ラブ ユ- フォ- エバ- 9
さて、どこまで語ったっけ
そうそう、千桜子は本橋さんに首っ丈なんだけれど、
チョコ渡す勇気がないのよねぇ。
バレンタイン近いぞ。ガンバレ!
と、言っても、
当の千桜子は、100%無理だとギブを決めてるみたいだし、
本橋さんは、前回のとんでもない失恋のショックから
立ち直ってないし・・
青春をムダにしてるわよねぇ・・
30過ぎてブツクサ言ってる場合じゃないってぇ-の。
何考えてんだか・・
どうして男も女も結婚しなくなったのかしら。
臆病なのよね、結局傷つきたく無いんだわ。
おまけに30過ぎると、大抵そこそこ仕事出来るようになってるし。
なにが大事なのか、分ってないのよ。
子孫を残すためだけに私達は生まれてきたのよ。
忘れないで。
お金も地位も名誉も、二の次・三の次だって事を。
ラブ ユ- フォ- エバ- 8
34歳
この年まで恋愛経験が無いなんて分けはない。
26歳で現在の会社に入り、がむしゃらに働いてきた。
7人でスタ-トした仲間とは、とてもうまくいっている。
なかでも美智子には何でも相談でき、休日も一緒に過ごすことが多かった。
29歳になったある日、社長に呼ばれた。
「おまえ美智子とは結婚しないのか?あいつも29だぞ、考えてやれよ。」
好意は持っていても、お互い、今まで恋愛感情を表にした事などなかった。
今の関係を壊すのが怖かったからだ。
しかし・・
美智子はどう思っているのだろうか・・
美容院に行く時間さへ惜しんで、いつも長い髪をくるくるとねじってくしで止めてある。
少し乱れた髪を直す為、くしをはずす瞬間が好きだ。
ゆっくりと髪が解け、柔らかなウェ-ブの波となって、肩を覆う。
まるでばらの花が開いたようなあでやかさだ。
また直ぐにまとめ直すのを、いつもザンネンに思いながらみつめている。
一度でもあの髪に触れたら、後戻りが出来ない自分がいる。
クリスマスの夜 決まった相手が居ない俺達は、一緒に食事に行くのが
毎年恒例になっていた。
29歳の決意を固めてオレは、告白した。
「結婚してくれないか。」
美智子の顔を見た瞬間、間違いだったことに気がついてしまった。
美智子は
ラブ ユ- フォ- エバ- 7
「支配人をたのむ。」
「おじさん、お久しぶりです。最近はお見えになりませんね。お元気ですか?
おっしゃらなくても分ってますよ。ちぃ-ちゃんの事でしょ。
昨夜は、何もご心配になるような事はありませんでしたよ。
ええ、大丈夫です。大丈夫ですって。僕がついてますから。」
受話器を置いた後、ふと不安がよぎる。
昨夜のちぃ-を思い出していた。
いつもホテルに泊まる時は、従業員室を覗いて必ずオレを探す。
だが昨夜は、待ち人を見つけて一直線に飛んでいった。
そして2人でホテルのバ-に行こうと立ち上がり際、振り向いてオレを
探し、うれしそうに笑った。まるでオレに紹介するとでも言いたげに・・
その一瞬で悟った。ちぃ-は、こいつの事が好きなんだと。
それに比べ、男の方は必要以上に、ちぃと親しくなるのを避けているように
感じられた。
ちぃの一方通行か・・
部屋の鍵を男の手に渡すとき、一瞬火花が散ったのが分った。
だが、なぜかちぃが誘わない限り、こいつは手を出すことなど無いと感じた。
想像したとうり、10分後、男はエレベ-タ-から降りて静かに出て行った。
ラブ ユ- フォ- エバ- 6
ふいにホテルの支配人の視線を思い出した。
やまももとヨ-グルトのカクテルなどという、およそ酒とは認められない
飲み物を3口飲んで潰れてしまった千桜子を必死で起こし、
なんとかフロントまで運んだ。
千桜子の部屋のキ-を受け取ると、支配人らしき男が、
「千桜子さんのお部屋は、最上階のオ-ナ-ル-ムです。」
と、告げた。
年齢は、オレと同じぐらいか。一瞬刺すような視線で自分を見たのを、
見逃さなかった。
なんだこいつ、オレに下心があるかどうか疑っているのか?
一瞬ムッとなったが、10%くらいはあるか・・20%いや成り行き次第では・・
急に闘争心がむくむくと沸いてきた。
それにしても、オ-ナ-ル-ムか・・
渋谷駅から程近い、会員制のホテルなので、一度も入った事がなかったが、
とても落ち着いた雰囲気で、なおかつ家庭的な温かみのある応対をしている。
エレベ-タ-で最上階で降りると、
一瞬 ここが渋谷である事を忘れてしまった。
窓の外には緑が茂り、簡素な室内は、まるで山荘の様だった。
ここが千桜子の部屋では無い事はすぐに分った。
おそらくは父親が滞在するのであろう。
壁には3枚の写真が飾ってあった。
一枚は海の見える丘に建っている小さな家
一枚はその家の庭のアップ 母親らしき人影と子供が写っている。
一枚はその家の庭で、幼い千桜子が片手にスコップ
片手にダイコンを高々と捧げて誇らしげに笑っていた。
腕に抱えた千桜子の顔には、太陽がいたずらしたそばかすが薄く浮いていた。
元気に日中遊んだ子供の、お日様の匂いがしたような気がして・・
千桜子を起こさないように、ベットに寝させてそっと部屋を出た。
ラブ ユ- フォ- エバ- 5
「今回の出張はどうだった?」
昼食で家に帰っている。
会社では、当然父の事を社長と呼ぶが、
家ではパパである。
「撮影の方はうまくいったわ。でも・・」
「なんだい?」
「モバイルの広告の打ち合わせがね。ちょっと・・
夜11時30分にお会いして、ちょっとホテルで飲んだら・・
ううん。お仕事はOKよ。とってもいいアイデアをいただいたわ。
問題なのは、その後の記憶が無いのよ。
気が付いたら、ベットで寝ていたの。
どうしたらいいのかしら。。」
「相手には、ちゃんと謝ったかい?」
「まだよ。なんて言えばいいのか分らなくって。」
「これからは、そんなに夜遅くに会わない方がいいね。
相手に迷惑だろう。だいいち・・
ちぃ-は、梅酒の梅の実を1つ食べて酔っ払うのに、
なんだってお酒なんか飲んだんだい?」
ほんとうに、どうしてなのかしら。
酔ってみたかったんだわ。
お酒の力を借りて、彼に好きだと言ってみたかった。。
そんな勇気などないくせに・・ほんと、バカなんだから・・
電話で何と言って謝ればいいのか、考えただけで憂鬱になる。
私なんて彼には不釣合いよね。
仕事を始めて2年で、千桜子が受け持つ通販の売り上げは10億を突破した。
スッタフは千桜子を含めて5人。全員通販関係の初心者である。
すべては、彼のアドバイスに従った結果だった。
社長室に戻り、仕事に就いても、先ほどの会話が頭から離れない。
ちぃ-の前では、平静を装ってはいたものの、父の頭の中は
どうしようもない不安が渦を巻いている。
いつかは離れていくと分っていても、今ではない。そう思いたい。
(ちい-の職場を変えさせたほうがいいかもしれない。)
その前に、事実を確かめるため、ホテルに電話をした。
ラブ ユ- フォ- エバ- 4
(あの時は参ったよな・・)
千桜子が上京してくる時は、いつも慌しい。
雑誌の広告の撮影を日帰りでこなす。
新幹線で朝一番に着き、撮影前にオレと会って仕事の話をする。
たまにテレビの広告が入ると、2日がかりになることもある。
先月は、その たまに泊まる月だった。
撮影の後に会いたいと、pm10:00のアポを入れてきた。
オレの職場にほど近いホテルに宿を取ったので、そちらに
きて欲しいと。
その後、3度も待ち合わせ時刻の変更。
やっと会えたのが、pm11:30を回ろうとしていた。
「ごめんなさいね。」
「いや・・会社では、毎日この時間までいて仕事してるから、
気にしないでください。」
事実である。
仕事は多忙を極め、会社に泊まりこむ日も少なくない。
それにしても・・
隣に座っている千桜子の顔が、やけに幼く見える。
うれしそうに、コケモモのカクテルを口にする様は、
初めてお酒を飲む許可をもらった子供の様だ。
「おいしい」
ひと口飲んで、少しあごをもち上げてニコッと笑う。
まるで猫が、のどを撫でてもらいたがっているのに似ている。
やばい!
3口目に千桜子がお酒を飲んだ時には、
首元から、みるみる朱に染まっていくのが分った。
ほんの少し首をかしげて目をつぶり、
そして・・そのまま崩れるように眠ってしまった。
ラブ ユ- フォ- エバ- 3
「ちぃちゃんったら・・会社遅刻しちゃうわよ。
パパはとっくに行ったわよ。」
何度目かの母の声で、やっと起きる。
大学卒業と同時に入社して、早2年 いまだ無遅刻無欠勤である。
だが、それを褒めてくれる人などいない。
なぜなら、千桜子(ちさこ)の家は、通勤所要時間 0分
会社の敷地のど真ん中に建っているのだから・・
ト-ストを一口かじって、あわてて家を飛出る。
直線距離にして20m先の会社の玄関に飛び込んだ。
エレベ-タ-に乗り、5Fで降りる。
ちさこの職場は、広報宣伝部である。
窓際の席について、外を見ると、眼下にちさこの家が見える。
庭先で母が洗濯物を干している。
ラブラド-ルのミルクがしっぽを振って、母のそばについている。
祖父が日課である菜園の手入れをしている。
会社からは、家中がすべて見わたせ、
庭先で交わされる話し声さへも、
風にのって、しばしば聞こえてくる。
上から眺めると、まるでトトロの撮影セットのように見える。
祖父の建てた家は小さく、質素な佇まいだ。
その家を、祖父も父も母もそして、ちさこも愛している。
「あっ」 ちさこがあわてて携帯で母を呼び出した。
「母さん、洗濯物がひとつ外れて落ちたわよ。早く拾って!」
あわてて洗濯物を拾い上げた母が、こちらの窓に向かって
ニッコリ笑った。手には、ちさこのブラがしっかりにぎられている。
本社の社員数は、130人 この中で今の光景を目にした人間は
何人いるんだろう。。
(まぁ・・いいっか・・)
ちさこは、いたって大らかである。
社員の半数は、ちさこが生まれた時から今この瞬間まで、
すべてを知っている。
隠す必要など何も無いのだ。
何事もなかったように、今日の仕事にとりかかった。
ちさこの脳裏に昨朝の渋谷駅のコ-ヒ-ショップでの光景が、
よみがえっていった・・
ラブ ユ- フォ- エバ- 2
(出会わなければよかった・・)
今朝までは、あんなに会えるのを楽しみにしていたのに・・
背中に彼女の視線を感じる。
振り向きたい思いを、必死に抑えて努めて自然に歩いた。
渋谷駅のコ-ヒ-ショップで彼女と別れ、
桜並木を通り、会社まで歩いて5~6分
6Fのオフィスが仕事場だ。
ほんの数年前に仲間7人と立ち上げた事業は
面白いように拡大していった。
モバイル広告は、向かうところ敵なしだ。
社員はすでに300人を超えている。
それでも、、
(出会ったのが間違いだった・・)
と、思わないではいられなかった。
「やぁ」
「あっ 社長 。 おはようございます。」
「ああ。 今朝のカノジョ、誰だい?
おまえもやっと付き合う相手ができたのか?」
「えっ?あっ、いや・・誤解です。仕事ですよ仕事。」
「社長もご存知の、○○商事の・・
朝1でアポ取ってきたんですよ。」
「ああそうか、○○の広告担当者は・・たしか社長の娘だったよな?
わがままだなぁ。先月は、夜中の11時とか言ってなかったっけ?」
確かにその通りである。
地方から月に1度雑誌やテレビ広告の撮影の為、上京してくる
彼女に、ぜひ弊社にも広告を出して欲しいとTELしたのが、
昨日の事のように感じられる。
飛び込みで電話すれば、剣もほろろに断られるのが当たり前である。
しかし・・
カノジョは違った。
「今、忙しくってゆっくりお話が聞けなくてゴメンなさいね。。」
「メ-ルをいただけると、必ず目を通してお返事さしあげますので。。」
柔らかなゆったりとした声が今も耳に残っている。
月に1度。ほんの20分~30分彼女に会うために、
常に、最高のプレゼンを考えている。
彼女に説明するたび、指がふるえそうになるのを
必死で押さえて冷静を装っている。
オレの横顔をじっと見つめている彼女と・・
目が合った瞬間にオレを眩しそうに見る瞳が・・
ため息を彼女に悟られないように軽く咳きをして、
ノ-トに目を伏せてしまう。。
「ありがとう。またお会いできるかしら?」
「ええ、いつでも、どんな時でも時間を作りますよ。」
彼女に背をむけて歩き出す瞬間が、たまらなく辛い。
なにをやってるんだろうオレは。。
一年が過ぎてしまった。
ラブ ユ- フォ- エバ- 1
短編小説
(チョコ 今年もあげる勇気ないなぁ・・)
恋の相手は、今 横に座っている。
出勤前 渋谷駅のコ-ヒ-ショップで並んで仲良く
朝食を食べながら・・
「あっ・・」
ふいに彼が腰を上げた。
窓の外を歩く男性に軽く会釈する。
そしてまた、何事もなかったように
パンを口いっぱいにほおばる。
まったく悪びれる様子もないのがとてもここちよい。
あなたの横顔が眩しい・・
「ん?」
左の指先で、あごのあたりをしきりに気にしてる。
ちいさなヘルペス?
働き過ぎで、飲みすぎで、倒れないのが不思議なくらい。。
仕事で、初めて会ったのが1年前
お茶を飲んだり、食事をしたり、今朝もこうして出勤前に会って
コ-ヒ-飲んでいるのに・・・・
好きだと言えない
チョコ あげる勇気が・・無い・・
眩しすぎるの。。
。。金の名刺がジャマです。。