ソニーが「新卒に年収730万円」、最大のカベは中高年社員の嫉妬!?

6/24(月) 7:00配信

ITmedia ビジネスオンライン

ソニーが「新卒に年収730万円」、最大のカベは中高年社員の嫉妬!?

【画像】大胆な採用策を打ち出すソニー

 ソニーが高度人材を確保するため、新入社員でも最大で730万円を支払う新しい給与制度をスタートさせる。優秀な人材が海外の企業に奪われるのを防ぐことが目的だが、果たして効果を発揮するのだろうか。

【画像】新卒の高初任給に反感抱く中高年

月50万円の初任給、実は「世界標準」

 ソニーは、日本企業の中では成果報酬について前向きな企業であり、これまでも仕事の役割に応じた等級制度を採用してきた。今回の措置は、既に存在している等級制度を活用し、一律で等級を付けていなかった新入社員にも状況に応じて等級を付与し、高い賃金を支払うというものである。

 同社の大学院卒新入社員の年収は約600万円だが、今回の措置によって、最も優秀な社員の場合には2割ほど増えて730万円になる。

 厚生労働省の調査によると、2018年における日本の大卒初任給は20万6700円、大学院卒は23万8700円だった。10年前の08年は大卒が19万8700円、大学院卒が22万5900円とわずかに上昇はしているものの、ほぼ横ばいに近い。

 日本のGDP(国内総生産)が伸びない中、賃金も上昇しないという図式だが、同じ期間で諸外国は経済規模を大幅に拡大させており、それに伴って物価や賃金も上昇している。

 これに加えて企業活動のグローバル化が想像以上のペースで進んでおり、世界基準における優良企業であれば、企業の国籍に関係なく給与水準は同一レベルに収束するようになってきた。かつては、新興国にある優良企業と先進国にある優良企業との間には、大きな賃金格差があったが、その差はかなり縮小したと思って良い。

 グローバル企業の場合、大卒の技術系新入社員に年収600万円を提示することは特段、珍しいことではない。現在、安全保障問題で米国から制裁を受けている中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の日本法人は、2年前の17年に新卒の学生に対して約500万円の年収を提示していた。中国のメーカーですら、この金額を出していたという現実を考えると、年収600万円というのは特別に高い水準ではないということがお分かりいただけるだろう。

ソニーがエリート新卒を獲得できるかは“微妙”?

 ユニクロを展開するファーストリテイリングは、20年春に入社する新入社員から、年収を2割引き上げると決定している。同社は海外からも人材を広く募集しているが、大卒初任給は21万円であり、国際的に見るとかなり低い。このままの水準では、海外から良い人材を集められないというのが給与改定の理由だが、それでも諸外国の企業と比較するとまだまだである。

 ソニーの場合、金額的には730万円なので、それなりのレベルということになるが、注意すべきなのは、この年収を出すのはAI(人工知能)など極めて高い技術を持った人材に限定されているという点である。AIなどの技術を身につけた高度人材の場合、グローバルではさらに高い賃金が提示されるケースが多いので、ソニーがこの金額で優秀な社員を確保できるのかは微妙なところだ。

 さらに言えば、こうした技術系社員の場合、年収に加えて、職場の環境を極めて重視する傾向が強い。日本では、著名なIT企業であっても、事務仕事もスムーズに進められないほどの非力なPCしか技術者に供与しないなど、職場環境に問題があるケースが多い。

 18年、メルカリの社内環境がネット上で話題になったことがあった。同社では、社員が希望すれば、どんなスペックのPCでも自由に使うことができ、ディスプレイも必要なら2台並べて使うことも可能だという。この社内環境が大きな話題になったということは、裏を返せば、国際的に見れば貧弱な環境しか社員に付与していない日本企業が多いことを物語っている。

 どれだけ高い年収を提示しても、自由な環境で開発ができないと技術者のモチベーションは下がる。こうしたところまで配慮ができている日本企業は少数派だろう。

「俺より給料が高い奴が出るのはケシカラン」

 しかしながら、こうした新しい制度に対する最大の障壁となっているのは、中高年社員の感情的な反発である。新卒の一括採用で、年功序列の賃金体系を基本としてきた日本社会においては、新人に対して高額年収を提示することについて抵抗感を持つ人が多い。

 これまでも有能な若手社員に対して高い賃金を払う制度を検討した企業は少なくないが、中高年社員の反対で導入が見送られるケースが多かった。ある金融系企業では、高度人材を処遇する制度を構築したものの、部長クラスの社員が「俺より給料が高いヤツが出てくるのはケシカラン」と反対して、制度の導入はあっけなく見送られたという。

 別な形で処遇に制約を設けるケースもある。多くの著名企業がAIなどの技術を持った高度人材を求めており、採用関連のサイトを閲覧すれば、こうした人材に対して入社を呼びかけるメッセージをたくさん目にすることができる。しかし、詳細情報をよく読むと、最初の数年間は他の社員と同様、支店での経験を積む必要があるなど、その処遇は限定的であることも多い。

 結局のところ、新卒の一括採用や年功序列の賃金体系を抜本的に変えなければ、新入社員に対して思い切った処遇をするのは現実的に難しい。雇用制度を改めないまま、見かけだけの制度を作っても機能しないのは明白である。その意味ではソニーの新制度が今後、どのような展開を見せるのか要注目といって良い。

 新制度の適用を受けた社員の中から、卓越した実績を残し、関連部門のリーダーに早期抜擢(ばってき)されるような事例が出てくれば、日本の企業社会にも大きな風穴が開くだろう。逆に尻すぼみになってしまった場合には、「ソニーですら実現できなかったのだから、他の企業にはムリ」という諦めムードが蔓延(まんえん)してしまうかもしれない。

「訂正:2019年6月24日午後7時15分 初出の表題で『新卒に「初任給730万円」』の表記が誤解を招くため、『「新卒に年収730万円」』と訂正しました」

 

 

 

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190624-00000011-zdn_mkt-bus_all&p=2

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加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

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