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日本のマクドナルドは米国の生え抜き経営者では立て直せない
大前研一
Nikkeibp
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20150323/440232/?rt=nocnt
業績が悪化している日本マクドナルドホールディングスは、3月25日付で会長を退任する原田泳幸氏の後任に、米マクドナルドのアジア太平洋部門の副社長を務めるロバート・ラーソン氏を充てる人事を3月10日に発表した。
業績が低迷しているのは構造的な問題
日本マクドナルドの業績を確認しておこう。「日本マクドナルドの売上高前年同月比の推移」をご覧いただきたい。
原田氏の社長時代に業績が一時的に好調だったが、結局は下落に転じ、現在まで低迷が続いている。後述するように、日本マクドナルドの業績不振は構造的な問題によるものだからだ。
米国のマクドナルドについては、「米マクドナルドの連結業績の推移」を参考にしてほしい。
生え抜きのラーソン氏は現状を打開できるか
構造的な問題を抱える企業が、構造問題を解決できないまま、一時的に業績を改善させる現象を「アイアコッカ現象」と呼ぶ。
1978年、経営危機に陥っていたクライスラー社のトップに就任したリー・アイアコッカは、数年で経営を立て直し、「米国産業界の英雄」と称されるようになった。大統領選挙出馬まで噂されたのである。
ところが、アイアコッカがいなくなるとクライスラー社は再び業績が悪くなり、ドイツのダイムラー・ベンツ社に事実上買収されるなどして、2009年には経営破綻した。結局、構造問題を解決しなければ、企業が長く存続することはできないということだ。
では、ラーソン氏は日本マクドナルドをしっかりと立て直すことができるのだろうか。
ラーソン氏は現在58歳である。マクドナルドグループに40年在籍したということは、学生アルバイトから社員になったか、高校を卒業してからマクドナルドに入ったということだろう。まさに生え抜きと言える。
しかし、そういった生え抜きでは現状を打開することはできない。なぜなら、内部で出世してきた人物では、マクドナルドの古い考え方から抜け出せないからだ。
ライバルがごまんといる日本市場の構造を理解しているか
マクドナルドは長年、拠点戦略を実践してきた。より良い拠点を求めて、次々に拠点を置いていく。つまり、マクドナルドの売り上げが伸びるかどうかはあくまでもオペレーションの問題であり、拠点戦略さえしっかりしていれば、どんどん商品を売ることができた。言い換えると、ハンバーガーチェーン間の競争ではすでにマクドナルドは勝利していて、後は自分たちのオペレーションだけを気にしていればよかったのだ。
ところが、現在のマクドナルドが抱えている問題は、オペレーションの問題ではない。とりわけ日本マクドナルドは、構造的な問題に直面している。
以前にも書いたように、日本マクドナルドのライバルはハンバーガーチェーンだけではない。コンビニ総菜などの「中食」産業や、牛丼チェーンやカレーチェーンなどの外食産業とも戦わなければならなくなっている。「お腹のシェアを競う」という意味では、日本マクドナルドのライバルはごまんと存在するのである。
米国の場合、マクドナルドと競合するのはいまだに他のハンバーガーチェーンや、せいぜいケンタッキーフライドチキンやタコベル(タコス)などに限られている。そんな米国市場に馴染んできた米国本部の人間が、日本の厳しい事情をちゃんと理解しているとは思えない。
日本コカ・コーラはなぜ生き残ることができたか
米国と日本の市場環境は全然違うということを理解・分析し、それに対する有効な対策を打ち出せるかどうか。その点で参考になるのがコカ・コーラである。
日本コカ・コーラは米国本社の方針に逆らって、ペットボトルのお茶を出したり、コーヒー缶を出したり、水分補給飲料(アクエリアス)を出したりした。日本においてコカ・コーラのライバルはペプシなどの炭酸飲料だけではなく、伊藤園やUCC、大塚製薬が販売する非炭酸飲料を含む様々な飲料だということを、日本コカ・コーラはよくわかっていたからだ。
そうした改革により、自販機という最大の拠点を持つ日本コカ・コーラは、現在まで生き残ることができている。一方、米国のコカ・コーラは非炭酸飲料にまったく力を入れてこなかったため、「コーラ離れ」「炭酸離れ」が進む米国市場で売り上げが落ち込み、苦境に陥っている。
日本コカ・コーラが改革を進められたのは、ボトラーの存在も大きい。コカ・コーラは世界各地でフランチャイズ契約したボトラーに製造・販売を任せているが、ボトラー側から「お茶とかコーヒーをやってくれないと自販機の売り上げが落ちる」との声があがった。もちろん米国本社はコーラとファンタを売れ、と反対したが日本ではボトラーの発言力が強かったので、日本コカ・コーラは大胆な改革を行うことができた、というわけだ。炭酸飲料離れの米国(本社)は日本コカ・コーラの商品ミックスを一から勉強し直さなくてはならないだろう。
ベテラン・フランチャイジーなどの意見を経営に反映させよ
日本マクドナルドも、日本コカ・コーラがやったくらいの日本の競合環境に即した改革を実行しなければ、業績が大きく上向くことはないだろう。
そのためにも、日本の事情をよく知っていて、現場に近い関係者の声、(元社員の)ベテラン・フランチャイジーなどの意見を経営に反映させる必要がある。
米国のベテランを呼ぶたびに業績が悪化する、という悪循環は米国本社が日本の市場を全く理解していないからである。
大前研一