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オーディオテクニカが“高音質”を徹底追求したポータブルヘッドフォン――「ATH-MSR7」を聴く (1/2)



おそらく今、多くのヘッドフォンファンが注目しているモデルの1つがオーディオテクニカのニューフェイス「ATH-MSR7」だ。今回は、その音質やハンドリングの実力を探っていきたい。



[山本敦,ITmedia]




おそらく今、多くのヘッドフォンファンが注目しているモデルの1つがオーディオテクニカのニューフェイス「ATH-MSR7」だ。今回は、その音質やハンドリングの実力を探っていきたい。




2014年は、オーディオテクニカが1974年に初めてヘッドフォンを発売してから40年目を迎えたアニバーサリーイヤーだった。オーディオテクニカといえばヘッドフォンのスペシャリストとして、ファンならずとも認めるブランドであり、Hi-FiからBluetoothワイヤレス、デジタルサラウンドヘッドフォンまで幅広いラインアップを抱えている。ポータブルヘッドフォンにも低域に特徴を持たせた“SOLID BASS”シリーズや、デザインとサウンドを高次で融合させたストリートモデルの“SONIC FUEL”シリーズなど個性的なモデルが発売されているが、純粋に「高音質」を追求したオーディテクニカを代表するポータブルヘッドフォンとして企画された製品がこの「ATH-MSR7」である。そこにはオーディオテクニカがこれまでにヘッドフォンを開発してきた40年の間に培った全てのノウハウが、惜しみなく投入されている。



新開発の45ミリ口径「"トゥルー・モーション" ハイレゾオーディオドライバー」の特徴

 本機の技術的な特徴を知る上で2つの大きなポイントを抑えておこう。1つは新開発の45ミリ口径ドライバーだ。「"トゥルー・モーション" ハイレゾオーディオドライバー」と名付けられている。

 中核のボイスコイルは本機専用に作り込んだパーツを搭載している。磁界範囲に合わせて巻き数を調整して徹底的に軽量化を図ったことで、ダイアフラムの動きがスムーズになり、モーションを最大化することに成功した。その結果、音のレスポンスが切れ味を増して、全体的な音楽の描写力が深みを増す効果につながっている。

 ドライバーに関わる重要な技術である「デュアル・アコースティックレジスター」は、内部にセンターレジスターとアウターレジスターと呼ばれる2つの音響抵抗材を配置して音のバランスをナチュラルに整えるというものだ。ほかにも、通常はフランジの孔の外周に沿って配置するPCBと呼ばれるパーツをドライバーのトップ位置にマウントすることで、空気の流れを妨げずに、よりクリアでひずみがなくヌケ感の高い音づくりを実現している




2つの音響スペースを設ける「デュアルレイヤー・エアコントロールテクノロジー」の効果とは

 ドライバー以外にもオーディオテクニカの先進技術を見て取れるもう1つのポイントは「デュアルレイヤー・エアコントロールテクノロジー」と呼ばれる内部構造に関わる技術だ。ハウジング内部に不要振動を抑える強靱なマグネシウムとアルミニウムの合金プレートを用いた2つの音響スペースを積層して、スペース内に生まれる空気の流れを緻密にコントロールすることでノイズを発生源からつぶし、より原音に忠実な音を再現するという仕組である。

 本機の音づくりのテーマは高・中・低域それぞれに均しく特徴を持たせることにあった。これを具現化するためにはハウジング内に生まれる空気の流れと音のエネルギーを巧みにコントロールする必要があったことから、音響スペースの内部には3つの「孔=ベント」が配置されている。計算されたベストポジションに3つのベントを付けたことで、厚みのある低域と、クリアな中域、解像感の豊かな高域のパフォーマンスを合わせて実現している。




以上のオーディオテクニカの独自技術を踏まえながら、続いて本機の音質をレポートしていこう。


まずはAstell&Kernのハイレゾプレーヤー「AK100」をリファレンスに、ハイレゾの音源を試聴してみた。

 ロックはTOTOのアルバム「35周年アニヴァーサリー・ツアー~ライブ・イン・ポーランド2013~」から「Stop Loving You」(48kHz/24bit・FLAC)を聴いた。エレキやボーカルのミッドレンジがさわやかで、切れ味がとても良い。中高域のボディはしっかりと厚みがあって、エレキギターのカッティングは適度に硬く粒立ちがキリッとしている。高域のサスティーンに粘り気があって、特にメロディアスなフレーズの色合いが鮮やかだ。ボーカルやシンセサイザーの高域は余韻が爽快(そうかい)で、きらびやかなイメージを残しながらすうっと消えていく儚(はかな)い美しさが良い。SNがとても高く、ライブステージに漂う張り詰めた緊張感のようなものを上手に引き出してくれる。ドラムやベースなどの低域は量感やアタックの強さを十分に備えながら、何といっても中高域との立体的な位置関係の正確な描写力に驚く。各帯域のバランスが整った一体感のある心地良い演奏が楽しめる。




 Daft Punkのアルバム「Random Access Memories」から「Doin' It Right(feat. Panda Bear)」(88.2kHz/24bit FLAC)を続けて聴いた。無駄をそぎ落とした筋肉質な低域は立ち上がりがシャープで、スピード感の豊かさが演奏にスリリングな緊張感を与えている。中高域にかけて音のつながりがスムーズで分離もよく、帯域ごとに楽器の音色もクッキリと描かれ、鮮度が高い。ディティールの情報量が多いことも本機の特徴だ。音数の多い打ち込み系の音楽にも真価を発揮してくれそうだ。

 クラシックはピアノコンチェルト、「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、フランク:交響的変奏曲 アレクシス・ワイセンベルク/ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリンフィル」から「第1楽章:モデラート」(96kHz/24bit・WAV)を試聴した。ピアノの音をステージの中央に定位させながら、オーケストラのスケールを広々と描く。音の強弱のバランスが自然で、スムーズな階調感でつながっている。ストリングスは音の輪郭線が柔らかく、立体的な音場を浮かび上がらせる。ピアニストの音色は透明感があり、指先の動きを克明にトレースする。冷徹な正確さではなく、鍵盤の上に立ちこめる熱気を伝えてくるかのような生っぽいリアリティが感じられる。フォルテッシモのアタックは情報量がぎっしりと詰まっていて、力強いだけでなくしなやかさも併せ持っている。




ジャズはBill Evans Trioの「Waltz for Debby」から「Milestones」でチェックした。ウッドベースの低音は弦が振るえる様をディティールまで具に描き込む。音の立ち上がりが素速く、余韻の消え入り際がさわやか。その透明感が心地良いグルーブを紡ぎ出す。シンバルやハイハットも音の粒が淡く空間に広がっていく。ピアノの音色はニュートラルで色づけがなく、演奏者の手元の情景をリアルに蘇らせる。各帯域の音色がそれぞれの輝きを強調し過ぎることなく、自然体で主張してくるあたりにオーディテクニカのエンジニアたちの冴え渡る手腕が発揮されていることが実感された。イヤーパッドの密着感も非常に高いので、プレーヤーのボリュームをあまり上げなくても、アウトドアリスニングで微細な音までしっかりと聴き取ることができた。

 最後にXperia Z2に直結して中島美嘉のアルバム「TRUE」から「WILL」を聴いた。ボーカルのエネルギーがストレートに伝わってくる。息づかいや抑揚のディティールが十分に引き出されるとともに、サ行の刺さるような粗さもなくシルキーで滑らかなタッチだ。低域はタイトで力強い。パーカッションなど編曲の細かな部分も立体的に浮かび上がってくる。ポタアンを付けなくても、スマートフォンとのペアだけで音楽の醍醐味を十分に引き出せるヘッドフォンだ。

細部にまでオーディオテクニカのノウハウが注入された

 アラウンドイヤータイプの本機は装着した時の密閉感やイヤーパッドのクッション性も高い。耳の裏から下顎にかけてイヤーパッドがしっかりと密着してくるので低域のエッセンスが漏れずに耳内へ届けられている確かな感触を得た。



イヤーカップまわりではもう1つ「イヤーフォーカスデザイン」に着目したい。イヤーパッドを取り外してみると、内部でドライバーの向きに少し角度が付けられているのが分かる。これはヘッドフォンを装着した時に、人間の耳の向きに対してドライバーが平行に向くようにすることで、サウンドをダイレクトに届けるための技術として、同社がこれまでに発売してきたハイエンドモデルのヘッドフォンにも採用されてきたものだ。本機のストレートで鮮度の高い音の鳴りっぷりを体験して、その効果が実感できた。



本体のケーブルは脱着・交換ができる。一般的な3.5ミリミニプラグとの互換性を持ち合わせているが、本体のパッケージに1.2メートルのポータブル用ケーブルに加え、同じ長さでインラインにマイクリモコンを付けたケーブルと、3メートルのホームリスニング用ケーブルも付属してくる。




ヘッドフォンを手にすると、そのアルミハウジングにアルマイト塗装を施した上質なカラーリングの質感や、ブラックモデルはブルーの、シルバーモデルはレッドのワンポイントカラーを配置した特別感もグッとくるデザインだ。ヒンジ可動部の滑らかさや、ヘッドバンド、イヤーパッドのレザー調生地の肌触りの良さにより、長時間身に着けていても心地よさが持続する。こうした細部にまで、オーディオテクニカが歩んできたヘッドフォン開発の“歴史の深み”を感じられる、満足度抜群のポータブルヘッドフォンだった。