Ⅰ「序説」


1.正攻法による債権回収


「債務者が債務を弁済すないとき、担保物権を持たない債権者は、債務名義に基づいて債務者の財産(責任財産)を差押さえ・競売・換価して、自分の債権を回収できる。しかし、この正攻法による債権回収には、債権者にとって、『① 債務名義を得るために費用と時間がかかる、② 実際の配当が、債権者平等の原則に従って行われるため、責任財産が総額に満たないと、全額弁済を受けることができない。』という問題点が生じる。」


2.債権者平等の原則


a 債権者平等の原則とは


「1人の債務者(B)に複数の債権者(A・C・D・E)が存在するとき、すべての債権者は債務者の責任財産から平等に弁済を受けるとういう原則。」

「責任財産が債権の総額に満たない場合、各債権者は債権額に応じた按分比例によってしか再建を回収できない。」


b 債権者平等の原則に対する対応


【担保からの債権回収】


・物的担保(担保物権)

・人的担保


【変則的な債権回収】


代物弁済、相殺、債権譲渡等、強制執行や担保権実行の手続を経ないで、事実上、自分だけが弁済を受けることができる抜け駆け的な債権回収手段がある。」


3.責任財産の保全


・ 債権者代位権(423条)

・ 詐害行為取消権(424条)


Ⅱ「担保物権(物的担保)」


1.担保物権の種類


約定担保物権】・・・当事者の契約


・ 抵当権

・ 質権


法定担保物権】・・・法律


・ 留置権

・ 先取特権


2.担保物権の通有性


「通有性とは、原則としてすべての担保物権が共通して有する性質。」


a 付従性


b 随伴性


c 不可分性


d 物上代位性


3.担保物権の効力


a 留置的効力


b 優先弁済的効力


Ⅲ「抵当権」


1.抵当権とは


「債務者、又は第三者が占有を移さないで、債務の担保に供した不動産から、抵当権者が他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利(369条1項)。」


「抵当権は、債務者自らの所有する土地や建物に設定する場合もあれば、他人のために自らの土地や建物を提供して設定する場合(物上保証人)もある。」


2.被担保債権


a 種類


「抵当権によって担保される債権(被担保債権)は、通常は金銭債権である。もっとも、金銭債権でなくても、債務不履行により金銭債権である損害賠償請求権に転化するので、抵当権を設定できる。」


b 存在時期


「現に成立する債権のほか、将来の債権(期限付き債権、条件付債権等)についても設定できる。」


c 範囲


「元本のほか、利息や損害金等も被担保債権となる。ただし、後順位抵当権者等がいる場合は、利息や損害金等は、満期の到来した時点からみて最後の2年分のみしか被担保債権にならない。」


3.目的物


a 抵当権の及ぶ範囲


「抵当権の効力は、抵当目的物のほか、設定行為に別段の定めのない限り、付加一体物にも及ぶ(370条)。」


【抵当目的物】(369条2項)


・ 不動産

・ 地上権

・ 永小作権


【付加一体物】


・ 付合物(242条本文)

・ 従物(87条)

・ 従たる権利


【果実】(371条)


・ 天然果実(371条)


(原則) 抵当権の効力は及ばない

(例外) 被担保債権が債務不履行になった場合は、抵当権の効力が及ぶ


・ 法定果実(371条・372条)


b 物上代位(372条・304条)


代位の目的


「抵当不動産が売却されたときの売買代金や、抵当不動産の賃料等がある。」


「抵当不動産が滅失、損傷したことによって債務者が受ける、不法行為に基づく損害賠償請求権、保険金請求権についても、代位の目的物になる。」


行使の要件


抵当権者が物上代位によって優先弁済を受けるためには、価値代表物の払渡し又は引渡しの前差押えをすることを要す(372条・304条但書)


4.抵当権と用益権の関係


a 法定地上権(388条)


「土地およびその上にある建物が同一の所有者である場合に、その土地又は建物のみ、あるいはその両方に抵当権が設定され、債務者が債務の支払いができずに抵当目的物が競売されてしまい、建物と土地の所有者が別人になったときに、建物存続のために法律上設定されたものとみなされる地上権。」


成立要件


・ 抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること


・ 抵当権設定当時、土地と建物の所有者が同一であること


・ 土地と建物のどちらか一方、又は両方に抵当権が設定されたこと


・ 競売の結果、土地と建物が各々別人の所有となること


効果


「地上権が成立する。」


b 土地抵当権者の建物一括競売権


「土地に抵当権を設定した後に抵当地に建物が建造された場合おいて、土地抵当権者は、土地とともに建物を競売することができる(389条1項本文)。」


c 建物明渡猶予制度(395条)


5.抵当権の効力


a 抵当権侵害


・ 物権的請求権


・ 不法行為に基づく損害賠償請求権


b 第三者との関係


・ 代価弁済(378条)


・ 抵当権消滅請求(379条)


6.抵当権の実行


「抵当権者は、債務者が債務を弁済しないときは,抵当目的物を差押え・競売・換価して優先弁済を受けることができる(競売による実行)。競落されると、抵当権の上に存在する留置権以外の担保物権はすべて消滅する(消除主義)。」


「抵当権者は、目的不動産を競売しないで、当該目的不動産につき管理人を選任し、そこから収益をあげその収益から弁済を受けることができる(担保不動産収益執行、民事執行法180条2号・181条)。」


7.根抵当権


「継続的な取引をする場合において、増減する債権一定の額まで継続して担保する抵当権(398条の2)。


Ⅳ「留置権」


「物を留置して債権者が債務者に対して義務を果たすことを間接的に強制することのできる権利(295条)。」


「留置権は、当事者間の公平を図るという見地から、物の返還を拒絶して債務者に心理的な圧迫を加え、間接的に債務の弁済を促す機能を有する。」


Ⅴ「質権」


「担保の目的物の占有を債権者に移転し、債権者は弁済があるまで子の目的物を留置して、間接的に履行を強制するとともに、履行がなされない場合には、この目的物につき他の債権者に優先して弁済を受けるという担保物権(342条)。」


・ 「動産質」・・・動産を目的とする質権(352条~355条)


・ 「不動産質」・・・不動産を目的とする質権(356条~361条)


・ 「権利質」・・・財産権(例えば、債権)を目的とする質権(362条~366条)


Ⅵ「先取特権」


法律の定める特殊な債権を有する者が、債務者の財産から法律上当然に優先弁済を受ける権利(303条)。」