楽しい仕事はない……でも、楽しく仕事をしている人がいるのはなぜか
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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150409-00134681-woman-life&pos=2
何をもって自分が満足するか、それを知っている人こそが幸せになれる
あなたは今の仕事を楽しんでいますか?
【詳細画像または表】
僕はボストンのハーバード経営大学院に留学している時に、今後の人生の指針となる英文に出会いました。
Knowing “Just Enough”
ハーバードでは、「キャリアを通して何を実現できれば“成功した”といえるのか?」「あなたにとっての幸せとは?」といった、少し青臭い「青春の問い」のようなテーマをみんなでよく議論していました。授業でもさまざまな文献を読んだのですが、その中の1つ、ハーバードの教授の著書の中に、Knowing “Just Enough”─「これで十分、満足したことを知る」という言葉があったのです。「足ることを知る」と置き換えてもいいでしょう。何をもって自分が満足するか、それを知っている人こそが幸せになれる。逆に自分がどこで満足するかを知らない人は、たとえどれだけ物質的に恵まれても心は満たされず、永遠に幸せをつかむことができない。そんなふうに解釈できる言葉です。
当時、僕はまだ卒業後の就職先が決まっていなかったので、「自分はこれからどんな仕事をしようか。いったい何を達成することができたら自分は満足できて、よい人生だったと思えるだろうか」といったことを熟考していました。授業中は会計やマーケティングなどの勉強に忙しかったのですが、自分がどう生きていくかを決めることは、そのようなことよりも大切なことではないかと思えたのです。
しかし今の日本には、このような人生の目標を設定しないまま過ごしているビジネスパーソンが多いように感じます。口をついて出てくる言葉は、「仕事がつまらない」「やりたいことができない」といった不満ばかり。
この記事をご覧いただいているあなたばかりではなく、あなたの周りにも「仕事がつまらない」という悩みを抱えている人はいるのではないでしょうか?
理由はいろいろと考えられますが、ひと言でいえばそれはやはり、「足ることを知らない」からであるように思えます。どんなにいい仕事をしても、どんなに高い給料をもらっても、ただ上を目指し続けているのであれば、いつまでたっても満足感を得ることはできません。最初は楽しい仕事でもそのうちつまらないと感じてしまうはずです。貪欲に挑戦する姿勢はもちろん大事ですが、それでも自分がどこに向かっているかを明確に意識しなければ、自分を見失ってしまうでしょう。
何をもって満足すべきかを知らない人は、属している会社の環境が悪いのではと考え、そのうち転職を経験すると思います。そういう人は結局、転職先でも自分の仕事に満足できず、つまらないと感じるはずです。何度転職しても同じことの繰り返し。その結果、給料は上がらず、スキルも身につかず、人間関係も構築できず、ますます仕事がつまらなくなるという悪循環。「面白い仕事、やりがいのある仕事はいったいどこにあるのだろう」「そもそも楽しい仕事なんてあるのだろうか」。そんなふうに思い悩むことでしょう。
でも僕は、はっきりとこういうことができます。
「仕事なんてそもそも、楽しくないのが当たり前」
多くの人は、「楽しい仕事」がどこかにあると思っていて、それを探そうとしているように見えます。しかし求人情報を見て探したところで、そんなものはありません。「きっとどこかにある」と思ってはいけません。少し大げさにいえば仕事というのはいつも、面倒なこと、嫌なことの連続です。自分が志望する会社に就職したはずなのに、仕事がつまらない、やりがいを感じられないという人は、まずこの大前提に気づくべきでしょう。
それでも実際には、仕事を楽しんでいる人はいます。僕は今、ライフネット生命の副社長という仕事を楽しんでいるし、周りを見ても仕事を楽しんでいる人はたくさんいます。 「楽しい仕事はないといったのに、仕事が楽しいとはどういうことだ」と、矛盾を感じるかもしれません。しかし、僕がいいたいのはこういうことです。
「この世に楽しい仕事とつまらない仕事があるわけではない。すべての仕事は気の持ちようによって楽しくもなるし、つまらなくもなる」
楽しい仕事がどこかに転がっているわけではないのです。仕事が楽しくなるかどうかは、自分自身の問題なのですから。
楽しく働くための3つの仕事観
僕はライフネット生命の副社長を務める傍ら、北は北海道、南は沖縄まで、全国各地を講演行脚しています。多い時で週5回。2011年は100回近くの講演をしました。第一の目的は自分の会社のことを広く知ってもらうことなのですが、「保険の話をしてください」というオファーよりも、「仕事について悩んでいる20代・30代のビジネスパーソン向けに話をしてください」と頼まれることのほうが増えています。
ありがたいことに、最近はどの講演会場も満席に近い状態が続いています。終身雇用・年功序列社会が終焉する中で個人の働き方も一様ではなくなり、これまでのように「右へ倣え」さえしていれば、誰でもそこそこの幸せを手にすることのできる時代ではなくなっています。そんな中で、働くことの意味を見出せない人が増えているのでしょう。
講演のあとには、皆さんからの質問も受け付けています。
やりたいことを見つけるにはどうしたらいいか。仕事がつまらない、楽しく働けるコツはないか。いくら頑張っても給料が上がらない。将来のことを考えるとこのままでいいのか不安になる。上司に怒鳴られてばかりで会社に行く気もしない。部下が自分について来ない。どうしたらプレゼンがうまくなるか。転職はどういった基準ですべきか。起業したいけれど、何から始めればいいのか分からない。
聞いてみると、人それぞれの事情、悩みがあるのだと思い知らされますが、「仕事がつまらない」という悩みについては、率直に「もったいないな」と思います。先ほども述べたように、「楽しい仕事」があるわけではなく、そんなところで躓いていては若いエネルギーと時間を無駄に費やしているだけではないかと思うからです。
では、どうすればいいのでしょうか。
先ほどの「足ることを知る」につながるのですが、それは、自分が仕事をいかに楽しむか、ということに尽きると思います。仕事がつまらないという人は、そもそも「働く」ということに対する考え方・姿勢が間違っているのかもしれません。それでは何をしてもつまらなくて当たり前です。一度、自分が何を大事にして働いているのか、整理してみるとよいでしょう。
僕の場合は、1.何をやるかよりも「誰とやるか」、2.自分にしかできない「何か」はあるか、3.社会に「足跡」を残したい。この3つの仕事観を大事にしてきました。1つずつ解説していきましょう。
1.何をやるかよりも「誰とやるか」
大学時代、司法試験に合格した僕は弁護士になるつもりでいましたが、結局そのような選択はしませんでした。「どうして? もったいないよ」「岩瀬は変わっているな」と言われたものですが、いろいろな法律事務所を訪問した僕の個人的な感想としては、みんなとても疲れた顔をしていて、精気が感じられない。そして何より、楽しく仕事をしている感じが伝わってこなかったのです。
自分がなりたいのはそんな大人ではない。
そう思った時にインターンとして働いたボストン・コンサルティング・グループ(BCG)では、ウイットに富んだ人たちが活き活きと働いている。当時は今ほどコンサル会社が学生に認識されておらず、「その会社、何?」と聞かれるほどでしたが、それでも新卒でそこに入社したのは、「活き活きと働く人たちと仕事をしたいな」と思ったからです。
ライフネット生命を始める時も、最初に「生保をやる」と決めていたわけではありません。投資家の谷家衛さん(あすかアセットマネジメントCEO)に「新しいことをやろう」と言われて、「この人と何かやったら面白そうだな」と感じたから、起業の道を選んだのです。
仕事を選ぶ際には、「何をやるか」ということはなかなか自分では選べないものです。それに比べ「誰とやるか」ということなら、ある程度は選べます。
僕はいろいろ縁あってネット生命保険事業をやっていますが、今一緒に働いている仲間たちとであれば、まったく別の仕事であったとしても、協力し合いながら楽しくクリエイティブに取り組めるだろうなと思っています。
2.自分にしかできない「何か」はあるか
どんな世界でも、スペシャリストは貴重な存在です。「これなら誰にも負けない」「こういうことなら自分は何かひと工夫できそうだ」という特技を活かせる仕事なら、それはその人に合った仕事だということができます。働くのも楽しいに違いありません。
でも、「そんな特技はない」「特技はあるけど、会社にはもっとすごいヤツがゴロゴロいる」なんていう人もいるでしょう。特に大企業においては、従業員が個性を発揮するのはなかなか難しいことです。
そういう意味では、僕は小さな会社を転々としてきてよかったと思っています。小さな会社であればあるほど、「この中では自分にしかできない」ということが増えます。ライフネット生命を立ち上げた時などは、社長の出口治明と2人だけでした。業界の経験や知識でみれば出口のほうがはるかに優位ですが、僕のほうが若いのでインターネットの使い方には詳しい。そうなると、インターネットに関しては僕は頼られる存在になるわけです。
最近は学生が大企業を志望して、名もない中小企業は求人を出してもまったく人気がないといわれますが、小さな組織だからこそのメリットが必ずあります。大会社で働くということは、大きな機械の歯車になるということを意味します。果たして、今、就職活動で大企業ばかりに目が向いている学生たちに、その覚悟があるのでしょうか。
自分らしく、楽しく、活き活きと働きたいのであれば、僕は小さな、伸び盛りな会社を勧めます。小さな会社では毎日どこに行くか、何が起こるか分からない。突然面白そうな仕事がまわってくる。いろいろな人に会える。若いうちからさまざまな経験を積むことができ、自分がかけがえのない存在として職場で輝くことができます。
3.社会に「足跡」を残したい
若い時には、「人間は何のために生きているのだろう」といったことを考えるものです。僕も学生時代には多種多様なことに思慮をめぐらせていました。その時に思ったのは、「人間はみんな、いつか死んでしまう。儚いものだな」ということです。
今は当たり前のように生きている自分も、平均寿命を全うするとしたら残された時間はあと50年。1年という時間はあっという間に過ぎてしまいます。そのうえ体感時間というものは年齢を重ねるほど加速度を増していきますから、現在36歳の僕は、実質的にはもう人生の半分を過ぎているといえるのかもしれません。
僕は死ぬまでに、自分が生きた足跡をこの社会に残していきたいと思っています。
いつか死んでしまっても、誰かに覚えていてもらえるような仕事ができれば、生きた意味があったのだろうと思います。
そういう意味では、僕は教師という仕事は素晴らしいものだ思います。みんな小学校時代の担任の先生のことを覚えています。たとえ嫌な先生でも、その印象は強く残っているものです。そんなふうに、何百人、何千人もの生徒の記憶に刻み込まれていく生き方は、なんて素晴らしいのだろうと思います。
僕が今やっている仕事は教師とは違いますが、世の中にこれまでなかったものをつくって後世に残すことはできます。その足跡が、僕が生きた証になるのではないかと思います。そういう仕事をこれからもしていきたいと思っています。
6つの原因で仕事はつまらなくなる
そもそも、なぜ仕事をつまらないと感じてしまうのでしょうか。先ほど「足ることを知らないから」と述べましたが、具体的な原因としては次の6つが考えられます。
1.コミュニケーションがうまく取れないから
上司、同僚、部下、他部署の人間、顧客。仕事ではさまざまな人間とのコミュニケーションが必要とされます。それがうまくできないと仕事は円滑に進まないし、時には誤解が生じて人間関係の悪化を招きます。コミュニケーション不全が起きている環境では当然、気持ちよく働くことができません。そのうち会社に行くのも億劫になってしまいます。
2.自分のスキルが足りないから
スキルが不足していると、自分にできることが限られてしまいます。自分のやりたいことと自分のできることのギャップに悩み、なかなか満足のいく仕事ができません。みんなに迷惑をかけてしまっていないか、自分はこの仕事に向いていないのではないかという心配をしながら働くことになるかもしれません。
3.モチベーションが上がらないから
人間だから、結局は気分次第というところもあります。何をやってもうまくいかない時、単純作業ばかりさせられている時、待遇が悪い時。なんらかの理由で気分が沈んでいると、仕事へのモチベーションも下がってしまいます。
4.キャリアプランがうまくいっていないから
自分が本当にやりたい仕事に就けていないから仕事を楽しめないのだと感じる人もいます。「これをやりたいけどやれない」「こうなりたいけどなれない」という長期にわたる不満が募っているので、どんなにいい仕事をしても心の底から満たされることはありません。
5.プライベートに問題があるから
「仕事にプライベートを持ち込むな」とはよく言われますが、プライベートは大切なことだから、仕事に影響しないわけがありません。プライベートの充実があってこそ仕事の充実があるので、プライベートに問題を抱えていると仕事を楽しむことができません。
6.チャレンジしていないから
安定志向で現状に満足しているのであれば別ですが、本当は何かやりたいことがあるのに失敗を恐れて一歩踏み出せないという人は、チャレンジしている人に比べて自分の人生を楽しみきれていません。
仕事を楽しむにはこの6つの原因を1つずつ解消していけばいいのです。仕事を楽しめていない人はよく、「上司がダメだから」「会社がダメだから」「社会のシステムがおかしいから」と、その理由を外に求めようとします。もしかすると、自分が解決の鍵を握っていることに気づいていないだけなのかもしれません。本当は、どれも自分次第でどうにでもなることばかりです。
僕は、28歳の時、それまで働いていた会社を辞め、ハーバード経営大学院に留学しました。そして、留学から帰国後の30歳の時にライフネット生命保険の前身となる会社を社長の出口治明とともに立ち上げました。僕にとって30歳前後は、悩み抜き、人生のターニングポイントとなった年齢でした。
30歳前後は、高校、大学を出て1つの会社で働いていれば、入社10年目くらいにあたります。入社10年目というと、仕事にも慣れてきたことで逆にマンネリに陥ったり、組織で部下や後輩ができて自分の仕事を振り返るとともに、悩みも出てくるタイミングです。
僕は今、副社長である自分の仕事を「社員のチアリーダー」と位置づけています。つまり、他人に仕事を楽しんでもらうという意味では、本書の内容は、日々、僕が実践していることばかりです。
ライフネット生命保険を創業し、副社長になってから経験年数はまだ4年と短いかもしれませんが、ありがたいことに社員からは「今までの会社だと休日が早く来ないか待ち遠しかったのに、この会社に来てからは土日に『早く月曜日にならないかな』と思うようになった」という言葉ももらっています。多少、社交辞令はあるのかもしれません。ただ、現在のライフネット生命には、社員100人ほどの若い会社にもかかわらず、すでに運動部が8つもあります。どれも社員の有志が自主的につくったものです。仕事が充実していないとこのような余裕は生まれません。8つの運動部は、社員全員が仕事を楽しんでいるということが、形となって現れたものではないかと自負しています。
これから、この連載では、先ほどの6つの原因(1.コミュニケーション、2.スキル・アップ、3.モチベーション、4.キャリア、5.プライベート、6.チャレンジ)をテーマとして、僕が仕事をしながら気づいたことや、講演会やプライベートで出会ったビジネスパーソンから出てきた「悩み」の答えとなるものを散りばめていきます。
働くということは何か。気持ちよく働くために大事なことは何か。どうすれば人生は豊かになるのか。
1人でも多くのビジネスパーソンの、新たな気づきとなれば幸いです。
日経ウーマンオンライン(日経ウーマン)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150409-00134681-woman-life&pos=2
何をもって自分が満足するか、それを知っている人こそが幸せになれる
あなたは今の仕事を楽しんでいますか?
【詳細画像または表】
僕はボストンのハーバード経営大学院に留学している時に、今後の人生の指針となる英文に出会いました。
Knowing “Just Enough”
ハーバードでは、「キャリアを通して何を実現できれば“成功した”といえるのか?」「あなたにとっての幸せとは?」といった、少し青臭い「青春の問い」のようなテーマをみんなでよく議論していました。授業でもさまざまな文献を読んだのですが、その中の1つ、ハーバードの教授の著書の中に、Knowing “Just Enough”─「これで十分、満足したことを知る」という言葉があったのです。「足ることを知る」と置き換えてもいいでしょう。何をもって自分が満足するか、それを知っている人こそが幸せになれる。逆に自分がどこで満足するかを知らない人は、たとえどれだけ物質的に恵まれても心は満たされず、永遠に幸せをつかむことができない。そんなふうに解釈できる言葉です。
当時、僕はまだ卒業後の就職先が決まっていなかったので、「自分はこれからどんな仕事をしようか。いったい何を達成することができたら自分は満足できて、よい人生だったと思えるだろうか」といったことを熟考していました。授業中は会計やマーケティングなどの勉強に忙しかったのですが、自分がどう生きていくかを決めることは、そのようなことよりも大切なことではないかと思えたのです。
しかし今の日本には、このような人生の目標を設定しないまま過ごしているビジネスパーソンが多いように感じます。口をついて出てくる言葉は、「仕事がつまらない」「やりたいことができない」といった不満ばかり。
この記事をご覧いただいているあなたばかりではなく、あなたの周りにも「仕事がつまらない」という悩みを抱えている人はいるのではないでしょうか?
理由はいろいろと考えられますが、ひと言でいえばそれはやはり、「足ることを知らない」からであるように思えます。どんなにいい仕事をしても、どんなに高い給料をもらっても、ただ上を目指し続けているのであれば、いつまでたっても満足感を得ることはできません。最初は楽しい仕事でもそのうちつまらないと感じてしまうはずです。貪欲に挑戦する姿勢はもちろん大事ですが、それでも自分がどこに向かっているかを明確に意識しなければ、自分を見失ってしまうでしょう。
何をもって満足すべきかを知らない人は、属している会社の環境が悪いのではと考え、そのうち転職を経験すると思います。そういう人は結局、転職先でも自分の仕事に満足できず、つまらないと感じるはずです。何度転職しても同じことの繰り返し。その結果、給料は上がらず、スキルも身につかず、人間関係も構築できず、ますます仕事がつまらなくなるという悪循環。「面白い仕事、やりがいのある仕事はいったいどこにあるのだろう」「そもそも楽しい仕事なんてあるのだろうか」。そんなふうに思い悩むことでしょう。
でも僕は、はっきりとこういうことができます。
「仕事なんてそもそも、楽しくないのが当たり前」
多くの人は、「楽しい仕事」がどこかにあると思っていて、それを探そうとしているように見えます。しかし求人情報を見て探したところで、そんなものはありません。「きっとどこかにある」と思ってはいけません。少し大げさにいえば仕事というのはいつも、面倒なこと、嫌なことの連続です。自分が志望する会社に就職したはずなのに、仕事がつまらない、やりがいを感じられないという人は、まずこの大前提に気づくべきでしょう。
それでも実際には、仕事を楽しんでいる人はいます。僕は今、ライフネット生命の副社長という仕事を楽しんでいるし、周りを見ても仕事を楽しんでいる人はたくさんいます。 「楽しい仕事はないといったのに、仕事が楽しいとはどういうことだ」と、矛盾を感じるかもしれません。しかし、僕がいいたいのはこういうことです。
「この世に楽しい仕事とつまらない仕事があるわけではない。すべての仕事は気の持ちようによって楽しくもなるし、つまらなくもなる」
楽しい仕事がどこかに転がっているわけではないのです。仕事が楽しくなるかどうかは、自分自身の問題なのですから。
楽しく働くための3つの仕事観
僕はライフネット生命の副社長を務める傍ら、北は北海道、南は沖縄まで、全国各地を講演行脚しています。多い時で週5回。2011年は100回近くの講演をしました。第一の目的は自分の会社のことを広く知ってもらうことなのですが、「保険の話をしてください」というオファーよりも、「仕事について悩んでいる20代・30代のビジネスパーソン向けに話をしてください」と頼まれることのほうが増えています。
ありがたいことに、最近はどの講演会場も満席に近い状態が続いています。終身雇用・年功序列社会が終焉する中で個人の働き方も一様ではなくなり、これまでのように「右へ倣え」さえしていれば、誰でもそこそこの幸せを手にすることのできる時代ではなくなっています。そんな中で、働くことの意味を見出せない人が増えているのでしょう。
講演のあとには、皆さんからの質問も受け付けています。
やりたいことを見つけるにはどうしたらいいか。仕事がつまらない、楽しく働けるコツはないか。いくら頑張っても給料が上がらない。将来のことを考えるとこのままでいいのか不安になる。上司に怒鳴られてばかりで会社に行く気もしない。部下が自分について来ない。どうしたらプレゼンがうまくなるか。転職はどういった基準ですべきか。起業したいけれど、何から始めればいいのか分からない。
聞いてみると、人それぞれの事情、悩みがあるのだと思い知らされますが、「仕事がつまらない」という悩みについては、率直に「もったいないな」と思います。先ほども述べたように、「楽しい仕事」があるわけではなく、そんなところで躓いていては若いエネルギーと時間を無駄に費やしているだけではないかと思うからです。
では、どうすればいいのでしょうか。
先ほどの「足ることを知る」につながるのですが、それは、自分が仕事をいかに楽しむか、ということに尽きると思います。仕事がつまらないという人は、そもそも「働く」ということに対する考え方・姿勢が間違っているのかもしれません。それでは何をしてもつまらなくて当たり前です。一度、自分が何を大事にして働いているのか、整理してみるとよいでしょう。
僕の場合は、1.何をやるかよりも「誰とやるか」、2.自分にしかできない「何か」はあるか、3.社会に「足跡」を残したい。この3つの仕事観を大事にしてきました。1つずつ解説していきましょう。
1.何をやるかよりも「誰とやるか」
大学時代、司法試験に合格した僕は弁護士になるつもりでいましたが、結局そのような選択はしませんでした。「どうして? もったいないよ」「岩瀬は変わっているな」と言われたものですが、いろいろな法律事務所を訪問した僕の個人的な感想としては、みんなとても疲れた顔をしていて、精気が感じられない。そして何より、楽しく仕事をしている感じが伝わってこなかったのです。
自分がなりたいのはそんな大人ではない。
そう思った時にインターンとして働いたボストン・コンサルティング・グループ(BCG)では、ウイットに富んだ人たちが活き活きと働いている。当時は今ほどコンサル会社が学生に認識されておらず、「その会社、何?」と聞かれるほどでしたが、それでも新卒でそこに入社したのは、「活き活きと働く人たちと仕事をしたいな」と思ったからです。
ライフネット生命を始める時も、最初に「生保をやる」と決めていたわけではありません。投資家の谷家衛さん(あすかアセットマネジメントCEO)に「新しいことをやろう」と言われて、「この人と何かやったら面白そうだな」と感じたから、起業の道を選んだのです。
仕事を選ぶ際には、「何をやるか」ということはなかなか自分では選べないものです。それに比べ「誰とやるか」ということなら、ある程度は選べます。
僕はいろいろ縁あってネット生命保険事業をやっていますが、今一緒に働いている仲間たちとであれば、まったく別の仕事であったとしても、協力し合いながら楽しくクリエイティブに取り組めるだろうなと思っています。
2.自分にしかできない「何か」はあるか
どんな世界でも、スペシャリストは貴重な存在です。「これなら誰にも負けない」「こういうことなら自分は何かひと工夫できそうだ」という特技を活かせる仕事なら、それはその人に合った仕事だということができます。働くのも楽しいに違いありません。
でも、「そんな特技はない」「特技はあるけど、会社にはもっとすごいヤツがゴロゴロいる」なんていう人もいるでしょう。特に大企業においては、従業員が個性を発揮するのはなかなか難しいことです。
そういう意味では、僕は小さな会社を転々としてきてよかったと思っています。小さな会社であればあるほど、「この中では自分にしかできない」ということが増えます。ライフネット生命を立ち上げた時などは、社長の出口治明と2人だけでした。業界の経験や知識でみれば出口のほうがはるかに優位ですが、僕のほうが若いのでインターネットの使い方には詳しい。そうなると、インターネットに関しては僕は頼られる存在になるわけです。
最近は学生が大企業を志望して、名もない中小企業は求人を出してもまったく人気がないといわれますが、小さな組織だからこそのメリットが必ずあります。大会社で働くということは、大きな機械の歯車になるということを意味します。果たして、今、就職活動で大企業ばかりに目が向いている学生たちに、その覚悟があるのでしょうか。
自分らしく、楽しく、活き活きと働きたいのであれば、僕は小さな、伸び盛りな会社を勧めます。小さな会社では毎日どこに行くか、何が起こるか分からない。突然面白そうな仕事がまわってくる。いろいろな人に会える。若いうちからさまざまな経験を積むことができ、自分がかけがえのない存在として職場で輝くことができます。
3.社会に「足跡」を残したい
若い時には、「人間は何のために生きているのだろう」といったことを考えるものです。僕も学生時代には多種多様なことに思慮をめぐらせていました。その時に思ったのは、「人間はみんな、いつか死んでしまう。儚いものだな」ということです。
今は当たり前のように生きている自分も、平均寿命を全うするとしたら残された時間はあと50年。1年という時間はあっという間に過ぎてしまいます。そのうえ体感時間というものは年齢を重ねるほど加速度を増していきますから、現在36歳の僕は、実質的にはもう人生の半分を過ぎているといえるのかもしれません。
僕は死ぬまでに、自分が生きた足跡をこの社会に残していきたいと思っています。
いつか死んでしまっても、誰かに覚えていてもらえるような仕事ができれば、生きた意味があったのだろうと思います。
そういう意味では、僕は教師という仕事は素晴らしいものだ思います。みんな小学校時代の担任の先生のことを覚えています。たとえ嫌な先生でも、その印象は強く残っているものです。そんなふうに、何百人、何千人もの生徒の記憶に刻み込まれていく生き方は、なんて素晴らしいのだろうと思います。
僕が今やっている仕事は教師とは違いますが、世の中にこれまでなかったものをつくって後世に残すことはできます。その足跡が、僕が生きた証になるのではないかと思います。そういう仕事をこれからもしていきたいと思っています。
6つの原因で仕事はつまらなくなる
そもそも、なぜ仕事をつまらないと感じてしまうのでしょうか。先ほど「足ることを知らないから」と述べましたが、具体的な原因としては次の6つが考えられます。
1.コミュニケーションがうまく取れないから
上司、同僚、部下、他部署の人間、顧客。仕事ではさまざまな人間とのコミュニケーションが必要とされます。それがうまくできないと仕事は円滑に進まないし、時には誤解が生じて人間関係の悪化を招きます。コミュニケーション不全が起きている環境では当然、気持ちよく働くことができません。そのうち会社に行くのも億劫になってしまいます。
2.自分のスキルが足りないから
スキルが不足していると、自分にできることが限られてしまいます。自分のやりたいことと自分のできることのギャップに悩み、なかなか満足のいく仕事ができません。みんなに迷惑をかけてしまっていないか、自分はこの仕事に向いていないのではないかという心配をしながら働くことになるかもしれません。
3.モチベーションが上がらないから
人間だから、結局は気分次第というところもあります。何をやってもうまくいかない時、単純作業ばかりさせられている時、待遇が悪い時。なんらかの理由で気分が沈んでいると、仕事へのモチベーションも下がってしまいます。
4.キャリアプランがうまくいっていないから
自分が本当にやりたい仕事に就けていないから仕事を楽しめないのだと感じる人もいます。「これをやりたいけどやれない」「こうなりたいけどなれない」という長期にわたる不満が募っているので、どんなにいい仕事をしても心の底から満たされることはありません。
5.プライベートに問題があるから
「仕事にプライベートを持ち込むな」とはよく言われますが、プライベートは大切なことだから、仕事に影響しないわけがありません。プライベートの充実があってこそ仕事の充実があるので、プライベートに問題を抱えていると仕事を楽しむことができません。
6.チャレンジしていないから
安定志向で現状に満足しているのであれば別ですが、本当は何かやりたいことがあるのに失敗を恐れて一歩踏み出せないという人は、チャレンジしている人に比べて自分の人生を楽しみきれていません。
仕事を楽しむにはこの6つの原因を1つずつ解消していけばいいのです。仕事を楽しめていない人はよく、「上司がダメだから」「会社がダメだから」「社会のシステムがおかしいから」と、その理由を外に求めようとします。もしかすると、自分が解決の鍵を握っていることに気づいていないだけなのかもしれません。本当は、どれも自分次第でどうにでもなることばかりです。
僕は、28歳の時、それまで働いていた会社を辞め、ハーバード経営大学院に留学しました。そして、留学から帰国後の30歳の時にライフネット生命保険の前身となる会社を社長の出口治明とともに立ち上げました。僕にとって30歳前後は、悩み抜き、人生のターニングポイントとなった年齢でした。
30歳前後は、高校、大学を出て1つの会社で働いていれば、入社10年目くらいにあたります。入社10年目というと、仕事にも慣れてきたことで逆にマンネリに陥ったり、組織で部下や後輩ができて自分の仕事を振り返るとともに、悩みも出てくるタイミングです。
僕は今、副社長である自分の仕事を「社員のチアリーダー」と位置づけています。つまり、他人に仕事を楽しんでもらうという意味では、本書の内容は、日々、僕が実践していることばかりです。
ライフネット生命保険を創業し、副社長になってから経験年数はまだ4年と短いかもしれませんが、ありがたいことに社員からは「今までの会社だと休日が早く来ないか待ち遠しかったのに、この会社に来てからは土日に『早く月曜日にならないかな』と思うようになった」という言葉ももらっています。多少、社交辞令はあるのかもしれません。ただ、現在のライフネット生命には、社員100人ほどの若い会社にもかかわらず、すでに運動部が8つもあります。どれも社員の有志が自主的につくったものです。仕事が充実していないとこのような余裕は生まれません。8つの運動部は、社員全員が仕事を楽しんでいるということが、形となって現れたものではないかと自負しています。
これから、この連載では、先ほどの6つの原因(1.コミュニケーション、2.スキル・アップ、3.モチベーション、4.キャリア、5.プライベート、6.チャレンジ)をテーマとして、僕が仕事をしながら気づいたことや、講演会やプライベートで出会ったビジネスパーソンから出てきた「悩み」の答えとなるものを散りばめていきます。
働くということは何か。気持ちよく働くために大事なことは何か。どうすれば人生は豊かになるのか。
1人でも多くのビジネスパーソンの、新たな気づきとなれば幸いです。