会社を去る人の思いの違い
先週、偶然だが、同じ日に長年勤めたレコード会社を辞める友人二人と飲む機会があった。
二人とも以前私が勤めていたT社(レコード会社)の同じ部署で仕事をしたことのある人で、その一人、Sさんは64歳を前にして定年・雇用延長を全うしてのハッピー・リタイアメントである。
制作のスペシャリストとして3つのレコード会社を経験し、最後は編成・企画の仕事に専念し、惜しまれながら自らの意志で会社を去ったSさん。
失礼な言い方かもしれないが、T社に来てからチャートを賑わすようなヒット曲のディレクションには携わっておらず、その後は編成セクションで多くの企画商品を世に送り出した。
過去の制作経験、いわゆるプロフェッショナルな経験が生きた結果だと思う。
このSさんは私より年上なのだが、たまたま年下の私が彼の上司になってしまった時期があり、それ以来親しい関係が続き今日に至っている。
酒飲みで時々(いつも?)だらしなくなることもあるのだが、憎めないキャラクターと音楽に対する純な姿勢に惹かれた。
ある業界人に聞かれたことがある。
Sさんと飲むと何かメリットがあるの?
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Sさんと飲むことが今の私の仕事に何かメリットをもたらすなんて一度も考えたことはない。
損得勘定なしの付き合いだった。
ちなみにSさんはバツイチの独身で、都内のアパートに住んでいる。
一方のMさんは少し違う。
T社を辞めた後に勤めたレコード会社で女性ヴォーカリストを担当し、ヒット曲を連発した。
自らジャズクラリネットを奏でるMさんの音楽のセンスはかなりのものだ。
しかし、50歳を過ぎたあたりから前述のSさんと同じ企画・編成セクションに異動した。
Sさんと同じバツイチのMさんは、最近美人の子持ち女性と再婚し、幸せの絶頂にある(はずだ)。
奥さんもバリバリのキャリアウーマンだし、立派な一軒家に住んでいる(らしい)
しかし、今年12月に60歳を迎える7ケ月前の5月末に会社の都合により早期退職となったのだが、彼はこの早期退職に不満を持ち、気持ちの整理ができないまま会社を去った。
それはそうだろう。
会社の業績に多大なる貢献をした自負もあるし、企画・編成セクションに移ってからも成果を上げてきた。
やりきれない彼の気持ちが飲み会の席で爆発寸前になった。
正直、爆発する前に帰ってくれたのでほっとした。
ハローワークに登録すればMさんの場合、最長OOO日まで失業手当てが支給されるというのだから、じっくり次のことを考える時間もある。
気持ちを整理し、自らの意志で会社を辞めたことにすればよいのに・・・・・・と私などは思ってしまうのだが・・・・・・・・・・・・・・当事者にとってみればそう簡単ではないのかもしれない。
SさんとMさん、どちらが幸せか?なんて評価はできないが、心穏やかに退職後の人生について語るSさんに迷いはなく、どこか気持ちの整理ができていないMさんにはまだまだ迷いがあるように思えた。
でも、詳しい事情を知らなければ、レコード会社でヒット曲を連発し、60歳を前にして美人の女性を妻に迎えて豪華な一軒家に住んでいるMさんのほうが幸せに見えるかもしれない。
人は人を断定したがる。
兄弟のいない人を、子供のいない夫婦を、孫のいない人を、シルバーエイジになっても独身の人を、「淋しい人だ」と断定したがる。
人の尺度というのはそういうものだ。
幸せの尺度というのは、その人にしか分らない。
本人が望む生活や生き方を全うしていれば、他人にとやかく言われる筋合いはない。
Sさんにも、Mさんにも、これからの生き方の中で自分が求める本当の幸せを見つけ出してほしい。
長年の会社生活から開放されたときに初めて本当の自分と向き合うことができるのだから。
Sさん、Mさん、お疲れ様でした!