“伝説”の東洋美術コレクションを競売…「史上最大級」の2000点





産経新聞 3月28日(土)16時5分配信



http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150328-00000525-san-cul




 東洋美術の名ディーラーで研究者だった米国人、ロバート・ハットフィールド・エルズワース氏(1929~2014年)は、大収集家でもあった。昨年8月に世を去った彼は、自邸を飾る膨大な美術品や調度品を競売にかけるよう遺言で表明。底値を設定せず、どんな価格でもきれいに売り切るよう指示した。その数、約2000点。東洋美術の個人コレクションとしては、競売史上最大級という。

■名ディーラーの遺言から

 ニューヨークで今月17日から5日間にわたり6つの特別オークションが行われ、落札総額は、予想の3500万ドル(約42億円)を大幅に上回る、1億3170万ドル(約158億円)を記録。27日に終了する「オンラインだけのオークション」分も含めると、さらに上積みされるという。

 4歳から中国の切手収集に夢中になったエルズワース氏は、次第に東洋美術の鑑識眼を磨き、弱冠19歳でカナダ・モントリオール美術館に中国の鼻煙壺を売るなどディーラーとしての才能ものぞかせたという。主要美術館やコレクターと取引し“明朝美術の帝王”と呼ばれる一方、近代中国絵画(19世紀~20世紀初頭)の再評価を行うなど、研究者としても実績を残した。

 そんなエルズワース氏のコレクターとしての信条は、「日々ともに暮らしたいものでなければ決して集めない」。ニューヨーク五番街の22室からなる自邸アパートメントの写真を見ると、中国の書画、インドやチベットなどの仏像、陶磁器や翡翠(ひすい)の工芸品、英国18世紀の家具…など、東洋と西洋の美が独自のセンスで融合されている。居間の壁には、江戸前期に描かれた日本の厩図(うまやず)屏風も。

■最高値はアームチェア12億円

 オークションで最高値がついたのは、明代の黄花梨蹄鉄(ていてつ)椅子(馬てい形アームチェア)4脚1式で、約969万ドル(約11億6200万円)と予想の約9倍に高騰。他にも13世紀ネパールの観世音菩薩像、チベット仏教のヨギ(ヨガの聖者)像(11~12世紀、ブロンズ)などが人気を集め、いずれもアジアの個人や美術商が落札。落札者の国籍や名はほぼ明かされないが、全体として中国人を中心に、経済力のあるアジアの収集家が高値で東洋美術を買い戻している流れが見える。

 今回の競売を執り行ったクリスティーズ・ニューヨークのジョナサン・レンデル副会長は「東洋美術はもはや予想が付きにくい。中国美術に関する書籍まで高騰している」と話す。「文化大革命などの混乱もあり、中国には研究書が乏しい。エルズワース氏の蔵書にある英語や日本語の本も注目を集めている。皆、文献に飢えているのです」

 エルズワース氏はどんな心境で競売にかける意志を固めたのだろう。レンデル副会長は「自分が人生のひととき、楽しんだものを、他の人にも楽しんでほしい-シンプルにそう思ったのでは」と推測している。(黒沢綾子)