マランツ、初のUSB-DAC/ヘッドホンアンプ「HD-DAC1」。ノイズ遮断システムや無帰還型バッファー搭載
ファイル・ウェブ編集部 小澤貴信
マランツ初のUSB-DAC/ヘッドホンアンプ「HD-DAC1」を10月上旬より発売する。
価格は108,000円(税抜)
本機は2.8/5.6MHz DSD、192kHz/24bit PCMの再生が可能なUSB-DACを搭載。新開発のヘッドホンアンプは、HDAM-SA2+フルディスクリート無帰還型出力バッファーによる構成だ。同社ハイレゾ対応モデルでお馴染みのデジタル・アイソレーション・システムも搭載する。入力はUSB-Bに加えて、USB-A、同軸/光デジタルを装備。ステレオ標準端子のヘッドホン出力に加えて、ライン出力も固定/可変の2系統を備える。
公式発表に先立って、ディーアンドエムホールディングス本社にてプレス向け発表会が開催された。発表会冒頭では、同社プレジデントであるティム・ベイリー氏が登場。「今日はマランツが初めて手がけるUSB-DAC/ヘッドホンアンプであるHD-DAC1を紹介できて光栄です。非常にエキサイティングな製品となりましたのでご期待ください」と、本機にかける意気込みをアピールした。以下で製品の詳細および発表会の模様を紹介していく
■マランツHi-Fiアンプの究極の理想をヘッドホンアンプで具現化
発表会では、マランツのサウンドマネージャーである澤田龍一氏がプレゼンテーションを行った。澤田氏は「私が記憶する限り、マランツの61年の歴史で単体のヘッドホンアンプを作ったのは初めて」とコメント。HD-DAC1のヘッドホンアンプ構成は、以前から澤田氏がマランツHi-Fiアンプの理想の形と考えていたものを具現化できたと述べた。
HD-DAC1のヘッドホンアンプは、電圧増幅段にはHDAM-SA2による電流帰還型回路を用い、ヘッドホンをドライブする出力段には新規開発のフルディスクリート構成・無帰還型バッファーアンプを採用する。こうした構成は、他社ヘッドホンアンプでは類を見ないもので、従来にないディテール表現や空間表現の向上を可能にしたと説明する
澤田氏は、HD-DAC1のヘッドホンアンプが特徴的な構成となった理由についても紹介した。パワーアンプは“電圧の増幅”と“スピーカーの駆動”を受け持つが、マランツではこの増幅と駆動を分業することでピュアな再生を目指してきた。そして「分業を完璧にするには、駆動を行う出力段の増幅(ゲイン)を0dBにすること」が理想と述べた。だが、実際にそれをスピーカーを駆動するHi-Fiパワーアンプで実現することは、物量・コスト的な面から非常に難しくなる。
スピーカーに比べて増幅率の少ないヘッドホン用のアンプならば、このHi-Fiパワーアンプの“究極の姿”を具現化できると、HD-DAC1では出力段にゲイン0dBの無帰還型バッファーアンプを採用。電圧増幅とヘッドホン駆動の完全な分業を実現した。澤田氏は「無帰還型アンプは、いわば“お化粧をしない”ということで、素の特性が良くなければ実現することは難しい」とも語っていた。また、このアンプ構成は幅広いインピーダンスを持つヘッドホンをドライブするための電圧ゲインの確保、そして逆起電力の制御にも寄与しているという。
ヘッドホンアンプはゲイン切り替え機能も搭載。使用するヘッドホンのインピーダンスに合わせて、ゲインを3段階(High [22dB]、Mid [16dB]、Low [11dB])で切り替えることができる。
■HD-DAC1がバランス・ヘッドホン出力非搭載という仕様を選択した理由
本機のヘッドホン出力は、ステレオ標準端子のシングルエンド出力のみ。澤田氏はバランス・ヘッドホン出力を非搭載とした理由についても説明した。本機はオペアンプを使うことなく、非常に凝ったディスクリート回路でアンプを構成し、動作のほとんどをA級動作でまかなっている。バランス駆動ではステレオアンプが2組必要となるため、今回のHD-DAC1のアンプ構成でこの筐体に収めることは難しく、コスト面でも本来のコンセプトとそぐわないものになってしまう。「マランツの思想を犠牲にしてまでバランス端子を搭載するよりは、理想的なアンプをシングルエンドで実現することに徹した」と澤田氏は語っていた。
なお、澤田氏にこのヘッドホンアンプをはじめとしたHD-DAC1の詳細、そしてマランツが目指すアンプの理想をいかにHD-DAC1に落とし込んだかという点について、別途、くわしく話を伺う機会を得た。こちらも近日中にレポートする
■NA8005と同等の5.6MHz DSD対応USB-DACを搭載
HD-DAC1はUSB-DACを内蔵し、2.8/5.6MHz DSDの入力に対応。ASIOドライバーによるネイティブ再生および、DoP(DSD over PCM)再生が可能だ。PCM信号は最大192kHz/24bitの入力に対応。PCとクロックを同期せずに本機の高精度クロック回路で制御を行うアシンクロナスモードにも対応。PC側クロックのジッターに左右されない伝送を行える。
OSについては、WindowsはVista/7/8、MacはOSX 10.6.3以降に対応している。Windowsについては、専用ドライバーのインストールが必要となる。
澤田氏はUSB-DACの音質について「USB-DAC部の構成はNA8005とほぼ同様。しかし、HD-DAC1とNA8005でライン出力のサウンドを比較すると、HD-DAC1の方がより細部まで表現できていると感じる。この差は、HD-DAC1がネットワーク機能を持っていない分、動作環境がいくらか楽になっていることが影響している」と述べていた。
■同軸/光デジタル入力やiPod&メモリー対応のUSB-Aを搭載
最大192kHz/24bitのPCM信号に対応する同軸デジタルを1系統、光デジタル入力を2系統を装備。フロント搭載したUSB-A端子からはiPhone/iPodのデジタル接続(48kHz/16bitまで)、USBメモリーからのファイル再生(WAV/AAC/WMA/MP3)に対応。iPod/iPhoneは再生しながら充電でき、本機スタンバイ中も充電を継続できる。
同軸/光デジタル入力とUSB-A入力からの信号は、D/A変換の前に、ジッターリデューサーによりジッターを低減する。CDプレーヤーやネットワークプレーヤー、テレビなどのデジタル機器を接続し、HD-DAC1のD/Aコンバーター、アナログ出力回路を通した高品位な再生を行うという使い方もできる。
■デジタル・アイソレーション・システム
USB接続されたPCから流入する高周波ノイズや、HD-DAC1自体のデジタル回路から発生する高周波ノイズによる音質への悪影響を排除するために、高速デジタルアイソレーターを8素子・16回路使用した「デジタル・アイソレーション・システム」を搭載。さらに、ICチップ上に組み込まれたトランス・コイルを介して磁気によりデータ転送を行い、入力側と出力側は電気的に絶縁された状態にする。
これは同社NA-11S1で確立され、NA8005などの最新モデルでも採用されて高い評価を得てきた手法。デジタルオーディオ回路とD/Aコンバーター間の信号ラインを絶縁するので、DAC回路およびアナログオーディオ回路への高周波ノイズの影響を排除できる。よって高周波ノイズによる音質劣化を防止し、透明感が高く、安定したサウンドを実現している。
なお、NA8005に採用されたデジタルアイソレーターは6素子・12回路であったが、HD-DAC1ではボリュームコントロールなどのマイコンが加わる分だけアイソレーションを行う経路が増えるので、それに応じて素子の数を増やし、8素子としている。
■マランツが開発に関わったDSDダイレクト変換対応DAC「CS4398」を採用
DACには、マランツのSACDプレーヤーやネットワークプレーヤーへでおなじみとなる、DSD信号のダイレクトD/A変換と192kHz/24bitのPCM信号に対応したシーラス・ロジック「CS4398」を採用。CS4398のベースでありシーラス・ロジック初のDSD対応DACとなった「CS4397」の開発時には、当時フィリップス傘下だったマランツが、その音質チューニングに関わったことも紹介された。
また、DSDダイレクト変換モードを用いる利点も紹介。従来は音量レベルの低いDSDをPCM信号の音量と揃えるために、同じCS4398でも音量レベルを調整できるモードで用いていたという。しかし、NA-11S1以降の同社製品では、DSD信号のより忠実なD/A変換を優先するために、音量調整は行わずに、DSDダイレクト変換モードを用いている。
本機はNA-11S1やSA-14S1などの上位モデルと同様に、クロック回路には高精度なD/A変換を可能にする超低位相雑音クリスタルを搭載。さらに、44.1kHz系、48kHz系それぞれに専用クリスタルを搭載することで、入力信号のサンプリング周波数に応じて最適なクロックを供給。ジッターを抑制し、明瞭な定位と見通しの良い空間表現を実現している。
HD-DAC1はヘッドホン出力に加えて、可変/固定の2系統のアナログ音声出力(RCA端子)を装備。固定出力をプリメインアンプに接続してUSB-DACとして使用できるほか、可変出力をパワーアンプやパワードスピーカーに接続し、USB-DAC付きプリアンプとして使用することもできる。
D/Aコンバーター以降のアナログ段は、同社が常に目指してきたハイスピードで情報量豊かなサウンドを得るために、NA8005と同様の構成によるフルディスクリート回路を採用。マランツ独自の高速アンプモジュールHDAMおよびHDAM-SA2により、電流帰還型フィルターアンプ兼送り出しアンプを構成する。左右チャンネルで信号経路の長さをそろえ、平行配置を徹底してレイアウトすることにより、チャンネルセパレーション、空間表現力も高めた。
■電源部や各種音質パーツにもマランツHi-Fiのノウハウを投入
高品位再生のベースとなる電源部や各オーディオ回路にもマランツHi-Fiのノウハウを投入。電源部については、電源供給に余裕を持たせて安定した音楽再生を行うために、大容量EIコア電源トランスを搭載。さらにトランスをシールドケースに収めて磁束漏れを抑え、周囲の回路への干渉を抑制している。また、デジタルオーディオ回路、アナログオーディオ回路、USBインターフェース、ディスプレイの各ブロックごとに専用の二次巻線を用い、後段の整流回路や平滑回路も独立させることで、回路間の相互干渉を排除。クリーンかつ安定した電源供給を可能にしている。
アナログ回路電源用のブロックケミコンには、ニチコン製のマランツ専用カスタムブロックコンデンサー(3,300μF)を使用。試作と試聴を繰り返して、最適なコンデンサーをニチコン社と共同開発したとのこと。アナログ出力回路には、SACDプレーヤーやネットワークオーディオプレーヤーと同様に、オーディオグレードのフィルムコンデンサーを使用。細部に至るまで徹底したサウンドチューニングを施している
アナログ音声出力端子には、真鍮削り出しのピンジャックを採用。金メッキを施し、経年変化による音質の劣化を防止している。端子の間隔を広く取り、プラグの大きなオーディオケーブルの接続にも配慮する。
メインシャーシにボトムプレートを追加することによって重心を下げ、外部からの振動による音質への影響を抑制するダブルレイヤードシャーシを採用。シャーシを支える脚部には、HD-DAC1専用に開発されたアルミダイキャストインシュレーターを装備する
主な仕様は以下の通り。再生周波数範囲は2Hz~96kHz、再生周波数特性は2Hz~50kHz(-3dB)<DSD、PCM:192kHz>、2Hz~20kHz<PCM:44.1kHz>。SN比は110dB(可聴帯域)、ダイナミックレンジは106dB(DSD/192kHz)<可聴帯域>、高調波歪率は0.0012%(1kHz、可聴帯域)。
出力レベルは、アナログ出力(固定)が2.3V RMS(PCM)、1.7V RMS(DSD)。アナログ出力(可変)が2.3V RMS(PCM、ボリューム最大、ゲイン:Low)、1.7V RMS(DSD、ボリューム最大、ゲイン: Low)。ヘッドホン出力(ゲイン:Low)は800mV/32Ω(ボリューム最大、ゲイン:Low)。
消費電力は35W(待機電力:0.3W)、外形寸法は250W×90H×270Dmm、質量は5.0kg。