■Introduction
オーディオの世界には2種類の製品がある。コンシューマー用とプロ用である。ここで間違っていけないことはプロ用だから音がいいとは限らないことである。まあ、一眼レフカメラだったら、プロ用がその頂点にあり、ハイアマチュア用、中級者用、初心者用となり、プロ用が最も高性能で耐久性があり高級品となる。オーディオの場合はプロと言ってカメラと違い幅が広く、ヘッドフォンならDJ、DTM、DAW(Digital Audio Workstation)、ミキサーが使うスタジオモニターまでひっくるめてプロ用と呼ばれている。モニター用ヘッドフォンは検聴用に使われるため、エッジがきつく、ノイズも良く聞こえ、周波数特性はかまぼこ型で、音に艶や響きがなく、硬質でクールな音という印象がある。つまり用途が違うので必ずしも音楽が心地良く聞こえるとは限らないのである。しかし、ヘッドフォン自体に音の個性がないため、他のコンポの音質を知るには便利なのだ。私もモニター用ヘッドフォンとしてSURE『SRH840』を使っている。
SONYに『MDR-CD900ST』があるように、audio-technicaには『ATH-M50』というモニターヘッドフォンがある。発売は2007年で、これを全面的に進化させたニューモデルが『ATH-M50x』である。同社のWebサイトのジャンルの楽器関連製品/ヘッドフォン/音楽制作に位置する異色のヘッドフォンだ。いったいどんな音がするのだろう。
■Design
DJに不可欠な片耳モニタリングができる90度反転モニター機構を採用。持ち運びに便利な折りたたみ式で、利用シーンに合わせて1.2mカールコード、3mストレートコード、1.2mストレートコードの3種類のケーブルが付属する。いずれも先端はステレオミニプラグで、付属のねじ込み式アダプターで標準プラグに変更できる。リケーブルとしてはオヤイデ『HPC-35HD598』、『HPC-62HD598』が使える。やや固めのストレートケーブルで長さは1.3mと2.5mがあり、ステレオミニプラグまたは、ステレオ標準プラグも選択できる。
折りたたんで、コンパクトに収納でき、持ち運びに便利。
装着時に片耳を反転できるので、周囲の音を聞きながら、モニターもできる。首からかけた時にも邪魔にならずフィットする。
余分なケーブルが邪魔にならないカールコードも付属する。
3mのストレートコードは柔らかく、取り回しが良かった
■Performance
一聴してオーディオ用とは音の印象が違う。まず一音一音が明確で音の輪郭がハッキリしている。そして高域が耳にきついと思われるほど尖っている。再生周波数帯域はフラットで低域も膨らまない。大口径ドライバーと密閉式のおかげなのかタイトでスピード感のある低域が楽しめる。また、オーディオ用ヘッドフォンより、ノイズがクッキリ聞こえる。ハイレゾよりもCDをリッピングした曲やiTunesで購入した音源を聴くとしっくりくる感じだ。例えば尾崎豊『ALL TIME BEST/十七歳の地図』ではイントロから強烈な音が耳に突き刺さるように飛び込んでくる。ハイエンド用のヘッドフォンでは情報量の多さが災いして、音がキレイすぎて違和感があるが、モニター用で聴けばノイズも含めて当時のリアリティが感じられる。それでもSURE『SRH840』と比較すると『ATH-M50x』の方が全体としては聴きやすいと言える。ただし、『ATH-M50x』は高域にややキャラクターがあるように思えた。
■研究結果
モニター用ヘッドフォンは音楽をクッキリ、ハッキリ聴きたい人には狙い目のカテゴリーである。
audio-technica『ATH-M50x』は同社のコンシューマー用の音作りとは違う、クッキリ、ハッキリ路線の製品で、録音の悪さも容赦なく暴き出す。装着感はいいが、その特性から長時間音楽を聴き続けるような使い方には不向きだろう。また、音楽制作の現場では、こんな音でモニターされているのかという新鮮な驚きもあった。モニター用ヘッドフォンの中では作りも良く、操作性に優れ、コード交換式という点も踏まえお買い得なモデルと言える。
●『ATH-M50x』はドンシャリではないがメリハリ型
●『ATH-M50x』の高域はかなり尖っている
●『ATH-M50x』の低域はタイトでハイスピード
●『ATH-M50x』はこもる音がイヤな人にもオススメ
(文/ゴン川野)