最近物忘れが激しい。

少し前にやろうと思っていたことを、移動した瞬間に忘れたりする。このコラムでさえ、今月は◯◯について書こう!と思っていたはずなのにすっかり失念して、締切前に「さてなにを書こうか」などと考えている始末である。

職場ではなぜか“しっかりさん”のイメージがあるらしく、「えーとなんだっけ」と言うだけで「疲れてるの?」と心配されたりするのだが、無論その手の心配は無用だ。なぜならこれは疲れから来るのではないからなのだ。じゃあ一体何から来ているのかというと……エイジング、つまり加齢によるものと思われる。

この間職場でこんなことがあった。Kさんという年下のお嬢さんが、「YUKAKOさんに言われたのでこのようにしました」と言ってきたのだがその指示に全く覚えがない。自分じゃないと否定すると「いや、確かにYUKAKOさんでした」と彼女が強く言い放つ。何度か押し問答したものの、相手も引かないし、こっちも大人げないってんで一度のみ込んだのだがやはり、その前後の事象について聞かされても覚えがないしそもそもその彼女と話すのでさえ久しぶりだったと気付いて訝しく思う。大変激務だったとはいえそりゃないだろ……的な気持ちになった。

ところが数日したある日、自宅で不思議なことがあった。朝、目が覚めるとトイレや部屋の一部がなんか変。最初はどこが変なのか気付かなかったのだが、よく見ると本棚が整理されていたりあるものの配置が変わっていたり、トイレタリーが取り替えられていたりしていたのだ。それらのどれもに記憶がない。しかし、「やらねば」と頭の片隅で思っていたことばかりなのだ。夢遊病のように、寝ている間に動いてしまったのだろうか。

なんだかそれが一度や二度じゃないので、徐々に自分に自信がなくなってきた。もしかして私はフランクフルトに飛ばされたハイジのように重度の夢遊病者なんじゃないかとか、脳のどっかがいかれてていよいよ危ないんじゃないかとか。

そんなことをなんとなくクヨクヨ考えていると、職場の大おば様達がこう言った。
「あのね、そんなことぐらいで物忘れが激しいなんて言っちゃだめ!歳をとれば誰でもそうなるのよ。私なんて孫がいたかどうかも忘れちゃった」と。

いやいや忘れ過ぎだから! などと突っ込みながら、優しい人柄に癒されてなんとなく「まあいいか」という気分になった。加齢だから仕方ないってことにしておけばそんなに心配することもないだろうし、とりあえずは覚えていることの方が多いのだから良しとしたっていいだろう。次に誰かに突っ込まれるまではとりあえず、「最近歳で物忘れが激しいの」ネタで自虐的に問題を回避していこうと考えている。


Written by YUKAKO