ビザ取得に2年? インド赴任の大変な実態

東洋経済オンライン 3月30日(日)8時0分配信







 インド経済の減速が報じられているが、インド進出日系企業の数は増加の一途をたどっている。在インド日本大使館が今年2月末に発表した「インド進出日系企業リスト」によれば、1072社と同統計で初めて1000社の大台を突破した。さらに拠点数では2542拠点と、前年の1804と比較して3割以上の急増を示した。



 これは、同じ会社の第2、第3の拠点ができていることを意味している。新規での進出が増加すると同時に、すでに進出した企業が規模を拡大させているということだ。進出規模の拡大とともに、日本からのインド赴任者も増加の一途をたどっている。

 そこで、「最近、増加しているビザ申請トラブル」について、インドビジネスの人事労務に詳しいネクストマーケット・リサーチ代表の須貝信一氏に聞いた。

■ お別れ会の後も日本に滞在? 

 ――インドのビザ取得ではトラブルが起こりやすいのでしょうか。

 トラブルだらけです。本社の総務や人事などの間接部門としては、「最も遭遇する確率の高いトラブル」かつ「意外と深刻なトラブル」だと思います。インド赴任後の一連の手続きには外国人登録などのIDが必要ですが、これらもビザ取得後の手続きです。つまり、ビザが遅れるとすべての赴任スケジュールが滅茶苦茶になるわけです。

 たとえば、家族帯同でお子さん連れの場合など、現地の日本人学校への転入手続きをして、転校届を出して、涙のお別れ会をやった後に、「え、お父さんのビザがまだ取れないの? 」という状況に陥ります。学校を退学してしまった子供が、家でゴロゴロすることになります。近所の友達から「おい、お別れ会したのにアイツ、まだ家にいるぞ!! 」なんていう羽目になります。

 赴任では、予防接種や引っ越しなど、いろんなことを並行して行います。ビザ取得の予定が狂うと、段ボールにしまったものを引っ張り出して、よくわからない中途半端な生活を強いられるということになります



また、進出時の初代赴任者の場合は、赴任が遅れるとビジネス全体が遅れることになります。現地にいけば、さらなるトラブルに対処していくというより重要な任務があるにもかかわらず、ビザ問題のせいで行くことすらも許されないという状況に追い込まれます。

 ――うーん。なるほど。では、ビザはすべて取りにくいのでしょうか? 

 「観光ビザ」は簡単です。出張で使う「商用(ビジネス)ビザ(通称:Bビザ)」も簡単ですが、一部の人は厳しいです。最も混乱が起きているのは赴任時に使う「就労(エンプロイメント)ビザ(通称:Eビザ)」です。状況は年々悪化の一途をたどっていて、ここ2年くらいは、特にひどいです。取得するまで2カ月かかるようなことがザラにあります。これでは赴任する前から心が折れてしまいます。

 ――取得しづらいのはどういった人ですか。

 営業職よりも技術職の方が取りにくいです。新製品のライン立ち上げなどで駆り出される「技術支援の長期出張」なども取りにくいです。業種で言えば、機械、設備メーカーなどが取りづらいです。

■ これだからインドはダメなんだ!! 

 一方、販社で進出している企業は、営業職の方のみで構成されていますので、あまり問題になりません。こうした事実を知らないこともあります。技術職を必要とする現地生産している企業で問題になっています。

 ――2カ月かかるというのは、待っていればいいということなのでしょうか。

 いいえ。その間、不毛な経験を何度もすることになります。申請センターまで往復し、並ぶのに1~2時間待たされます。ビザ申請を5回以上、はねつけられたなんてこともあります。

 不備を直して持っていくと、また違う不備を指摘され、また不備を直して再提出すると、さらに違う不備を指摘され・・・・・・。一度に問題を指摘してもらえないため、ひどい場合、こんなことが5回も6回も繰り返される。人間、我慢にも限界あります。先日、ビザ申請のカウンターで完全にキレている人を見かけました。

 「これだからインドは駄目なんだ!! 」と叫んでいました(笑)。申請で並ぶ人が数十人いましたが、誰もが心の中でその叫びに「YES! 」と言ったに違いありません



 ――うーん。なかなか耐えがたいですね。

 そうした数多く聞いた「叫びの声」を類型化すると、(1)ルールがわかりにくい、(2)ルールが細かい、(3)ルールが頻繁に変わる、(4)ルールが変わった事がどこにも明示されない、(5)ルールの解釈、運用が場所、担当者によって異なる、(6)不備が複数あった場合に、一度に指摘してくれない、などになります。

 中でも「ルールが頻繁に変わる」というのがインドのビザ問題の最大の特徴で、最大の難点です。大袈裟ではなく、毎月のようにルールが変わります。そして、「ルールが変わったのか、解釈が変わったのか」が判然としない場合さえもあります。これは国の法規制自体がコロコロ変わるというインドの特徴でもありますが、それにしてもビザルールと運用の問題はひどすぎます。結果的に「同じ状況の人が同じ申請をしても結果が違う」という摩訶不思議が常態化しています。

■ 赴任の2カ月以上前にビザ申請しよう

 ――効率重視の日本人には厳しいです。

 インド人は典型的にいい加減な人が多いですが、その分、寛容な人たちですので、不条理で非効率なことが起きても、日本人のようにいちいち怒りません。赴任者にとっては「ああ先が思いやられるなあ」と、期せずしてインド社会の不条理さを覚悟する場にもなっています。

 ――対策としては、前もって準備すればいいということでしょうか。

 赴任2カ月以上前に申請する必要があります。ただし、赴任ギリギリまで人事が固まらない場合もあります。特に、インド進出時の最初の赴任者の場合、ほかのことで頭がいっぱいで、どうにもならないケースもあります。

 また、インドは赴任先として人気があるわけではありません。人事でも揉めることも多々あります。ですので、人事部としては、こうしたことも含めて、赴任者選考、辞令と赴任のスケジュールを考えなければなりません。家族帯同の場合は、本人のスケジュールを先にして、家族のスケジュールを後にずらしたほうがいいです。とにかく、赴任が決まったら、早く申請をすることではないでしょうか。

 (撮影:井下健悟、田宮寛之)