Ⅰ「総則」


「相続とは、特定の自然人が死亡したときに、その者の有する権利、義務が、その者と一定の親族関係を有するものに引き継がれることをいう。」


相続される人→被相続人 

相続する人→相続人


1.相続の開始


「相続は死亡、又は失踪宣告による擬制死亡により開始される(882条、31条)。」


2.相続回復請求権(884条)


「表見相続人が、相続人であると称して真正の相続人に帰属すべき相続財産を占有している場合に、真正の相続人から、表見相続人に対して、その返還請求する権利をいう(884条)。」


「相続回復請求権は、相続人、又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間で時効消滅する。また、相続開始時から20年が経過すれば、相続権の侵害を知ったか否かにかかわらず消滅する。」


Ⅱ「相続人」


1.相続人


配偶者


常に相続人になる(890条)


】・・・第1順位


子には、実子のみならず養子も含まれる(887条1項)。

子が数人いても順位は同順位である。

胎児は、相続についてはすでに生まれたものとみなされる(886条1項)ので、相続人に含まれる。


直系尊属】・・・第2順位


父母、祖父母、曽祖父母のこと。

被相続人に子がいない場合に、第2順位の相続人である直系尊属が相続にとなる(889条1項1号)。


兄弟姉妹】・・・第3順位


被相続人に子、直系尊属がいない場合に相続人となる(889条1項2号)。


2.欠格と廃除


a 欠格(891条)


「相続に関し、不正な利益を得ようとして被相続人や他の相続人に対して、悪質な行為(殺人、詐欺、強迫等)をなし、又はなそうとした者から相続人の資格を奪う制度。」


b 廃除(892条~895条)


「廃除とは、相続欠格になるほど悪質ではないが、被相続人から見てその者に相続をさせたくないと考えるような悪い行為(例えば、虐待をした、浪費癖がある等)があり、かつ被相続人がその者に相続させたくないと考える場合に、被相続人の請求に基づき、家庭裁判所の判断によって相続権を奪う制度。」


3.代襲相続


「被相続人の死亡以前に、相続人となるべき子、兄弟姉妹が死亡し、又は欠格廃除により相続権を失ったときに、その者の子がその者に代わって、その者が受けるはずだった相続分を相続することをいう(887条2項、889条2項)。」


「代襲者の子は、さらに代襲して相続人になることができる(再代襲相続、887条3項)。しかし、兄弟姉妹を代襲した者の子(兄弟姉妹からみれば、孫)は、再代襲相続人となることはできない(889条2項)。」


※ 相続放棄の場合には、代襲原因にはならない


Ⅲ「相続の効力」


1.相続分


「共同相続において、各共同相続人が共同相続財産を承継する割合のこと。」


a 指定相続分


「被相続人は、遺言で、相続人の相続分を決め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる(902条1項本文)。」


b 法定相続分


指定がない場合には、法律で定める法定相続分に従う(900条)。」


配偶者と子が相続人の場合


配偶者  1/2

子     1/2


※1) 子(養子、胎児も含む)の相続分は平等(900条4号本文)

※2) 非嫡出子は嫡出子の2分の1(900条4号但書)


配偶者と直系尊属が相続人の場合


配偶者   2/3

直系尊属 1/3


※ 直系尊属の相続分は均等(900条4号)


配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合


配偶者   3/4

兄弟姉妹 1/4


※1) 兄弟姉妹の相続分は平等(900条4号)

※2) 父母の一方を異にする兄弟姉妹は、父母の双方を同じくする者の2分の1(900条4号但書)


2.遺留分


一定の相続人必ず相続財産の一定割合を相続できるように保障する制度(1028条)。」


a 遺留分権者と遺留分の割合


「遺留分権者は、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、直系尊属)」


「遺留分の割合は、直系尊属のみが相続する場合が3分の1で、その他の場合は2分の1となる(1028条各号)」


b 遺留分の放棄


「遺留分は、相続開始前でも、家庭裁判所の許可を得て放棄することができる(1043条1項)。」


「共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、他の共同相続人の遺留分には影響を及ぼさない(1043条2項)。」


c 遺留分減殺請求権


「遺留分を有する者は、遺贈及び相続開始前の1年間になされた贈与の効力を、遺留分を侵害する範囲で否定することができる。この権利を遺留分減殺請求権という(1031条)。」


「遺留分減殺請求権の行使は、受遺者又は、受贈者に対する意思表示で足り、裁判上の請求による必要はない。」


3.遺産分割


「相続開始とともに共同相続人の共同所有となった相続財産を、個別具体的に各相続人のものとするために分割する手続をいう。遺産分割がなされるまでは、相続財産は、相続人の共有となる(898条)。」


a 遺産分割の方法


「被相続人が遺言で分割方法を指定したときは、それに従う(指定分割、908条)」


「遺言による指定がなければ、共同相続人が協議によって分割する(協議分割、907条1項)。」


協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、遺産分割を家庭裁判所請求することができる(審判分割、907条2項)。」


b 遺産分割の効果


「遺産分割の効果は、相続開始時まで遡る(909条)」


※ 遺産分割前に、相続財産に利害関係をもった第三者の権利を害することはできない(909条但書)。

  (この第三者が保護されるためには、登記が必要。)


c 遺産分割の禁止


「遺産分割は、共同相続人の協議、家庭裁判所の審判、被相続人の遺言によって、一定期間、禁止することができる(256条1項但書、907条3項、908条)。」


Ⅳ「相続の承認・放棄」


1.単純承認


「被相続人の権利・義務を無限に相続することをいう(920条)」


(要件)


相続人が、単純承認の意思表示をすること。また、その意思表示がなくても一定の法定事由を満たすときは、単純承認をしたものとみなされる(法定単純承認、921条)


(効果)


無限に被相続人の権利義務を継承する(920条)


2.限定承認


相続によって得た財産の範囲内で、借金等の不利な財産も引き継ぐこと(922条)」


(要件)


相続開始があったことを知った時から3カ月以内財産の目録を作成して、家庭裁判所に申述しなければならない(924条、915条)


(効果)


限定承認をした相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務、及び遺贈を弁済すればよい(922条)


3.相続放棄


「被相続人の権利・義務を一切相続しないこと(938条)。」


(要件)


相続開始があったことを知った時から3カ月以内に、家庭裁判所に申述しなければならない(938条、915条)


(効果)


相続放棄は、相続開始の時に遡ってその効力を生じ、放棄した者は、初めから相続人にならなかったものとみなされる(939条)


Ⅴ「遺言」


1.総則


a 遺言の性質


「民法の定める方式に従わなければすることができない(960条)。」


「遺言者本人の独立の意思に基づいてなされなければならないため、代理は許されない。」


「遺言者はいつでも撤回できる(1022条~1027条)。」


b 遺言の能力


未成年者


15歳に達した者は、単独で遺言をすることができる(961条)。


被保佐人・被補助人


保佐人、補助人の同意を得ずに単独で遺言をすることができる(962条)。


成年被後見人


事理を弁識する能力を一時的に回復したときで、かつ、2人以上の医師の立会いがあるとき、単独で遺言することができる(973条1項)。


2.遺言の方式


a 普通方式


自筆証書遺言


(定義)


遺言者が、遺言書の全文、日付、氏名を自書し、これに押印して作成する遺言(968条1項)。


(メリット)


立会人は不要であり、利用しやすく、費用もかからない。



(デメリット)


偽造、滅失等のおそれがあるので、検認が要求される(1004条1項)。


公正証書遺言


(定義)


2人以上の承認の立会いを得て、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人がこれを筆記して遺言者、及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させて、遺言者、及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自がこれに署名押印し、公証人が方式に従って作成した旨を付記して署名押印する方式をとる遺言(969条)。


(メリット)


遺言の存在と内容が明確であって、検認を要しない(1004条2項)。


(デメリット)


手続が複雑で費用もかかるし、遺言の存在や内容を遺言者が亡くなるまで秘密にできない。


秘密証書遺言


(定義)


遺言者が遺言証書に署名・押印の上封印し、その封紙に公証人が所定の記載をした上、公証人、遺言者、及び2人以上の証人が署名・押印した遺言(970条)


(メリット)


内容を秘密にしておくことができる。


(デメリット)


手続が複雑で費用がかかり、検認や開封の手続が必要な点で手間がかかる(1004条1項、3項)。


b 特別方式


3.遺言の効力


a 遺言の一般的効力


(原則)


死亡の時に生じる(985条1項)


(例外)


条件が付いている場合は、死亡後その条件が成就した時に生じる(985条2項)


b 遺贈


遺言者が、包括、又は特定の名義で、その財産の全部、又は一部を処分すること(964条)。」


4.遺言の執行


「遺言の効力が発生した後、その内容を実現する手続。」


5.遺言の撤回


「遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、遺言を撤回することができる(1022条)。」


「前の遺言と抵触する遺言が後になされたときは、その抵触する部分については前の遺言が撤回されたとみなされる(1023条1項)。」


「遺言の内容と、遺言語の遺言者の行為が食い違うとき、遺言書又は遺贈目的物を故意に破棄したときは、遺言は撤回されたものとみなされる(1023条2項、1024条)。」