Ⅰ「序説」


「債務者が債務を弁済しないとき、債権者は、債務名義に基づいて債務者の財産を差押え、それを裁判所に換価してもらい、そこから自分の債権を回収できる。」


「将来の強制執行に備えて、債務者の強制執行の対象となる財産、すなわち責任財産を確保しておく制度として、民法上、債権者代位権(423条)と詐害行為取消権(424条)の2つがある。」


Ⅱ「債権者代位権」


「債務者Bがその財産権を行使しない場合に債権者Aが自己の債権を保全するために、債務者に代わり、自己の名において、その権利を行使して債務者Bの責任財産のいじを図る制度(423条)。」


1.要件


a 債権者が自己の債権を保全する必要があること(423条1項本文)


・ 被保全債権


「債権者の保全する債権(被保全債権)は、原則として金銭債権であることが必要。」


・ 無資力要件


「債務者が無資力であることが必要。」


b 債務者が自らその権利を行使しないこと


債務者が既に自らの権利を行使している場合には、その権利行使が不適切であっても、債権者は、債権者代位権を行使できない。」


c 被保全債権が弁済期に達していること(423条2項)


(原則)


債権者の債権が弁済期に達していることが必要


(例外)


以下の場合には、債権が弁済期に達していることは不要


① 裁判上の代位(裁判所を通して行う代位、423条2項本文)


② 保存行為としての代位(423条2項但書)


2.債権者代位権の行使方法


「債権者が自己の名をもって、債務者の権利を行使する。」


3.効果


a 債務者の処分権の喪失


債務者は処分権を喪失し、債務者は、債権を譲渡したりすることができなくなる。」


b 総債権者のための共同担保


「債務者の下に回収された財産は、総債権者のため共同担保となる。」


c 代位債権者の事実上の優先弁済権


「債権者代位権の対象が物や金銭の引渡請求権である場合」


→ 受領拒絶の可能性があるため、債権者は直接自己への引渡しを請求できる


※ その結果、代位債権者は、債務者に対する受け取った金銭の返還債務と自分の債務者に対する債権を相殺することによって、事実上優先弁済を受けたことになる。


不動産の場合


→ 債務者の下に登記を戻すだけですむので、受領拒絶ということは考えられず、直接債権者に登記を移転するよう請求できない


4.債権者代位権の転用


「債権者代位権は、本来は責任財産の保全・強制執行の準備のために認められるものであるが、これ以外の目的で債権者代位権を用いることが、判例・学説上認められている。」


a 登記請求権の代位行使


「不動産がA→B→Cと譲渡されたのに、登記がなおAにある場合、Cは、Bに対する登記請求権を保全するため、BのAに対する登記請求権を代位行使することができる。」


b 指名債権譲渡の通知請求権の代位行使


「AのDに対する債権が、B、さらにCへと転売されていった場合、CはBに代位して、Aに対し、Bへの譲渡をDに通知するよう求める権利を行使することができる。」


c 賃貸人の所有権に基づく妨害排除請求権の代位行使


「賃借地を不法に占拠しているBに対して、賃借人Cは、土地所有者である賃貸人AのBに対する所有権に基づく土地明渡請求権を代位行使することができる。」


Ⅲ「詐害行為取消権」


「債務者がその債権者を害することを知って法律行為をした場合に、債権者が、その法律行為の取消しを裁判所に請求することができる権利。」


1.要件


a 債務者が債権者を害する法律行為(詐害行為)をしたこと(客観的要件)


・ 財産権を目的とする法律行為(424条2項)


・ 債務者の無資力


・ 被保全債権は金銭債権であること


・ 被保全債権は詐害行為前に発生したこと


b 債務者及び受益者(転得者)が詐害の事実を知っていること(主観的要件)


「詐害意思は、債務者、及び受益者(転得者)いずれも有することが必要。」


2.詐害行為取消権の行使


a 行使方法


「債権者が自己の名において行使する。」


b 取消権行使の範囲


「原則として詐害行為当時の取消権者の被保全債権額の範囲に限られるが、詐害行為の目的物が不可分な場合には、債権額の範囲を超えて全体について取り消すことができる。」


c 行使期間


「債権者が取消原因を知った時から2年で消滅時効にかかり、詐害行為時から20年を経過したときもまた消滅する(426条)。」


3.効果


a 総債権者のため共同担保(425条)


b 取消債権者の事実上の優先弁済権