まもなく羽田に降り立つ、第2の「中東の翼」
東洋経済オンライン 2014/6/9 08:00 鳥海 高太朗
6月18日に羽田―ドーハ線を就航するカタール航空
6月2日に開催されたIATA(国際航空運送協会)の年次総会を取材するため、カタールの首都ドーハを訪れたときのことだ。5月27日にオープンしたばかりの新空港、ドーハ・ハマド国際空港の威容に思わず目を見張った。
ターミナルの面積は60万平方メートル。年間3000万人の利用者に対応し、数年後には5000万人対応となる予定だ。カフェとレストランが合わせて30店、免税店をはじめとした物販店も70店以上が入っており、発着時間帯の多い深夜時間帯には多国籍の人で賑わっていた。免税店の中には、エルメスやブルガリなどの高級ブランドも軒を連ねる。
無料で使えるパソコンが設置されたインターネットスペース(無線LANはターミナル内のほぼすべての場所において無料で使える)や子供が遊べるスペースも充実しており、乗り継ぎ時間を退屈させないターミナルビルが誕生した。年内にはターミナル内にトランジットホテルとプールがオープンする予定だ。
■ 急成長のワケ
この新空港を拠点とするのが、カタール航空である。1994年に地域航空会社としてスタートした同社は、1997年に経営陣を一新。アクバ・アル・バクルCEOの就任後、積極的にネットワークを拡大し、現在では141都市へネットワークを構築している。
カタール航空に、エミレーツ航空(拠点:UAE・ドバイ)、エティハド航空(拠点:UAE・アブダビ)を加えた中東系航空会社は「ガルフ3社」と呼ばれる。いずれも世界中にネットワークを拡大しており、拠点とするハブ空港を拠点に5大陸すべてに路線網を展開している。
【詳細画像または表】
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その中で今年、台風の目になりそうなのがカタール航空である。強みは新空港だけではない。
現在、132機の航空機を保有しているが、エアバスA320を81機、ボーイング787を47機など、241機が今後納入される予定になっている。
ライバルのエミレーツ航空がすべて大型機であるのに対し、カタール航空は大型機であるボーイング777型機を主力としつつ、中型機の787、小型機のA320も保有するなど、路線の需要に応じて飛行機を使い分けている。
こうした機動的な航空機の運用が、運航コストの効率化に結びついている。実際、日本発の中東経由欧州行きではエミレーツ航空よりも安く販売されていることが多く、欧州への最安値料金がカタール航空という場合も珍しくない。
それでいて、英スカイトラックス社が実施しているエアラインの格付けにおいて、ANAを含めて世界で7社しか獲得していない5つ星を手にしている。筆者も実際に利用した際、客室乗務員は笑顔を絶やさず、細かい気配りがされており、日系航空会社に近い「おもてなし」が実践されていた。
航空会社によっては、客室乗務員のサービスレベルが高いと評判でも地上係員(グランドスタッフ)の対応がよくないケースもあるが、日本の航空会社と同様に機内と変わらない接客レベルであり、ターミナル内でも困っているとすぐに声をかけてくれる対応にも好感を持った。
質の高いサービスと、その割にリーズナブルな料金設定は、日本人の間でも着実に浸透しているようだ。
成田と関西からドーハへ毎日運航しており、6月18日からは羽田―ドーハ線をボーイング787型機で新規就航するなど、着実に便数を増やしている。ドーハ経由の欧州路線は、日本からのリーズナブルなルートとして定着しつつある。
■ 日本の航空会社は様子見
それでは、日本の大手航空会社は中東路線に対して、どう対処しようとしているのか
IATA年次総会後に取材に応じた日本航空(JAL)の大西賢会長は「われわれのデータでは、中東を最終目的地にするお客様はドバイで20%くらい。ドーハはまだ7%程度であり、それ以外は乗り継ぎのお客様。自社便で運航するのはまだ先の話だ」と語った。
従来からのエミレーツ航空とのコードシェア便(共同運航便)に加え、カタール航空が2013年10月に航空連合ワンワールドに加盟したことで、新たにJALのコードシェア便となった。当面は、この2社とのコードシェアで需要に対応していく構えだ。
全日本空輸(ANA)の篠辺修社長も、中東路線について「エティハド航空とのコードシェア便を今後も継続していく。自社運航便については候補地には入っているが、早急に飛ばすという議論までは至っていない」とした。
ただし、国土交通省が5月16日に羽田空港の深夜早朝時間帯に日本・トルコ双方の航空会社が1日1便ずつの運航を可能とすることで合意したと発表したことについて、「自社運航便としての就航を検討している段階。要件が整い次第、飛ばしたいと考えている。イスタンブールは観光を含め、中東に比べると需要があり、ビジネス需要を含めた相乗的な効果が見込まれる都市だ」と話した。今のところ、ANAの視線は日本人と訪日旅行者(インバウンド)が見込める都市へ向いているようだ。
■ 中東路線に飽和の懸念
なぜJAL、ANAとも中東路線に尻込みしているのか。エミレーツ航空は2013年6月から羽田への乗り入れを果たしており、カタール航空が今回新たに羽田便を就航することで、中東3社だけで日本路線が8路線体制(8便)となる。これはさすがに供給量が多いといわざるをえない状況だ。
今後も、エミレーツ航空、エティハド航空、カタール航空という中東航空会社同士の利用者争奪戦はさらなる激化が予想される。価格、ターミナル施設、乗り継ぎの利便性、機内エンターテイメントを含めた機内サービスなど、中東系航空会社の進化はまだまだ続いていきそうだ
東洋経済オンライン 2014/6/9 08:00 鳥海 高太朗
6月18日に羽田―ドーハ線を就航するカタール航空
6月2日に開催されたIATA(国際航空運送協会)の年次総会を取材するため、カタールの首都ドーハを訪れたときのことだ。5月27日にオープンしたばかりの新空港、ドーハ・ハマド国際空港の威容に思わず目を見張った。
ターミナルの面積は60万平方メートル。年間3000万人の利用者に対応し、数年後には5000万人対応となる予定だ。カフェとレストランが合わせて30店、免税店をはじめとした物販店も70店以上が入っており、発着時間帯の多い深夜時間帯には多国籍の人で賑わっていた。免税店の中には、エルメスやブルガリなどの高級ブランドも軒を連ねる。
無料で使えるパソコンが設置されたインターネットスペース(無線LANはターミナル内のほぼすべての場所において無料で使える)や子供が遊べるスペースも充実しており、乗り継ぎ時間を退屈させないターミナルビルが誕生した。年内にはターミナル内にトランジットホテルとプールがオープンする予定だ。
■ 急成長のワケ
この新空港を拠点とするのが、カタール航空である。1994年に地域航空会社としてスタートした同社は、1997年に経営陣を一新。アクバ・アル・バクルCEOの就任後、積極的にネットワークを拡大し、現在では141都市へネットワークを構築している。
カタール航空に、エミレーツ航空(拠点:UAE・ドバイ)、エティハド航空(拠点:UAE・アブダビ)を加えた中東系航空会社は「ガルフ3社」と呼ばれる。いずれも世界中にネットワークを拡大しており、拠点とするハブ空港を拠点に5大陸すべてに路線網を展開している。
【詳細画像または表】
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その中で今年、台風の目になりそうなのがカタール航空である。強みは新空港だけではない。
現在、132機の航空機を保有しているが、エアバスA320を81機、ボーイング787を47機など、241機が今後納入される予定になっている。
ライバルのエミレーツ航空がすべて大型機であるのに対し、カタール航空は大型機であるボーイング777型機を主力としつつ、中型機の787、小型機のA320も保有するなど、路線の需要に応じて飛行機を使い分けている。
こうした機動的な航空機の運用が、運航コストの効率化に結びついている。実際、日本発の中東経由欧州行きではエミレーツ航空よりも安く販売されていることが多く、欧州への最安値料金がカタール航空という場合も珍しくない。
それでいて、英スカイトラックス社が実施しているエアラインの格付けにおいて、ANAを含めて世界で7社しか獲得していない5つ星を手にしている。筆者も実際に利用した際、客室乗務員は笑顔を絶やさず、細かい気配りがされており、日系航空会社に近い「おもてなし」が実践されていた。
航空会社によっては、客室乗務員のサービスレベルが高いと評判でも地上係員(グランドスタッフ)の対応がよくないケースもあるが、日本の航空会社と同様に機内と変わらない接客レベルであり、ターミナル内でも困っているとすぐに声をかけてくれる対応にも好感を持った。
質の高いサービスと、その割にリーズナブルな料金設定は、日本人の間でも着実に浸透しているようだ。
成田と関西からドーハへ毎日運航しており、6月18日からは羽田―ドーハ線をボーイング787型機で新規就航するなど、着実に便数を増やしている。ドーハ経由の欧州路線は、日本からのリーズナブルなルートとして定着しつつある。
■ 日本の航空会社は様子見
それでは、日本の大手航空会社は中東路線に対して、どう対処しようとしているのか
IATA年次総会後に取材に応じた日本航空(JAL)の大西賢会長は「われわれのデータでは、中東を最終目的地にするお客様はドバイで20%くらい。ドーハはまだ7%程度であり、それ以外は乗り継ぎのお客様。自社便で運航するのはまだ先の話だ」と語った。
従来からのエミレーツ航空とのコードシェア便(共同運航便)に加え、カタール航空が2013年10月に航空連合ワンワールドに加盟したことで、新たにJALのコードシェア便となった。当面は、この2社とのコードシェアで需要に対応していく構えだ。
全日本空輸(ANA)の篠辺修社長も、中東路線について「エティハド航空とのコードシェア便を今後も継続していく。自社運航便については候補地には入っているが、早急に飛ばすという議論までは至っていない」とした。
ただし、国土交通省が5月16日に羽田空港の深夜早朝時間帯に日本・トルコ双方の航空会社が1日1便ずつの運航を可能とすることで合意したと発表したことについて、「自社運航便としての就航を検討している段階。要件が整い次第、飛ばしたいと考えている。イスタンブールは観光を含め、中東に比べると需要があり、ビジネス需要を含めた相乗的な効果が見込まれる都市だ」と話した。今のところ、ANAの視線は日本人と訪日旅行者(インバウンド)が見込める都市へ向いているようだ。
■ 中東路線に飽和の懸念
なぜJAL、ANAとも中東路線に尻込みしているのか。エミレーツ航空は2013年6月から羽田への乗り入れを果たしており、カタール航空が今回新たに羽田便を就航することで、中東3社だけで日本路線が8路線体制(8便)となる。これはさすがに供給量が多いといわざるをえない状況だ。
今後も、エミレーツ航空、エティハド航空、カタール航空という中東航空会社同士の利用者争奪戦はさらなる激化が予想される。価格、ターミナル施設、乗り継ぎの利便性、機内エンターテイメントを含めた機内サービスなど、中東系航空会社の進化はまだまだ続いていきそうだ