う。20Hzや30Hzといった最低音域まで低音が伸びるようになったことで、通奏低音のような低い音域の音の明瞭度が高まり、音楽としての聴き応えがずいぶんと違ってくる。とはいえ、ちょっとサブウーファーの音量が大きめのせいか、100Hz前後の音が膨らみ気味というか、ちょっと張り出しすぎていることに気付く。
ここで音量を下げてしまおうかと思ったが、その前にオートEQによる補正を加えてみることにした。これがすごい。低音の張り出し感が収まり、スムーズのスピーカーとサブウーファーの音がつながった。どうやら低音の張り出し感は定在波による不要なピークやディップの影響で、サブウーファー自体が鳴っているという感じにも繋がっていたようだ。オートEQを加えると、サブウーファーが鳴っているという感じはなくなり、目の前にあるトールボーイ型スピーカーから、雄大な音が鳴っているイメージになる。
定在波の影響は80Hzや120Hzほどの部分で主に補正されていて、クロスオーバー周波数は80Hzとしているから、80Hzよりも上の帯域はだらだらと減衰しているため周波数補正の効果もあまりないかと思ったが、あきらかに違う。むしろクロスオーバー周波数付近のデコボコだからこそ、スピーカーとサブウーファーのつながりの良さや、低音の不要な張り出しが強調されたのではないかと思う。
手持ちのこぶりなサブウーファーは、ぜいたくに2台使いをしながらも今現在はLFE専用としている。これは、いろいろとクロスオーバー周波数や音量バランスを試してみてもどうしても無理に低音を増強したような印象になってしまい、不自然なバランスになってしまうので、ステレオ再生やサラウンド再生ではサブウーファーは鳴らさない設定に落ち着いていたのだ。これも定在波の影響であったことが今ならよくわかる。
冒頭でも触れたが、2.1ch再生は小型スピーカーの定位の良さというメリット活かし、サブウーファーで足りない低音を補助する合理的なシステムだ。しかし、なかなかスピーカーとサブウーファーがうまくつながってくれない。最初のうちは凄い低音に感激するが、慣れてくると低音が過剰に感じてサブウーファーの音量を下げていき、気がつくとサブウーファーなしでも大差がないという感じに落ち着いてしまう。このあたりが、2.1ch再生があまり普及しなかった理由だと思う。
サブウーファーに自動音場補正を採り入れたことで、サブウーファーは格段に扱いやすくなった。定在波の影響を補正したことで低音のクセっぽさがなくなり、解像感の高い芯の通った低音が出るようになった。この効果は大きい。ここで、音量を少し下げて音量的なバランスを揃えた。クロスオーバー周波数はもっと低いところや高いところも試してみたが、結局80Hzほどに落ち着いた。このあたりは、もう少し時間をかけて最適なポイントを探したほうが当然ながら良い結果になるはず。ユーザーとなる人は、このへんの調整をじっくり追い込んでみてほしい。
最後に、現状で一番自然なバランスとなった状態で、Schillerの「Symphonia[Live]」を聴いてみた。ドイツの広い公園に作った屋外ステージで、フルオーケストラを従えての演奏だ。なかでも「Sehnsucht」は、シンセベースの地をはうような低音に、オーケストラのしっとりとしたメロディが重なっていく導入から、炸裂するような勢いの強烈なドラムが一気に展開が変わっていくダイナミックな曲。そのなにかが破裂したかのようなドラムの低音のエネルギー感と空気のうなる感じがしっかりと出た。
今までは広い公園の屋外ステージというには少々雄大さや広がり感が小さく、シンセやキーボードを多用するし、オーケストラも楽器ごとにマイクで拾っているので、ライブ的な音の広がりなどはあまり重視せず、個々の音を忠実かつ鮮明に再現することを重視した録音と感じていた。
だが、低音の底力が上がったことで、広い場所に響き渡る大音量の響き感がきちんと収録されていることがわかった。個々の音の鮮明さはそのままに、強烈なドラムやオーケストラの演奏がその場のスケール感を持って聴こえてきた。これは実に聴き応えがある。また、シンセによるベースに負けて存在感が薄かった低音楽器もしっかりと聴こえてきて、楽曲の安定感も高まってきた。これはなかなかの満足度だ。
サブウーファーというのは、スピーカーの中でもマイナーなジャンルで、特に日本ではサウンドバータイプのサラウンドシステムに付属するものばかりという有様だ。しかし、実力の高いサブウーファーを使いこなせば、置き場所に困らない小型スピーカーでもかなりのレベルの音にグレードアップできる。しかも、SUB2070やSUB2050ならば、スマホで快適に操れる快適さと、自動音場補正による対策の難しい定在波の影響を抑えたクセのない低音が得られる。これは、サラウンドシステムのためだけでなく、小型スピーカーでさらなる高音質を求める人にこそおすすめしたいサブウーファーだ。
ハイレゾ音源の普及で、特に20kHzを超える高音域の再生を気にする人が少なくないが、ハイレゾの魅力はむしろ低音だと僕は改めて思う。ハイレゾらしい現場の空気感は、超高域成分の再現によるものだけでなく、低音感の充実も欠かせないのは間違いないだろう。価格的にはなかなか手を出しにくいが、その価値は十分にある。ぜひとも良質な低音を加味したハイレゾ再生の魅力を味わってみてほしい。
(文/鳥居一豊)
オーディオおよびビジュアル製品全般をカバーするAVライター。映画、アニメ/特撮、ゲーム好きは生まれつき。趣味と実益を兼ねた生活をこじらせて、ついに念願のホームシアター用防音室付きの家を新築。理想のオーディオ&ビジュアル環境の完成を目指し、仕事に邁進する日々を過ごす。